073.機巧技師と忍び寄る影
本選大会の一回戦が全て終わった翌日の事だった。
イシルディンとの戦いで損傷した個所を修理するために、僕らモンジュノチエの3人+モモさん&レンチ先輩は、交換パーツを受け取りにメイキンさんの店へと向かっていた。
「肩部の魔力導線なんですけど、やっぱり替えた方が良いと思ってて」
「そうだね。一時的な麻痺とはいえ、ダメージは蓄積してしまっているだろうし、交換はやむなしか」
「あとは、やっぱり"アレ"を運用するには、もう少し剛性の高い素材が必要そうで。その相談もしなきゃなんですよねぇ」
「やれやれ、次の試合は楽勝そうだとはいえ、なかなかゆっくりはできそうにないね」
「……」
レンチ先輩は、やはりセンチュリーズとの試合は眼中にないようだ。
でも、本当にそんな心持ちで、試合の臨んでいいんだろうか。
「あの、レンチ先輩……」
「ん? って!?」
レンチ先輩が驚いた表情を浮かべた。
そして、次の瞬間。
「モンジュノチエの皆さんですよね!?」
通りすがりの若い女の子に唐突に声を掛けられた。
「あ、はい、そうですけど……」
「わぁ!! 私、1回戦を観に行っていたんです!! 本当に、凄かったです!!」
「あ、ありがとう……」
物凄いテンションで絡んでくる女の子。
すると、周りで気づいた他の人達も次々とやってくる。
「あああ!! モンジュノチエのサクラさんだ!!」
「エルちゃんもいるわ。生で見ると、めちゃくちゃかわいい……」
「ビスって奴も凄いよな。あんな機巧人形作っちゃうんだから」
次々とやってくる老若男女。
島の人もいれば、外国からやってきた人達もいる。
本選に出場したこと。さらに1回戦を突破したことで、僕らの名前は考えていた以上に、有名になってしまっていたらしい。
「あ、あの、皆さん、僕達今から用事が……」
「なあ、握手してくれよ。握手!!」
「エルさん!! この色紙に是非サインを!!」
「サクラ様!! 是非、僕の頬をぶって下さぁい!!」
「うわっ……!?」
完全にもみくちゃ状態になった僕ら。
「あー、ビス君、俺とモモで資材は受け取っておくよ」
「ですから、皆さんは、ファンサービスしてあげてください」
「わ、わかった。ありがとう、2人とも……!!」
こうして、僕らモンジュノチエの3人は、次々にやってくるファンの皆と丁寧に握手をしていくことになったのだった。
ふぅ、知名度が上がるというのも考えもんだなぁ。
たまたま、通りかかった中心街で見かけたのは、ちやほやされている元トライメイツの機巧技師の姿だった。
「ビスの野郎……」
良い気になりやがって……!!
心の中で悪態を吐く。
俺を裏切った姑息な機巧技師、ビス=J=コールマン。
あのクズ野郎は、俺との機巧決闘のすぐ後に、本選出場を決めた。
その上、1回戦も突破したらしく、今では、ちょっとした有名人だ。
本当は、あの場所には俺がいるはずだった。
だが、俺の輝かしい未来は、あいつのせいで断たれた。
今では、学園も退学処分になった。
腕の怪我のせいで、冒険者への復帰も絶望的。
なんでだ。
なんで、俺ばかり、こんなにひどい目に遭わなくちゃいけない。
なんで、あいつばかりあんなに良い目を見てる。
許せない。
許せない。
絶対に。
「許しちゃおけねぇ……」
気づけば、俺は、ポケットに忍ばせていたナイフを握っていた。
今のあいつは隙だらけだ。
多くの人達に囲まれているから、俺みたいな奴が一人加わったところで、気にも止めないだろう。
近づいたところを一刺し。
それだけで、あいつの機巧技師生命は断たれる。
それこそがあいつに相応しい最期。
幸福から一転、不幸へと落ちていくあいつの姿を想像するだけで、胸が驚くほど軽くなる。
よし、行こう。
この手で、あいつを不幸のドン底へと誘うのだ。
だが、一歩踏み出そうとしたその刹那、俺の前に影が差した。
「止めておきたまえ。そんなことをすれば、機巧決闘自体が中止になってしまう」
「…………何だ。お前は」
いつの間にか目の前に立っていたのは、髭を生やした壮年の男だった。
スーツを着て、高級そうな腕時計をはめている。
「私は、機巧決闘に関するとある仕事をしていてね。君に、お願いしたいことがあるんだよ。マクラン=ダクラン」
「お前、俺の事を……?」
「知っているとも。君が、あのモンジュノチエを恨んでいることもね」
見透かしたような瞳。
正直気に食わないが、この身なりだ。
こいつは、かなり金を持ってる。
「話だけは聞いてやる」
「聡明ですね。きっと、あなたにとって、悪い話ではないですよ」
俺の返事を聞いたその男は、色白い顔に、不気味な笑顔を浮かべたのだった。
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