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拝啓、○○に出会いました。  作者: 緋色
四章

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20/22

交わる縁

 冒険者ギルドの別室にて、シズルと十一等級冒険者としての話をしていたラドニー。

 他に聞かせるべきではない話題も混じっていたこと、待たせることも考慮してアイゼンには先に帰ってもらったラドニーだったが。

「さ、寂しい……」

 ギルドの扉をくぐったところで、風ではない寒さで身を震わせるラドニーであった。

 最近は常にアイゼンがそばにあり、そして今はないことにラドニー自身、分析できるほどに喪失感を抱いていた。

「いかんいかん、わたしはリーダーだぞ。もっとしっかりしなくては……!」

 赤いポニーテールをなびかせ、首を横に振るラドニー。

 そして、むん、と力を込めて歩き出す。

 そうすると、思考が凪いで冷静になっていく。

「目が濁っていた……か」

 「青の剣」のザンゴが、ハクネの森に出現したバスターウルフに直面した時の印象を、そう伝えてきていたのだった。

 魔獣は元はただの獣で、魔力によって変質した、人に害をなすものである。

 ――という研究結果はあるものの、すでに原因としては遠い時のかなたであり、生態系の一部に魔獣というカテゴリがある、というのが現実である。

 住処を持ち、繁殖し、時には人の領域を占領し、あるいは討伐される。そしてそれを循環させる、もはや自然の一部。

 なのに本来は生息していない地域にいる。

 目が濁っていた、という証言は、その事実に一段上の不穏をつけ加えるものだった。

 だからこそ、ラドニーは腰の双剣に意識を向けて、足早に大通りを歩く。

 しばし歩くと、そこは馴染みの武器屋だった。

 扉を押し開けると客の姿はなく、年配の店主が出迎える。

「おや、ラドニーさん」

「手入れを頼みたい」

 朗らかな店主に対し、ラドニーは言葉少なにベルトごと双剣を外し、カウンターに乗せた。

 ラドニーの緊張感が伝播したのか、店主の顔が引き締まる。

 慎重に双剣を確認した結果、帰ってきたのは眉を顰める表情だった。

「……特に異常はないように見えますな」

「――そうか」

「が、ラドニーさんはそうではないとお感じで?」

 それにラドニーは沈黙を守るしかなかった。

 見た目に異常はなく、振るっても特に違和感はない。

 けれど気にかかる。

 説明できないほどの微かな何か。

 しかし双剣は戦いに必須であり、そして――両親の形見である。

 だから、胸騒ぎ未満でも放置することはできなかった。

 それを見かねたように、店主は苦いため息をつく。

「王都の鍛冶師、ゼグダンを訪ねるのがよいでしょうな」

「……やはりそうなるか」

 店主が敗北を認めたゼグダンは、ラドニーの家の庭師ケニックの兄である。

 そして、かつて宮廷に勤めていた、一流の鍛冶師であった。

 ラドニーも面識はあり、双剣に何かあったときは度々そこに持ち込んでいた。

「ありがとう。そうしてみる」

「お役に立てませんで」



 払いきれない不安を抱えたラドニーが求めたのは、やはり自分の家だった。

 そこにアイゼンがいる、そう思うともはや駆け足になり、家の門をくぐった。

 玄関前にいたのは、燕尾服、きっちり切り揃えた顎髭、黒縁眼鏡の執事、ゴームレットであった。

「おかえりなさいませ、お嬢様」

 彼は掃き掃除をしていたのか、手にした箒の動きをとめて一礼した。

 その頭が元の位置に戻るのを待つのももどかしく、ラドニーは問いかける。

「ただいまっ。アイゼンは?」

「先ほどお戻りになり、ケニックと庭で、なにやらなさっておいででございます」

「ありがとうっ」

 ゴームレットの微笑ましげな表情を置き去りに、ラドニーは家の外を回り込み、庭に向かった。

 そうすると、花壇のそばに、背を向けてしゃがんでいる二人――アイゼンとケニックが見える。

 気配に気づいたアイゼンが振り返り、それにつられてケニックもラドニーを視界に入れた。

「お嬢、おかえり」

「おかえり、ラドニー」

「……っ」

 そのアイゼンの挨拶に、ラドニーは息をのむとともに、にわかに赤面に襲われた。

