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ハズレ聖女してたけど、そんなに言うなら魔王になってやるよ  作者: ちゃっぷ
第1章 聖女なんてクソ喰らえ

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第3話 幼女ですが婚約者ができました

 今日も今日とて、馬車馬の如く働いている哀れな小林理沙です。


「聖女様、早く!」

「聖女様、遅いよ!」

「はいはい、ただいま行きますよー……」


 わたしには親が付けてくれた理沙って名前と、親から受け継いだ小林って苗字があるっていうのに、どいつもこいつも聖女様、聖女様って……名前を呼ぶやつなんていやしない。


 あっ……でもわたしも小学生の時、校長先生とか教頭先生って役職名で読んでたわ。


 人のこと言えないか。


 体はしっかりと動かして、聖女様を求める哀れな子羊たちに回復魔法をかけるけれど、頭の中ではもはや現実逃避していないと精神を保てない気がする。


 それくらい、ブラック企業顔負けに働かされているのだ。


「はー……やっと治った」


 治療を終えるとそう言って、感謝の言葉もなく去っていく人々。


 こちとら幼女だぞ!? 聖女だぞ!?


 もっと気を使え、感謝しろ、敬え、大切にしろー!


「リサ殿。今日も忙しそうですね……」


 握りこぶしを震わせて心の内で怒りを爆発させていると、穏やかそうな青年の声が聞こえてきた。


 振り返ると、華美ではないけれど整った衣服を身にまとい、金髪碧眼のTHE王子様という見た目に、良く言えば人が良さそう、悪く言うとひ弱そうな表情をした青年が立っている。


「あら、ジェイド王太子殿下」


 頼りなさそうに見えるけれど、彼はこのアナニアの王太子であるジェイド・エル・アナニア様だ。


 そうそう、わたしの名前を呼んでくれる唯一の人。


 存在感が薄くて、すっかり忘れてたわ。


「……なんだか悪口を言われている気がするよ……」

「わたしは何も言っておりませんわ、ジェイド様」


 こんなくだらない、けれど人間的な会話ができる唯一の人。


 正直、魔物の森と隣接していて、戦闘が絶えないこの国の王太子としては『大丈夫なのか?』と思わなくはないけれど、自分勝手なヤツしかいないこの国において、唯一まともな人間だと言える。


 他の奴らがおかしいだけなんだけど、彼が神々しく見えるわ。


 わたしのことも気にかけていてくれていて、定期的に顔を出してくれている。


 この世界に来てから、心の中で現実逃避したり悪態をつく以外で、わたしの精神を保つことに助力している唯一の人かもしれない。


 それくらい、今のわたしには貴重な人だ。


 そして……それはジェイド様にとっても同じなようで……。


「おい、いくら聖女だからとて、馴れ馴れしく王太子殿下のお名前をお呼びするなど、無礼だぞ」

「あぁ、いいんだ。僕が許しているんだよ」

「しかし……!」

「本当に、大丈夫だから……」


 彼も彼で、まともがゆえに周囲の自分勝手な人々とうまく馴染めず、何かと苦労しているらしい。


 だからわたしと普通に話せる時間は、彼にとっても貴重だとのこと。


「その……今日は話があって来たんだ……」


 護衛をたしなめたジェイド様が、何やら言いにくそうに口を開く。


「? なんでしょうか?」


 何かあったのだろうかと話の続くを求めると、ジェイド様は目を逸らしながら続けた。


「……君と僕との婚約が決まった」

「……は?」

「王家の者と聖女が結婚するのは一種の習わしみたいなものなんだ。その……聖女の子供は魔力が高いことが多いから」


 え? 婚約? ジェイド様と?


 そんな品種改良みたいな理由で結婚することになるの?


 ジェイド様も若い方とは言え、こちとら幼女だよ?


 許されるの? そんなこと。


 というか、わたしの意思は?


「これは教会と国王陛下がお決めになったことで、反対したところで決定が覆ることはないんだ。ごめんよ」


 教会の奴ら……! わたしを勝手に差し出しやがって!


 怒りから握りこぶしを震わせるけれど、はぁ……とため息を吐いてすぐに脱力させる。


「はぁ……じゃあ、今更文句言ってもしょうがないということですね」

「ごめんよ……」

「なんでジェイド様が謝るんですか。というか、ジェイド様はわたしと婚約することになって良いんですか?」


 ふっと気になって尋ねてみる。


 ジェイド様はこんな幼女と婚約させられて、嫌ではないのだろうか?


 もしかして……実はロリコンだったとか……?


 いやいや、彼に限ってそんな訳……。


「僕は……国王陛下の決定に従うしかないから……」


 一人、頭の中でそんなやり取りをしていたら、ジェイド様は諦めたような微笑みを浮かべながらそう答えた。


 この微笑みは、彼がよく見せるものだ。


 全く、若い男の子がそんな暗い顔するもんじゃないよ!


「イヤイヤ婚約したということですね。わかりました。本人を目の前にしてそんなことを仰るなんて、ジェイド様もなかなか人が悪い」

「あぁ、いや、そういう意味じゃないよ。嫌がるとか……そんな感情は疾うの昔に忘れてしまったよ」


 少し意地悪をしても、彼から戻ってくるのはやはり諦めたような笑顔だけ。


 これは根が深そうだ。


「……ジェイド様も苦労されてきたんですねぇ」

「はは……しょうがないよ。僕は王太子だから……」


 まぁ、わたしも彼のことは言えないか。


 わたしも聖女だからしたくもない苦労をしているわけだし。


 やっぱりわたしたちは似たもの同士だ。


 そんな二人が夫婦になるのも、案外悪くないのかもしれない。


 まぁ、わたしが幼女であるという問題は依然としてあるけれども。


「じゃあ、まぁ……不束者ですが、よろしくお願いします」

「本当にごめんね。その……結婚すると言っても、すぐにってわけじゃないし……王太子妃としての仕事をさせたりもしないから」

「? 王太子であるジェイド様と結婚するのに、ですか?」

「その……王太子妃となる人は別にいるから……。本当にごめんよ」


 つまり、わたしとは子供をつくるために結婚するだけ、と。


 ははぁーん。

 自分勝手なこの国らしい制度だ。


 もはや握りこぶしをつくる気も起きない。


「……ごめん」

「もう! ジェイド様が謝らないでください!」

「ご、ごめんなさい!」


 まぁ、この世界で結婚するなら、ジェイド様が一番マシだろう。


 たとえ正妻じゃなかったとしても、ジェイド様ならばわたしのことを大切にしてくれるだろうし、きっとわたしも彼のことならば人として尊重して、大切に、関係を育んでいけると思う。


 一風変わった夫婦関係かもしれないけれど、こんな腐った世界でも、ジェイド様のそばだけは、きっとわたしらしくいられる場所だ。


 ……たとえ《《子宮目当て》》にされてるのだとしてもね。


 やれやれ……こんな国、早く滅んじまえ。


「こ、怖い想像してないかい? 顔が怖いよ……?」

「いえ、別に?」

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