二・同僚達のお目当ては(ライラ視点)
ライラ視点です。
人間関係のイラッとが出てきます。
上司から直接、懇親会という名の集団見合いに出席しないかと打診された。先月見合いがあって休暇を取ったのに浮いた話が聞こえない事で、彼女は色々気を使ってくれたらしい。
「相手は文官の経理部中心の方々よ。中々の出世株もいて、今回の人数は二十人を超えるから、選び甲斐がありそうでオススメなの」
「はあ、オススメ……ですか」
先月の見合いは、先方から遠回しなお断りをされてしまった。やはり可愛さという物が私には足りないのだろう。
「ダメかしら?来週は予定がある?」
「来週の予定は特に有りませんが」
「なら決まりね」
引っ詰めた焦げ茶の髪に琥珀色の瞳という地味でお堅そうな見た目と、同性の中でも高い背と肉の付きにくい体質では、異性から見て魅力が感じられないらしい。同性からは細身だと羨ましがられるし、仕事でも頼ってもらえるが、それだけでは何時まで経っても結婚には辿り着けない。
「分かりました。日時と場所は後で紙に書いて下さい。行き違いが有れば困りますので。ドレスコードも有ればそれも」
「ええ、勿論!オススメの御相手もリストアップしておくわね」
楽しそうな上司に告げられて自席に戻ったが、すかさず隣の席の後輩がニヤリと笑いながら小馬鹿にした声でちょっかいを掛けて来た。
「先輩ったらお見合い失敗して焦ってるんですかぁ?懇親会の中にも出会いが無かったりしてぇ〜」
「焦る程の年齢では無いけれど、男女の出会いの有無だけで顔を広める場を辞退するのも違うかと思ったの。顔見知り相手だと仕事も円滑に進む事が多いし」
この子は仕事が出来なくは無いけれど、ちょくちょく選り好みをするのでこちらにその被害が出る。その度に注意をしたものだから目の敵にされてしまい、こうやって絡まれることが増えた。私より四つも歳下だから若さを武器にするが、そんな一過性の年齢を振り回して、いざ自分の番になったらどうするのだろう。年齢など、生きている限り皆平等に重ねていくものなのに。
「はぁ~。真面目ですか?……ま、そんなヒョロっとした身体じゃ相手も異性として見れないかぁ~」
「……っ」
後半は他の人間に聞こえない様に声を潜めていて、その声音は性悪さがまま表れていた。
全体的な肉付きが悪いのは生まれ付きでどうしようも無い。しかし不思議と胸だけが大きく育ち、この細長い体形のせいでそれが目立つのが嫌で肌着の中できつく布を巻いて抑えている。きちんとお付き合いをした上で、信頼関係が築けていれば打ち明けようがあるのだが、初対面に近いお見合い相手に流石にそんな肉体的な内容は話せない。しかしこんな風に貶められるなら、胸は潰さずにお見合いをした方が良かったのかと悩む。
(胸だけで落ちるなら相手ならきっと結婚生活もお察しよね)
「さ、仕事仕事ぉ〜」
「……」
こちらが言い返さない事で勝ったと思ったのだろう、後輩は上機嫌で選り好みをした仕事に取り掛かった。普通に腹が立つし、布を外せば少なくとも胸は勝てると内心で言い返してから、彼女に残された地味で時間の掛かる仕事に取り掛かった。
(私ってば性格悪いなあ……)
表情には出さないまま、心の中だけとはいえ同じ程度に成り下がってしまった事に自己嫌悪の溜息が漏れた。
懇親会で有るかも知れない折角の出会いが嫌な思い出の続きになるのが許せなくて、すっぱりと切り替えて当日は楽しもうと決めた。
ところがである。上司が紙面で渡してくれるはずの懇親会の日時は、翌週になっても知らされなかった。不審に思い尋ねると、開催は本日で、記した紙は確かに机に置いたと言われた。
(やられた!性格悪いとは思っていたけどそこまでする?)
上司と二人、頭に浮かんだ人物が同じだったらしく、振り向いた動きがぴったり揃ってしまった。視線を送った先は勿論、隣の席の後輩であった。
「彼女とその周りの仲の良い子達の間で、お目当ての男性がいるみたいなのよ。それで目立つライラを人数から外そうとしたのかもね」
「はあ。……それはオススメの方々の内の一人だったりします?」
しょうもない理由に力が抜ける反面、ふつふつと怒りが湧き上がる。こんな風に嫌がらせをされると、機会さえ有ればその男性と胸を押し付けてでも二人きりになってみたくなる。それも彼女達の目の前で。
惜しむらくは懇親会が今日で、着用しているのが休日に使用している大きい胸用の下着でも無ければ、私服もつまらないブラウスに足首までの広がりも装飾も無いスカートだった事だ。後ろにスリットが入っているが膝下までで色気のある物でも無い。化粧も普段と変わらないならば髪型も引っ詰めだ。
こんなお堅そうな女に近付く物好きもいないだろうから、今夜は人脈を広める場だと割り切ろう。
「オススメしたかったのはウッド子爵家のご子息でね、背が凄く高くて中々に整った顔だし、その割に浮いた話も聞かないから。だからか狙っている子は多いみたい。ライラと一緒で、仕事は地味な事でもしっかり熟すタイプらしいし、話が合うかもって思ったのよ」
「ああ、一度だけ資料のやり取りをした事がありますね。綺麗な金髪の方でしたっけ。文字が読みやすくて助かった記憶があります」
繁忙期でまともに会話もしなかったが、夕焼け色の垂れ目が隈と疲労でやたら色っぽかったのと、自分より頭一つ大きな人だったのでしっかり記憶に残っていた。




