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ハズレ聖女してたけど、そんなに言うなら魔王になってやるよ  作者: ちゃっぷ
第1章 聖女なんてクソ喰らえ

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第4話 ぷつん……(何かがキレる音)

 今日も今日とて、馬車馬の如く働いていたら、教会の扉がバンッと荒々しく開かれ、他の騎士に担がれる形で、ぐったりとしたジェイド様が教会に運び込まれてきた。


なにごと!?


 ひとまず、教会の長椅子に横にして、状態を確認する。


 ……顔に血の気がない……。


 呼吸も脈も……確認できない……。


 医者ではないから正確なことは言えないけれど……これは……。


 いや、でも……ここでわたしが諦めるわけにはいかない……!


回復魔法(ヒール)……!」


 この状態の人に効くのかはわからないけれど、とりあえず回復魔法をかける。


 ただ、どんなに回復魔法を使っても、全く手応えが感じられない。


 ジェイド様が反応を見せることもない。


「なんだ……騒々しい……。っ!? お、王太子殿下!?」


 教会の奥の部屋で寛いでいたと思われる教会のお偉いさんたちが、騒ぎを聞きつけてやってくる。


 そしてジェイド様の姿を、状態を確認すると、驚きから言葉を失っていた。


「これは……これは一体何があったのだ!?」


 そしてやっとのことで、ジェイド様をつれてきた騎士たちに状況説明を求める。


「は、はい……その……今日の魔物討伐には国王陛下の計らいで、王家の方が日頃の騎士団の努力を見届けると、王太子殿下が同行されて……魔物の森での魔物との戦闘中に……その……お、王太子殿下が魔物から攻撃を受けられて……」


「な、なんだと!?」


 なるほど。


 ジェイド様も不憫なことだ。

 また自分の父親に振り回されて、貧乏くじを引かされたということか。


 それに騎士の様子はいつも通り、かすり傷程度なことを思うと……ジェイド様だけがこんなにも大怪我を負うなんておかしい。


 戦闘中にもなにかあったのかもしれないね。


 回復魔法を使いながら横目で騎士たちの様子を確認すると、心配そうにしている人半分、遠巻きに様子を窺っている人半分といった感じ。


 ……あいつらがなにかしたのか?


「全く……お互い巻き込まれ体質で苦労しますね。ジェイド様」


 そう言って笑いかけるけれど、ジェイド様から反応が返ってくることはない。


 また、笑って話をしようよ。


 心配かけてごめんって、笑顔を見せてよ。


 ジェイド様。


「おい! 聖女! なんとしても王太子殿下を治療せよ!」

「そうだ! この方はこの国にとって重要な方なのだぞ!」

「本来であれば、お前のような者が口を聞いて良いような方では――」

「うるせぇ! 回復魔法に集中するから黙ってろ!!」


 雑音どもを黙らせて、回復魔法に集中する。


 もっと……もっとだ……。


 もっと力を集中させて……ジェイド様を……蘇生させる……!


 身体的な怪我の治療はすでに終わってるから。


 きっと、あともう一歩……!


 イメージするんだ……。


 死んだばかりの人間……。


 きっと魂の炎が、弱りきっているんじゃないかな。


 わたしの回復魔法で、その弱りきった魂に力を注ぎ込むイメージ。


 わたしの持てる力すべてを、ジェイド様の魂に……!


