第14話 もふもふ探検隊だ!
グラーバの各長への挨拶まわりを終えて、わたしたちは一度魔王城へと帰ってきた。
「ただいまー」
わたしが疲れをにじませた声で帰宅の挨拶をすると、スラちゃんがぷるんっと身体から擬音を響かせて出迎えてくれた。
あぁ、こうして外出ができて、出迎える人(?)がいてくれる……そんな平凡な幸せが、身にしみるわね。
しみじみとそんなことを思っていたら、わたしの背後からもふもふたちがぴょこっと顔を出す。
どうやらもふもふたちはスラちゃんに興味があるようで、スラちゃんの方は出発した時にはいなかった魔物を引き連れていることを疑問に思っているらしく、お互いに様子を窺っている雰囲気がする。
ここは大人のわたしが橋渡しをしてあげなきゃね!
「スラちゃん。こちら、わたしとお友達になってくれたしばちゃんと、ぴよちゃんと、にーちゃんだよ。みんな、こちらはわたしのお世話をしてくれてるスラちゃん。みんなで仲良くしてくれると嬉しいな」
ポニーちゃんこと川の長の子供には、にーちゃんという名前を付けた。
みんな安直な名前になってしまったけど、呼びやすい名前だから個人的には気に入ってる。
わたしがそう言うと、まずスラちゃんがわたしに向けてぐっと親指を立てるポーズを見せてから、みんなに一礼して挨拶した。
さすがスラちゃん。大人の余裕がある。
わたしの背後に隠れていたもふもふたちも、それを見ておずおずと前に出て、スラちゃんに倣うようにぺこりっと頭を下げた。
あぁ……緊張しながらもご挨拶するもふもふ……激かわぁ。
でゅふふ……と危ない笑みをこぼしながらもふもふたちを見つめていると、みんなキョロキョロとあたりを見回して、何やら落ち着かない様子だ。
知らない場所への緊張と好奇心があるのかな?
まぁ、わたしも魔王城内でも一部の場所しか出入りしてないし、ほとんど城内のことは知らないようなもんだよな。
よーし、それなら……。
「アランさん。もふ……しばちゃんたちを連れて、少し城内を探索してきても良いですか?」
「もちろんでございます。魔王であらせられるリサ様が、この城内で入ってはいけない部屋などございませんから、ぜひともご自由に見て回ってください。私はその間に、晩餐の準備をいたします」
「迷子になったら大きな声で俺を呼んでにゃー。迎えに行くから……っと、スラがついていくなら、俺の出番はないかにゃー」
ハーリヤさんが気をきかせて迷子になったときの対処法を教えてくれたけれど、スラちゃんが『私がついているからそんなことにはならないわよ!』と言わんばかりにプリプリぷるんぷるんしていたので、ハーリヤさんは自分の提案を引っ込める。
「よし、じゃあみんな。探検だー!」
そう号令をかけて、魔王城探検に出かける。
号令をかけた瞬間、にーちゃんが伏せの体制になり『もちろん乗るでしょ?』と言わんばかりの表情をしたので、お言葉に甘えて乗せてもらうことに。
わたしは幼女ボディで歩くのが遅いし疲れやすいから、助かる。
そして興奮が抑えきれないしばちゃんを先頭に、にーちゃんの上に乗ったわたしと、さらにわたしの頭の上でくつろいでいるぴよちゃん、わたしたちを後方で見守りながらついてきてくれるスラちゃんのパーティーで冒険に出発だ!
まずはわたしの部屋。
ふかふかなベッドに、外がよく見える窓、身だしなみを整えるためのドレッサー・ふかふかの絨毯が敷かれた、相変わらず貴族のような高級感漂う部屋だ。
しばちゃんは絨毯の上でコロコロ転がり、ぴよちゃんはふかふかなベッドに満足気に丸くなり、にーちゃんはドレッサーに興味があるようだった。
みんな自由だなーと思いながら、わたしは見慣れていた部屋に新しい友だちがやってきたことが嬉しくて見守る。
そして次に向かったのは、日中であれば大きな窓から温かな太陽の光が降り注ぐ、居間。
食っちゃ寝生活をしていた時は、主にここでハーリヤさんをなでなでしながら過ごしていた。
わたしが主に利用していたのは窓際に置かれたたくさんのクッションスペースか、部屋の中央に置かれている大きなソファだ。
他にはよく分からないけれど、おそらく高価なのであろう絵画や彫刻などの美術品も飾られている。美術の成績が良くなかったわたしには、よく分からないものなのでスルーしてる。
そんな部屋でしばちゃんはくっしょんの山に勢いよくダイブして、ぴよちゃんは身体のサイズに対してあまりにも大きすぎるソファの上でくつろぎ、にーちゃんは美術品をキラキラとした瞳で見つめていた。
個性の出る過ごし方だね。
お風呂場と食堂はこのあと行くことになるからパス。ハーリヤさんとアランさんの部屋も、無断で入るわけにはいかないからパスだな……他の部屋を見て回ろう。
けれど、どの部屋も掃除はされているけれど使われていないというのが分かりやすいくらい、家具に布がかけてあったり、カーテンが締め切られて薄暗い印象を覚えた。
広い城だけど、使っている部屋は一部なのかな?
