第12話 山の長への挨拶
森の長への挨拶を終え、わたしの従魔となったらしいフェンリルの子供(見た目は黒柴)のしばちゃんを引き連れ、山の長へと挨拶するためにグラーバ内にある山へとワープでやってきた。
山の主の住処は草木など姿形もなく、ゴツゴツとした岩場ばかり……と思ったら、岩場の少ない空間に大きな大きな鳥の巣がぽつんと? どかっと? 存在していた。
あそこに長さんがいるのかな? とか考えていると、突然バサッバサッと羽音のようなものが聞こえてくる。
「……ん?」
不思議に思ってあたりをキョロキョロと見回すけれど、鳥の姿など見当たらない。
けれど依然として羽音はしており、どんどんその羽音は大きく、近くなっていた。
恐る恐る、羽音のする上空を見上げてみると、大きな鳥の影が陽の光に照らされてくっきりと見え、それがだんだんと《《ただの鳥の姿ではない》》ことに気がついた頃には、影の主がぶわっと大きな風を巻き起こしながらわたしたちの近くへと降り立つ。
あまりの風の強さに、ぎゅっと目をつぶってハーリヤさんに抱きついてしまう。
風が落ち着いた頃にやっと目を開けると、目の前には山の長がいた。
茶色い羽毛に覆われた上半身と、一体何mあるの!? っていうくらい大きな翼、そして白い頭がワシのような鳥型で、下半身がライオンのような姿をした――グリフォンだ。
山の長は広げていた翼をおさめると、じっとわたしを猛禽類の鋭い目つきで見つめていた。
ひえー……食べられそうだよー……。
そんなことはアランさんとハーリヤさんがいる限りありえないと頭では分かっていても、やっぱり怖いものは怖い。
「やぁ、山の長。忙しい君にタイミングよく会えて良かった。今日は即位されたばかりの魔王陛下をお連れしたんだ。挨拶をしてほしい」
怖がるわたしをよそに、スタスタと山の長へと近づき、親しげに話しかけて挨拶を促すアランさん。
「ど、どうも。はじめまして、山の長……さん」
森の長の時はビビり散らかしてまともに挨拶できなかった反省を活かし、自分から積極的に挨拶をしてみた。
すると山の長はじっとこちらを見つめていたかと思うと、少しだけ後ろに身を引きながら、ペコリと頭を下げてくれる。
わぁ……なんか所作が優雅な感じだ。
そんなことを思いながら見つめていると、山の長はなにかに勘づいた様子で大きな翼を広げたかと思うと、すぐにどこかへと飛び去ってしまった。
「山の長はいつも忙しそうだにゃー」
「まったくだ。落石処理から迷子の魔物の誘導まで、何でも自分でしてしまう。そんなところが、彼の良いところではあるが……」
山の長が飛び去った後、アランさんとハーリヤさんがそんなやり取りをしていた。
わたしは唖然とするばかりだったけれど、二人の様子を見るに、いつものことらしい。
へぇー……山の長さんは仕事熱心というか、真面目な人(?)なんだなぁ。
「ぴよ!」
すでに姿も影も見えない山の長のことを考えていると、突然、手にふわふわの何かが飛び込んできて、鳴き声を発した。
「え?」
不思議に思って手元に目をやると、そこには黄色くてまんまるふわふわなひよこちゃんがいた。
「あらまぁ、かわいいー。どこの子?」
「ぴよ……」
わたしのデレデレとした問いかけに、手元のひよこちゃんは力なく答えたかと思うと、まんまるな身体をよりまんまるくして目をつぶってしまった。
え!? もしかして弱ってるの!?
「は、ハーリヤさん! この子……」
どうすればよいのか分からず、手元を動かさないようにしたまま、ハーリヤさんに助けを求める。
「あれ、山の長の子供だにゃ。今日はリサちゃんのおててでお昼寝かにゃ?」
わたしの手の中でまん丸くなっているひよこちゃんを認めると、ハーリヤさんがそんな風にひよこちゃんに声をかける。
ただ、ひよこちゃんは寝ていて起きない。
え!?
このひよこちゃんって、あの大きな山の長の子供なの!?
というか、お昼寝……?
