第15話『無かったことにしてはいけない過去』
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ケイジ課の扉を開ける。すると先ほど室内に押し込んだゴドー元神父は、客人を警戒し身を隠すどころか、勝手に戸棚を空けてお茶の用意をしていた。
「少し借りているぞ」
ふてぶてしく言うゴドー。見れば部屋の中央にある応接用のテーブルには、既にティーポットとカップが二脚、それにお菓子が用意されている。
お菓子は個包装の物を選び、人工魔石を使った湯沸かしポットも私が部屋に入ってから起動させたあたり――薬を盛るなどの妙な真似はしていないとでも訴えるような、そこはかとない配慮を感じたけれど、わざわざ言及してお礼を言う気力は今の私にはなかった。
「……揉め事か。あのピンク髪の少女と」
ソファーに座り込んだ私に、さらりと直球に訊いてくるゴドー。
そこに勘繰るような嫌らしさが感じられないのは、私の心配をしてくれているからというより、神父として長年、人々の相談や懺悔に耳を傾けてきたことで培われた技術のようなものだろう。
神父としては評判良かったみたいだし……この人。
「揉めてはないけれど、ちょっとね」
「念のため確認しておくのだが、機関絡みではないのだな?」
私がはぐらかすと、元神父は角度を変えてそう尋ねてきた。
自らの事情に絡めた質問。それは一見利己的に見えるかもしれないが、私から言葉を引き出すテクニックでもある。自分の抱えたモノを吐露しづらい状況では、そうやって他者から建前を与えてもらうことは、かなり有効だ。
――利己的な利他、あるいは利他的な利己。
私とこの男の生き方が似ているとは、これまで一度も思ったことはない。
けれどしかし、『言葉』を掴んでから改めて対峙してみると、そのやり方はまるで自分の思考をそのまま反映したかのようによく理解できるし、あの方のことを思い出して少しこそばゆくもあった。
「個人的なことよ。今はもう、私の独り相撲みたいな感じ」
言って私は、湧いたポットのお湯を使って紅茶を二人分淹れた。
そうしてカップの片方を向かいの席に差し出して、少し離れたところに立っているゴドーに言う。
「さっきはごめんなさい。……その、座って。そんなところに居られたんじゃ、逆に落ち着かないわ」
「……謝罪の必要はない。あれは当然の反応だ。今後は気を付けよう」
目を伏せて重く呟くゴドー。
その姿はなんだか、いつかの私自身を見ているようだ。
罪悪感から自らを卑下していて。けれど己に向けられる想いを踏みにじることはできなくて。
中途半端で、どこにもいけないような、ひどく不自由な存在に見える。
今なら少しだけ……これまで私に関わってくれた人たちの気持ちが、理解できるような気がする。
傷つけないよう気を遣うと、かえって自罰的な態度を引き出してしまう。
だから少しくらい図々しく接したほうが良いのだけれど、加減を間違えたら、それも致命的になりそうな予感があって。
本当に、薄氷を踏むような心のやり取り……。
ルカや寮長、セレナ先輩、お屋敷の方々、そしてあの方――きっと多くの人たちが私に対して同じような慎重さを要求されたことを思うと、とにかく頭が下がる思いだし、この感謝を、どれだけ時間をかけてでも返し続けたいと強く思う。
……私も報いなければ。私を支えてくれた想いたちに。
「あなたに対して、私が絶対的な暴力を有していることは自覚しているつもり。そしてあなたに倣った言い方をするなら、それを振りかざすことは本望ではない、とは……伝えておくわ」
「……ああ、理解しよう。では……失礼する」
逡巡の後、ゴドーは向かいの席に腰を下ろした。
……ひとまずこの瞬間は、折り合いをつけられたみたいだ。