そんなことを思っている間に、もふもふ探検隊が面白みのない部屋の連続で飽きている様子がうかがえる。
子供って飽きっぽいなぁ。
「リサ様ー。晩餐の用意ができましたよー」
アランさんのその言葉が聞こえると、少しダレていたもふもふたちは一気に元気を取り戻し、ターッと声のした方――食堂へと走っていく。
現金な子たちだ。
そしてアランさん・ハーリヤさん・わたしだけでは明らかに広すぎた食堂に、もふもふ三匹という新しい仲間が加わり、賑やかに食事の時間を楽しむ。
今日の晩餐も美味しかった……幸せ。
そして食後はもふもふたちとお風呂だ。
広い浴場を見て、もふもふたちが走り出そうとしたけれど、そこはさすがに大人としてストップをかけた。お風呂場で走っちゃダメ、絶対。
というか、わたしだけでも満足にお風呂に入れないのに、こんなに一気にお風呂に入って大丈夫かしら……スラちゃんも大変だよなとそちらに目を向けると、なんとスラちゃんが4人に分裂していた。
「ええええ!? スラちゃんって分裂とかできるの!?」
「ぷるんっ」
これで大丈夫、任せてと言わんばかりのスラちゃん。
た、確かにこれなら安心して任せられる……というか、スラちゃんって意外となんでもできるな。スライム最強説?
そして無力なわたしはスラちゃんに身体を洗うのを手伝ってもらって、もふもふたちもスラちゃんに洗ってもらい、ピカピカになってから湯船に浸かる。
「ふぃー……気持ちいぃー……」
思わず、そんな声が漏れてしまう。お風呂の時間って素晴らしい。
もふもふたちの方を見てみれば、彼らも気持ちよさそうに湯船に浸かっていて、お風呂嫌いな子がいなくて良かったと少しほっとする。
みんなでお風呂から上がったら、またしてもスラちゃんに手伝ってもらって着替えたり、もふもふたちをタオルでわしわししたりした。
意外にもぴよちゃんが風魔法を使えたので、温風で身体や髪・毛を乾かしてもらう。
自慢げに胸を張るぴよちゃんが実に可愛かった。
その後、ブラッシングでみんなの毛並みを整える。
これに関してはしばちゃんが少し不服そうで、にーちゃんがうっとりと気持ちよさそうにブラッシングを受けていたのが印象的だった。
しばちゃんはブラッシングが嫌い、にーちゃんはブラッシング大好きっと。
もふもふたちのことが知れて、嬉しいな。
ちなみにぴよちゃんはすでにうとうとと眠そうで、ブラッシングはどうでも良さそうだった。
こうしてみんなではしゃいで、ご飯食べて、お風呂に入って……夜も更けてきた頃、みんなでわたしの部屋で眠ることに。
アランさんにもふもふたち用の部屋を用意しましょうか? と言われたけれど、別段広いベッドにもふもふが増えたところで困らないし、みんなと一緒にいたいからと断った。
みんなでベッドにダイブすると、すぐにうとうとと眠くなってくる。
しばちゃんはわたしのお腹の位置あたりでどっかりと眠っていて、ぴよちゃんは顔の横で丸くなってて、にーちゃんは足元でお行儀良く伏せの状態で眠りの体制に入った。
……もふもふたちはもう寝たかな?
それを確認する力も残されておらず、スラちゃんにぽんぽんっと優しく寝かしつけられて、わたしも眠りに落ちる。
眠りに落ちる直前、この幸せがいつまでも続けば良いと思った。
こんな風に聖女も魔王もなく、みんなで楽しく暮らせる世界がわたしの理想かもな……なんて……ね。
おっとっと、これは早計だね。
もっと世界を見て回ってから、決めなくちゃ……ね。




