第7話 魔王として
うーむ……薄々感じてはいたけど、この世界では主に人間が悪者だな。
魔物と亜人は、人間側の身勝手さに付き合わさせられている被害者。
こんな状態で、先代の魔王さんはよく人間に恋したな……。
まぁ、日本でも自分勝手な女性が好き・タイプという人はいたもんなぁ。
わたしには分からない世界だ。
あれこれ考えていると、アランさんが今一度わたしの前に跪いて、まっすぐにわたしを見つめてくる。
「……この世界のことを知ったうえで、リサ様はこのグラーバをどのような国になさりたいですか?」
「え……」
アランさんの目は期待しているような、見定めているような……切れ長な目元も相まって、少し睨まれているように感じるほど、真剣さのある瞳だった。
きゅ、急になんだろう?
昼寝をしていると思われたハーリヤさんも、瞳だけこちらに向けてわたしの返答を待っている。
こ、これは……かなり重要な質問なんじゃないか?
人間が悪者だからアナニアをぶっ潰そう! みたいな答えを望んでいるのか、はたまたタシティーラと協力していこうって答えを期待しているのか……どっちだ!?
ただわたしとしては、今のところアナニアに何かする気はないし、亜人のことをよく知らない状態でタシティーラと協力することもしたくない。
わたしはどんな言葉を返せば良い?
このわたしに何かを期待しているらしい二人に、魔王として。
手をぎゅっと握り、考え込んでみる。
けれど、ぐるぐるするばかりで良い答えなんか出てこない。
そんな状況で出た答えは、単純なもの。
二人に適当なことは言いたくないな……それだけ。
だから、ここは正直に応えよう。
「……まだ、分かりません。わたしは今話を聞いただけで、この世界のすべてを知れたわけではないですから、まずは自分の足で各地に行って、この目で見て、その土地に暮らす人達に話を聞いて、魔王として何ができるのか考えたいです」
うまく答えられたか分からないな……不安だ。
不安から握りしめた拳に、さらに力が入る。
二人から返答はない……。
なんでも良いから、何か言ってよー!
「魔王陛下……」
アランさんがそう呟く声が聞こえ、泣きそうになりながらちらりと彼を見やると、アランさんもなぜか泣きそうな表情をしていた。
え、な、なんで!?
期待外れな答えだったかな!?
そんなわたしのオロオロした姿に気がついたアランさんは、表情を隠すように頭を下げる。
「……リサ様の、御心のままに」
その声は、なぜだか嬉しそうな温かいものだった。
ちらりとハーリヤさんの方に目を向けると、彼はにっこりと嬉しそうな楽しそうな笑みを浮かべていて、かと思うと、ごろりと寝返りを打って昼寝に戻る。
な、なんだったんだ……?
とりあえず、わたしの答えは合格ってことなのかな?
ほっと胸を撫で下ろす。
「突然、妙な質問をしてしまって申し訳ございません。代わりと言ってはなんですが、今日の晩餐では腕をふるいますので、どうかお楽しみください」
「ば、晩餐!?」
「おー、楽しみー」
ぱっと明るい表情で顔を上げたアランさんの言葉に、わたしとハーリヤさんが即座に食いつく。
晩餐って……美味しいご飯が食べられるってこと!?
教会では朝晩にちっさいパンと具のほとんどないスープしか食べていなかったわたしに、ば、晩餐だって!?
「食事ができるまでの間、どうぞお風呂でゆっくりと身体をお休めください」
「お、お風呂!?」
「お召し物もご用意させていただきます」
「お、お召し物!?」
アランさんの言葉に、驚愕の言葉しか出ない。
すべて、この世界に来てからのわたしには縁遠いものだったから……。
お風呂なんて贅沢は許されず、毎日クリーン魔法だけ掛けられて……服はさわり心地の悪い生地で作られた簡素なワンピースだけ。
そんなわたしに、贅沢が一気に押し寄せてくる。
ゆ、夢じゃなかろうか……。
「入浴やお召し替えはお一人では難しいでしょうから、私が――」
「それだけは辞退させていただきます」
「じゃ、俺はー?」
「それも固辞」
「あはは、リサちゃん顔がこわーい」
こっちは幼女の姿とは言え、中身はアラサー。異性に裸を見られるのは避けたい。
「困りましたね……」
うっ……困らせちゃってる……。
でもここは譲れない……!
「そうだ、では、あの者にリサ様のお世話を任せましょう」
「あの者?」
「どこかで見ているのであろう? 出てこい」
アランさんがそう言うと、天井からボタッと何か固まりかけの液体のようなものが落ちてくる音がした。
音のした方を見てみると、そこには半透明なブルーの固まりが。
「……スライム?」
「おや、ご存知でしたか? この者は先代様が魔王だった頃から城に住み着いているのです。この者ならば、リサ様のお世話を任せてもよろしいでしょうか?」
そう言われて、じっとスライムを見やる。
す、スライムって性別あるのかな……?
というか、お世話って……このぷるぷるボディの子にできるのかな……?
そう思っていると、スライムがぷるんっと震えて手のようなものが生えたかと思うと、びしっと敬礼のようなポーズを取った。
か、かわいい……。
「はい。この子に手伝ってもらいます」
そして、わたしにかわいいお世話係ができた。




