第12話 報われない恋の話
ユウキさんの告白に、俺は何も言うことが出来ず、立ち尽くすことしか出来ない。
翔さんのことが、好き?
流石に俺でも、その意味が恋愛的な好きだと理解できる。
しかし俺は聞き返すことも、冗談のように笑い飛ばすことも、深刻に頷くことも出来なかった。
俺がただ立ち尽くしている間にも、ユウキさんは独り言のように言葉を吐き出し続けている。
「翔さんのこと、好きだったんだ。去年初めて共演した『ラブ・ソング』のときから。役だって分かってるのに、愛し合う役を演っている内に――あの人のことが本気で好きになった。でもそれと同時に…――」
ユウキさんは、そこで声を上げて笑う。
どこか自虐めいたその笑い声は、俺の胸を苦しく締め付けるのに十分だった。
「あの人が俺を愛してくれるのは、全部演技だって痛感するんだ。その度に、俺ばっかり本気になるのが苦しくて仕方なかった。こんな気持ちを抱くことすら間違いだって分かるし、もう二度と翔さんと共演しないって決めてたのに……。俺はこの舞台で、もう一度翔さんと恋人役が出来るって知ったとき……俺は、嬉しかったんだ。誰にもこの役を、渡したくないと思った」
そこでユウキさんは、ようやく俺を見た。
ずっと目の前にいたはずなのに、俺はようやく、ユウキさんの世界の中へ入れた気がする。
けれど俺を見るユウキさんの瞳からは、どこか憎悪めいたものを感じた。
いつも優しくて、俺を気遣ってくれる優しい先輩から向けられる負の感情に、俺は一瞬怯んでしまう。
――知りたくない。これ以上は、聞きたくない。
そんな逃げ出したい衝動を、俺はグッと堪えて踏みとどまった。
俺は、聞かなくてはいけない。たぶん俺には、最後まで聞く義務がある。
この人を苦しみの正体を、ちゃんと知らなくてはいけないと思った。
「でも翔さんは、お前が……鳴海が演技をする度に、目を輝かせて見ていた。あの人は他人の演技に全然興味が無いはずなのに、誰かの演技をあんなに褒めるのも、興味を持つのも初めて見た」
「……」
「翔さんは天才だから、同じ天才じゃないと興味を持ってもらえない。俺じゃ翔さんの、視界にも入れない……」
「そんなこと……」
「そんなこと? お前に俺の何がわかるっ!?」
ユウキさんの肩が、微かに震えていた。
俺は思わず、口をついて出た否定の言葉の先を、飲み込んでしまう。
だってそうだ。ユウキさんは当然、実力がある。そうじゃないと、まだ若いのにこんなに沢山の仕事を任せて貰えないはずだ。
それに俺は、天才なんかじゃない。
まだずっと正解が分からず、もがきながら演技をしている。
翔さんが構ってくれるのは、俺が初共演で珍しいからだ――と、思う。
けれど俺はなにも言い返せず、ユウキさんの悲痛な叫びに飲み込まれていく。
「俺のこと、なにも知らないくせに……。それに演技で愛されることが、こんなに虚しくなる気持ちが、鳴海に分かるのかッ?」
「俺は……っでも! 翔さんとユウキさんは、俺なんかよりずっと仲が良いじゃないですか。翔さん、ユウキさんに対して凄い優しいし……」
「あの人は誰にでも優しいんだよ。俺に向けてくれる優しさは、特別な愛じゃない……っ! そんなの俺が、一番分かってる!!」
その叫びに、俺は再び口を閉じた。
どうすれば、良いのだろう。
いやきっと、俺に出来る解決策なんてなにも無いと思う。
俺はただ、ユウキさんの全ての感情を、否定せず受け止めることしか出来ないと思った。
だから俺は黙ってユウキさんと目を合わせ続ける。
ユウキさんは、そんな俺に向けて言葉を続けた。
「いっそのこと、気持ちを伝えた方が楽になれるかと思った頃もあったけど、無理だった……。あの人の優しさが、怖い。愛情じゃなくて優しさで、俺の気持ちを受け入れられるのが、一番怖かった」
「……」
