一・事の始まりは
完結まで書いてあるので、手直ししつつ投稿します。楽しんで頂ければ嬉しいです!
出来れば大量に送った釣書の中からが望ましいが、そろそろ本気で婚約者を決めろと父から連絡があった。俺がいつまでも職場である王城の近くの借家から帰らない事で、ついに業を煮やしたらしい。
結婚願望が無い訳では無いが、こう、『イイ感じ』の女性と会った事が無いのでイマイチ気乗りしない。
(長男では無いのだから放っておけば良いのに)
「お疲れ様です先輩。今夜の懇親会は出てくれますよね?」
後輩のテッドが人の良い笑顔を浮かべながら出席確認をしてきたのは、懇親会という名の上司達による他部署との集団見合いだった。
「あ〜…今夜だったか?親からも大量に釣書が届いてな……。食傷気味になってるんだ」
「えぇ~!来ないつもりですか?今夜は騎士団付きの事務員達となんですよ!」
いつもはこれで引き下がるのにやけに食い付くな、とは思ったが、顔を寄せて来てこそこそと小声で言った理由に納得した。
「騎士って性欲旺盛な奴が多いらしくて、必然騎士団付きのコ達って、エロいコ多いらしいですよ……!ほら、職場内で付き合う奴等って多いじゃないですか。で、別れると身体を持て余す、と……!」
「……それは……、偏見だと分かっていても少し惹かれるな……」
何故か得意気に頷いているテッドに同じ男の性を語られて、つい出席の方向に気持ちが傾いてしまう。今夜の懇親会は暗黙の了解で、出席者が全員婚活中なのだ。
父からの手紙には釣書の相手以外でも構わないと書かれていたし、実家は領地だけがやたら広いが、たかが子爵家なので、結婚相手には裕福な平民や一代貴族でも許可が出ている。
「で、来てくれますよね?ぶっちゃけ先輩の輝く金髪とそのご尊顔で綺麗な蝶たちを惹きつけて欲しいなぁ〜、なんて」
「寄って来られても俺は甘くなんかしないぞ?」
不特定多数にそんな態度を取れば、休み明けにどんな噂が巡っているか考えるだけで恐怖だ。身持ちの悪い相手に付き纏われる経験は二度としたく無い。
「それは知ってますが、少し垂れた夕焼け色の瞳に反して凛々しい眉、通った鼻筋、そして高身長!見た目だけは良いんですから利用しない手は無いですって」
「よし、見た目だけの俺はこの手間の掛かる仕事を君に任せるとしよう、テッド君」
ここ五年の間の物流の推移を増減、種目別に纏める、手間だけが物凄く掛かる割に出世にも影響しない仕事を割り振る。各部署から上がった報告を纏めるだけなのはまだ助かる。一から調べる手間を考えるとゾッとしてしまう。
「そんなぁ!すみませんっ、口が滑っただけですって!……これ、終わるんですか?」
「終わらせるんだよ。懇親会に出たければな。粗方終わってるから残りは木材や石材の建築材料だな。釘やらの金物はさっき終わった」
渡された仕事にがっくりしながらも、隣の机にテッドが慣れた手付きで書類を運ぶ。先月辞めた奴の机だから、資料が多い仕事をする時に誰かしらが使わせて貰っている。
「先輩、今夜の会は出席にしておきますからね!」
「あ〜…、ま、良いか。これで良い相手が見つかれば父からの催促も無くなる訳だし」
「やった!俺の席は先輩の近くにして貰おうっと」
消沈していたのに、立ち直りが早い。切り替えの早さはテッドの美点ではあるだろう。お陰で何か問題が起きて部署内が険悪になっても、長く引き摺らない空気が出来上がっている。
「本当にお前はしっかりしてるよ」
「ありがとうございますベンジャミン先輩!」
可愛い後輩の頼みもあるし、『エロいコ』が本当にいるなら見てみたいという好奇心から、ウッド子爵家が子息ベンジャミンは懇親会という名の集団見合いに挑む事にした。




