第22話 ドワーフの街、クズモ鉱山
オーガの住む鬼国から帰ってからも、あの女性のことを考える時間が多かった。
ひどいめにあっていないだろうかとか、なんとか助け出してグラーバに住まわせるとか? とか、あぁ、でも他にも同じ目にあっている人がいるかも……と、それはそれは悶々と考え続けていた。
「……リサ様。タシティーラを見て回るのはやめますか?」
「え? あ、いや……」
「魔物と亜人は別の種族で、国も別です。お辛い想いをされてまで、他の国のことでそんなに思い悩む必要はないと思いますよ」
アランさんに言われて、確かにその通りかもしれないと思う自分もいる。
けれど、諦めたくないと思う自分がいるのも確かだった。
あの日、ぼんやりと思った魔王も聖女もいなくて良い、みんなが楽しく暮らせる世界の『みんな』は、本当の意味で、種族問わずにみんなであってほしいと思うから。
だからこそ、今はどんなに辛くても勉強期間だと思って、世界を見て回りたい。
グラーバをどんな国にするのか、自分が魔王としてこれからどう行動するのか決めるためにも。
「……わたしは、今までのように世界を見て回りたいです」
ぎゅっと拳を握りしめ、そう告げると、アランさんは困ったような悲しげな表情をしながらも、思いやるような瞳でわたしを見つめていた。
「……リサ様の御心のままに」
***
「ふわぁ……暗いのに明るい。それにすごい活気……」
今日はドワーフの住む街、クズモ鉱山へとやってきた。
クズモ鉱山は、鉱山の地下に作られた都市で、都市の屋根部分に当たる上方は基本的に暗がりになっているけれど、鉱山に埋まっている鉱石がキラキラと光り輝いて星空のようになっている。
そして都市部に目を向ければ、ぎっちりと詰め込まれたお店に住居が立ち並び、明かりが煌々と灯されて、さながらお祭り状態だ。
商店街の方を進んでみると、宝石店・武器屋・防具屋などから食料品店まで、幅広いお店が立ち並んでいる。
そこらじゅうから客寄せのための活気ある声が聞こえてきて、頭に声が響き渡ってクラクラしそうだ。
「大丈夫ですか? リサ様」
「こ、声が……頭の中で反響して……」
「このままじゃリサちゃんが壊れちゃうかもにゃー」
「わふ!?」
「ぴ!?」
「ヒヒン!?」
「は、早く族長の屋敷まで向かうぞ!」
ハーリヤさんの冗談を真に受けたもふもふたちとアランさんが、足早に族長の屋敷へと走り出した。
た、助かるけど……別に壊れたりはしないよ……。
そう思いながらも、声に出すことはできなかった。
そして族長の屋敷の中に入ると、活気ある声もだいぶボリュームが抑えられて、肉体的にも精神的にも落ち着いてきた。
「大丈夫ですか? リサ様」
「はい、もう大丈夫です」
「良かった……」
「みんなも心配かけてごめんね」
「わん」
「ぴよ」
「ヒヒン」
もふもふたちをなでなですると、『良かったぁ』とほっと安心したような表情をしていた。
かわいい。
みんなに感謝を伝えつつ、さらにもふもふなでなでしてしまった。
族長の屋敷の応接室で待っている間にそんなやり取りをしていると、一人のドワーフが応接室へと入ってきた。
かなり小柄で、幼女のわたしとそんなにサイズ感変わらないんじゃないかと思うけれど、ガタイがとても良く、実に屈強な肉体をしている。
顔立ちは今まで見てきた亜人さんたちと違って、ひげをたっぷりと蓄えた厳ついご老人という印象だ。
おお……厳つい。
ドワーフというと、職人気質な頑固じじ……頑固者ってイメージがあるけど、ちゃんとお話できるかしら。
「よくぞ参られた。魔王よ」
「はじめまして、ドワーフの族長さん」
「して、此度は何用で参られた?」
挨拶もそこそこに、さっそく本題に入る。
やっぱり魔王が急にタシティーラの族長たちに会いに来るって、何の用だろうって気になるのかな?
