表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/12

Page5 ——— Is this right? ———

 1週間が経った。

 恋人ごっこが始まってから。


 僕は何をしているのだろう。


 特に問題はない。

 むしろうまくいっている方だと思う。


 待ち合わせの時間より少し早く着いた。


 駅前はいつも通り人が多い。

 誰もこちらを気にしている様子はない。


 それが少しだけ楽だった。


「早いねえ」


 振り向くと、佐伯先輩がいた。


「すみません、少し早く来すぎました」


「いいよ別に」


 軽く笑う。


「そういうとこ、ちゃんとしてるよね〜」


 どこかで聞いたような言い方だった。


「行こっか」


「はい」


 自然に歩き出す。


 距離は近すぎず、遠すぎず。


 隣にいることに、少し慣れてきた気がする。


「こういうの、慣れてる?」


「こういうの、とは」


「デート」


 少し間が空く。


「……慣れてると思ってるんですが」


「ごめんって、聞いてみただけじゃ〜ん」


「でも困ってなさそうだね」


 その言い方は、評価というよりも確認に近かった。


「どう?」


「どう、とは」


「恋人っぽい?」


 少し考える。


 基準が分からない。


 けれど、


「……それなりには」


 そう答える他なかった。


「それなり、ね」


 クスッと笑う。


「成立はしてるね」


 軽い口調だった。


 ただ、その言葉はどこか引っかかった。


 成立。


 何が、とは言わない。


 それでも、否定はできなかった。


 店に入る。


 注文をして、席に着く。


 会話は途切れない。


 質問されれば答えるし、こちらからも話題を出す。


 沈黙が気まずくなることもない。


 むしろ、円滑だと思う。


「ほんと、やりやすいよね」


 ふと、そう言われる。


「そうですか」


「うん」


 頬杖をつきながら頷く。


「ちゃんと反応するし、変なこと言わないし」


 1拍置く。


「ズレない」


 その言葉に、少しだけ手が止まりそうになる。


 ズレない。


 それはいいことのはずだった。


「安心できる」


 付け足すように言う。


 安心。


 前にも聞いた気がする。


 意味は分かる。


 分かるが、それがどういう意味なのかは、はっきりしない。


「ありがとうございます」


 とりあえず、そう返す。


「お礼言うとこ?」


「……違いましたか」


「いや、いいけど」


 また笑う。


 それ以上は何も言わない。


 食事を終えて、店を出る。


 並んで歩く。


 さっきと同じ距離。


 変わらない。


 何も問題はない。


 むしろ、うまくいっている。


「手」


 不意に言われる。


「はい?」


「繋がないの?」


 一瞬だけ考える。


 必要かどうかで言えば、多分必要だ。


 それが恋人であるなら尚更だ。


 そういうものだと思おう。


「……そうですね」


 手を伸ばす。


 軽く触れて、そのまま握る。


 拒まれることはない。


 自然に受け入れられる。


「うん」


 小さく頷く。


「ちゃんとできるね」


 その言葉に、違和感はなかった。


 できているのだと思う。


 求められていることを、そのままやっているだけだ。


 それで成立している。


 少し歩く。


 特に会話はない。


 沈黙も、気まずくはない。


 ただ、どこか静かすぎる気がした。


 理由は分からない。


「ねえ」


 隣から声がする。


「はい」


「楽しい?」


 足が、ほんの少しだけ止まりかける。


「……楽しいとは」


「そのままの意味」


 簡単に言う。


 けれど、答えは簡単ではなかった。


 不快ではない。


 問題もない。


 むしろ、うまくいっている。


 それは確かだ。


 でも、それがそのまま、楽しいと言えるのかは———


「分からない、です」


 気づけば、そう答えていた。


「そっか」


 あっさりと返される。


 特に驚いた様子もない。


「まあ、そうだよね」


 小さく笑う。


 納得したような、していないような曖昧な表情だった。


「でも」


 一歩だけ前に出る。


「ちゃんとやってる」


 振り返って


「それで成立してる」


 同じ言葉を、繰り返す。


 確認するように。


 記録するように。


 手はそのまま繋がれている。


 離す理由もない。


 続ける理由も、特にない。


 問題はない。


 うまくいってる。


 求められていることは、できている。


 それなのに、


 それでいいのかは、僕には分からなかった。

Page5、読んでいただきありがとうざいます!

感想、レビューなどぜひお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