 距離を置いて立ち止まってしまい、それからおずおずと近寄っていく。

「……た、ただいま戻りました」

 ただそれだけのやりとりが、なんだかやけに気恥ずかしく感じる。

 加えて、アイゼンは花壇をいじっていたのか顔の所々に土汚れをつけていて、それが少年のようにあどけなく、可愛く思ってしまう。

「な、何をしていたんですか?」

 上擦る気持ちを隠せず、それがごまかそうとした声にも溢れてしまう。

 アイゼンの横から、にやにやとしたケニックの視線が飛んでくるとあればなおさらだった。

「ケニックに教わって園芸をな。これがなかなかに難しい」

「力任せに土かぶせりゃいいってもんじゃねえからな」

「うむ、奥が深い」

 頷く男たちの向こう側を覗けば、花壇の一角だけが黒々とした土になっていて、今しがた種をまいたばかりに見えた。

 そこになんとなく見入っていると、見上げてくるアイゼンの気配を感じた。

「ラドニーは、花を育てたことはあるか?」

「……いえ」

 恥ずかしながら、という余計な一言をかろうじて飲み込めたラドニー。

 そうとは知らず、アイゼンは頷く。

「俺もこれまでなかった。しかし――いいものだな」

「だろう?」

 ケニックが歯を見せて笑う。

 ラドニーはその、アイゼンとケニックのやりとりに取り残されたかのような感覚を覚え――違う、と思い直した。

 こういう取りこぼしてきた経験や縁こそ、今の自分には必要なのだと。

 切り捨てるのではなく、踏み込んで望み、結んでいく。

 それがなにかに繋がるのだと、学んだのではなかったか。

 そうしたら、もう二の足を踏んではいられなかった。

「わ、わたしもやってみたい」

 一瞬、泣き笑いで顔をくしゃりとしたケニックは、それを隠すように勢いよく足元に視線を落とした。

「花の種ならまだあるぜ。赤、青、黄、白、と選り取り見取りだ。どれがいい?」

「え、と」

 問われ、ラドニーは戸惑う。

 けれどそれも一瞬で、すぐにかたわらのアイゼンをイメージする。

 ――白。

 強い意志を秘める瞳の色でもなく、その魔力の色。

 それが、ラドニーの心を強く染めたのだった。

 そうして、ラドニーもケニックから花の植え方を教わった。

 土を掘り返し、種をまき、また土をかぶせる。

 手順だけなら単純なはずなのに、いくつも気をつけなければならないことがあり、冒険とはまた違う難しさが、そこにはあった。

 そうしてなんとか終わると、手拭いを差し出された。

 それを視線で追うと、にこにことしたヘルマの姿があった。

「アイゼン様も。お顔が汚れておりますよ」

「すまんな」

 礼を述べて顔を拭くアイゼンと同じく、自分も鼻の頭を汚していることに少しおかしくなり、同じく拭う。

「わははっ! 初心者ってなあそういうもんだ!」

「だからといって、そんな風に笑うもんじゃないよ」

 遠慮なく笑うケニックをたしなめた後、ヘルマはにこやかにアイゼンとラドニーを振り返る。

「お二人とも、もう少ししたらお食事なので、身綺麗にだけはなさってくださいね」

「うむ」

「わ、わかった」

 アイゼンは頷いただけだったが、自分が子ども扱いされたようで戸惑うラドニーだった。

「あんたもだよ、ケニック!」

「へーへー」

 ヘルマの声に蹴飛ばされ、ケニックは屋敷に向かう。ヘルマも、その姿を監視するように後に続くのだった。

 その姿を見送ってから、ラドニーは改めてアイゼンを見た。

 目が合い、そしてイヤリングがアイゼンの耳を飾っているのに気づき、その色気に、どきり、とした。

 が、次いで弾かれたように頭に巡ったのは。

(――誰から……!?)

 という衝撃だった。

「あ、アイゼン、それは……!?」

 かろうじて出た声と、釘づけの視線が指しているものを悟り、アイゼンはそれに手を添えた。

「ああ、ジェラにもらった」

「なんですと……!?」

 理由のわからない、しかし巨大な敗北感に打ちのめされて膝をつきそうになるラドニー。

「いいものを見せてもらった、礼だそうだ」

「……ああ、そういう」

 他意はなかったか、と安堵するラドニー。

「思念での通話ができる代物でな。これで連絡がしやすくなった」

 ラドニーは驚愕に包まれた。

(な、なんだと。それはつまり、おはようからおやすみまで、いつでもお話しできる、ということ……!?)