「だってそうだろ!? あの人のキャリアを考えたら、男の恋人なんてただの荷物でしかない。それにあの人の才能は……遺伝子は、後世に遺した方が良いに決まってる。そんなの俺が、一番分かってる……」
「ユウキさん……」
「だから俺は、俺は……。もう何処にも、逃げることが出来ない。自分で選んだ道だ。この舞台が終わるまで、この苦痛と向き合い続けるしかないんだ……」
そう言い切って、ユウキさんはまたうつむいてしまった。
俺はただ、黙って立ち尽くしている。
ユウキさんは、翔さんのことが好きで――でもその気持ちは報われない事を、本人が一番よく知っている。知ってしまっている。
だから、舞台上で恋人を演じること――愛し合うことが、現実とのギャップとなり、むしろユウキさんを苦しめる結果になってしまっていた。
ユウキさんはその苦しみにずっと耐えていて、今日は固く張り詰めた我慢の糸が、一本切れてしまったのだろうか。
それによって、演技までもが崩れてしまった。
そんな先輩に対して、俺が掛けられる言葉はなんだろう。
まだ若輩者の俺が彼に対して、どんな慰めが出来るのだろうか。
俺は考えた末に、ゆっくりとソファに近付いた。
そして、ソファの上で膝を抱えて座るユウキさんの肩を、そっと抱きしめる。
安心させるように、全てを受け入れるように、そう願いながら俺は黙って抱きしめ続けた。
俺に向けられた負の感情も、きっとユウキさんは八つ当たりだと分かってるはずだ。
だから俺は、それも許す気持ちで、黙って全てを受け入れた。
暫くの間そうしていると、ユウキさんがそっと俺の腕を叩く。
それを合図に、俺はユウキさんからゆっくりと離れた。
ユウキさんは、泣きながら笑っている。
いつも通り優しい顔で、情けないと言いたげに眉を下げて、小さな声でこう言った。
「……ごめんな、鳴海。かっこ悪い先輩で」
「そんなこと、無いです。ユウキさんは俺にとって、いつまでも憧れの先輩です」
「……やめてくれよ。鳴海に言ったこと、全部嫉妬と八つ当たりだ。本音なんだ。本気で俺は……鳴海のこと、天才だと思ってるよ」
俺は、なにも言えないまま眉間に皺を寄せる。
ユウキさんは、随分自虐的になってしまっているらしい。
俺が仏頂面をしている間に、ユウキさんは目元の涙を袖で拭った。
そして、いつも通りの笑顔を俺に向けてくれる。
「ありがとな、追いかけて来てくれて。おかげで、吐き出せてスッキリした」
「……俺なんかが、聞いていい話でした?」
「むしろ、鳴海以外にはできない話だよ」
ユウキさんは、そう言って寂しそうに笑う。
確かに今回のメインキャストの中だと、俺が適任なのだろうか。
翔さん本人には言えないし、霞鳥さんとは初共演で特別仲が良いわけではなく、暁さんは翔さんのことが嫌いだ。
俺にしか出来ない役割だったと思えば、追ってきたのは間違いではなかったと思えて、少しホッとする。
ユウキさんはソファの上から降りて鏡をみると、自分の顔の様子に眉を顰めていた。
そして自分の鞄から化粧道具を取り出しながら、ふと思い出したように俺に尋ねてくる。
「そういえば、さっきのはハグか? 最近、暁さんと鳴海、よくハグしてるもんな」
「えっ!? ああ、あれはストレス解消ですよ!? 暁さんのストレス解消のためで…――」
そう言って、俺は少し顔が熱くなりながら暁さんとのハグを思い出す。
だってハグにストレス軽減の効果があるのは、本当だと思う。
俺も暁さんとハグすると、最近ちょっと幸せな気持ちになる気がした。
するとユウキさんは、俺の方を振り返りながら、揶揄うようにこう告げる。
「へえ……確かにハグはストレス軽減ってよく言うけどさあ」
「……?」
「それって、好きな人が相手のとき限定らしいよ」
――ユウキさんの意地悪な言葉に、俺は全ての動きを止めて、硬直するのだった。
◇
暁さんが、俺のことを好き?
