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ハズレ聖女してたけど、そんなに言うなら魔王になってやるよ  作者: ちゃっぷ
第3章 はじめてのグラーバ観光

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第11話 森の長への挨拶

「そうだ。グラーバを見て回るついでと言ってはなんですが、各所の長への挨拶回りもいたしましょうか」


 弱肉強食な自然界に少しだけ打ちのめされ、魔王としてやっていけるか不安になっていた矢先、アランさんがそんな提案をしてきた。


 た、タイミングぅ……。


 わたしが不安から抱っこしてくれているハーリヤさんの服をぎゅっと掴むと、彼はまた優しくぽんぽんっとあやすように背中を撫でてくれる。


「大丈夫だにゃ。長って言っても、各所で問題が起きないように睨みをきかせてる魔物ってだけだから。そいつらのトップに立つのがリサちゃんなんだし、危ないことはなにもないにゃー」


 ハーリヤさんにそう言われて、少しだけほっとしたけれども。


 回復魔法が使えるだけの元聖女の幼女が、そんな魔物たちに魔王として認めてもらえるのかという不安は、依然として残っている。


「ええ、もちろんです。それに万が一があろうとも、我々が必ずやリサ様をお守りいたします」


 わたしのそんな不安そうな表情に気がついたのか、アランさんも付け加える。


 二人にそう言ってもらえて、いつまでもウジウジしているのは自分らしくないと手をぎゅっと力強く握り、長たちの元へ挨拶へ行く決意をした。


 ***


 まず最初に挨拶に行くのは、森の長のナワバリ。


 どうやらグラーバには森の長・川の長・山の長という魔物がいて、それぞれの地で問題が起きないように睨みをきかせる象徴的な存在として君臨しているらしい。


 今回挨拶に行く森の長は、巨大な狼の姿をした魔物――フェンリルとのこと。


 ゲームやマンガでは見たことあるけど、実際はどんな感じなんだろう。


 不安半分……ワクワク半分だ!


 さっそくワープでやってきたのは森の奥深く、巨木が広げた枝葉によって薄暗くなっている開けた場所。


「この辺りが森の長の住処です。森の長よ。新しい魔王様が即位されたので、挨拶に来た。出てきてくれ」


 アランさんが少し声を張ってそう告げると、森の奥側からぐるる……という低いうめき声を上げながら、何かが近寄ってくる気配を感じる。


 こ、こええええ!


 ハーリヤさんが抱っこしてくれているから、危険があってもすぐに逃げられる……! すぐ逃げられる! そう心の中で繰り返し、なんとか今すぐにでも逃げ出したい気持ちをぐっと堪えた。


 そして、ついに姿を現したのは……月に映えそうな美しい白の毛並み、相手を睨み殺さん勢いのある鋭い瞳、すべてを噛み砕きそうな牙、通常の狼の何倍ものサイズのある巨大なフェンリルこと森の長。


 森の長はぐるる……と唸り声を上げていて、恐怖からハーリヤさんの服を掴む手に力が入る。


 こ、こわいこわいこわい!

 お、怒ってるのかな?

 わたしがやっぱり気に入らない?


「森の長よ。こちらが新しい魔王陛下、リサ様であらせられる。今後はリサ様が魔王としてこのグラーバと共に生きてくださるのだ。ご挨拶を」


 森の長の唸り声にも全く動じないアランさんが、わたしを紹介する。


 バクバクする心臓を抑えながら森の長を見やると、あちらも鋭い目つきでわたしのことをじっと見ていたかと思うと、巨体をお座りの状態にして、ぺこりと頭を下げてくれた。


「わ……その……ご丁寧にどうも……」


 わたしもつられて頭を下げる。


 挨拶(?)が済むと、アランさんは何やら森の長と話し始めた。


 え、アランさんは魔物の言葉が分かるのかな?


 不思議に思いながらその光景をぼけーっと眺めていると、突然彼らの視線や手がこちらに向けられ、何やら再び話し込んでいる様子。


 な、なんだ……?


 しばらくすると、アランさんが戻ってきた。


「おまたせしてしまい、申し訳ありません。前に会った時から少し時間が経っていたので、話し込んでしまいました」

「アランさんって、魔物の言葉が分かるんですか?」

「ええ、エルフの学問に『魔物との対話』というのがあるので、エルフならば話せる者が多いですよ」

「へー……そうなんですね。学問なんだぁ」


 普通に感心していたら、アランさんが「あぁ、肝心な話をしなければ」と話を切り替える。


「森の長が『自分の子供を勉強のために連れて行ってくれないか』と言っていますが、いかが致しますか?」

「え……森の長の子供?」


 連れて行くって言っても……子供とはいえ、あの巨大なフェンリルの子供……魔王の城で不自由なく過ごせるだろうかとか。


 勉強のためって、わたしと一緒にいてもなんの勉強にもならないと思うけれど……と悩んでいると、突然、森の長が「ワオーン!」と大きく吠えた。


 な、なんだ!? 何事だ!?


