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恋に落ちて眠りに落として  作者: 碧衣 奈美


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04.過去を見る

 ドリーダの告げるいやな可能性に、誰もが言葉を失った。

「くそっ。俺のダチに、何てことしやがるんだ。シャルリア、気付け薬はないと言ったが、調合方法はわかるのか?」

「私の記憶はあいまいですが、資料はあるはずなので確認は可能です。ただ、材料が足りません。こういった解毒剤のような薬にメインで使う薬草が切れていて、本当なら先生が今日の午後に採取へ出られるはずでした」

「何だよ、材料集めからとはタイミングが悪いぜ」

「今日はオレも一緒に行って、現地で講習って予定だったのにさ」

 普段使う薬草がどの辺りに生えているかはミクテスもだいたい知っているが「今日はこんな所にこんな薬草が」という穴場を教えてもらうはずだったのだ。

「薬草を扱ってる業者にはないのか?」

「在庫はあるかも知れませんが、ノンシュ薬局は取引していないんです。いつも先生が全て自分で調達するので」

「今回だけ売ってくれって、頼むとか」

「それが……色々ルールがあって、すぐには難しいんです」

 契約やら何やら、面倒な手続きがある。今日注文して、今日届く、という訳にはいかないのだ。

「そうか。俺には詳しいことがわからないから、薬の方は薬局組に任せるぞ。しでかした奴を調べるのは俺がやるとして……どこから手を付けたものかな」

 ゼルアクスが倒れていたのが調合室なら、事件現場としてまずはそこから調べるべきだろう。

 扉や窓を開けて回ったミクテスの話によると、調合室から外へ出る扉の鍵はかかっていなかった。薬局の扉の鍵はシャルリアが開けたので、犯人は調合室の扉から出入りしたと思われる。

 だが、中和剤をまいたと言っても、鬼人に効果ばつぐんの薬が使われた現場だ。鬼人のレイアードだけで、どこまで手がかりになるものを調べられるものか。

「私が魔法で協力する。ゼルアクスには、普段から色々と面倒な薬草を調達してもらっているからな」

 薬の調合はするが、薬草の調達までは……というよその薬局の薬剤師がここへよく来る。普段は薬草販売の専門業者に注文するが、少量だけが欲しい場合に重宝するのだ。それでいて、お手頃価格。

 いつもそんな状況なので、今みたいに「ノンシュ薬局にない薬草を分けてくれ」と他の薬局へ頼みに行っても、恐らく在庫は望めない。

 ドリーダも似たようなもので、時間に余裕がある時は自分で採取に行くが、そうでなければゼルアクスに頼むのだ。

 ゼルアクスは山や森に目新しい植物がないかの調査も兼ねているので、いつも快く引き受けてくれる。

 商売だから、と言えばそれまでだが、世話になっているには違いない。

「ドリーダがいてくれるなら、助かる。頭を使う捜査より、俺はどちらかと言えば容疑者を取っ捕まえる方が専門だしな」

「では、分担を決めよう。シャルリアは調合方法の確認と準備。ミクテスとアルルーラは、必要な薬草の採取。レイアードと私は、事件を起こした輩を捜す。劇薬が長時間体内にあって、いいことなど何もない。急ぐぞ」

 ドリーダの号令で、全員が動き出した。

☆☆☆

 魔法で何をどうやってお尋ね者を捜し出すのかと思いきや、ドリーダはレイアードを連れて自宅へ戻った。

 魔法使いの家と言っても、全体が石造りで木枠にガラスがはめられた窓がある、周囲の民家と同じく普通の家だ。

 実際、この辺りはよくある住宅街で、ここもそのうちの一軒である。

「魔法使いの家って、もっとこう……おどろおどろしいのかと思ってた」

 ついでに言えば、森の奥にある一軒家で、壁にはツタなどが絡まりまくって……みたいな。

 実際は、一般人が住む家と同じような、何の変哲もない家だった。

 これという変わった点のない、タンスやソファなどの家具。家の周辺も中も、きれいに掃除が行き届いた、ごくごく普通の民家である。

 これまでに色々な建物へ突入した経験のあるレイアードだが、魔法使いの家には入ったことがなかった。魔法の耐性が低いので、そういう場所は耐性の高い種族が受け持っている。

