表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋に落ちて眠りに落として  作者: 碧衣 奈美


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/20

16.ありがとう

「あれこれ言い訳しようとしているが、俺達はお前がティオリーにゼルの魂を切り取って来いと言ったのを知ってるんだ。その方法も、その術がやりやすくなるように薬を渡したのもな。小人の彼女を大きくしたことも、ちゃーんとわかってる」

「う……」

 今度こそ、ザードレは言葉を失う。

 現れた鬼人の言ったことは、全て事実だ。誰も見ていなかったはずなのに、薬を渡したことまで知られている。

 ティオリーがゼルアクスの魂を連れ帰ったということは、あの薬が使われたということ。薬の量はわずかなものだったし、その場で使い切っているはず。ザードレがティオリーに渡したうんぬんの証拠など、どこにもない。

 それなのに、現れた鬼人はそのことをはっきりと言った。

 なぜだ。どうしてそのことを知ってるんだ。あの時、周囲には誰もいなかったはず。自分とこの小娘だけで、他に誰かの気配は感じなかったのに。こいつは鬼人だし、近くにいれば気配を感じ取れないはずはないのに。

 過見(かけん)の術というものを、ザードレは知らなかった。その場にいなくても、過去を見ることで全てがばれる、とは思いもよらなかったのだ。

「残念だが、助かりそうにない」

 ティオリーに治癒魔法を施していたドリーダだが、損傷が激しすぎた。かろうじて息があるが、このまま治療を続けても苦しみが長引いてしまうだけ。

「あ、師匠!」

 別の女性の声に、ザードレがびくっとする。また新手が現れ、しかも獅子の魔獣の姿まであり、逃げるタイミングを完全に失ってしまった。

「アルルーラ……ゼルアクスを連れて来たのか」

「彼がどうしても森へ行くって言って……え、ゼルさんがふたり?」

 緑の半透明なゼルアクスを見付け、アルルーラが目を丸くする。彼女は、この状態のゼルアクスを見るのは初めてなのだ。

「ああ、あれが私達の捜し物だ。ここに全てがある」

「ゼル、お前、身体は何ともないのか」

「ん……何とかね」

 レイアードが、ゼルアクスが獅子から降りるのを手伝う。

 そのゼルアクスの視線は、半透明の自分の姿へ向けられていた。半透明のゼルアクスも何かを感じているのか、こちらを見ている。

「ゼ……ル……アク……」

 本体であるゼルアクスが来たことを、ちゃんと認識できているのか。

 涙を流しながら、ティオリーが震える手を伸ばす。その手の先には誰もおらず、何もない。

 ゼルアクスはそちらへ近付くと、ティオリーの横にしゃがんだ。顔をのぞき込むが、彼女にその姿は見えているだろうか。

「ごめ……なさい……」

「ありがとう」

 ゼルアクスはティオリーの震える手を取りながら、静かにそう言った。

 彼の言葉はしっかりとティオリーに伝わり、彼女はその言葉に目を見開く。

 だが、驚いた表情はゆっくり笑みとなり……その目は閉じられた。

「え……身体が……」

 まだティオリーの正体を知らないアルルーラが、思わずつぶやいた。

 人間だと思っていた女性が、目を閉じると一気に小さくなってしまったのだ。

 同時に、ゼルアクスの手からティオリーの手はすり抜けてしまう。視線を落とせば、彼の足下には人形のような小さいティオリーが痛々しい姿で横たわっていた。

「死んで魔法が解けたのか。あ、それじゃ」

 ティオリーを見ていたレイアードは、半透明のゼルアクスに視線を移す。

 思った通り、緑の身体は抜き取られた時と同じ緑のもやになり、ゼルアクス本体へと入っていった。

 ここへ来る前、ドリーダがレイアードに話していたことが現実となったのだ。

 術者が死ねば元に戻る、と。

「ふう……」

 緑のもやが全て身体に入ると、ゼルアクスが小さく息をつく。

「おい、ゼル? 元に……戻ったんだよな」

 魔法に詳しかろうがなかろうが、無事を確かめずにはいられない。

「うん、そうみたい」

 しゃがんでいたゼルアクスは、そう応えながらゆっくりと立ち上がった。

 今まで眠そうだった表情は、もう消えている。元々、少し眠そうな顔、と言われたりするが、ちゃんと起きている時のゼルアクスだ。

「よかった……ちゃんと戻った……」

 その姿を見て、アルルーラが涙を浮かべている。

