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ハズレ聖女してたけど、そんなに言うなら魔王になってやるよ  作者: ちゃっぷ
第2章 魔王サイコー!

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第8話 こ、これが魔王の生活……

 お世話係のスライム、スラちゃんに手伝ってもらいながら、まずはお風呂場へと向かう。


 あ、スラちゃんって名前はわたしが勝手に付けた。


 一応、本人に了解を取ったら『グッ』と親指を立ててくれていたから、問題はないはず。


「……わぁ……」


 そしてやってきたお風呂場。


 思わずそんな声が漏れてしまうくらい、大きくて広いお風呂場。


 いや、お風呂場なんてもんじゃない。


 何人入れるんだっていうくらいの大浴場だ。


 お湯から湯気も立ち上っていて、日本では温泉が好きだったわたしとしては、今すぐにでも飛び込んでしまいたいくらいの誘惑がある。


 でも、まずは身を清めてから湯に浸かるのがマナーだよね!


 飛び込みたい衝動を手のひらをぎゅっと握りしめて堪え、スラちゃんに手伝ってもらって髪や身体を洗う。


 クリーン魔法と違って手間はかかるかもしれないけど、実際に身体や髪を洗うのはさっぱりして気持ちいいー……。


 そして、念願の湯船。


 ゆっくりと足先を浸けてみると、足先から頭まで温もりが駆け抜けていくような感覚がして、それだけでもうクラクラしちゃうくらい気持ちいい。


 そこからさらに足を、身体を湯に沈めていく。


「……ぶわぁ……気持ちええ……」


 肩まで浸かったら、おっさんみたいな声が漏れてしまった。


 それくらい、気持ちよかったんだからしょうがない。


 身体を芯まで温めてくれるお湯、何か入っているのかお花系の良い香りがしてくるし、顔にあたる蒸気も、すべてが心地良い。


「はあぁ……」


 この気持ちよさを言語化したいけれど、口からはおっさんみたいなため息しかでない。


 見た目幼女で中身がおっさんって……なんかヤだな。


 でも、今はそれどころじゃないんですぅー……。


 しばらく久しぶりのお風呂の心地よさを楽しんでいたんだけど、スラちゃんに(おそらく)長湯は良くないと急かされ、渋々湯から上がった。


「……あらぁ……かわいい……」


 お風呂から上がったわたしを待っていたのは、見るからに上質な生地から作られているのであろう真っ白なワンピース。


 胸元と裾、袖に少しだけフリルがあるけれど、華美過ぎずに上品だ。


 これが……お風呂上がりに着る服?

 パジャマってこと……?


 聖女時代のガッサガサの生地で作られた質素なワンピースからの格差に戸惑いつつも、いつまでもスッポンポンでいるわけにもいかないので、スラちゃんに手伝ってもらって着替える。


 うわぁ……めちゃくちゃさわり心地良い……。


 肌触りが気持ちいいんだけど、慣れなくてなんだかソワソワしてしまう。


 そんなわたしを不思議そうに見てるスラちゃんに案内されて、次は食堂へと向かう。


「……これが……晩餐……」


 食堂でわたしを待っていたのは、緑の美しさから新鮮さがうかがえる野菜を盛りだくさんに使ったサラダと、見るからにジューシーで柔らかそうなステーキ、具がゴロゴロと入った湯気立ちのぼるスープ。


 各所から良い香りがしていて、わたしの腹の虫を刺激する。


 ゆ、夢じゃなかろうか……。


 また頬をむにーっと引っ張ってみるけれど、やっぱり痛いし、もちぷる肌だ。


「り、リサ様! ご自分の身体を痛めつけるような行為はおやめください!」

「は、はい! すみません!」


 料理をテーブルに並べていたアランさんに見つかってしまい、怒られた……。


「そんなことより、早く食べようよー」


 ハーリヤさんはすでに席についていて、食事が始まるのを今か今かと待っている。


 なんだか、待てをされてる大型犬みたいだな……。


 そんなことを思いながらも、アランさんに促されてわたしも席につく。


 目の前にある豪勢な料理からは、久方ぶりに嗅ぐ《《料理》》の香りが立ち上っている。


 こんな食事、この世界に来てから初めてだ。


「さぁ、お召し上がりください。リサ様」

「いっただっきまーす」

「い、いただきます……」


 みんなでいただきますをして食べようとするけれど、久しぶりの豪勢な食事に尻込みしてしまって、なかなか手を付けることができない。


 けれど、アランさんがわたしの反応をワクワクと待っていらっしゃるので、いつまでもこうしているわけにはいかない。


 ええい! いざ行かん!


 気合を入れて、パクっとサラダを口に運ぶ。


 口いっぱいに新鮮な野菜のうまみが広がり、シャキシャキとした歯ごたえが心地良い。


「! ……お、おいしい……」

「それは良うございました。たくさんありますので、ぜひお好きなだけ召し上がってください」

「お肉も美味しいよ、リサちゃん」


 二人にそう言われて、スープにも、お肉にも手を伸ばしていく。


 どれもこれも美味しくて、フォークをぎゅっと握りしめて堪えたけれど、本当は涙が出そうなくらいだった。


「それではゆっくりお休みくださいませ、リサ様」

「おやすみー、リサちゃん」


 お腹いっぱいになったらウトウトしだしてしまったわたしに、二人は優しい笑顔でそう言う。


 同じ言葉だけど、聖女だった時の監視役に言われるのとぜんぜん違う。


 あったかい……。


 そしてスラちゃんに、これからわたしの部屋になる場所へと案内してもらう。


「……わぁ……」


 寝ぼけた頭と目でも分かるくらい上等な部屋に、思わず情けない声が漏れる。


 大きくてふかふかそうなベッドに、身だしなみを整えるために貴族が使いそうな見事なドレッサー、そして月の光をこれでもかというくらい部屋に注ぎ込む大きな窓。


 さらにスラちゃんが何故か自慢げに、隣にはたくさんのドレスが入ったドレスルームあるのよ、と見せてくれた。


 すごい数のドレス……。


 これなら、どこに行くのにも困りそうにない。


 今後、世界を見て回るお出かけのときに着るのが楽しみだ。


「ふふ……まるでお姫様にでもなったみたい……あ、魔王か……」


 ぽわぽわした頭でそんな独り言をこぼしながら、ぽてぽてとベッドの方へと歩いていく。


 そしてぼふんっとベッドに横になると、見た目通りにふわふわで実に寝心地が良さそうだ。


 ほのかにおひさまの香りがする。


「あー……だめだ、すぐ寝ちゃう……。おやすみぃ、スラちゃん」


 もう限界が近い状態でスラちゃんにおやすみの挨拶をすると、ぽんぽんっと優しい手つきで寝かしつけてくれる。


 それが最後の決め手となって、わたしは魔王になったという信じられない現実世界から、夢の世界へと落ちていった。

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