さっきは拒絶を覚えてしまった。何もかもが見えなくなったような感覚に陥ってしまった。今も……けれど、それが全部じゃない。ちゃんと触れ合える部分もある。それを再確認し、忘れないよう胸に刻んだ。
時計を見る。昼休みが終わるまでまだ時間がある。
選択肢は二つ。師匠さんを探すために奔走するか、期せずして会えたこの男との密談を済ませておくか。
私は――今日は葬儀が行われない旨と、そして秘密の部屋とやらに戻れなかった場合この執務室を使っていい旨を伝えた後、後者を選択した。
カップに口を付けて唇を濡らしてから、本題に入る。
「昨日見たクロヴィスの記憶のことだけれど」
「……意外だな」
私が紅茶を飲むのを待ってから、ゴドーがカップを持ち上げて言った。
「何よ」
「一方的に相手の過去を覗くのはフェアではないと考えて、見ないようにしていたものかと」
「……よく分かってるわね。けれど、私が見なくてもあなたは見るでしょう? 機関の関与をはっきりさせるために。そして結果がどうあれ、あなたは情報を共有する。だとすればそれは、責任をあなただけに背負わせる行いよ。……だから私も、覚悟を決めたの」
「そうか」
短く言って、ゴドーは紅茶を一口飲んだ。
ふと――彼が口からカップを離しソーサーに置く一瞬。
「―――――」
気のせい、だろうか。
ゴドーが、とても穏やかに笑っているように見えた。
喜びに満ちた、まるで身近なモノの成長を嬉しく思ったような、そんな顔。
考えすぎかな……気を取り直して私は話を続ける。
「で……その、クロヴィスの記憶の最後に出てきたオルフェウス――だったかしら。月の引力がどうとかって。心当たりはある? 刺客ではなくとも機関関連で」
計画。検体。それは授業で行う魔術実験とかでも度々出てくる単語だけれど、クロヴィスの記憶に出てきた場所は、どうも本格的な研究施設のようだった。
そこに、月の引力という言葉――このヘリオスレッタにおいて、月という単語は意味もなく出るものじゃない。
だからまあ、念のために機関絡みではないか確認してみる、と。
「現時点では何とも言えない。自分で言うのもなんだが末端だからな私は。しかし記憶に出てきたルナールという女性は、気にするべきだと考えている」
確かに、と頷く。
「ペイル・ルナール・ロッテ――偶然かもしれないけれど、そうじゃない可能性もあるわよね」
「ああ。葬儀はペイルから始まった。そして葬儀の背後に機関の意思があるなら、クロヴィスとペイルと機関、この三つには繋がりがある可能性が高い」
それに、これはあまりにも短絡的だから口には出さないけれど。
機関――『葬送機関』と、今回の『葬送の儀式』。この単語の一致も気になる。
いえ、葬儀そのものは機関の手によるモノではないと思う。ただなんていうか、思想とか理念の部分で、重なっているモノがあるように感じるのよね。
まあ、だからなんだって話だけども……。
「ところで次の葬儀だが――私とハイネの対戦カードを組むことはできないか?」
「……彼が刺客だという根拠が見つかったの?」
「それを見つけるためだ。直感だけで言うなら、昨夜の戦いぶりはそれなりに『らしさ』を感じたが。……逆に、そちらは何か掴んでいないのか」
「彼が何かを抱えている様子はあったわ。葬儀が終わってからは吹っ切れた感じだったけれど。……というかそもそも、ハイネって結構強いけど、アトロポスの輪、切れるの? 思えば私ってあなたの魔術を一度も見たことがないのよね」
ゴドーはハイネのアトロポスの輪を切り、歳月の幻灯によって流出する記憶を見ることで、彼が刺客であるかどうかを確かめようとしている、のだが。
そこにはまず、ゴドーがハイネに勝たなければならないという前提条件がある。
無論、葬儀に単純な勝ち負けはない。
事と次第によってはハイネが自ら輪を切ってくれる可能性だってあるだろう。
だけどもし戦闘になった場合、魔的法則まで含めたときの勝率は……ちょっと分からないのよね。