ちらりと族長の方を見やると、堅物そうな表情でわたしの返答を待っている。
睨まれているわけではないんだろうけど、こちらを見る視線がちょっと怖い。
いや、かなり怖い。
幼女のわたしが言うのもなんですが、子供なら泣いているんじゃないでしょうか。
そんな思考をぶんぶんっと取り払う。
「その、亜人が人間と魔物のことをどう思っているのか聞いて回っているんです」
「人間と魔物のことを?」
「はい。魔王として何ができるのか、グラーバをどんな国にするべきなのかを、タシティーラで学んでいるのです」
「なるほど。仕事に真っ直ぐな姿勢は、ドワーフとして好感が持てる。しかし人間と魔物について……か。我らは魔物とも人間とも関わりが薄く、特別な感情は抱いていない」
ふむとあごひげを撫でながら答えるドワーフの族長。
彼の答えに、わたしは目を丸くする。
「え? 人間はタシティーラにも攻めてきていますが、マイナス感情は抱いていないのですか?」
「攻撃はやめさせたいと思っている。ただ武力ではなく、話し合いをもって解決できればと考えているのだ」
「な、なるほど……」
族長さんの答えを聞いて、今までの亜人たちと意見が違いすぎていて驚いた。
仲良くしたい、共存している、召使い扱い、どうでも良い……そのどれとも違った意見だ。新鮮な意見で、実に興味深い。
「ドワーフはクズモ鉱山で採れた鉱石を使って、鍛冶をして武器や防具をつくったりしている。そしてそれらは、人間との戦いで亜人たちが使っているが、今後、人間との争いが解決すれば、彼らも良き商売相手となる可能性がある」
「確かにそうですね。人間にも騎士団がありますから」
「それに人間の領地不足の問題についても、我々のように地下街をつくることで解決すると思うのだ」
「確かに……!」
「それさえ教えられれば、戦いを終わらせられると思っているのだが、人間は全く聞く耳を持たんから困ったものだ」
ふぅ……とため息を吐く族長さん。
なんだか中立的でありながらも、相手のことを思いやれる族長さんで、かなり好感が持てる。建設的な会話もできているし、まさに勉強になる……お手本にしたいような族長さんだな。
「む。お茶も出さずに失礼した。それとも酒を出そうか?」
「あ、いえ、お気遣いなく」
「む。そうか……」
ん? なんだかこころなしか族長さんがしゅんっとした気がするけど、気のせいかな?
おもてなしを断るのは失礼だったかな?
「あの……せっかくですし――」
「リサ様。良いお話を聞かせていただいたことですし、今日のところは失礼させていただいて、立派な族長がつくられた街を参考のために見て回りましょう」
「え……あ、はい」
珍しくアランさんに話を遮られ、しかも早口でまくしたてられ、困惑するままに同意してしまった。
「む。そうか。ではまた会おう。魔王よ」
「はい。今日は良いお話を聞かせていただき、ありがとうございました」
そう挨拶をして、族長と別れて屋敷を後にした。
クズモ鉱山の商店街に戻ってきたわたしたちは、店で買ったきのこの串焼きを食べてから、帰ろうという話に。
「アランさん。なんであの時、あんなに慌てて族長の屋敷を出たんですか?」
串焼きを食べながら、ふっと気になったので尋ねてみる。
するとアランさんは、あー……と困ったような笑顔を見せる。
「ドワーフは基本的に良い人ばかりなのですが、酒が入ると陽気になってしまう種族でして……あのまま族長に酒が入ったら、今日は帰れなくなるなと思ったもので」
「そ、そんな二面性が!? 意外です」
「酒が入ったドワーフと話すのも面白いけどにゃ―。めちゃくちゃ絡まれるけど」
「……早めに失礼できて良かったです……」
そんなやり取りをして、串焼きを食べ終えたらクズモ鉱山を後にした。
今回の族長とのお話では、かなり良い意見がもらえたな。
人間との話し合いの重要性、人間の領地問題の解決、人間と亜人との関わり方……すごく勉強になった。
これを糧に、わたしなりにできることを考えていこう!




