095.機巧技師と完成せし切り札
プスレキア・マズラを敗北へと追い込んだ光の刃。
陽光と見間違うような眩いばかりの光を発しながら、それが振り抜かれた。
同時に、魔導障壁に巨大な真一文字の傷が刻まれる。
大量の魔素によって、展開された魔導障壁に、一瞬とはいえ、あれだけ巨大な傷をつける驚異的な攻撃力。
まさに勇者の一撃ともいえるその攻撃を、カリブンクルスは辛くも避けていた。
後方へと宙がえりをしながら、カリブンクルスはアルヴァリオンから距離を取る。
『ちっ、忌々しい剣だな。ルスト』
『サクラ……俺は』
『だが、俺は負けるつもりはこれっぽっちもない!!』
カリブンクルスの全身の炎が再び激しく猛った。
前進するその巨体。
だが、アルヴァリオンは風の魔力を纏うと、それをあしらうように上空へと浮かび上がった。
『貴様!!』
飛行能力がないカリブンクルスがアルヴァリオンのいる位置まで上がろうと思えば、全力で飛び上がるしかない。
しかし、それは、良い的になることに他ならない。
『サクラ。悪いけど、これで終わらせてもらう』
天空へと舞い上がったアルヴァリオンは、水晶の剣の柄を両手で握り直すと大量の魔素を放出した。
刃に烈風の如き鋭い風がまとわりつき、渦を巻く。
『あの技は……』
「知ってるの、サクラ君!?」
『ああ、あれこそ、勇者ルストが得意とする必殺剣、その名も……』
『……風呼びの聖剣』
深く静かに発せられたその名と共に、アルヴァリオンが剣を振り下ろす。
同時に、剣から発せられた風の刃がカリブンクルスを襲う。
『くっ!?』
大きく横に跳んで、その一撃を避わすカリブンクルス。
しかし、避けた地面に巨大な溝が穿たれた。
破壊力はあの光の刃にすら匹敵する。
その上……。
「う、うそだよね……」
アルヴァリオンが剣を振るう度に、風の刃が次々とカリブンクルスへと降り注ぐ。
一太刀ごとにその勢いは増し、その数は数えきれないほど。
最初は、なんとか避けているのが確認できたが、やがて、風の勢いと、巻き上がった砂煙で、カリブンクルスの姿は見えなくなった。
『サクラ君!!』
目視できなくなったそんな状況の中でも、アルヴァリオンは無慈悲に、剣を振り続ける。
やがて、最後の一撃とばかりに、大上段から振り下ろした一撃は、風の刃ではなく、竜巻として決闘場を駆け抜けた。
生身の人間であれば、その身体を引きちぎられてしまうのではないかと思われるほどの、暴風が吹き荒れ、魔導障壁が常に危険信号である赤色に染まる。
おおよそ、魔法としては最大級の殺傷力を持つ攻撃が終わった後、決闘場は燦燦たる有様だった。
石畳は砕け、地肌を露出した地面。
風の刃によって穿たれた傷は、深々と大地を抉り、風の勢いをもって、ところどころ隆起している。
しかし、そんな中に、カリブンクルスの姿は見当たらない。
「ま、まさか、今ので消し飛んじまったのかよ……」
会場の誰かがボソリと呟いた一言に、にわかに会場が、ざわつき出した。
「カ、カリブンクルス、いったいどこに行ってしまったのか……!? まさか、本当に……」
司会すらも慌てだすそんな中、ゆっくりとアルヴァリオンが地上へと降りる。
確認するように、その勇者の冠のような頭部で、周囲を眺めたその時だった。
ボコッ!!
土を抉る音がしたかと思うと、アルヴァリオンの足元から何かが飛び出した。
言うまでもないだろう。
それは、紅蓮の腕を振り上げたカリブンクルス。
「カ、カリブンクルス、まさか地面に隠れていたぁ!!」
「どうやら、炎の力で、地面に穴を掘って退避していたようです!!」
地面を掘り抜いたまま、カリブンクルスが、アルヴァリオンの頭部へと手を伸ばす。
しかし、その手は、あと一歩というところで空を切った。
アルヴァリオンが再び、空へと浮き上がったのだ。
『ちっ、また、逃げるか……!!』
『さすがサクラだ。不意を突かれた。でも……』
再び、アルヴァリオンの剣が光を放つ。
『次は外さない』
『ふん、いつまでも天の上でふんぞり返っていられると思うな!! ビス!!』
「うん!!」
今こそ、"あれ"を使う時が来た。
カリブンクルスのフレームの特性。
僕なりにそれを解釈し、みんなとともに作り上げた、あの力を!!
ジャケットのポケットに忍ばせていたグリップ型のコントローラーを僕は取り出した。
そして、引き金を引きながら、僕は叫ぶ。
「カリブンクルス"ドラゴンモード"!! オーバードライブ!!」
同時に、エルが身体が発光するほどに大量の魔素をカリブンクルスへと送る。
僕のコントローラーから放たれた信号で、カリブンクルスの身体が徐々に変化していく。
頭部が収納され、上半身が右を前、左を後ろに90度回転する。
膝が折れ曲がると、脚部には鋭い爪が生え、さらに元々左手だった場所が伸び、しっぽが地面を打つ。
炎に包まれた右腕は、ドラゴンの頭を形どり、そして、その額には肘からせり出した炎熱竜の角が生える。
仕上げとばかりに、ラジエータープレートが展開すると、激しい炎をまき散らし、紅い翼と化した。
「こ、これは……」
驚きの表情でドラゴンとなったカリブンクルスを見つめるノギス。
彼に向かって、僕は叫んだ。
「これが……これこそが、カリブンクルスの本領!! ドラゴンとなったカリブンクルスの力を見せてやる!!」
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