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崩さずにはいられない  作者: 菓子カンの中


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4/8

四・改めての自己紹介は(ライラ視点)

 セリフは重複します。

 この話の途中からは同じシーンが、視点変更を繰り返しながら進みます。

「では、若い皆のこれからを願って、乾杯!」

『乾杯!』


 結局今夜の懇親会は通勤用の服のまま、化粧は手持ちのお直し用の道具で、何とか少しだけ派手さを足しての参加になった。口紅だけは、上司が濃い桃色の物を『私には若過ぎる色だったから』と譲ってくれたので、それを塗っている。普段の自分では選ばないだろうが、私に割と似合うと思えた華やかな色は気分が高揚したし、上司の気遣いが本当に嬉しかった。


 主催の挨拶が終わり乾杯までしたが、見える範囲の席には、あのきらめく金髪は見当たらなかった。少し残念に思いながらも、近くの席の人達と会話と食事にお酒も大いに楽しんだ。同じ事務職という事で話はそこそこ盛り上がったし、次にもし仕事でやり取りがあれば円滑に進むだろう。

 お酒に強くて余り酔えないのが残念ではあったが、それでもほんのり良い気分で居たところに、例の後輩が男性と連れ立って会場の外へと向かうのが見えた。


(お好きにすればとも思うけれど、気になるのも事実よね)


 私は知り合いに挨拶をするという言い訳をして、彼女達の後を追ってみた。あんなに私を下に見ていた彼女が選んだ相手が気になったし、私の性格の悪さを全面に出して、いざとなったら声を出して邪魔してやろうとすら考えていた。


(あの後ろ姿、何処かで見た気がするのよね)


 後輩がしなだれ掛かっている男性に妙な引っ掛かりを覚えたが、次の瞬間、廊下を曲がる時に見えた横顔に、それも解決した。


(私の見合い相手だった人じゃない!?)


 気持ちを上手く言い表せないが、気分は最悪だ。何だか酷く思考が空回ってしまって、邪魔をするという当初の目的も果たせず、そのまま庭園まで二人を追って来てしまった。

 池の側まで来た所で、先に向こう岸に行っていた二人が、何と大胆にもこんな場所で乳繰り合い始めた。お互いの髪を、衣服を乱し合いながら、更に奥の人気の無い方へと進んで行くのを一人きりで呆然としながら見送ると、何だか全部馬鹿らしく思えてしまい、会場へ戻る気力すら無くなってしまった。


(バッカみたい。結局見た目が可愛い若い子が良いんじゃない)


 何故か告白すらしてない人物に二度振られたような虚脱感を感じて、ふらふらとその場を後にした。こんな時でも不思議と背が丸くならないのは、親の厳しい躾の賜物なのだろう。有り難い反面、『良い子』の枠から中々外れられなくて悔しくも思う。


(そういえば、上司のオススメだったウッド子爵家の彼は結局来なかったのかしら)


 見つけた東屋の中に入って、すぐ横の長椅子に、ストンと糸が切れた人形のように座り込んだ。ここなら植栽の影になるし、壁際でそう人目にも付かないだろう。

 座った事でずんっと身体が重く感じられ、暫くそのまま動けなかった。自分で思ったよりも遥かに衝撃を受けていたらしい。そのままぼうっとしていると、誰かがこの東屋に近付き、入って来ようとした。

 植栽の隙間にキラキラと灯りを反射する眩い金髪の人影がちらつき、頭の中に先程思い浮かべたばかりの一人の人物が過った。


(この薄暗い中でも目立つ金髪はもしかしたら……)

「あ」


 一歩東屋の中に足を置いた長身の男性が、私の声に反応してやっとこちらに気付いたらしく、訝しげに声を出した。


「ん?」

(上司オススメの彼!!……今の私、ツイてるのかもしれない!)

「ああ、失礼。先客に気付かずに踏み入る所でした」


 紳士的に東屋から足を引いて、そのまま去ってしまいそうな所に、焦って立ち上がり声を掛けた。


「御一人なので涼みにでもいらしたのでしょう?どうぞお掛けくださいな。ええと、ウッド様、で宜しいかしら?」


 固くなりすぎ無いように、かといって余り馴れ馴れしくも感じ取られないように、『貴方と面識があります』と匂わせれば、声掛けは成功して彼はこちらに向き直った。

 彼は相変わらず垂れ目が色っぽい。


「ええ、確かに私はウッドですが……?あれ?あぁ、ひょっとして以前に防具の消耗に関する資料を下さった……?」


 お互いに顔見知りと分かって、少し強張った身体から力が抜けた。顔だけでも覚えていてくれた事は素直に嬉しい。流石に名前までは高望みだったらしく、今夜こそしっかり覚えて貰おうと気合を入れて名乗った。後輩への当て付けの気持ちも勿論あったが、それとは別にして、魅力的な人に自分を気に入って欲しいという思いもあった。


「改めましてライラ・レイクスです。ウッド様も出席なさってたとは気付きませんでした」

「少し遅れた上に上司と同僚と男三人で隅の席に居ましたからね。呼ぶならベンジャミンと。従兄弟も二人城内で仕事をしていて、ウッドだとややこしいので」


 仕事の時と同じく握手を交わし、改めて私の視線の高さより上にある顔をしっかり観察した。やっぱり垂れ目が色っぽい。資料のやり取りをしたのは繁忙期で、まともに話すらもできていなかった。

 男性らしい節の目立つ大きな手は、長い指の爪もきちんと短く整えてあり、清潔感がある。その上、手の甲は筋も血管もくっきりと浮かび、その硬い感触に性差を感じずにはいられない。

 身体の大きさに比例してだろうか、低くて深みのある身体に響くような声で、これだけで女性は放っておかないだろう。


(イイ声だわ……。こんな手で頬を撫でて貰えたらきっとウットリしちゃう。それに以前も長身だと思ったけれど、肩幅もしっかりあって私でも抱き締められたらすっぽりと覆い隠されてしまいそう……)


 つい妄想が大回転しかけるが、理性で押さえつけた。危ない。名前を覚えて貰うどころか、自身に一生忘れられない羞恥を刻むところだった。自己紹介ですら今夜まともにしたばかりの相手なのに、一体何処まで想像するつもりだったのかと自分に呆れた。


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