 そしてもしかしたら、そのまま夢の中までも。

 精神が崖から落ちそうになりながら、一縷の望みに手を伸ばす。

「ど、どのような、お話を?」

「うん? ゴーレムの破片を返したのでそれについての話や、何か相談したいとき、とかだな」

「……そうでしたか」

 アイゼンの表情がいつもと同じなので、かろうじて静かに返事をできたラドニーだった。

 だが、その鼓動はバクバクとうるさいほどであり、しかしなぜそうなったかは分析できず。

「い、行きましょう」

「うむ」

 ごまかすように、先導して屋敷へ歩き出すのだった。



 なんとか落ち着き、食事を終えた後。

 くつろぐ時間へ移行し、テーブルについているのはラドニー、アイゼン、カタリナ。

 そばには、お茶を出し終えたゴームレットが控えている。

「……相談しないと」

 家に帰って来た後の流れで、一旦棚上げしていたことを思い出したラドニー。

「あの、アイゼン。お話があるのですが」

「聞こう」

「ここではなんですので、わたしの部屋へ――」

「なりませぬっ!」

「うわあっ!?」

 何気ない誘いは、吹き飛ばしかねない勢いの怒号に阻まれた。

 思わず驚いたラドニーが視線を向けると、そこには怒号そのままの表情のゴームレット。

 視界の隅のカタリナは、咎めの色濃く目を細めていた。

 そちらも気になるが、とりあえずラドニーとしてはゴームレットをなだめるのが先決であった。

「な、なんだ、ゴームレット、いきなり」

「いきなりで驚いたのはこちらのほうです! 婦女子が部屋に誘おうなど、ご自身がどんなご発言をされたのか、今一度振り返って頂きたい!」

 鋭く指摘され、一瞬意味がわからなかったラドニー。

 しかしじわじわと理解が及ぶとともに首元から上がってきた熱に、顔を覆う羽目になった。

 声も出せずにこらえるラドニーから、今度はアイゼンに標的が移る。

「アイゼン様も! うかつにご要望にお答えしないよう、伏してお願い申し上げまする!」

「言いたいことはわかった。気をつけよう」

 伏してどころか、父の心境で今にも襲い掛からんばかりのゴームレットに、鷹揚に頷くアイゼンだった。

 返って冷めたカタリナは、不完全燃焼の内心を、なだめる声として押し出した。

「そこまでにおし、ゴームレット。とりあえず酒でも持ってきておくれ、三人分だ」

「……承知いたしました」

 憤懣やる方ない思いを拳に込めて、背を向けるゴームレット。彼は足取りも荒々しく、台所へ向かうのだった。

 その足音を聞きながら、カタリナは今度こそアイゼンとラドニーに遠慮なく呆れの視線をぶつけた。

「まったく、人騒がせもいいところだよ」

「……ご、誤解だ」

 かろうじて顔を上げたラドニーは、なんとか抗議した。

「そうかね。まあ、今度からは気をつけることだね」

「……そうする」

 まだアイゼンの顔を見られないラドニーだったが、そんな空気を変えるようにヘルマが食堂に入ってきて、酒の席の準備を整えていく。

 一礼してヘルマが下がったころにはラドニーの体温も落ち着き、ようやく深呼吸することができたのだった。

「あたしはほっといてくれて構わないよ」

 と言って一人飲み始めたところを見ると、カタリナは監視役のようであった。

 それに居心地の悪さを感じつつも、ラドニーは少し考えて切り出す。

「――王都セグナートへ行きたいと思っています」

「ふむ」

 ラドニーは少しわかったことがある。

 こういう時、アイゼンは「なぜ」と聞いてこない。

 ラドニーのその予想はあたり、アイゼンは腕を組んだ。

「俺からも話がある。実は襲われそうになってな」

 思わずきょとんとしてしまったラドニーと、意識を向けてきたカタリナに語られたのは、冒険者ギルドで別れた後の一幕だった。

 金目当てと思われる男数人に絡まれ、それは第三者の介入で蹴散らされ、そして首謀者と思われる人物の存在が仄めかされた。

「その後は知人の家でお茶となったが、重要なのはそこではない」

「だろうね。怪しげな何者かが、あんたの周囲をうろついている、という話かい」

「……アイゼン目当てとは限らない」

「確証はあるのかい?」

 カタリナの認識を思わず否定したラドニーだったが、再度問われて何も言えなくなる。

「それをはっきりさせるためにも、一度この街を離れたほうがいいのではないか、という話だ」

 はっとして、ラドニーはいつの間にか落ちていた視線を上げた。