ゴドーもそれなりの身体性能を保有していることは知っているが。
「……やり方はいくらでもある」
少なくとも負けるつもりはないらしい。
その答えを聞いて、その僅かに強張った表情を見て。
「もうひとつ訊いてもいい?」
「なんだ」
「もし万が一、あなたのアトロポスの輪が切られた場合――福音は鳴ると思う?」
私は問う。
月の引力に――死の誘惑に、打ち勝つことはできるか。
死を目の前にぶら下げられて、生きるという選択肢を選べるのか、と。
「……私が死を選ぶと?」
ゴドーは現状、司法取引の条件を果たすことよりも、居るかどうかも分からない機関の刺客を炙り出すことを優先している。当然、自らの命を守ることが機関の存在を世に知らしめることに繋がる、という考えであることは理解している。
けれどそれでも、私には、ゴドーが勝利に固執する理由はそれだけではないように見えた。
いつかの私と同じように。この人は自らの罪に押し潰されてしまわないか不安を覚えている――そう、思ったのだ。
ゆえに私はそれを指摘し、じっと下から覗き込むようにして言う。
柔らかく、穏やかに、励ますように。
「キリエもあなたも、何度も私に向き合ってくれた。こんなに面倒なマリモジュナという人間を、一度も投げ出さなかった。私とは逆にね。だからきっと――」
大丈夫よ、と伝えたかった。恐怖心などではないモノを。
「…………」
ゴドーは何も言わない。ただ、不安定に揺れる眼差しが、彼の中でいくつもの想いが渦巻いていることを示唆していた。
ならば、まだある。私が言えること、言いたいことはまだ存在する。
「ねえ――あなたにとって、私ってなに?」
先ほどの出来事を想起し、超克を果たすため、一歩踏み込む。
「なぜあなたは私に付き合ってくれたの? いえ、その自覚はないのかもしれないけれど……私の記憶を見た今なら、キリエの能力を知っているあなたなら、きっと分かることが――――ふん゛ッ‼」
言葉の途中で私は自分の頬を思いっきり殴った。拳で。
……めちゃくちゃ痛い。
涙目になって前を向き直すと、ゴドーが引いた様子で私を見ていた。
「は――? 何をしている? 意味が分からないのだが……?」
結構本気でドン引かれていた。
「い、今のはその……ちょっと暴走していたから……いずれ話したいことではあったのだけど、さすがに早まってしまったことにギリギリで気付いたというか……」
そうだ。これは本来、もっと時間をかけて慎重に問うべきことだ。
だって、ゴドーはきっと答えてしまう。私の問いに。
そしてそこには多少なりとも、私に対する罪悪感が込められてしまうはず。
加害者が逆らえない、被害者の立場を振りかざすのは本望ではない。
そう言った舌の根も乾かぬうちに、罪悪感を利用するような真似をして本音を聞き出すなんて……それで得た答えに、一体何の意味があるというのか。
だから止めた。殴ってでも。一度冷静になる必要があったのだ。
「もしまた踏み込み過ぎたら、遠慮なく言って。殴って止めるから……!」
「いや……もうするな。心臓に悪い……」
呆れているのか、私(の頭)を本気で心配しているのか、微妙な顔で呟くゴドー。
彼はそれから短く息を吐いて。
「……私は殺人者だ。この手で多くの人を殺してきた」
不意に、しかしずっと以前から用意していた懺悔のように、厳粛に言った。
私は表情を強張らせ、無理に話す必要はないと言おうとしたが、言えなかった。
彼の瞳に覚悟が、染みついた執念のようなモノが滲んでいたから。
「それは私自身が選択した道だ。殺したかったから、殺してきた。そこに後悔はない。ゆえにこの罪を誰かに預けるつもりもない」
「…………」
正しい言葉だと思った。
――本当は殺したくなかった。嫌々殺すしかなかった。
そのようなことを言おうとすれば、それは殺される側からすればたまったものではない、責任の放棄だ。