 半ばパニックをおこしかけていると、森の長が最初にやってきた方角から荒い息を吐きながら、草をかき分けてすごいスピードで迫ってくる存在に気がつく。


 な、何か来る!?


 不安からハーリヤさんの服をぎゅっと強く掴んでしまう。


 そしてガサッと音を立てて森から現れたのは……黒柴だった。


「……ん?」


 くりくりなお目々と目の上にある白い麻呂眉、ハッハッと息を切らしながらも笑顔に見える口元、もっちりとしたお耳、くるんっと丸まったしっぽ、まふっと抱きつきたくなる愛くるしいボディ。


 そこには日本でも見かけたお散歩中のわんちゃんと何ら変わらない、それはそれは可愛い黒柴ちゃんがいた。


 な、なんでこんなところに黒柴ちゃんが……?


「この者が森の長の子供だそうです」


 そう言われて、目ん玉が飛び出るかと思った。


 ふぇ、フェンリルの子供って黒柴だったの……?


 もう一度、森の長の子供をよく見てみるけれど、何度見てもただの黒柴ちゃんにしか見えない。


 じっと見つめていると、こてんっと小首をかしげる黒柴ちゃん。


 いや、かわいいな。


 って、ちがくて……!


 わたしが一人でメロメロになったりつっこんだりしている間に、森の長親子が何やらやり取りをしているように見えた。


 そしてやり取りが進んでいくにつれて、黒柴ちゃんがしょんぼりとしていく。


 かわいいわんちゃんのしょんぼりしている姿は、見ていて切ない。


「あ、あの……アランさん。彼らはなんの話をしているんですか?」


 つい気になって、アランさんにたずねてみる。


「森の長の後継者として、早く強くなれ、お前は成長が遅いのだから、他の者よりも一層の努力を……と話しているようですよ」


 は?


 思わず、そんな言葉が出そうになったが、表情を歪めるだけでなんとか済ませることができた。


 森の長さん……それは良くないでしょう。


 そして見てみれば、やっぱりしょんぼりしている黒柴ちゃん。


 わたしには黙っていることなんてできなかった。


「あの……差し出がましいとは思いますが、親が子供の成長を急かすのは良くないと思います!」


 わたしがそう声を掛けると、森の長親子がこちらに目を向ける。


 黒柴ちゃんは泣きそうな目をしながら、森の長は『なんだ? 小娘』と言わんばかりの目だ。


 ええい、ここまで言ったら最後まで言ってやるぞ!


「子供にはそれぞれ、成長のペースというのがあるのです。だから、この子にあったやり方で、この子なりの成長を、親なら静かに見守ってあげてください!」


 そう言い切ると、森の長親子が目を丸くしていた。


 い、言ってやった……。


 子育て経験なんてないけれど、子供だった頃の経験ならわたしにだってあるんだ。


 だからこそ、言わずにはいられなかった。


 わたしの言葉を聞いて、改めて親子で向き直った二人は、何やらやり取りをして……黒柴ちゃんが元気に「わん!」と鳴いていたところを見ると、円満に話がついたのだろう。


 良かった……。


 これで黒柴ちゃんがわたしについてくるって話はなしになるのかな。


 うう……残念だと思ってしまう自分が情けない。


 少し名残惜しくて、最後にひともふ……いや、ふたもふさせてくれないかなと、ちらっと黒柴ちゃんの方を見ると、目があって、しっぽをぶんぶん振りながら嬉しそうにこちらへと駆け寄ってくる。


 ん? なでさせてくれるのかな?


 そんなことを思っていると、アランさんが興奮気味にこちらを見つめてくる。


「さすがリサ様。もう従魔を従えるなんて……さすがでございます!」

「……え?」

「おめでとー、リサちゃん」

「……え?」

「わん!」

「……え?」


 みんなが嬉しそうな顔をしてこちらを見ている。


 うーん……まぁ、いっか!


 なんだか考えるのが面倒になって、森の長の子供をパーティーメンバーに迎えることにした。


 断って、また黒柴ちゃんのしょんぼり顔見るの嫌だしね。


「じゃ、じゃあ…これからよろしくね。くろしば……しばちゃん!」

「わん!」


 こうして、わたしにはじめての従魔ができた。

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