いや、それはそうだ。だって、そういう演技をしてもらっているのだから。知っている。わかってる。
でもそれはあくまで演技なので、ハグをしてストレス軽減になっているのか、不安になってくる。
もしかして、俺たちはずっと意味のないことをしているのだろうか。
それとももしかして、暁さんは本当に――俺のことが、好き?
そんなことを考えてしまい、俺はぶんぶんと激しく首を左右に振った。
まさかそんな、変なことを考えてはいけない。暁さんに失礼だ。
俺は、少し顔を整えてから戻ると言うユウキさんを置いて、稽古場へと一人で歩いていた。
何も言わずに出てきてしまったから、そろそろ戻らないと不審に思われるかも知れない。
ユウキさんのことを誰かに聞かれたら、適当に誤魔化しておこう。
そうして俺が歩いていると、向かい側から聞き知った足音が聞こえてくる。
タバコから戻ってきたのか、ポケットに手を入れた暁さんが、俺に気づくと優しい笑顔を向けてくれた。
「鳴海。どこ行ってたんだ?」
「ちょ、ちょっと色々あって……。暁さんはタバコですか?」
「ああ。翔に絡まれるから、逃げてた」
そう言って苦く笑う暁さんに、俺も苦笑を返す。
霞鳥さんはもう帰ってしまっただろうから、メインキャストだと翔さんと暁さんしか残っていない状況だったのだろう。
それは申し訳ないことをしてしまった。
俺たちはなんとなく並んで稽古場を目指す。
その道中、暁さんが当たり前のようにこう言った。
「そうだ、今日も家まで車で送るよ。ついでに」
「あ、じゃあ今日は俺が運転しましょうか? まだお酒飲んでないので、暁さんもたまには飲んでください!」
俺は、いつも暁さんに運転してもらうことが申し訳なくて、そんな提案をする。
しかし暁さんは、驚いたような表情をした後、少し言い辛そうに視線を彷徨わせた。
「いや、大丈夫だ。俺が運転する」
「ちゃんと俺も免許ありますよ! 実家の車は何回も運転してますし…――っ!」
「そうじゃなくて」
そう言って、暁さんは深くため息を落とす。
そして観念したように、少し小さな声でこう言った。
「……飲めないんだ、お酒」
「えっ?」
「だから、一滴も飲めないんだよ。一口で酔っ払うくらい、弱いんだ。だからいつも、運転を口実に飲まないようにしてる」
そう言う暁さんは、どこか悔しそうだった。
俺は、両目を瞬かさせてそんな暁さんを見上げる。
俺よりも20cm以上背の高い、甘いものが好きでアルコールは一滴も飲めない、一回り歳上の男を。
次第に俺の口角は高く上がり始める。
ニヤニヤと笑う俺を見て、暁さんは拗ねたようにこう吐き捨てた。
「なんだよその顔」
「いや、えへへ……俺はね、暁さんのそう言うところ可愛くて好きですよ」
暁さんは、俺の理想を詰め込んだような、高嶺の存在だと思っていた。
俺がいつか辿り着きたい、理想の俳優像そのもののような人。
でも蓋を開けてみれば、自分より実力のある俳優に嫉妬はするし、見た目に反して甘いものが好きで、お酒も飲めない。
そういう人間臭いところを知れば知るほど、俺は暁さんのことをどんどん好きになっていた。
その瞬間、俺はハッとする。
いましれっと、好きだという言葉が出てきてしまったことに気がつき、慌てて口元を手で覆った。
この舞台の台詞を毎日のように言ったり聞いたりしているせいで、こんな歯の浮くような台詞が自然と出てきてしまったらしい。
俺は言い訳をしようと、暁さんの方を振り返る。
――しかし俺は、言い訳のために開いた口を、閉じた。
暁さんは、顔を首まで真っ赤にして、口元を大きな手で隠していた。
手の下の口元は見えないけれど、どこか嬉しそうなのが伝わってくる。
そして見上げている俺の視線に気がついたのか、目が合ってしまい、俺たちは慌てて同時に顔をそらした。
なんだろう、あの反応。
俺は思わず足が止まる。
見たことがない暁さんの表情を見て、少しだけ心臓がうるさかった。
舞台上で、色々な暁さんの表情を見てきた。