殺人の意味を喪失し、痛みも悲しみも、どこにもいけなくなってしまう行いだ。
だからゴドーは今、殺人を敷いた機関に罪を擦り付けるようなことはせず。
生きるということを諦めた者たちへの、救済を自称するようなこともせず。
殺人者としての最低限の責任を全うする――覚悟の言葉を紡いだ。
「だが――」
それから彼は真っすぐに私を見据えて、口にしようとする。
己を逮捕した騎士にも、信仰を捧げていた主にも、おそらくは自分自身にさえも、吐露することのなかった――一面的ではない心根を。
ゆえに。
「……、……」
彼は直前で声を止める。きっと理性に告げられたのだ。それを言葉にすることは、断じてしてはいけないことだと。生命を踏み躙った者としての、せめて抱かれるべき矜持さえも捨て去る行いなのだと――そんなゴドーに私は、瞳で訴える。
「――――」
その想いを――受け止めると。
ひどい我が儘でも、どれほど滑稽で醜くても。
この両手で、心で、きっと抱き止めてみせる。
秘めたままにすることの尊さを、それで守られるモノがあると知っていてなお――私にぶつけてほしい。それがたとえ、今この場限りのモノだとしても。
一度は殴って止めたが、それが私の、偽らざる本心だから。
「…………」
はあ――と浅く息を吐く音がした。
ゴドーは震える指先を誤魔化すように手を組んで、目を逸らさないよう私を射抜いて、長い沈黙の果てに、閉ざしていた心を開いた。
「事実として、もしも彼らが、彼女らが、自らの命を肯定することができたなら――手を下す理由はなくなる。ゆえに……祈った。どうか、彼の者たちが生きることを選べるようにと。そんな憐れみに満ちた世界であるようにと」
さらに彼は、言葉を手繰り寄せる。
「けれどその祈りは……長い間どこにも届かずにいた。人は変えられない、変わることなどないという事実だけが、永遠のように、この手に降り積もっていた」
「…………」
「だが――マリモジュナ。お前は変わった。時の檻の果てで、お前は自らを救ってみせた。人は変わる。投げ出した命を拾い直せる者は確かに存在する。その奇跡を証明したお前は、私にとって――祈りの具現」
ゴドーはささやかに、控えめだけど本当に幸せそうに、笑って告げた。
「―――希望だ」
まるで、救われたのは自分のほうだとでも言うような、そんな笑みだった。
「……ありがとう」
気付けば、そう呟いていた。
おかしなことを言っている自覚はある。
だけどこの気持ちは――決して嘘じゃない。
もしかしたらとっくの昔、最初に殺された時点で私の精神はおかしくなっていて、錯乱して、何かを取り違えているだけなのかもしれないけれど。
怒りや憐憫、罪悪感や達成感、同じ時を過ごした連帯感とか、過剰適応による生存戦略といった、ありとあらゆる要素がないまぜになって、どうにかしてしまっただけなのかもしれないけれど。
……それでも。
「私は、私を殺し続けてくれたあなたに……感謝している」
そう。感謝だ。恐怖なんかじゃない。
これこそが、私の伝えたい感情なのだ。
「――――」
「許されないことだとしても、理解されないことだとしても。それでも」
歳月の幻灯によって取り戻したこの記憶を、もう二度と忘れない。
だってキリエだけではなかったのだ。私が責任を負わせてしまったのは。
命を投げ出していた私を、見逃さなかった。
乗り越えるべき壁として、存在し続けてくれた。
生きることを赦した私の背中を、押してくれた。
祈りを抱き続けていた。忘れずにいなかった。
殺人という行為から目を逸らすことをしなかった。
だからゴドーは最後の最後で、それをしないという選択を下すことができた。
その過程で、彼が私に対する責任を負ったというのなら、それは当然、私にも存在しているはずなのだ。
何もかもを見失い、何度も殺させてしまった責任。
自らの命を投げ出し続けた――責任が。
