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ハズレ聖女してたけど、そんなに言うなら魔王になってやるよ  作者: ちゃっぷ
第4章 いざ行かん! タシティーラ

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第23話 エルフの住む森、クズムの森

「じゃあ、今日はエルフの住む森――クズムの森に行くかにゃー」

「はい! アランさんの故郷に行けるの、楽しみです!」

「だってよー、アラン。いつもみたいに『リサ様の御心のままに』って言わなくて良いのかにゃ―?」

「……ぐぬ……」


 次に向かうタシティーラの街を決める話し合い中、アランさんはずっと浮かない顔をしている。


 やっぱり、故郷に良くない思い出があるのかな?


「アランはどうするんだにゃ―? お留守番するー?」

「そんなわけなかろう! リサ様が行かれるのであれば、私も当然同行する」

「あの……ムリはしないでくださいね?」

「はい。お心遣い、ありがとうございます」


 そんなやり取りをした後、エルフが住む森――クズムの森へとワープで飛んだ。


 クズムの森はその名前の通り、森の中にある街らしく、一番に目に入ってくるのはあたりにそびえ立つ大きな木々。足元の土は柔らかく、そこかしこに可愛らしい花が咲いている。


 グラーバの明るいエリアに似た印象があるけれど、大きな木々の影響でそこまで日差しが全面的に降り注ぐことはなく、枝葉の隙間から少し光が差し込む程度だ。


「すごい自然の中に街があるんですねぇ……」

「エルフは自然を大切にし、自然とともに生きる種族ですから」

「なるほど……」


 柔らかい土の上を楽しそうに駆け回っているしばちゃんと、木の根っこでお昼寝しようとするぴよちゃん、花を愛でているにーちゃん。


 もふもふたちも、なんだかのびのびしてるなー。


「それでは行きましょうか」


 アランさんがそう言うと、もふもふたちはいつもの陣形に戻って、一緒にエルフが住むエリアまで向かう。


 到着したエルフの住む街――クズムの森では、ログハウスのような家が点々と自然の中に溶け込むようにして存在していて、美男美女のエルフたちが穏やかな表情をして暮らしていた。


 わ、今まで見た街の中で一番アットホームな感じかも?


 そう思ったのもつかの間、わたしの存在にエルフたちが気がつくと、すぐにキッと鋭い視線を向けられた。


 敵意。


 それがわたしに集中的に刺さる。


 え? え? わたしまだ何もしてないよ?


 なんでそんなに睨まれるんだ!?


「……リサ様。気にせず、族長の家まで向かいましょう」

「え、あ……はい」


 オロオロするわたしとは違って、アランさんは落ち着いた様子でそう告げて歩き始める。


 その間も、突き刺さるような視線にさらされ続けたわけだけど……。


 ヒソヒソと聞こえてくる話し声には「なんで人間が?」「この森の自然を壊されないかしら」とわたしに対する悪評に混じって、「あの方はウールハブ家のアラハティラ様では?」「戻られたのか?」とアランさんに関する話もあった。


 アランさん、有名人なのかな?


 戻られた……ってことは、長い間、ここには戻ってきてないのかな?


 不思議に思いつつも今尋ねるのはなんとなく憚られるし、アランさんも振り返りもせずに先頭をスタスタと進んでいくので、その後に黙って続いた。


 少しして到着した族長の家。


「これは……ウールハブ家のアラハティラではないか。随分と久しぶりだな」

「族長、お久しぶりです。しかし今日はウールハブ家の者としてではなく、魔王陛下であるリサ様の付き添いで来ただけなのです。どうか、私のことは気にしないでください」

「魔王……この人間の小娘が、魔王だと?」

「は、はじめまして……」

「……」


 目元や眉間に少しばかり深めなシワを作っているけれど、それがまた渋さを深めているような美形エルフの族長は、アランさんには好意的な様子だったけれど、わたしを見ると表情を険しくした。


 何なら、エルフたちの中で一番強烈な睨みを向けられる。


 こ、こわい……。


 挨拶すら返してもらえないし。


「族長。リサ様に無礼な態度はお控えください。この方は他の人間とは違い、魔王となった方なのですよ」

「魔王になろうとも、人間という種族に変わりはない。不愉快だ。出ていけ」

「エルフは訪ねてきた客人を挨拶もなしに追い返すのかにゃー? 随分と、礼儀知らずな種族だにゃ―」

「ふんっ……お前には言われたくはないわ、獣人。我らエルフは理由があって人間を嫌っているが、お前たちは違うだろう」

「……」


 族長にそう言われたハーリヤさんは、静かにサングラスの裏から鋭い視線を族長に向けていた。


 わわわ……なんか、最悪な空気。


「はぁ……話にならない。リサ様、もう出ましょう。族長、挨拶は済ませましたし、我々はクズムの森を見て回らせてもらいますよ」

「勝手にしろ。ただ、自然には手を付けるなよ」

「心得てます」


 そんな感じで、わたしは族長とは言葉を交わすことすらできず、彼の家を後にすることになった。


 族長の家を出ると、アランさんが深々と頭を下げる。


「申し訳ございません、リサ様。族長の失礼な態度を、エルフとして謝罪いたします」

「え、え……アランさんが謝ることじゃないですよ。ただ族長さんは……というか、エルフの方は人間が嫌いなんですか?」

「はい。エルフは自然を愛し、自然とともに生きる種族。それに対して、人間は自然を壊し、自分たちの生活のために消費し続けていますから……エルフ族は人間のことは好ましく思っておりません」

