072.機巧技師、観戦する
さて、イシルディンと僕らモンジュノチエの機巧決闘から始まった本選大会。
続く第2試合では、ニッパー先輩率いるセンチュリーズと2年生の男子生徒ばかりで結成されたゴードリラーズが戦った。
ニッパー先輩たちが3年がかりで作り上げたダガーデクスは、昔ながらの剣と盾を装備した冒険者風の機巧人形だ。
僕らと同じく、魔物素材を工夫して作られたこの機体は、見た目こそそれほど洗練されたものには見えなかったが、機体の端々から小さな改良を積み上げてきたことがひしひしと感じられた。
対するグレイライガンはドリルという穿孔武器を扱う"剛"の機体だったが、整備不良でもあったのか、途中でドリルが停止してしまい、その隙を突かれて、敗北を喫することとなった。
派手な初戦に比べて、比較的に地味な決着となったせいか、観客の盛り上がりは今一つだったが、ニッパー先輩らしい、堅実な戦いだったように思える。
第1回戦を勝利した先輩たちは、人目もはばからず涙を見せていた。
やはりこの大会に対する意気込みは誰よりも強い。
第3試合は、サリィのプスレキア・マズラとヴァインストエルのザン・ヴァインの戦い。
ザン・ヴァインは持ち味である高機動性をサリィの氷魔法で完全に封じられ、完敗した。
第3者視点から見てみると、改めてサリィとプスレキア・マズラの強さがわかる。
予選では、本当によくこんな機巧人形に勝てたものだ。
そんなわけで、僕と比較的親しいトライメイツ2組は、無事2回戦進出を決めたというわけだ。
そして、やってきたこの日最後の試合。
1回戦第4試合に登場したのは、あの風の勇者ルスト率いるアルゼンタムのアルヴァリオン。
対するは、アイアンブラッドのオルフェスタ。
オルフェスタは、第8迷宮のボスであるアダマンタートルの甲羅を加工した超超硬度の棍棒を振り回すパワータイプの機巧人形だ。
たったの一振りで、相手の機巧人形を粉砕するとまで期待されていたその剛腕は、一切振るわれることのないまま、一瞬で勝負は終わった。
それは、まさに疾風だった。
開始とともに、マントをなびかせながらオルフェスタへと肉薄したアルヴァリオンは、まさにほんの一太刀で、その首を斬り落としたのだ。
一瞬の静寂からの、観客の歓声には凄まじいものがあった。
こうして、衝撃的な勝負を最後に、初日の機巧決闘は幕を閉じた。
続く2日目も、僕らは研究も兼ねて、他のトライメイツの戦いを観戦した。
この日も行われた決闘は4試合。どれも白熱する試合だったが、やはり特筆すべきはレイドブライガだろう。
予選では一歩も動かずに勝利を決めたレイドブライガ。
対戦相手となったループザループのディアンザス・Bは、テクニカルな戦術を得意とする機巧人形だった。
魔導士であるミュウの魔法属性は、かなり珍しい"重力"。
その重力を使って、機巧人形そのものの重さを軽くしたり、逆に重くしたりしながら、物理法則を無視したような機動ができるのが、この機体の強みだった。
実際、その実力は確かで、あのレイドブライガに回避行動を取らせたのは賞賛に値すると、すぐ後に出された号外にも書かれていた。
しかし、それだけだ。
ディアンザス・Bにできたのは、レイドブライガにわずかな回避行動を取らせただけ。
空中から超重力を利用した高加速キックを繰り出したディアンザスは、見事にそれを回避され、背中からあのビームを撃たれて一撃で沈黙した。
やはり、レイドブライガは強い。
その圧倒的な性能を、改めて感じさせられるような一方的な勝利だった。
こうして、1回戦の8試合が恙なく終了した。
勝利した8チームは、6日後、2回戦を行うことになる。
そして、僕らの二回戦の相手は……。
「センチュリーズ……」
トーナメント表を見ながら、改めて自分の対戦相手を確認する僕。
2回戦では、ついにニッパー先輩率いるセンチュリーズと当たる。
パーティーでは、ぼっちの僕に声をかけてくれた優しい先輩だ。
機巧決闘に賭ける情熱も本物。
そんな相手と戦う事に、抵抗がないとは言い切れないが、それよりも、一人の機巧技師として、3年もの研鑽で磨かれた先輩の機巧人形と戦ってみたいという思いも強かった。
「ダガーデクスか。あの機巧人形に負けないように、全力で臨まないと」
「そこまで気を張る必要もないんじゃないかい?」
と、工房の中で意気込む僕に、そう声をかけたのはレンチ先輩だった。
「どういうことですか?」
「いや、正直なところ、あのダガーデクスという機巧人形に、カリブンクルスが負ける要素はないと思う」
「それは、レンチ先輩個人の分析ですか?」
「両方だね。僕も個人的にそう思うし、特集記事にも、ほら」
レンチ先輩が差し出してきた新聞には、見出しと一緒に、カリブンクルス対ダガーデクスでは、カリブンクルスが圧勝するだろう、という内容の記事が書かれていた。
「その新聞の分析は的を射てるよ。1回戦の動きを見る限りじゃ、あの機巧人形じゃ、サクラ君の動きにはついてこれない」
「でも……」
「確かに、人間的にはセンチュリーズの先輩は良い人達かもしれない。でも実力的には、君達の方が大きく上さ。だから、必要以上に相手を意識することもないんじゃないかと思う。それよりも、センチュリーズとの試合の後の事を考えた方が良い。次の試合では、アルエオアクアかアルゼンタムのどちらかと当たるんだ。そちらの対策に、今から力を注ぐべきじゃないかな」
先輩の言うこともわかる。
確かに、ダガーデクスはお世辞にも強い機巧人形とは言えない。
だが、先輩が3年間を賭けて、自分たちの全てを賭けて作り上げた機巧人形なのだ。
そんな機巧人形と戦うのに、決して失礼な事はしたくない。
「レンチ先輩、僕は……」
「とにかく、今日は、第1試合で被弾した左肩の修復をしておこう。対策を取るにしても、それからだ」
「わかり……ました……」
わずかに心のどこかにしこりを残しながらも、その日は、それ以上次の試合に言及する事なく、1日を終えたのだった。
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