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ハズレ聖女してたけど、そんなに言うなら魔王になってやるよ  作者: ちゃっぷ
第1章 聖女なんてクソ喰らえ

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第2話 聖女やめたいです

「おい! 聖女様! こっちの治療を早く!」


「はいはい、今行きます……」


 聖女になってから二週間くらい経ったかな……わたしはひたすら回復魔法を使わされていた。


 仕事相手は主に魔物の森への戦闘に出かけ、負傷して帰ってきた王国騎士たちだ。


 ただし大きな怪我をして帰って来る者はほとんどおらず、全員がかすり傷程度。


 本当に戦ってきたのか?


 転んで擦りむいたの間違いじゃないのか? と疑いたくなるレベルだ。


「まったく……遅いんだよ。しかも、聖女ともあろう人が、治療であんなに嫌そうな顔をするなんて……」


 治療が終わると、彼らは主に悪態をつくか、何事もなかったかのようにわたしを無視して去っていく。


 そりゃ、わたしだってこんな顔にもなりますよ。


「はぁ……」


 彼らも《《初日は》》聖女様が来てくださったと喜んでいて、それらしい対応をしていたのだけど……翌日にはわたしへの言動がぞんざいになった。


 慣れって恐ろしいってレベルじゃないぞ?


「聖女様、子供が転んで怪我をしたので治してください」

「聖女様、腰が痛むから治してくれ」

「聖女様、なんか疲れが取れない感じがするから治して」


 ……王国騎士たちの治療が終わるとやってくるのが、街に住む住人たち。


 彼らも重病人でもなんでもなくて、小さな怪我や風邪、果ては疲労感を取るという、もはや治療行為でもなんでもないことでも『早く済むから』『手軽だから』という理由だけでやってくる。


 わたしゃバンソーコーか!? 湿布か!? エナジードリンクか!?


 こっちは聖女だぞ、聖女!


 聖女様って口では呼ぶくせに、敬う心なんて欠片も持っちゃいない。


 憤慨して握りこぶしをつくるけれど、それをぶつける先はなし……。


「はぁ……」


 心の中でそんな悪態をつきながらも、こいつらに言ってもどうしようもないことだと諦めて、ため息を付きながら順々に回復魔法で治療する。


 はぁー……聖女がこんな扱いを受けるとは思わなかったなぁ。


 それとも、わたしがハズレ聖女だからこの扱いなのかな?


 ……これは聖女になったあとで分かったことだけれど、わたしはどうやら『ハズレ聖女』らしい。


 聖女は本来、魔物を弱体化させる結界が張れる結界魔法、人や武器・防具に神の加護を付与させる加護魔法、そしてわたしが行っている傷や病を治す回復魔法が使えるらしいのだけど……わたしには回復魔法しか使えない。


 どんなに頑張ってみても他の魔法は使えなくて……。


 そのことが分かった時の教会の奴らの顔ときたら……ゴミを見るような目をする奴、勝手に失望の表情を浮かべる奴、ヒソヒソと話す奴ら。


 あぁ、思い出しただけで腹立たしい。


 思わず握りこぶしを作ってしまう。


 ただ街の住人たちの話では「先代は魔物の戦闘補佐に、治療に、加護付与に、と連れ回されて、住民たちにまで回復魔法をする余裕がなかった」とのことだったから、回復魔法しかできないわたしはある意味、ラッキーなのかもしれない。


「ふぅ……すっきりしたぁ。じゃあね、聖女様!」


 治療が終わった住人は、そう言って笑顔で去っていく。


 ……こいつら、絶対に感謝の言葉は言わないんだよね。


 学校で道徳の授業させた方が良いんじゃねぇの?


