第5話 さらば、人間ども!
小林理沙……元アラサーの現幼女、現在、なぜか魔王の居城で玉座に座らされています。
「おぉ……さすが魔王陛下。玉座がよくお似合いで……!」
クールな見た目に反し、瞳を輝かせて頬を赤らめているエルフさんが、地球だったらカシャカシャと写真を撮り始めそうな勢いで興奮している。
この幼女の身体に大きな玉座は不釣り合いだと思うのですが……。
足もついてないし。
玉座は驚くほどにふかふかで座り心地が良く、OL時代にも、もちろん聖女の頃にも感じたことがない快適さだ。
「いいんじゃにゃーい? よく似合ってるよ。魔王ちゃん」
テキトーな雰囲気でそう言うのは、猫っぽい獣人さん。
猫っぽい雰囲気によくあった、実に自由な発言だ。
「こら! ハーリヤ! 魔王陛下をちゃん付けで呼ぶなど、無礼だぞ!」
「えー、いいじゃん。いいでしょ? 魔王ちゃん」
「え、わたし? え、えぇ。別にいいですよ、なんでも……」
「ほら、いいって」
「くっ……!」
なんだか……この人たちとこんなほのぼのとしたやり取りをしていると、これが本当に現実に起こっていることなのだろうかと疑問に思えてくる。
もしかして、人との関わりに飢えてるわたしが見てる夢なんじゃないかしらと。
むにー……。
頬を引っ張ってみるけれど、お肌はやっぱりもちぷる赤ちゃん肌だし、痛い。
「ま、魔王陛下! 何をなさっているのですか!?」
「いや、これは夢かなって……確かめようかと」
「信じられないお気持ちはお察しいたしますが、そのようにご自分を痛めつけるような行為はおやめください」
「は、はい……ごめんなさい……」
こ、こんなまともなことを言われたのは、いつぶりだろうか。
この世界に転生してから、初めてじゃない!?
……やっぱり、みんな魔物だけど、悪い人ではなさそうだな。
***
「……この時を心待ちにしておりました。魔王陛下」
「……はぇ?」
目の前で跪いているエルフらしき人は、わたしを魔王陛下と、そう呼んだ。
確かに魔王になってやる! とは言ったけれど、そんなすぐに部下ってできるもんなの?
っていうか、わたし本当に魔王だったの!?
頭を疑問と驚愕でぐるぐるさせていると、エルフさんがはたっと何かに気づいた表情をしたかと思うと、にっこりと美しい笑みを浮かべる。
わ、イケメンの微笑みは綺麗だ。
って……そんな事を思える余裕があるなんて、わたしも中々に図太いメンタルしてるな。
「これは、失礼いたしました。突然のことで、混乱していらっしゃいますよね。そうですね……ご説明させていただくためにも、まずは魔王陛下……あなた様の城に行きましょうか」
「し、城!?」
「ここでは人間どもがいつ戻って来るか分かりませんし、落ち着いて説明させていただきたいので……さ、善は急げです。参りましょうか」
「あ、あの……でも、わたし……足かせが……」
「足かせ?」
わたしを教会に縛り付けている足かせを認めると、先程まで笑顔だったエルフさんは、明らかに表情を険しくした。
眉間にシワを寄せ、わたしの足かせをじっと睨んでいる。
「……これは人間の仕業ですか?」
「え、あ、はい……逃げないようにと……」
「……」
わたしの答えを聞くと、エルフさんがふるふると身体を震わせ始め、恐る恐る表情を見てみれば、般若の如き怒りのお顔をなさっていた。
ひえー、イケメンが般若になったよ!
「お、おのれ人間め……魔王陛下にこのような仕打ち……許せぬ……皆殺しに……!」
「まぁまぁ、落ち着いて。人間を殺すのはダメでしょ?」
「ぐぬぬ……しかし……」
「とりあえず、足かせを外してあげよう」
怒りに震えるエルフさんと、そんな彼を宥めている獣人さん。
え、人間を殺すのはダメって……どういうことだろう。
そんな疑問を感じていると、獣人さんが近寄ってきてしゃがみ込んだ。
そしてにこっとわたしに微笑みかけてから、素手でバキバキっと握りつぶすように足かせを壊した。
「え、えええええ!?」
忌々しいあの足かせだったものが、ガラガラと床に散らばる。
足かせがなくなった身体はまるで羽のように軽やかで、足かせから伝わってきていた冷たさも、もうない。
わ、わたし……自由になったの……?
足かせがなくなっただけ、まだそれだけだけど、わたしは涙ぐんでしまうほど嬉しかった。
ワンピースの裾をぎゅっと掴んで、涙をこらえる。
「痛いところはない?」
「は、はい! あ、あの……ありがとうございます!」
「これくらい、お安い御用だよ」
にっこりと笑みを浮かべる獣人さんは、そう言うのとほぼ同時にわたしを抱き上げる。
突然のことにびっくりしたのと、幼女の身体で大人に抱き上げられると思ったよりも高くて怖い! となり、思わず獣人さんにしがみついてしまう。
わたしが怯えた表情を見せていると、獣人さんは「大丈夫だよ」と笑顔を見せてくれる。
なぜだろう……それだけで、恐怖や不安が少しだけ和らいだ。
「それでは、魔王陛下の城へと参りましょうか」
「あっ……待ってください! 人間の国から出るのであれば、一つ回収しておきたいものが……」
「回収したいもの? 自室にあるものですか?」
「いえ……わたしを逃げた教会の奴らのもとへ連れて行っていただけますか?」
「は、はぁ……」
不思議そうにするエルフさんや獣人さんに対して、わたしはこっそりと悪い笑みを浮かべる。
「ひ、ひぃ! 魔物が追ってきた!」
「お助けー!!」
わたしの望みは即座に叶えられ、逃げた奴らの……教会の奴らのところまで来ることができた。
まぁ、獣人さんに抱っこされたままだけど。
わたしは腕を前に伸ばし、くいっと手前側に引くような動作をしてみせ、教会の奴らにかけていた自動回復魔法をしっかりと回収する。
「ぐっ……腰が……っ!」
「急に身体が重く……!?」
軽度な身体の不調は、自分で責任を持って背負ってください。
しんどい場合は、無理せずお医者さんへ行くことが大切だぞ!
魔王になったリサちゃんとのお約束☆
……なーんてお優しいセリフをこいつらに残すほど、わたしはできた人間ではないけどね。
だから、にやりと悪い笑みだけを残して、人間の国からおさらばした。