舞台の外でも、俺のことを好きな演技を沢山見せてもらった。
でも、今の表情は知らない。
焦っているようで、どこか照れているようにも見えた。
もしかして、俺の言葉のせいなのか。
俺が、深く考えもせず、『好き』とか言ったせいなのか。
まさかその言葉に、照れているのだろうか。
そう言えば俺から暁さんへ、舞台の台詞以外で好きって言ったのは、これが初めてかも知れない。
どうしよう、心臓がうるさい。
先ほど考えていたことが、脳裏に蘇る。
――暁さんが、俺のことを好きだとしたら。
俺は、心臓がまるで耳元で鳴っているかのように、バクバクと心音が大きく聞こえていた。
先を行く暁さんの後を、俺は慌てて追いかける。
俺の胸に浮かんだ疑問を解消する手段はないまま、俺たちは稽古場で行われているクリスマスパーティとへ戻ってきてしまうのだった。
◇
「鳴海、着いた」
車が停まり、俺は意識が覚醒する。
寝ていた訳ではないけれど、少しぼんやりしていたらしい。
結局クリスマスパーティへ戻ると、俺は翔さんに勧められるままお酒も飲んで、ピザやチキンも沢山食べた。
まるで頭の中の雑念を追い払うように、俺は必死でクリスマスパーティを満喫したのだ。
暫くするとユウキさんも戻ってきて、何事もなかったかのように翔さんとも話していた。
その姿は今までと変わらないようで、けれど俺には確かに今までとは違う光景に映る。
酷く残酷で、ユウキさんが自傷しているようにも見えた。
俺は胸が痛む気持ちで、またその痛みを忘れるためにお酒を飲む。
結局3缶くらいは空けたかも知れない。
酔い始めた俺を回収して、暁さんは一足早く稽古場を後にし、今に至る。
正直、車の中で何を話したのか、何も覚えていない。
いや、ただ黙っていただけのような気もする。
俺は、ずっと暁さんの気持ちを考えていた。
暁さんって、俺のこと好きですか?
なんて聞くのは、野暮だろう。その答えは決まっている。
「好きだよ」と言うのだ。だって暁さんは俺のことを好きな演技をしているのだから、聞くまでもない。
では、演技ではなく俺のこと好きですか?
と聞くのはどうだろうか。
俺は小さく首を横に振る。その答えがイエスでもノーでも、俺にはその先のプランがない。
イエスの場合、俺は答えなくてはいけない。暁さんに自分の、気持ちを。
でも俺の中には明確な答えなんて、今はまだない。
考える時間が必要だ。
ノーだった場合、本当になんで聞いたのか意味がわからなくなる。
元々知っていたことだし、それが前提の演技だ。
何を今更な、そんな話をしても意味がない。
後先考えずに、答えを求めるのは間違っている。
でも、俺は知りたかった。
暁さんが俺のことを、どう思っているのか。
先ほどのユウキさんの告白を、思い出す。
翔さんはユウキさんの気持ちを知らない。そのこと自体は、なんの罪もない。
でも結果的に、翔さんはユウキさんを苦しめている。
もしも俺が暁さんを苦しめているのだとしたら、早めに知っておきたかった。
その苦しみから、どんな形であれ、早く解放するために。
俺はシートベルトも外さずに、じっと暁さんを見つめる。
アルコールによって熱った顔で、据わった眼で、じっと暁さんを見つめた。
暁さんは、降りようとしない俺を不思議そうに見ている。
そんな暁さんを試すように、俺はこんなことを口にしていた。
「暁さん……キスの練習、しませんか?」
それは、ほんのちょっとした罠のつもりだった。
暁さんが俺のことを好きなら、きっとキスをするはずだ。そうじゃないなら、きっと笑って誤魔化すだろう。
俺たちはもう稽古中に、何度もキスをしている。
今更練習なんて、必要ないのはわかってる。
暁さんは、驚いたように少し目を見開く。
その後、眉を歪めてじっと俺の顔を見つめた。
暁さんの右手が、俺の左頬にそっと触れる。
そして暁さんはゆっくりと、俺に顔を近づけた。
――キス、される。
俺が身構えると、暁さんがふっと笑うのが伝わってくる。
そして近づけた顔は唇ではなく、俺と額同士をくっつけた。
