096.機巧技師と紅き竜王
「こ、こ、これは、なんということでしょう!! カリブンクルスがド、ドラゴンの姿に変形したぁ!!!」
そう。これこそが、僕達が作り上げたカリブンクルス究極の切り札。
ゼフィリア先生からもらい受けたフレーム、その柔軟かつ複雑な駆動系に疑問を感じた僕は、あのレイドブライガの姿を見た時に、この関節が変形を前提に作られたものではないかと思い至った。
50年前、このフレームを作り上げた機巧技師達は、おそらくドラゴンの姿をモチーフに、このフレームを作り上げたのだと。
しかし、それがわかったところで、実際の変形システムを作り上げるには、多大な労力を要した。
変形を可能とする筋肉の配置に、干渉し合わないような装甲の造形。
魔素転換炉への複雑な命令語の指示に、関節部の剛性の確保。
小さいものも上げれば、本当にもっともっと枚挙に暇がないほどの課題を乗り越え、僕達はついに、この形態を完成させることに成功したのだ。
「竜の姿になっちゃうなんてね……」
相手の機巧技師であるノギスも、さすがに驚いた表情を浮かべている。
しかし、すぐに冷静さを取り戻すと、ふふっ、笑った。
「でも、竜の姿になったからなんだというんだい? 水晶の剣の前では、そんなもの無意味に過ぎない」
「本当にそうか。見せてあげます! サクラ君!!」
『ああ!!』
紅き竜王と化したカリブンクルスが、その紅の翼を羽ばたかせる。
すると、巨体が宙にふわりと浮いた。
「飛んだ、だと!?」
炎で作られた両翼を羽ばたかせるとドラゴンモードのカリブンクルスはどんどんと上昇していく。
炎熱竜などのドラゴンが、なぜ、あんな巨体にも関わらず飛べるのか。
それは、ドラゴンは翼を羽ばたかせることで、周囲の魔素の波を捉え、揚力へと変換することができるからだ。
魔導士が杖で空を飛ぶのも同じ原理。人間程度の重さの物であれば、羽ばたくという動作すら必要なく、サーフィンのように波に乗ることで自在に空を飛び回ることができる。
しかし、機巧人形など、相当の重量があるものを浮かせるのは、容易じゃない。
人型の機巧人形で揚力を生み出すのは難しく、様々な工夫が必要となる。
今戦っているアルヴァリオンも、魔素の波に乗るために、自身の風魔法で追加の揚力を生み出し、飛行している。
ベスト8まで残ったニルヴァーニアンという機巧人形は、徹底的な軽量化や、魔素を捉えるためにボードを装備することで、強引に飛行能力を獲得していた。
そして、このドラゴンモードは、本物のドラゴンと同様に、翼で揚力を得るとともに、炎の熱により上昇気流を生み出し、さらに加速する。
この飛行能力こそが、ドラゴンと化したカリブンクルスの最大の特徴だ。
『うぉおおおおおおおおおおっ!!!』
どんどんと肉薄してくるカリブンクルスに、アルヴァリオンは再び風の刃を放つが、こちらの機動性は並じゃない。
炎熱竜もかくやという機敏さで、風の刃を避けると、いつしかアルヴァリオンよりさらに高い位置まで上昇した。
『驚いた。まさか、そんな隠し玉があるとは……』
『見た目だけじゃないぞ。この攻撃、防げるか!!』
カリブンクルスのドラゴンの口が咆哮するかのように開く。
そこは元々、人型のカリブンクルスの右腕に当たる部分だ。
フィンガーフレアバーストのエネルギーが竜を模した口内に充填される。
『ドラゴンフレアバースト!!』
まるでブレスのように、カリブンクルスの口から、熱線と化したエネルギーが発射された。
「こ、これはまるで……!!」
「ええ、レイドブライガの……!?」
そう。この攻撃は、あのレイドブライガのビームを模倣して作り出したものだ。
魔素を熱エネルギーとして凝縮し、放つ必殺のブレス。
腕の内部には、あの炎熱竜の火炎袋を搭載し、奴のブレスをそのまま再現した。
つまり、この攻撃は、高位のドラゴンのブレス攻撃と遜色ない威力があるということ。
真っ向から受けたアルヴァリオンは、なんとか水晶の剣で防御することに成功したものの、左肩を熱線が掠めた。
驚異的な熱に、アルヴァリオンの肩部装甲がドロドロと溶け落ちる。
『くっ……!?』
「ルスト!!」
初めて、相手チームの魔導士であるララが声を上げた。
おそらく、これまでの戦いも含めて、アルヴァリオンが明確にダメージを受けたのは、これが初めてだろう。
『さすがだ。サクラ』
『ふん、カリブンクルスはまだまだこんなもんじゃない。逃げるなら今のうちだぞ』
『……そうだな』
ふっ、と自嘲気味に笑うと、ルストは水晶の剣をだらりと下ろした。
『お前……どういうつもりだ』
『もう水晶の剣の残り魔素が、ほとんどない。俺に勝機はないよ』
『だから、勝負を諦める、というのか?』
『……ああ』
『ふざけるなぁ!!!!』
決闘場の空に、サクラ君の激昂する声が響き渡った。
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