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ハズレ聖女してたけど、そんなに言うなら魔王になってやるよ  作者: ちゃっぷ
第3章 はじめてのグラーバ観光

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第13話 川の長への挨拶

 次に、川の長が住むという川辺へとワープでやってきた。


 てっきり、アマゾン川のような大きな川に住んでいるのかと思ったら、森の中にある小さいけれど美しい小川がナワバリらしい。


 オレンジ色の夕日がキラキラと水面に反射して、なんだか幻想的な時間と場所だなぁ。


「川の長よ。新しく即位された魔王陛下と共に挨拶に来た。出てきてくれ」


 わたしが一人でほっこりと川を眺めていると、アランさんが川の長に声をかける。


 ……前々から思っていたけど、アランさんって結構テキパキと仕事をこなしていくよね。


 せっかちさんと言い換えても良い。


 真面目な人柄故なのかねぇ。


 そんなことを考えながらふっと川に目を向けると、水底からブクブクブクと気泡があがってきている場所があった。


 それは段々と数を増やしていき、そうして水面が膨れ上がったかと思うと、そこから川の長が現れた。


 川の長の上半身は美しい白馬、下半身は人魚のように魚の尾ひれになっているケルピーだ。


 ヒヒーンと嘶く川の主は、ぶるると顔を左右に振って水を払うと、わたしたちの方を優しげな目元で見つめてくる。


 わ、他の長たちと全然印象が違う。


 他の長たちは怖い! でかい! って感じだったけど、川の主はなんだか穏やかそうで、けれど気高さや気品みたいなものも感じられて……。


 いや、山の長と森の長にも威厳とか迫力とかあって、冷静に見ればカッコよかったんだけど……あの時はパニック状態だったからな。


 でも川の主相手だとパニックになることはなくて、なんか余裕の美しさって感じだ。


「川の長よ。こちらが新しい魔王陛下だ。挨拶をしてほしい」


 アランさんがそう言うと、長い睫毛と優しい黒目がちな目元が印象的な川の長の視線が、静かにわたしの方へと向けられる。


「は、はじめまして。よろしくお願いします!」


 落ち着きのある川の長とは正反対に、なんとも慌ただしく挨拶してしまった……。


 わたしにも大人の余裕さえあれば……なんで中身アラサーなのに、淑やかさってものがないんだよ……。


 一人で泣きたい気分になっている最中にも、川の長はじーっとわたしの方を見つめ続けている。


 あれ……? 他の長たちは、ぺこりって頭を下げてくれたんだけどな。


 もしかして……お前なんて魔王と認めないよってこと!?