私はそれを、二度と手放したりしない。
――――かつて、解脱を目指した。
あらゆる醜い欲望を捨て去り、汚らわしい己を消し去ることができたならば、罰を受けられると思っていた。楽になりたかったわけじゃない。許されたかったわけじゃない。ただそうすれば、何もかもを救うことができると、本気で信じていた。
けど今はもう、そのときの私じゃない。
罪を背負って生きることを己に赦した。
理想と建前を以て現実に反逆することを決めた。
そんな私に何ができるのか、何をしていいのかは……分からない。
それでも、多くの人に報いたいと決意したように。
私はこの人から貰ったモノにも、きちんと報いたい。
たとえそれが、受け取られることのない想いだとしても、構わないから。
だから――。
「忘れないで。たとえ柩の中に入っても。……私はあなたのこと、見ているから」
祈るように告げたそのとき、鐘が鳴った。
それは祝福の音でも、裁きの音でもない。
お昼休みの終わりを告げる――ただの日常の音だ。
「……もう行くといい」
「……そうね。部屋は自由に使ってちょうだい。放課後になったらクロヴィスに師匠さんのこと、訊いてみるから。学院長室の確認もしておく」
「すまない、世話になる」
「それじゃあ……。えっと……」
話が済んだので部屋を後にしようと立ち上がった私は、あることを思い、二の足を踏んだ。
それじゃあねゴドーとか、それじゃあね元神父と言うだけで終わりのはずなのに、動きを止めた私に彼は首を傾げる。
「どうかしたか」
それに対して私は、直球に、けれども迂遠に言葉を手繰った。
「ラストネーム――教えてもらえる? それかあだ名。さっきみたいに事情を知らない誰かがいるときは、ゴドーも神父も口にするにはリスクが高いでしょ?」
「ふむ……そういうものか?」
「そういうものよ」
真顔で嘘を吐く。いえ、別に嘘ではない。
ただそれは建前で、口にしない理由もあると言うだけ。
ふと思ったのだ。
この部屋を去ろうとして、一応別れの挨拶を言っておこうと思って。
それでおもむろに、元神父という呼び方はしたくない、と。
というのも彼は神父としての立場は剥奪されたが、殺人という禁忌を犯したが、それでも信仰心を失ったわけではない。
確かに神父服は脱いだ。身嗜みも以前より崩している。銀の十字架だって見えない……けれど服の下に忍ばせているだけで、何も捨てたわけではないのだ。
それは縋る者を欲した弱さではなく、彼の生来の気質のようなものだと思う。
だから元神父というのは別に間違ってはいないけど、なんだか彼の信仰心を無造作に傷付けようとしているみたいで、相応しくないと思った。
ならば今まで通りゴドーでいいじゃないかとなるところだけど……。
母国語じゃないからいまいち感覚がズレてしまっているが、普通に年上の男の人を名前で呼び捨てっていうのも、よくよく考えれば失礼な話。
まあタメ口なのも含めて、その辺りは敵対関係にあったのが理由なのだが、少なくとも今はそうじゃないからね。
ゆえに、と……脳内で色々とこねくり回していると、彼はむしろ今まで知らなかったのかとでも言うように、改まって言った。
「――アダムズ。それが私のラストネームだ。呼び名が必要なら、自由に」
「ゴドー・アダムズ……それが、あなたの名前なのね」
「普段は呼ばれないありふれた名前だ。お互いにな、マリモジュナ」
少し皮肉げに口角を挙げて、彼は私の名前を呼んだ。
言うまでもなく、自分の名前を背負いきれない私に対する、冗談交じりの励ましだ。単なるいじりとも言ってもいい。
だから私も。
「……そうかもね。それじゃあこれで――失礼します。アダムズさん」
なんだか楽しい気持ちで敬語を使って、部屋を出た。
こうして――再び出会い直したマリモジュナとゴドー・アダムズの時間は、ひとまず笑顔で終わりを迎えられたのだった。




