第9.5話 ジェイド王子SIDE
「あっ……ご、ご機嫌麗しゅう。王太子殿下」
「お、お身体の方はもうよろしいのですか?」
王城で出くわした者たちは、分かりやすくビクビクとした様子でジェイドにそう声を掛ける。
リサに命を救われてから数日が経つというのに、彼らの様子は変わらない。
よほど死者蘇生させられたジェイドが不気味なのだろう。
歩いていた足を止め、彼らを見ると、彼らはヘビに睨まれた蛙のように冷や汗をダラダラとかきながらも、懸命に笑みを作っている。
「……あぁ、問題ないよ。心配をかけてすまないね」
ジェイドはややうんざりしながらも、そう答える。
全く心のこもっていない謝罪を。
「そ、それならばよかった」
「で、では……我々はこれで」
ジェイドの返事を聞いた途端、彼らは脱兎の如く逃げていく。
そんな後ろ姿を黙って見送るジェイドは、ため息をつきながら目的の場所へと歩みを戻した。
「国王陛下」
「何だ。何用だ」
目的地――玉座の間に到着したジェイドは、父である国王に声を掛ける。
国王はジェイドに怯えることはしないけれど、父親として心配する様子もなく、ただ無関心な様子だった。
「あの、リサ殿……聖女の件でご相談したいことが」
「またその話か……」
聖女という言葉を出した瞬間、国王はうんざりとした顔をする。
ジェイドはその表情に少しばかり臆しながらも、懸命に言葉を続ける。
「魔物を倒せぬ我らが魔王を討伐するなど、現実的ではありません! やはり、リサ殿に聖女に戻ってもらった方が……」
聖女に頼って戦闘・治療を行っていたアナニアにとって、聖女を失うことは大きな痛手だ。
だから次なる聖女を早く用意する必要があるのだが、この世界に呼び出せる聖女は一度に一人まで。
なので、魔王となったとは言え、聖女として召喚されたリサが生きている限り、次なる聖女を呼び出すことはできない。
それ故、魔王となったリサを討伐して次なる聖女を召喚しようという話が、国王と教会主導のもと進んでいた。
リサが聖女だった頃は何も言えなかったジェイドだったが、彼女の命を奪うという話になってからは、何度か国王に考え直してもらえるように説得していた。
ただ、答えはいつもNO。
「くどいぞ。これ以上、国王である私に反抗的な態度を見せるのであれば、お前も処罰する」
「……そんな……」
「国王陛下」
国王の冷たい言葉にジェイドが言葉を失っていると、玉座の間に新たな客人が現れる。
彼はリサのいた王都教会の最高位神官。
今回のリサ討伐に関して、国王と話している人物……それほど権力を持った、国の重要人物だ。
国王にとっては、ジェイドよりも信頼している人物であろう。
「これはこれは、王太子殿下。お元気そうで何よりです」
「……どうも」
神官はにこっと人当たりの良さそうな笑みを浮かべ、ジェイドに話しかける。
国王との話し合いが決裂して、顔色が明らかに悪いであろうジェイドにも定型文のような言葉と人当たりの良い笑みを浮かべる彼が、ジェイドは苦手だった。
「よく来たな。では王太子よ、お前との話はこれで終わりだ。良いな?」
神官を歓迎する国王は、ジェイドには冷たく最終確認を取る。
そんな言葉にジェイドは少しばかり考え込み、目をぎゅっと瞑ってから、国王をまっすぐに見やる。
かと思うと、力なく俯いた。
「……はい。お時間を取らせてしまい、申し訳ございませんでした」
ジェイドはそう謝罪して、ニコニコと人当たりの良さそうな笑みを浮かべている神官の横を通り過ぎ、玉座の間を後にした。
ジェイドはトボトボと自室へと帰る。
彼は理解していた。
自分の言葉を国王が聞くわけがないことも、魔王となったリサをアナニアに連れ戻したところで、再び聖女として迎えられることはないだろうということも。
そして、なにより聖女に戻ることがリサの幸せではないだろうということも……分かっているつもりだ。
それでも、できれば帰ってきてほしい。
そんなことを思いながら、自分を避けたりビクッと身体を震わせる者たちを横目に、ジェイドは自室へと帰っていった。