 確かに、回復魔法しか能のない元聖女だし、その前はなんの取り柄もない平凡アラサーOLでしたけど……でも、まだお話ししてもいないのに拒絶することないじゃない……。


 そんなことを思いながら、再び一人で泣きそうな気分になる。


「ヒヒン」


 そんなわたしのそばで、川の長よりも少し幼さを感じる嘶きが聞こえる。


 声のした方を見てみると、まっしろでサラサラなたてがみとしっぽが、なんとも可愛らしさと美しさを醸し出しているポニーがいた。


 どう見てもポニー。


 ただ、長い睫毛と優しげな目元が川の長にそっくり……ということは。


「あぁ、そちらは川の長の子供のようですね」


 アランさんがそう説明してくれる。


「でも、ケルピーのお子さんにしては、下半身に尾ひれがないようですけど……」

「ケルピーは子供の頃は陸上でも活動できるように下半身が通常の馬と変わらない形状になっていて、成長すると尾ひれへと変化するのです」

「へぇ……そうなんですね」

「また一つ、賢くなったにゃー。リサちゃん」


 ハーリヤさんに茶化されて、少しだけ自分の無知さが恥ずかしくなるけれども、知らないことを知らないままにせず、積極的に質問できた自分偉い! と自画自賛して誤魔化す。


 ポニーちゃんは、地面からふんふんっとわたしの匂いをかごうとする素振りを見せていたので、ハーリヤさんにお願いして地面におろしてもらい、ご挨拶させてもらう。


「こんにちは。それとも、もうこんばんはの時間かな?」


 わたしのそんな挨拶を聞いたポニーちゃんは、じーっとわたしを見て、わたしの手の匂いを満足行くまで嗅いでから、ペコリっと頭を下げる。


 うーむ。

 検閲は厳しかったけれど、ちゃんと挨拶できるいい子だ。


 そうしていると、後ろに控えていたしばちゃんと、ひよこちゃんことぴよちゃん(ハーリヤさんには大差ないと言われたけど、ちゃんと命名した)が、ひょっこりと顔を出す。


 するとポニーちゃんが少しびっくりしたような、少し怯えるような素振りを見せたので、しばちゃんとぴよちゃんにストップをかける。


「ふたりとも、ご挨拶するときはゆっくりね」

「わふ」

「ぴよ」


 そしてしばちゃんとポニーちゃん、ぴよちゃんとポニーちゃんがそれぞれ恐る恐る挨拶を済ます。


 その様子を見るに、問題なく仲良くなれたらしい。


 というか……ちょっとうらやましいくらいに仲良くしてる。


 もふもふパラダイス……。


「わたしも混ぜて―」


 我慢できず、わたしももふもふの中に混ぜてもらう。


「ねぇねぇ、たてがみを触っても良いかな?」

「ヒヒン」


 わたしの図々しいお願いにも快い返事たぶんをもらえたので、ゆっくりとまっしろな美しいたてがみに触れる。


 触ってみると、日本でトリートメントした直後の髪を思い出すくらい、つやつやのサラサラで、いつまでも触っていたくなる極上の触り心地だった。


 水辺の魔物だからか、毛に水分がしっかりと行き渡っている感じがするほどみずみずしい。


 パサつきゼロ。


「ふわぁ……気持ちいい……」


 もふもふなでなでしていると、ポニーちゃんも気持ちよさそうに目を細めてくれていた。


 かと思うと、わたしの足にぐいぐいと頭を擦り付けてきて、何やらアピールしている。


「……? どうしたの?」

「背中に乗ってほしいんじゃにゃーい?」

「ヒヒン!」


 ハーリヤさんが適当なことを言っていると思ったら、それが正解だったらしく、ポニーちゃんは嬉しそうにしている。


「え? 乗ってもいいの?」

「ヒヒン」


 また嬉しそうにされたので、じゃあ……お言葉に甘えて……と、伏せの状態でわたしが乗るのを待ってくれているポニーちゃんの背に乗る。


 わたしが乗ったのを確認すると、ポニーちゃんはゆっくりと立ち上がる。


「おぉ……なんか目線が高くなった感じする……」


 実際は、ポニーサイズのポニーちゃんの背中に乗っただけだから、そんなに高くなったわけではないのだろうけど、幼女にとっては十分な高さが感じられた。


 そしてポニーちゃんは、ゆっくりと歩き出す。


「お……おぉ……わぁ……」


 そんな情けない声が漏れてしまうけれど、恐怖はない。


 だってポニーちゃんの歩みからは、わたしへの気遣いと優しさでいっぱいだったから、落ちるかもなんて心配する必要性を感じなかった。


 その気遣いと優しさが嬉しくて、自然と笑みがこぼれる。


「ふふ……君はやさしいね。きっと将来は優しいリーダーになるよ」

「ヒヒン!」


 わたしの言葉を聞いたポニーちゃんは、嬉しそうに嘶く。


 そうしてしばらく遊んでいて、そろそろお暇しようか……という時、またしてもポニーちゃんがこちら側に立っていた。


 長の子供たちがわたしたちについていこうとするのが、なんだか恒例行事みたいになっていて、少しだけ慣れている自分がいる。


 慣れって恐ろしい。


「ついてきてくれるの?」

「ヒヒン!」


 わたしの問いかけに、嬉しそうに答えるポニーちゃん。


 でもわたしのことを認めてない川の長が許すかな……と、ちらりとそちらを見てみると、最初の時よりも真剣な眼差しでこちらを見ているように感じる。


 不思議に思いながらも、まっすぐに見つめ返していると、ふぅ……とため息を吐いてから、川の長がぺこりと頭を下げた。


 あれ? これは許してくれるってことかな?

 それに挨拶もできたってカウントしていいのかな?


 まぁ、ポジティブにどっちもOKってことにしよう!


「……これから魔王としても、お子さんのお友達としても、よろしくお願いしますね。川の長」

「ヒヒン」


 わたしが改めて挨拶をすると、川の長は一つ嘶いたかと思うと、最初の時よりも感情や温かみを含んだ瞳でこちらを見つめてくれていた。


 こうして、長たちへの挨拶も無事に終えて、わたしには三匹のお友達が――。


「さすがリサ様! 各地の長の子供をすべて従魔にしてしまわれるなんて……さすがでございます」

「リサちゃんったら、魔物誑しー」


 二人は無視して、可愛いもふもふ友達が増えたことを、今は純粋に喜ぼう!


「改めて、これからよろしくね。しばちゃん、ぴよちゃん。それに……にーちゃん!」

「わん!」

「ぴよ」

「ヒヒン」


 三匹のかわいいお友達と、優しい側近二人。


 聖女の頃には考えられなかったくらい、他者と温かな関係を築けているのが、うれしくてしょうがない。


 油断すると泣いちゃいそうだ……。


 そんな自分をごまかすために、ぎゅっと服の裾を握りしめて、みんなに笑顔を向ける。


「じゃ、そろそろ帰りましょうか!」

「そう致しましょう」

「はい、じゃあリサちゃんはだっこだにゃー」

「わん!」

「ぴよ」

「ヒヒン!」


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