「……しないよ」
暁さんの、甘い声が耳元に聞こえる。
俺は驚いて、大きく目を見開いてから、暁さんを見上げた。
すると暁さんは、どこまでも悲しそうな顔をしている。
その顔を見た瞬間、俺はズキっと胸が痛んだ。
「暁さ……っ」
「キスの練習はしない。何でかわかる?」
「えっ……」
「舞台上なら大丈夫だけど、二人きりの時に、鳴海とキスがしたくないから」
その言葉は、冷たいようで、どこまでも甘い。
愛おしさがたっぷり込められていて、俺は慌てて暁さんと距離を取る。
今までの演技とは違う。聞いたことが無いほどの、甘さ。愛おしさ。愛情が込められていた。
暁さんは悲しそうに、そしてどこまでも甘い声で、俺に尋ねる。
「この意味が、わかるか……?」
俺は答えの代わりに、逃げるようにシートベルトを外す。
――最低だ。
自己嫌悪に急かされるように、俺は助手席の扉を開けると外へ飛び出して、もう一度車の中の暁さんを振り返った。
「あ、あの俺酔ってるみたいで……すみません! 送ってくださり、ありがとうございます、おやすみなさい!」
「……おやすみ。あと、メリークリスマス」
暁さんは、それだけ言って手を振った。
俺は何も言うことができずに、車の扉を閉める。
そして振り返ることもなく、マンションの自分の部屋へと駆け込んだ。
まだ、心臓がバクバクいっている。
五月蝿い。このままだと死んでしまうのではないかと思うほど、鼓動が早く、そして大きかった。
罠を張った? キスをしてくれたら俺のことが好き?
俺はなんて、浅はかだったんだろう。
暁さんは俺の誘いに乗らなかった。キスをしなかった。
けれど、『俺のことが好き』なのだと、こんなに分からされてしまった。
俺の子供じみた挑発に、あの場面で乗らなかったのは、暁さんが大人だからだ。
お酒も飲んでいないし、理性があるからだ。
二人きりの密室で、俺は酔っていて思考もろくに回っていなくて、そんな状況の俺にキスをすればどうなるのか、暁さんは自分でよく理解していた。
好きじゃなければ、キスできたんだ。
好きだったから、キスできなかったんだ。
――キスの練習だけで、済まなくなるのがわかっていたから。
俺は頭を冷やすために、洗面所の冷水で顔を洗う。
そして顔を上げると、俺と目が合った。
俺はルカのことが、ずっと理解できなかった。
ルカは物語の途中で、ディーンはからこう告げられる。
「ヴァルドの未来は二つしかない。お前を捨てて戦争を続けるか、お前を選んで国諸共滅ぶか」と。
そう言われて、ルカは絶望してその場に崩れ落ちる。
その『絶望』について、原作にも脚本にも詳しく書かれていない。
だから俺の解釈に委ねられていた。
俺はこの先の展開も知っているから、ルカは「ヴァルドが自分を選んで死ぬこと」に絶望しているのだと思っていた。
でもそうじゃないのだと、俺はいま唐突にルカの気持ちが理解できる。
ルカはこの二つの選択肢しかヴァルドに存在しないことを知って、絶望するのだ。
何故ならどちらを選んだとしても、ルカはヴァルドとは幸せになれない。
どちらを選んでも永遠に、愛する人と離れ離れになる。
だから、ルカは絶望する。これはルカが、自分の恋が報われないと気づくシーンだ。
俺は、涙が滲んだ。
どうしよう。どうすればいい。
暁さんが俺を好きだとして、俺はいったいどうしたらいい。
ユウキさんの告白も、翔さんがその気持ちに気がついていないことも、暁さんが俺のことを好きなことも――全部が俺の頭の中でごちゃごちゃになる。
俺は俺自身の気持ちが、よく分からない。でも、安易に答えを出してはいけない。
ユウキさんの話を聞いたおかげで、そう冷静になれる。
考えろ。どうしてこうなってしまったのか。
どうしたら、俺の――俺たちの最善なのか。
この答えは絶対に、間違えてはいけない。
俺は、ふらつく足取りでベッドへ向かう。
色々と考えなくてはいけないことは分かっている。
それでも今はただ、何も考えずに、眠りたかった。