「そ、それは」

 こんな話なのに、胸が高鳴るラドニー。

「……つ、着いて来てくれる、ということでしょうか」

「ラドニーがよければだが」

「お願いします!」

 語尾に重ねるように勢い込むラドニー。

 カタリナの、やれやれ、と言わんばかりのため息が聞こえてきて気恥ずかしくなり、ラドニーは腰を落ち着けた。

 しかしカタリナのそれは、何もラドニーの態度だけが原因ではなかった。

「あえてあたしに聞かせたね? この家の警戒をあたしに丸投げしようって算段かい?」

「……そんなつもりもなかったが」

 言われてみれば、という表情のアイゼンに、カタリナは藪蛇を突いてしまったと知る。

 同時にラドニーも現状を理解した。

 表面だけを見ればアイゼンが焦点のようだが、それは陽動で狙いは他にあるかもしれず、それは家族の誰かかもしれない。

 自分たちがいなくなったならそれは警戒を解いたも同然で、それこそ誰かの思惑通りとなろう。

 ラドニーは呻くように呼びかけた。

「……カタリナ」

「……癪だが、狙いを知るためにもあんたたちの行動は妥当だ。そして、あたしはあたしの家を守るだけさね」

「ありがとう……!」

「世話をかける」

 感謝に頭を下げるラドニーとアイゼンに、カタリナはそれを受け取りながらも舌打ち未満の心境ではあった。

(面倒なことになった)

 それが正直な感想である。

 しかし、と思い直したのは、これが何を起点としたものかはわからない以上は不可抗力としか言えず、もしかしたら義娘が発端かもしれないからである。

 そうなるとアイゼンばかりを責められず、かといって感情の行き場もない。

 だからカタリナは微妙な表情で、代わりに事務的な内容を突きつけるしかなかった。

「ついでに、王都の冒険者ギルドのマスターに書簡を持って行ってくれるかね」

「……ハクネの森の件か?」

「聞くでないよ。が、仮にも十一等級に頼むんだ、それなりに重要度は高いとだけ言っておくさね」

 神妙に頷くラドニー。

 カタリナがため息をつきたくなるもう一つの理由が、ラドニーが十一等級冒険者で、しばらく不在になるという事実である。

 最初にラドニーが「王都に行く」と言い出した時に何も言わなかったのは、理由がわからず、話の展開によっては立ち消えになるかもしれなかったからだ。

 しかし、ラドニーの表情といい、アイゼンの事情といい、感情面でも理屈面でも、二人を送り出すしかなくなってしまった。

 だったら、なにかを押しつけよう。そんな心境だったのだ。

 なのに当のアイゼンは、のんきに疑問を呈したものだった。

「カタリナが冒険者ギルドのトップというわけではなかったのだな」

「そんなわけあるかい。あたしはただの支部長ってだけだよ――気苦労の多い、ね」

 とうとう取り繕えず、カタリナはワイングラスをあおった。



 飲むだけ飲んで、カタリナは食堂を立ち去った。

 代わりとばかりに、食堂の隅に佇んでいるのはゴームレットである。

 無言の彼だが、妙な威圧を放ってくるようでラドニーとしては最初は気まずかった。

 しかしアイゼンといると話は弾むし酒も進むし、いつしか気にならなくなってくる。

「結局、この街では全然クエストをこなせませんでしたね。それが少々残念です」

 今日の薬草採取が、パーティ初のクエストであった。

 その最中に青の剣の撤退に出くわし、今晩に至る。

 そして出立はおそらく、早ければ早いほどいい。

 この街でのクエストはしばらくお預けになりそうであった。

「旅自体は嫌いではないがな――そう言えば、その王都とやらまでは、どの程度の道のりなのだ?」

「二週間ほどになりますね」

「ふむ。なら、ジェラには伝えておいた方がいいか」

「え」

 意外な名前が出てきて固まるラドニー。

 自然、アイゼンの耳を彩るイヤリングを見てしまう。

「な、なにゆえジェラに?」

「酒を――ジェラは紅茶だが、交わす約束をしていてな」

「そ、そうなのですね」

 再びこみ上げる奇妙な敗北感。

 しかもジェラのそばには、自分の力量を超える、妙にアイゼンとの距離を近づけたがるロゼッタもいる。

 焦燥が満ちるラドニーだったが、そんな彼女の目に映るアイゼンの表情は――。

「ラドニーとも結んだ縁だ。俺としては――大事にしたいと、思っているのでな」

 どこか遠くを見つめる、静かな微笑みだった。

(……ああ)