「なるほど……」


 自分勝手なあの人間どもは、どうやら自然に対しても自分勝手に振る舞っているらしい。それでエルフに嫌われていると……まぁ、自業自得だわな。


 ただ、そのとばっちりがわたしにまで来ているところが、聖女時代のようにあいつらの自分勝手に振り回されているような感覚がして、一人でイラッとした。


「さ、クズムの森を見て回りましょう」

「……そうですね」


 わたしのイラつきを誤解したらしいアランさんが、努めて明るい表情をして話を切り替えるものだから、イラつきなんて忘れて笑みがこぼれる。


 そして改めてクズムの森を見て回る。


 ……わたしは、悪目立ちしないようにアランさんにお願いしてフード付きのマントを出してもらって、それを深く被って人間であることを隠すことにした。


 これで、あの敵意も少しは軽減されるかな?


 わたしはあくまで、エルフたちのありのままの生活を見たいだけだから、敵意剥き出しの状態で睨まれ続けるのはごめんだ。


 改めて見ると……自然と同化するようにつくられている街並みは、エルフ族の自然を愛する気持ちが伝わってくるほど、実に見事で温かなものばかりだ。


 そこで暮らすエルフたちも、穏やかな表情の者が多い。


「わ……あのエルフさん、魔物と歩いてますね。よく見れば、あっちにも魔物が」

「エルフは魔物とは友好的な関係にあり、魔物を狩りの相棒やペットにしている者が多くいるのですよ」

「そうなんですね」


 ポ◯モンみたいな関係性なのかしら? とか思いながら、エルフと幸せそうに暮らしている魔物を見ると、自然と顔が緩んだ。


 そんなエルフ族の街並み、暮らしを眺めながら街の奥まで進んでいくと、街にある家がログハウス程度の大きさから、屋敷程度の大きさに変化する。


「ん? なんか家の雰囲気が変わりましたね」

「あぁ……エルフには身分制度がありまして、この辺りは貴族の住まいなのです。貴族は《《本来であれば》》クズムの森を守るためにこれからどうするべきか、エルフのための決め事などを話し合う存在なのですが……今では形骸化していて、ほとんどタダ飯食らいの穀潰したちばかりです」

「な、なるほど……」


 珍しく私情丸出しなアランさんの解説に、それ以上深く聞いても良いものか躊躇する。


 でも、気になるし……聞いてみよう。


「あの……もしかして、アランさんもその貴族の生まれだったりします?」

「……はい。貴族の証である家名は持っています。しかし、もう家のことは捨てたも同然ですので」


 そう答えるアランさんの嫌悪感を含んだ鋭い視線は、貴族の屋敷のある一方向に向けられたものに感じた。


 ふっとアランさんの視線の先を見やると、そこには立派な屋敷の窓辺から、アランさんと同じような視線をこちらに向けてくる二人のエルフの姿があった。


 ……この嫌悪感を含んだ視線のやり取り……ただの貴族同士とは思えないな。


 もしかして、あれがご両親……?


「……何か事情があるのですか……?」


 質問に答えてくれたアランさんに、わたしはさらにぐいっと質問していく。


 そんなわたしを見て、アランさんが目を丸くする。


「……意外ですね。リサ様がそんなに私自身のことについて質問をなさるなんて」

「……親しき仲にも礼儀ありを大切に、今まではあまり踏み込みすぎないようにしていましたけど、いつかは踏み込まなければ、いつまでも距離感を埋められないままだなとも思ったので……」


 わたしの返答を聞いたアランさんは、再び目を丸くしたかと思うと、なぜか嬉しそうに微笑んでいた。なぜ笑っているのだろうと、わたしはよく分からずに頭にはてなマークを浮かべる。


「ふふ……リサ様が、私との距離を埋めたいと考えてくださったことが、嬉しいのです」

「改めてそう言われると恥ずかしいですが……って、結局は教えてくれるんですか!?」


 恥ずかしさから、逆ギレ気味にさらに追求する。


 ええい! もうヤケクソだ!


 鼻息荒く問い詰めるわたしを見て、アランさんがお腹を抱えて笑いを堪えている。


 こんなアランさんは初めて見たなと思いつつも、恥ずかしさから顔はどんどん熱くなる。


「もう! 笑ってないで。アランさんのこと、教えてください!」

「ふふ……リサ様の御心のままに」


 そう約束して、その日は魔王城に帰ることになった。

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