「な、なんだ!? この光は!?」

「ま、眩しい……!」


「フルパワー!!!」


 気合い入れのため、自身とジェイド様を包み込むまばゆい光の中で叫ぶ。


 そしてわたしから光が消え、ジェイド様だけがキラキラと光り輝いている時間が流れる。


 その間、誰も口を開く者はいない。


「……こ、ここは……?」


 少しして、ジェイド様がゆっくりと目と、口を開いた。


「ジェイド様! 良かったぁ。ここは教会ですよ。もう安心です」

「教会……? なんで……?」


 ジェイド様はまだぼんやりとしている。


 ただ、命の方はもう大丈夫そうだ。


 安堵から、そしてフルパワーの回復魔法を使ったことによる疲労から脱力していると、周囲の様子がおかしいことに気がつく。


 教会の奴らも、騎士の奴らも、なにか不気味なものでも見るような視線をわたしに向けてくる。


 こっちは疲れてるってのに……なんだよ……。


「これは……死者蘇生では?」

「確かに、王太子殿下は息をしていらっしゃらなかったはず……」

「聖女には、死者を蘇らせる力があるのですか?」

「いや、そんな話は聞いたことがない……」


 さっきはあんなに『なんとしても治せ!』とか言っていたくせに、いざ治したら『どうして治せるんだ』ですか……。


 全く、自分勝手な奴らだな。


「我々は……とんでもない者を召喚してしまったのかもしれない……」

「これは聖女の神聖なる力ではないのでは……」

「悪しき者の力だ……」


 放っておけばおさまるだろうと思ったけれど、話の方向性がどうにも不穏になっていく。


 教会のお偉いさんが、わたしと距離を取っていた奴らより一歩前に出ててくる。


 そして、わたしを非難するように指を突き立て、それはそれは憎悪と嫌悪を含んだ視線をこちらに向けてきた。


「《《コレ》》は神聖なる聖女などではない! 我々は勘違いしていた! コレは……邪悪なる魔王だ! すぐに処刑せねば!!」


 その言葉を聞いた瞬間、ぷつんっとわたしの中でなにかがキレた。


「何をしている、騎士団! すぐにこの者を捕らえよ!」

「は、はい! しかし……」

「どうりで回復魔法しか能がなかったわけだ。まさか聖女ではなく、魔王だったなんて」

「聖女がいなくなったら、誰が私たちを治療するんだ!?」

「聖女など、こいつを殺して次を呼べば良いだけの話だ!」

「なら安心か……」


 ……コバエどもが、何やら騒いでる。


 聖女様、聖女様って、ずっとうるさかったコバエどもが。


 わたしを、中身はアラサーとは言え、こんないたいけな幼女をブラック企業顔負けに馬車馬の如く働かせ続けた奴らが。


 今、そのわたしを捨てようとしている。


 理由は……聖女じゃなくて、実は魔王だったからだって?


 代わりはいるから、わたしを殺しても安心だって……?


「……ふざけんじゃねぇよ……」


 思わずそんな声が漏れる。


 ワンピースの裾をぎゅっと握りしめても抑えきれない、普段は心の内にしまっている本心が、こぼれ出てしまう。


「ひぃ! 魔王がなにか喋ったぞ……!」

「なにか隠している魔術でもあるんじゃないか!?」

「攻撃を受ける前に、早く殺した方が良い!」

「そ、そんなに言うならお前がいけよ!」

「嫌だよ! 近寄ったら何があるか分からない!」

「早くせんか! 騎士団!」


 わたしを捕まえようとしているらしい騎士団の連中は、わたしからかなり離れた位置で、見掛け倒しの戦闘態勢を取りながら言い争いを始めた。


 そりゃ、こうなるだろうな。


 あんな擦り傷で大騒ぎするような奴らが、魔王となんて戦えるわけがない。


 教会の奴らも、安全地帯から騎士団をせっつくばかりで、何もしてくる様子はないな。


 今なら、ゆっくりと歩いていくだけで、教会の出入り口から堂々と出ていけるんじゃないか?


 ジャラ……。


 あぁ、そうだ……。


 この忌々しい足かせがあるんだった……。


「ま、魔王が動いた!」

「おい! 動くんじゃない!」

「魔王め! 大人しく投降しろ!」


 あぁ、うるさい!


「魔王、魔王ってうるせえんだよ! あんだけ怪我を治してやったのに、黙って馬車馬の如く働いてやったのに、その見返りがコレか!? ふざけんじゃねぇよ! 人を舐めるのも大概にしろ!!」


 そうして叫ぶと、騎士団の連中も教会の奴らも怯えた表情を見せる。


 あんなにわたしを人間扱いせず、偉そうな態度ばかり取っていた奴らが。


 ふふ……これはなかなか気分が良いかもしれないな。


 魔王……ね。


 わたしは一つの決意をして、拳にぐぐっと力を入れる。


「……魔王と恐れられるのも悪くない。そうか……良いだろう。そんなに言うなら、魔王になってやるよ!!」


 ――その瞬間、わたしの背後からガシャーンっと何かが割れる音が聞こえてきた。


 振り返ってみると、この教会自慢の大きなステンドグラスが割れていて(ざまぁ)、そこから人間とも地球で見た動物とも違う……RPG世界で見るような《《魔物のようななにか》》が次々に教会へと押し寄せてきた。


「……ひっ、ひぃぃ!」

「ま、魔物だ!」

「逃げろー!!」

「どけ! 邪魔だ! 私が先だ!」


 教会にいた奴らは、悲鳴をあげて出入り口へと慌てふためきながら走っていく。


 わたしは動くことも、魔物たちから目を離すこともできずにいた。


 虫みたいな形の者、鳥みたいな形の者、狼のような形の者、ゴブリンやオークみたいな人型の者、定番のスライム、あっ……角の生えたうさぎみたいなかわいい子もいる。


 初めて見る、おそらく魔物だと思われる存在に夢中になっていたからというのもあるけれど……。


 大嫌いなこの教会を埋め尽くさんと大群で押し寄せ、大嫌いな教会にいた奴らを外に追い出してくれている魔物たちが、まるでピンチに駆けつけるヒーローみたいに見えた。


 その証拠に、魔物たちは押し寄せてはくるものの、逃げていく人間を追いかけて襲ったりすることはなく、ただ教会内に侵入しているだけだ。


 しばらくして、教会からわたしと魔物以外の存在がいなくなった時、割れたステンドグラスからゆっくりと二人の人影が入ってくる。


 一人は美しい白銀のロングヘアを一つにまとめ、クールで切れ長な目元に森林のようなグリーンの瞳をした、目鼻立ちの整ったエルフの若い男性。


 もう一人は少し癖のある赤茶の髪に、細められた目元を覆うようなオレンジがかったサングラスをした、猫みたいな耳としっぽのある獣人の若い男性。


 彼らはまっすぐにわたしを見ていたかと思うと、ゆっくりとわたしの前まで歩みを進める。


 ……彼らから敵意は感じない。


 だからこそ、緊張はしているもののぐっと拳に力を込め、わたしもまっすぐに彼らを見つめて、向こうの出方を待つ。


 わたしの前まで到着すると、彼らはサッと美しい所作で跪いた。


「……この時を心待ちにしておりました。魔王陛下」

「……はぇ?」

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