 ラドニーの焦燥は、ゆっくりと去っていった。

 振り返れば、アイゼンは出会いを大切にしてきたように思う。

 それこそ、まるで壊れ物を扱うかのように。

 過去そうなってしまったことがあるからなのか、聞く気はない。

 けれど他の誰かにそうなってほしくはないと、その姿勢をずっと貫いている気がする。

 かつてはただの敵だったジェラとロゼッタという縁を、何かにつながるように気遣いしたことも、その表れだろうと思う。

 だからラドニーは、ただ反発するなどできなかった。

「そう……ですね」

 そうして、ちらり、とアイゼンの耳元を見た。

「今、連絡できるのですか?」

「試してみよう」

 そうして、アイゼンはイヤリングに意識を向けた。

「ジェラ、聞こえるか?」

『どうしたの、アイゼン? ――ああ、もうあたしのことが恋しくなった?』

「少し話があってな」

『……本当につまんない男よね、あんたって』

 冷めたような声。

 それがアイゼンの耳のそばから聞こえてくることに、ひどく違和感を覚えるラドニー。

『ちょっと、魔力導線がなんか変なんだけど。アイゼン、あんた、なにかした?』

「ラドニーにも聞こえるように、ジェラの思念を声に変換している」

『……呆れた。もうそんな使い方ができるなんて』

「アイゼンは器用だからな」

『……そしてラドニーの声を、あんたの思念に変換して返してきてるってわけね。確かに器用ね、あんたって』

 呆れたようなジェラの声に、本来は着用した人間同士でしか通信できないものだと、ラドニーは把握した。

 そうすると頭をもたげてくるのは疎外感である。

「ず、ずるいぞっ!? 内緒話できるじゃないか!」

『ふっふー。いいでしょう? 羨ましいでしょうー?』

 煽ってくるのはロゼッタの声であった。それにラドニーは地団駄を踏まんばかりだ。

「ロゼッタまで……!?」

『ややこしくなるから入ってこなくていいわよ。それで、何の用?』

「あ、ああ」

 ため息交じりに会話を区切られ、さすがに感情をぶつけ続けることはためらわれたラドニー。

 改めて、話を切り出す。

「……ああ。わたしが連絡を取ってくれるようにお願いしてだな……」

『それで?』

「アイゼンと王都に行くことになった。それでその……挨拶を」

 言葉半ばで何を伝えるか考えていなかったことに気づき、口ごもってしまう。

 こういう話題は苦手だ、と改めてラドニーは我が身を振り返るのだった。

『えー、お別れですかー?』

『うるさいわよ、ロゼッタ。……それはご丁寧にどうも、という感じね』

 やはり、とラドニーはその距離感を苦く思う。

 ジェラが重きを置いているのはアイゼンであって、それは強者同士の連帯感ゆえだった。

 そこから零れ落ちている形の自分を、強く恥じ入る。

 どう言葉を――縁を繋ごうか、と思案するラドニー。

 そしてろくに何も思いつかないまま口を開こうとして、ジェラの声に先んじられた。

『けれど、そう。王都――ね』

 含みを持たせた言い方に、ラドニーは戸惑う。

「な、なんだ?」

『あんたたち、冒険者って言ってたわよね。護衛の依頼とかって、できそう?』

「……護衛?」

『どうなの、アイゼン?』

「判断はラドニーに任せている」

『そう』

 アイゼンは目を閉じていて、ゆえにその意志は見えない。

 しかしその代わりと言わんばかりに、思念の先の強者は、この身を測るような沈黙を伝えてくる。

 奇妙な威圧感にくじけそうになるものの、けれど預けてくれた責任に応えようと、背筋を伸ばす。

「可能だ。王都へ護衛してほしい、ということだな? しかしわたしたちは、近日中に発つつもりだぞ?」

『なら、交渉成立。あたしたちもそのつもりよ』

「急だな? 俺たちも人のことは言えないが」

『色々あるのよ、あたしにも』

 ジェラはそんな言い方で、それ以上の回答を拒否したようだった。

 アイゼンはただ頷いて目を開き、ラドニーも踏み込む気はなかった。

 その後はそれを区切りとして、実務的な打ち合わせとなった。

 ジェラには冒険者ギルドにクエストとして出してもらい、その際に冒険者を指名する形だ。

『……面倒ね』

「冒険者はギルドを通してしか、依頼を受けられない規則だからな」

『それになに、代表者アカゲって。ラドニーじゃないの?』

「わたしの魂の名前だ!」

『……あっそ。じゃあ、当日はお願いね』

『ジェラ様、早く上がらないとふやけますよー』

『そんなことばらさなくていいのよ!』

 通信はそんなやりとりで終わった。

 どうやら風呂中に連絡を取ってしまったようで、そこは申し訳なく思ったラドニーだった。

 次いで思うのは、妙なことになった、ということである。

 自分は双剣について王都行きを決意し。

 アイゼンは降りかかる火の粉を払うため、王都への同行を申し出てくれて。

 今度はジェラが、そしておそらくはロゼッタも護衛対象としてついてくる、というこの事実。

「――これが、縁」

 ラドニーがふと零した感想に、アイゼンは静かに頷いた。

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