 女性の一人暮らしにしては少々シンプルすぎるようにも見えるが、ドリーダの家はあまりに普通すぎて拍子抜けした。

「黒魔術をやる輩と、一般的な魔法使いを一緒にしているのだろう。一部の棚の中には魔物と対峙する時に使う道具類があるが、そういった物以外はありふれた生活用品ばかりだぞ。家の外観にしても、別に特殊な加工は必要ない」

「へぇ、そんなもんか」

 ドリーダのような魔法使いの知り合いはいても、こうして自宅を訪れるということがなかったので、ちょっと新鮮な気になる。

「それはいいとして、魔法でどう調査するつもりなんだ?」

 協力を買って出てもらったのはいいが、何をどうするかまでレイアードは聞いていない。なので、いきなり家へ連れて来られ、少し戸惑っている部分があった。

 てっきり、あの調合室で何かの調査をする、と思っていたのに。

「手っ取り早く、過去を見る」

「へ? 過去を見る? どういう意味だ?」

「そのままだ。ゼルアクスの過去の行動を見る。彼の所へ来た輩を我々の目で確認すれば、そいつを捜せるはずだ」

 言いながら、ドリーダはある部屋へ入った。入るなと言われなかったので、レイアードもその後に続く。

 広くも狭くもない部屋で、薬草のような匂いがした。ノンシュ薬局と似たような匂いだ。

 壁に並んだ棚を見れば、一見すると茶葉のような物が入っている瓶が並んでいたり、レイアードには使途不明な道具類などが並んでいる。

 小さめの窓は一応あるものの、他の部屋に比べればわずかながら薄暗く、今までで一番魔法使いの部屋っぽい。

 ドリーダは、扉付きの棚から姿見を引っ張り出して来た。何の飾りもない木の縁の鏡で、長身でがっしりした体格のレイアードでも余裕で映る大きさだ。

「……なぁ、その鏡、入ってた棚より大きくないか?」

 鏡が入っていたのは、せいぜいコートが入る程度の高さの棚。普通に見て、絶対棚より鏡の方が高さがある。

「細かいことは気にするな」

「あ……っと、魔法使いの鏡だもんな」

 レイアードは深く考えないことにした。どうせ、考えてもわからない。

 それより、ドリーダの言った過去を見る魔法だ。

「もしかして、その鏡にゼルの過去が映せるのか?」

「そうだ。シャルリア達が薬局を出た一昨日の夜から今朝までの間、ゼルアクスがどういう行動を取っていたかを見る」

「そんな魔法があるなら、ほぼ全ての事件がすぐに解決するだろ。警衛が捜査する必要がなくなるぞ」

 犯人がわかるなら、あとは捕まえるだけ。すぐばれてしまうとわかれば、犯罪も劇的に減るはずだ。

「それは素人の考えだ」

 ドリーダはあっさり切り捨てた。

「その気になればいくらでも過去を見られるのは、竜や妖精族のような魔力の強い種族だ。人間の魔法使いの魔力など、たかが知れている。過見(かけん)の術は、術者が名前と顔を知っている者に対してしかできない。無理をすれば知らない者が相手でも見えるが、魔力が大量に必要となる上、魔法使いとして短命になる。自分の能力を削ってまで警衛に協力する魔法使いなど、そういるまい」

「何にでも、縛りってのはあるもんだな。そうか、ゼルはドリーダもよく知ってる奴だから、その術が使えるって訳か」

「ああ。ただ、他にもこの術には欠点がある」

「術を使ったら倒れる、とか?」

「いや、それはない」

 あっさりきっぱり否定されたが、今はその方がありがたい。

「見ての通り、これは鏡だ。映像は見えるが、声や音は聞こえない。この事件に重要な会話が、ゼルアクスと犯罪者の間に交わされていたとしても、こちらには伝わらないのだ。レイアードは読唇術を使えるか?」

 聞かれたレイアードは、肩をすくめる。

「そんな器用なこと、やろうと思ったこともないって。声が聞こえないのは、仕方ない。顔さえわかれば、後は何とかなるさ」

「一応、一つ方法がある」

「何だよ、あるなら最初から言ってくれ」

「術者以外の誰かが、鏡の中へ入る。過去の現場へ行く、ということだ。それなら、その場の会話も聞くことが可能になる」

「……」

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