「ごめんね、アルルーラ。心配かけたね。レイもドリーダも、ありがとう」

「おう、今度おごれよ」

「はいはい」

 言いながら、ゼルアクスの視線はザードレへ向けられた。

「ゼルアクス、こうなるまでに何があったのだ? なぜ、ティオリーが攻撃されていた」

 この急展開は、ドリーダ達がここへ来るほんの少し前だ。

「あいつが殺そうとしたのは、ぼくなんだ」

 その言葉に、全員の視線がザードレに突き刺さった。

☆☆☆

 まともに動こうと思わない。そう考える気力がない。

 本体から切り離されたゼルアクスは、身体の脱力感はなかったが、心は完全に何かをしようとする力を奪われていた。

 ただ時々、自分は何をしているんだろう、と思うことはある。

「どうして……こんなことを?」

 ほんのわずか、正気に戻るような感覚が起きるタイミングで、ゼルアクスはティオリーにそんなことを尋ねた。

 薬局から連れ出され、見覚えのある森の中へ来て、池のほとりにある岩に座らされている。そんな彼を、ティオリーは抱きしめて。

 どうしてこんなことになったのか、考えようとするが思い出せず、すぐに考えることも放棄する。

 そんなことを繰り返す中で、ゼルアクスは無意識のうちにそう尋ねていたのだ。

「一緒にいたかったから。私はずっとあなたを見ていて、ずっと一緒にいたいと望んでいた。そんなことは絶対に無理だとあきらめていたけれど、こうしてあなたを抱きしめられて幸せなの」

 ゼルアクスと一緒にいたい。

 ティオリーにとって、本当にそれだけが望みだった。

「……いつまで」

「時間が許す限り、ずっと」

 そう言って、ティオリーはゼルアクスを抱きしめ、髪や角、頬にキスを繰り返した。

 肉体ではないので、温かみはない。魔法の力で触れられているが、本当の彼ではなく、これはあくまでも彼の一部。

 それでもよかった。これまでは、触れることはおろか、彼の目に映ることすらかなわないと思っていたから。こうして「触れられる」だけでいい。満足だ。

「私は魔法をかけられてるの。身体が大きくなる魔法。いつになるかわからないけれど、そのうち小人の姿に戻るはず。その時は、あなたも同じ大きさになるの」

「……」

 ゼルアクスに彼女を拒否できる力はなく、説得しようとする気力もなく、そうしようという意思も生まれないままだ。

 そんな状態が、どれくらい続いたのか。

 はっきりした意識のないゼルアクスには、知る(すべ)もなかった。

「うまくいったようだな」

 彼らの前に、ザードレが現れた。

 何の感想を抱くこともなく、ゼルアクスはぼんやりした表情で黒い猿もどきを見る。

「ええ、あなたのおかげ。彼と一緒にいられるなんて、本当に夢のようだわ」

「そうかい。そりゃ、よかった」

 そう言って、ザードレはにたりと嗤う。

「じゃあ、薬代をもらおうか」

「え?」

 ティオリーはきょとんとして、ザードレを見返した。

「ほれ、この鬼人を眠らせるための薬を、一昨日渡しただろうが。あれは、今じゃかなり珍しい薬なんだ。聞いたところによると、劇薬扱いらしいが」

「劇薬っ?」

 その言葉に、ティオリーは血の気が引いた。

 ただ眠らせるだけではなかったのか。劇薬ということは、毒にも匹敵するような強い薬ということ。いや、使い方によっては、本当の毒になってしまう。

「どういうこと。単なる眠り薬じゃなかったの?」

「眠り薬さ。眠ったまま、起きないらしいがな」

「そんなっ。薬が切れたら目覚めるようなこと、言ってたじゃない」

「あー、そうだったか? じゃあ、他の薬と間違えたかな」

 白々しくとぼけるザードレ。

 鼓動が激しくなり、同時に呼吸も速くなった。魔法をかけられてからずっと悪かったティオリーの顔色は、さらに悪くなる。全身の血が、どこかへ流れてしまうように思えた。

 何か……何か大変なことをしでかしたような気がする。これからものすごく悪いことが起きるような。

 それも、自分のせいで。

 薬で眠らされたゼルアクスは、今頃どうなっているのか。一体、自分は何をしてしまったのか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
i000000 (バナー作成:相内 充希さま) (バナークリックで「満月電車」に飛びます)
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