「あの……弱っているとかではないのですか?」
「ん? 魔力も問題なさそうだし、傷とかもないし、寝てるだけだと思うにゃー。この子、お昼寝好きだから」
「そうですか……それなら良かった」
とりあえず、ひよこちゃんの無事が確認できてほっとしつつ、改めてひよこちゃんを見やる。
……山の長は凛々しい! たくましい! って感じだったけど、子供のひよこちゃんはぽわぽわぁ、ふんわりぃって感じだな。
手のひらで寝ている姿も可愛いけれど、このままだと落としちゃいそうで怖い。
そう思って、ハーリヤさんにお願いして巣まで連れて行ってもらい、そこにやさーしくひよこちゃんを降ろした。
でも、降ろした瞬間にひよこちゃんは起きてしまって、何やら怒っているような悲しそうな表情をしている。
「ぴよ! ぴーよ! ぴよ……」
「え? え? お家でお昼寝するのは嫌だったのかな? でも、ほら。ふかふかで寝やすいよー」
ひよこちゃんをなんとかなだめようと、山の長の巣に勝手に大の字に寝転び、ひよこちゃんに寝心地をアピールする。
「いや……ほんと……鳥の巣ってチクチクしてるかと思ったけど……思ったよりもふかふかで……」
森の長と山の長と連続で対面して、緊張して、少しだけ疲れが溜まっていたのかもしれない。
失礼ながら、他人のお宅でうとうとしだしてしまう。
「わんっ」
そうしていると、しばちゃんがわたしの足元にやってきてくるりと丸くなって眠りの体制に入る。
足元でふわふわなしばちゃんの毛並みが感じられ、心地よい。
「ふふ……しばちゃんもお昼寝するの?」
「わふ」
そんなわたしたちをじっと見ていたひよこちゃんは、ぽてぽてとわたしの顔の横までやってきて、頬にもっふりと毛を当てながら、再びお昼寝の構えを取る。
「ふふ……ふわふわで気持ちいいー……」
寝ぼけながらそんな声を漏らしながらも、ひよこちゃんのふわふわな羽毛を優しく撫でる。
「一人で寝たくなかったのかな……? それなら……わたしたちとお昼寝しようね……」
そう言いながらひよこちゃんを撫でていると、気がついたら眠りに落ちてしまっていた。
――目覚めると、ハーリヤさんとアランさんが笑顔でわたしたちを見ていることに気がつく。
「おはようございます、リサ様。よくお休みでしたね」
「他人様の巣でお昼寝って、なかなかやるにゃー。リサちゃん」
ぐ……アラサー女が他所様のお宅で寝落ちとか……一生の不覚……!
そんなことを思いながら二人の背後に目をやると、なんと山の長までわたしたちが寝ているところを見守っていたようだった。
いまだ眠っているひよこちゃんを見つめる目元は、優しく穏やかだ。
「や、山の長さん。勝手にお宅で寝てしまってすみません」
ひよこちゃんを起こさないようにしながらも、家主である山の長に謝ると、彼はふるふると首を横に降って『気にするな』と言わんばかりの素振りを見せる。
そうこうしている内にひよこちゃんも起きたので、おじゃましましたーと山を去ろうとすると、再び黄色い弾丸がわたしの手元へと飛んできた。
「ぴよ!」
「え? ひよこちゃん? どうしたの?」
ひよこちゃんは何かに怒った様子だ。
何に怒っているんだろう?
わ、わからん……。
「ふむ。どうやら我々についてきたいようです」
「え?」
ひよこちゃんを見ると、当然よ! と言わんばかりの表情をしている。
「うーん……わたしは良いけど、親御さんに確認してみないと……」
そう言ってちらりと山の長の方を見やる。
するとひよこちゃんも彼の方を向いて「ぴよ!」と力強く鳴いたかと思うと、山の長がこくりと頷いていた。
りょ、了承された……っぽい?
かと思うと、今度は山の長がわたしの方へと視線を向けてきた。
そして出会ったときと同じ様に、美しい所作で頭を下げる。
た、多分だけど、この子をよろしくおねがいしますってことだよね。
「ひよこちゃんは、大切に育てます!」
わたしがそう言うと、最初は鋭く感じた山の長の目元が少しだけ柔らかくなったように感じた。
こうして、わたしに新しいお友達ができた。
「さすがリサ様でございます。森の長の子供に引き続き、山の長の子供まで従魔になさるなんて……!」
アランさんはそう言って興奮しているけれど、それはスルーすることにした。
「ひよこかぁ……鳴き声がかわいいし、ぴよちゃんって呼ぶね。これからよろしくね」
「ぴよ!」




