3.都心部の景色
歩き続けて1時間。
ようやく最寄りの駅に到着した。森を抜けてすぐだったせいか、駅と言うより山小屋のような、小さな無人駅だった。
「はぁ…もう無理、死ぬ…っ」
時間には余裕があると聞いていたから自分のペースで歩いていたが、前を行くクラスメイト達の姿はかなり小さくなっていた。改めて自分の運動能力の無さを痛感する。
「あ、やっと着いたんだ。はぐれちゃったかと思った」
駅のベンチに座って、手に鏡を持ち、前髪を整えていた透羽が声をかけてくる。駅には学年全員が座れる量のベンチなんてないのに、当たり前のように座っているのは流石の陽キャっぷりだ。
「…遅くて悪かったな」
「別に悪いなんて言ってないんだけど!!」
悪いと思っていないのは事実だろう。悪気無く煽ってくる_こいつはそういう奴だ。
透羽とのやり取りから十分程度経ってから、小さな駅のホームに2両編成の電車がやって来た。この電車にも1時間近く乗り続け、その後は新幹線に乗って2時間移動するらしい。やっぱり直接都心部に転送してほしかった…
電車と新幹線を乗り継いで3時間後。
車内では特にやることもなかったのでずっとスマホをいじっていた。僕は生粋のスマホ依存である。それ故にスマホを見ていれば3時間なんてあっという間なのだ。アニメのようにみんなでお菓子を食べたり、カードゲームをしたりしてみたかった…など断じて思っていない。
「ほら!着いたよー、早く降りないと置いてかれるよ?」
3時間ぶりに自分宛ての人の声が聞こえたとき、窓から見える景色は別世界だった。一面高層ビルが立ち並んでいて、自然物が殆ど無い。広い道路には人が密集していて、突っ立っていたら流されてしまいそうだ。
僕たちの住んでいる世界も都心部は似たようなものではあるが、こんなに人は多くない。
「着いたのか…すごいな、ここ」
「だよねー!早く行こうよ!」
透羽に連れられ新幹線を降りると、これまた物凄い駅だった。広すぎる、多分現実世界にも同じようなところはあるんだろうが…インドア派過ぎて行ったことがない。映像で見たことはあるけれど、実物はやっぱり迫力がある。
駅の開けたところで政府の方_名前は土屋さんと言うらしい、に呼ばれ、一箇所に並ぶ。
「集まってくれてありがとうございます。現在地は全員把握しているので、好きに行動してもらって大丈夫です、楽しんできてくださいねー…あ、もし危険な目に合ってもすぐに分かるので、こっちの警察は呼ばないでください、警察の上部とは連絡を取っているんですけど、色々面倒くさいので」
こっちの警察とも面識があるのか…結構気軽に行き来できるもんなんだな、世界って…
その後は軽く説明を受けてすぐに解散した。ホテルは学校側で取っているから、夜の9時までにチェックインすれば、あとは完全に自由にしていいらしい。
「はぁ…とりあえず長旅だったから疲れたな…」
ネカフェがあれば入りたい。こんな都会なら設備も整っているだろうし…
現在時刻は11時。チェックインまで時間はある。数時間ならネカフェに入っても、別の場所を回れるだろう。
「日彩ー、明日暇?暇なら一緒に回ろーよ!」
スマホを取り出して最寄りのネカフェを探していると、後ろから声をかけられた。僕に声をかける人物なんて一人しかいない。
「透羽…お前、友達いるんだから僕と行かなくてもいいだろ、そのほうが楽しめるんじゃないのか?」
「別の友達と回る楽しさと日彩と一緒に回る楽しさは別なの!いいよね?」
相変わらず強引だ。特に行きたい場所があるわけでもない…折角だから誘いに乗ってやるか。
「分かったよ…明日なんだろ、朝、準備できたら連絡してくれ」
「よーっし!交渉成立〜!じゃあまた明日!お互い楽しもうね〜」
「そうだな」
別に透羽と一緒に居ることは嫌じゃない。中学の時の修学旅行は班決めで余って無理矢理別の班に押し込まれて散々だった…、ちゃんとした友達と回れるのは嬉しい。
気を取り直して、検索バーに「ネットカフェ」と入力すると、一瞬で複数の場所に赤い点が打たれる。一番近い場所を押して、僕は経路を辿って歩き始めた。
「はぁ…もう、"こっち"の世界に修学旅行をさせるなんて…麗王もとんでもないこと考えるよねー…しかも、大人数を正確に転送しないといけないから、引率を担当できるのが私だけとか…こっちの負担も考えてほしいもんだよ」
現実世界と連絡を取りながら呟く。
こちら側に問題が起こっていないことを伝えると、すぐに電話がかかってきた。
「電話…?…ん、急にどうしたの?こっちも忙しいんだよー?」
メッセージで送ってくれればいいのに、と思いつつ軽く文句を言う。
「…ちょっと、どういうこと?冗談…な訳ないか…分かった、すぐそっち行くよ」
何が起こっているんだか…急に、「人が次々と倒れていく」なんて連絡が来るなんて。
読んでいただきありがとうございました。
不定期で週末に投稿しております。
私の作品で少しでも楽しんでいただけると嬉しいです。




