第10話 初めての外の世界…!
食っちゃ寝して、ねこの姿になったハーリヤさんをナデナデしながら日向ぼっこする日々を二週間くらい過ごして、ついにアランさんから外出OKが出た。
や、やっとだ……。
スラちゃんに身だしなみを整えてもらう時に鏡を見てみると、たった二週間ではあるけれど、確かに髪や肌のツヤがアップした気がする。
元々もちぷる肌ではあったけれど、今はぷるんぷるんだ。
決して太ったわけではない。
そう信じたい。
「外出されるのは良いのですが、どこへ行かれたいのですか?」
「せっかく魔王になったことですし、まずはこの魔物の森と呼ばれるグラーバを見て回りたいと思っています。わたしに何ができるのかを知りたいですし」
「良いお心がけでございますね」
「リサちゃんは真面目だにゃー」
真面目……なのかな?
嫌々でも聖女になったのなら聖女の仕事をして、魔王になったなら魔王としての仕事をするべきだと思っていたけれど、この世界ではこの思考は変わってるのか?
いや、ハーリヤさんがテキトーすぎるだけな気がする……。
まぁ、今更変わってるヤツって分かったところでどうでも良いだろう。
わたしはわたしらしく、生きていくのみだ!
***
「ここが魔王陛下の庭、魔物たちの暮らす森、グラーバでございます」
「た、たた、高い……」
グラーバは広大な森だ。
どうやって見て回ろうかと悩んでいたところ、アランさんがまずは上空から森全体を見ようと提案し、是非を答える前にアランさんの瞬間移動魔法によって、上空へと移動させられ、今、わたしは身体にぶわっと当たる強風に震えながら、抱っこしてくれているハーリヤさんにしがみついている。
こ、怖くて外なんて見れん……!
「ほれほれ、リサちゃん。ちゃんと抱っこしてるから、安心して念願のお外を見てご覧よ」
そんなわたしを見かねたのか、ハーリヤさんが優しく声を掛けてくれる。
確かに念願のお外……ずっと憧れた外の世界だ。
わたしは恐る恐る、ハーリヤさんにしがみついたまま、外の世界にちらりと視線を向ける。
「うわぁ……」
目の前に広がっていたのは、どこまでも続く終わりなき木々の集まりと、そんな森を包み込むように優しく広がっている青空、温かい日差しが降り注ぐ大自然だった。
こんなに自然を目にしたのは、いつぶりだろうか。
思わず泣きそうになってしまったけれど、ぐっと拳を握りしめて堪える。
「あ、あの……降りて、もっと近くで見ることってできますか?」
確かに美しい景色だし、ハーリヤさんがわたしを落っことすようなおっちょこちょいをするとは思っていないけれど、それでもいつまでも上空にいるのは恐ろしい!
それとなく早く降ろしてもらえるように提案すると、アランさんが「リサ様の御心のままに」と答え、ゆっくり森の中へと降りることができた。
まぁ、地上に降りたと言っても、わたしはハーリヤさんに抱っこされたままなんだけどね。
グラーバに降りてみると、鬱蒼と茂る木々で薄暗いのかと思いきや、意外と木々の隙間からしっかりと陽の光が差し込んで、明るく心地よい。
足元も草花が生えているけれど、有象無象に散らかり放題! って感じではなかった。
全体的に手入れが行き届いていると感じるほど、綺麗な森だ。
魔物の気配は、今のところない。
ガササッ
そんなことを思っていると、小脇の草むらから物音が。
ビクッとしながらそちらに目を向けると、一角獣のような角の生えたうさぎがぴょこっと顔を出した。
つぶらなひとみに愛されて当然と言わんばかりのふわもちボディ、ちょこんっと添えられたまん丸のしっぽ、ぴんっと伸びたお耳をぴこぴこと動かしているうさちゃん。
「か、かわいいぃ……」
急に近づいて驚かすわけにはいかないから、できるだけ声を抑えて触りたい興奮をぐっと抑える。
「あぁ、アルミラージですね」
「アルミラージちゃんって言うんですか?」
「ちゃん? ……魔王であるリサ様であれば、呼び寄せることもできますよ」
「いいんですか!?」
「も、もちろんです……」
アランさんがわたしの興奮に若干引いている気がするけれど、そんなのは今はどうでも良い!
ハーリヤさんに頼んで地面に降ろしてもらって、少しだけアルミラージちゃんに近づき、地面に膝をついて手を伸ばしてみる。
「アルミラージちゃん。良かったら挨拶させてください」
わたしの言葉に耳をぴこぴこ動かしたアルミラージちゃんは、ぴょんぴょことわたしの方へと近づいて来て、手をすんすんと嗅いで確認したかと思うと、すりんっと頬釣りしてくれた。
可愛さのあまり倒れそうになるのをぐっと堪え、わたしの方からも少しだけふわふわボディを触らせてもらう。
ほ、本当に野生の生物ですか? と思うくらい、ふわふわの魅惑的ボディ。
奇跡の生き物だ……。
しばらくもふもふさせてもらって、アルミラージちゃんにお礼を伝えてバイバイした。
「かわいかったぁ……」
「リサちゃんって、俺を撫でる手つきからして分かってたけど、もふもふした生き物好きだよね?」
「だいっすきです。眺めているだけでもかわいいし、触らせてもらえればふわふわしてて……撫でると天国に行ける気がします」
「大げさだにゃー」
ハーリヤさんはそう言って笑っていたけれど、わたしにとっては全く大げさではない。
本気と書いてマジだ。
ペット禁止のマンション住みで生き物と縁遠かったわたしにとっては、お散歩中のわんちゃんに出会うだけでも嬉しかったもんなぁ。
それが……魔王になった今では、もふもふの魔物ちゃんたちをいつでもお触りできるなんて……夢のようだ。
はっ!
でも嫌われないように、触りすぎないように気をつけなくちゃね。
お触りが苦手な子もいるし、触りすぎてストレスになると良くない。
一人でよしっと心に決めていると、ふいにハーリヤさんに抱っこされた。
「もう移動するんですか?」
「うん。ここには肉食系なやつもいるからにゃー。もふもふ好きなリサちゃんはあんまり長居しないほうが良いにゃ」
「弱肉強食なんですね……」
わたしがぽつりと呟くと、ハーリヤさんが眉尻を下げながら口を開く。
「みんな、生きるためにしていることだから、怒らないであげてね」
「怒るなんてしませんよ! ただ、そうですね……さっきの子がもし他の魔物に食べられそうになっていたら、わたしは止めてしまっていたかもしれません」
「だよねー。で、魔王であるリサちゃんが止めたら、魔物は従うしかなくなっちゃうから、あんまりそういった部分には干渉しすぎないほうが良いにゃ」
そう言われて、その通りだなとしか思えなくて……自分が不甲斐なくなる。
魔王になると意気込みながらも、こんな調子でわたしは魔王としてちゃんと仕事ができるのだろうか。
抱っこしてくれているハーリヤさんの服をぎゅっと掴むと、彼はわたしの背中をぽんぽんっと優しく撫でてくれた。