「はぁ……」


 ただ……教会を去っていく彼らの姿を、つい羨ましいという視線で見つめてしまう。


 だって……。


 少し身体を動かすだけで、足元でジャラリと冷たく重い音が響く。


 ……わたしには足かせが付けられていて、外に出られない。


 魔力は問題ないんだけど、幼女なために体力面で歩き回ったりするのがしんどいし、仕事終わりにやってくる教会の奴らに回復魔法を使うのが面倒くさすぎて発明した自動回復魔法(オートヒール)を、騎士や住民にもかけさせてくれと提案したところ……教会への支持率や寄付が減るからと教会の奴らに却下された。


 じゃあもう逃げよう! ってなったら、この忌々しい足かせを付けられたというわけだ。


 足かせには鎖が付けられていて、教会に縛り付けられている。


 ただでさえわたしは教会で召喚されて、教会でずっと働かされているから……この世界が、教会の外がどうなっているのか全く知らないのに、これではちょっとした外出すらできない。


 ……外はどんな世界なんだろ……。


 そういえば、日本にいたときにも平日は会社と自宅の往復、休日は引きこもってばかりいて、ほとんど外出したことがなかったなぁ。


 まぁ、日本では自主的にインドアだっただけだけど。


 でも……日本にだって世界にだって、まだ見たことのない景色がたくさんあったのだと思うと、少しだけ後悔がある。


 今だって……この世界のことを、教会の外のことをわたしは何も知らない。


 ……外の世界を自由に見てみたいな……。


 ジャラ……。


 足を動かすと、ひどく冷たくて重く、嫌な鎖の音がする。


「……はぁ」


 無理な願いに、我ながらため息しか出ない。


「聖女様ー! 早く治療してよー!」

「次は俺の番だろ!」

「早くしてくれ! 仕事の時間が迫ってるんだ!」


 次々にやってくる回復魔法目当ての住人たちにそう言われ、わたしはまた現実に戻った。


 ***


「本日もお疲れ様でした、聖女様。ゆっくりとお休みください」


 夜になり、やっと聖女としての仕事が終わった。


 幼女を朝から晩まで働かせるって……どんなブラック企業だよ!


 わたしの側仕えという名目でくっついてきている監視に『ゆっくりお休みください』なんて言われ、聖女の部屋へと戻されたけれど……嫌味だろうか。


 聖女の部屋……つまりわたしの部屋は、それはそれは牢獄のような部屋だ。


 家具は簡素なベッド・質素なワンピースが少し入った小さいタンス・申し訳程度に置かれている小さい机しかないし、窓は小さくて月明かりがほのかに差し込み、空が少し見える程度、石造りの床と壁は冷たく寒々しい。


 これが聖女の部屋……ね。


 必要最低限どころか、それ以下しかない部屋。


 そしてテーブルの上に置かれているわたし用の《《晩餐》》は、小さなパンと具の少ないスープオンリー。


 勝手に異世界に呼びつけておいたくせに、蓋を開けてみればこんな待遇なんて……この国の人たちは随分と《《ご立派》》だわね。


 教会自体は白を基調とした清潔感のある壁に、数多くの信者のために揃えられた木の長椅子、壁にある大きなステンドグラスから光が差し込んで、そりゃ美しく神秘的なんだけど……。


 再び自分の部屋に目を向ける。


「はぁ……」


 この部屋も一応、教会内にある場所なんだけど……雲泥の差だな。


 もはや握りこぶしをつくる気すら沸かない。


「いかが致しましたか? 聖女様」


 そう声をかけられ、部屋に戻ってきた時と同じ監視の人が部屋に入ってきた。


 無言でわたしの姿をジロジロと確認して、キョロキョロと室内を見回して異変がないかチェックする。


「……何でもないです」


 そう答えると、「そうですか」と簡素な返事をして部屋の入口へと戻っていく。


 ……わたしは自室の扉を閉めることも許されておらず、少しでも異変があれば、あぁして部屋の入口に待機してる監視の人が部屋をチェックしに来る。


 プライバシーなんて皆無だ。


 こちとら幼女化したとは言え、一応乙女なんですけど!?


 怒りから握りこぶしを作ってみるけれど、虚しいことだと気づいてすぐにやめた。


 そしてもそもそと食事を済ませ、うっすいマットレスの上で横になり、うっすい毛布を被って眠りにつく。


 あー……聖女やめてー……。

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