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良い子遊園地  作者: 鳥藍
3/9

2日目 さそわれる遊園地


 良い子遊園地に入場できる子供たちのうち、半分以上は一日目で帰宅する。


 朝、入場ゲートの前でベンチに座る少年は、集まってくる子供たちを眺め、確かに人数は減っているが、依然としてたくさんいることに驚いていた。


 チケット一枚だったら、少しの努力で手に入る。しかし、二枚以上となると、相当な努力が必要だ。だから、二枚以上手に入れるとすごいとされる。


 だが、それなりの広さの地域から人が集まると、二枚以上持っている人もそれなりの人数になる。

 ただそれだけのことだ、と少年は納得した。


 少年が頷いていると、少女がやってきた。少女はにこにこしている。少年と目が合ってもなお、何も話さず、にこにこしている。


 戸惑う少年、首を傾げる少女。目が合い続け、流石に気まずくなった少年は、ゆっくり立ち上がった。少女の顔が明るくなる。


「ふふふ、ごきげんよう」


「うん。おはよう」


「ふふふ。私、座っていると見分けがつきませんの……ごめんなさいね」


「え……? あ、そう……」


 まさかそんな理由だとは予想もしていなかった少年は、無意識に立てていた仮説を投げ捨てて、笑った。

 少年は違和感を感じたが、聞くことはできなかった。


 昨日と、集合時間以外何も変わらないルール説明が終わり、少年はまた地図を広げる。


「ええーっと、昨日まわれなかったところ、行ってみる?」


「あらら? 私を誘ってくれてますの?」


「え? あ、えっと……」


 少年は頭を抱えた。白と赤の混ざり合う服を着た少女の、クスクスという笑い声が、少年の耳を赤くした。


「あらら? ふふふ。私、最初は、この、メリーゴーラウンドに乗りたいですわ!」


「……わかったよ……」


 少女に手をひかれるままに、少年は駆け出した。


 ずっと同じところを回る、新しさのないメリーゴーランド。少年にはやはり、何が楽しいのかわからない。


 少女の笑みの中に曇りを見ながら、快晴の下を走り回る。ライドごと回転し、寿命を縮めようとするジェットコースター。子供ドライバーだけの、小さい事故が多発するゴーカート。記憶が飛びそうになったフリーフォール。そのすべてを一望できる、鳥に憧れる巨大観覧車。


 恐怖を安全に感じる、それを楽しんでいる。少年の口角は、終始上がっている。


 昨日と違い、昨日という比べる相手がいるために、いささか新鮮さや楽しさがかけている。

 しかし、少年の目に焼き付く一瞬一瞬、これが遊園地の醍醐味だと、少年は口元を緩めた。


「観覧車って、時間かかるね」


「ふふふ」


 いつでも目を輝かせている少女。鏡を見ているようだ、少年はそう思った。


 昼頃。頬が落ちないようにおさえる少年と少女の元に、一人の優しそうな子がやってきた。


「こんにちは~、チケット五枚持っているお二人であってる〜?」


 少年は美味しい食事でそれどころではなかった。

 しかし、良い子は人を無視しない。反射的に、少年は食器を置く。


「……えーと、あってるよ。何か、用?」


「おー、よかったよかった~。あのさ、明日、俺含めて六人しか残らないみたいなんだけどさ~、皆で脱出ゲームやらない? っていうお誘い~」


 優しそうな子は頬を赤らめながら、元気よく話す。

 少年は地図を広げ、脱出ゲームを確認した。特に人が集まっていた場所だったなと思い返しながら、少年は地図から目を離す。

 黙々と食事を続けている少女を横目に見ながら、優しそうな子と目を合わせた。

 

「……ええっと、脱出ゲームって、あの、すごく混んでたとこ?」


「そうそう~。最低6人いないといけないみたいでさ~、折角だしってことで~。あ、時間は、午前中で終わるから~」


「なるほど、いいね。ねえ、参加しようよ」


 少女に確認を取ろうとする少年。しかし、少女は何も言わず、ただ黙々と食事を続けている。


「ん~? あれれ、えーとお~」


「ご、ごめんね。えーっと、なんて言おう。この子、意味不明だから……聞いておくよ。たぶん、友達だからって言ってついてきてくれると、思う……」


「わかった~、期待しておくね~?」


「うん……んじゃ、また明日……」


 優しそうな子は、にやにやしながら離れていった。


 少年は彼が離れていったのを確認し、少女のほうを向いた。

 優しそうな子が来ている間、ずっと食事を続けていた少女に対し、忌避感を通り越して興味を持ち、少年は尋ねる。


「ね、ねえ。どうして、何も話さなかったの……?」


「あらら? 私、無意識のうちに、あなたに任せてしまっていましたの。ごめんなさいね」


「……え?」


「ふふふ。それくらい、信頼してるってことですの」

 


「……え?」


 違和感を感じた。


 少年の思う良い子は、自分でやるべきことを人に押し付けたりしない。目の前の少女は、良い子なのだろうか。


 しかし。人を否定することもまた、良い子がやることではない。考えれば考えるほど、少年の頭の中はこんがらがっていく。


 それだけではなかった。少年の知る限り、簡単に信頼できる人など存在しない。どんな環境で育ってきたら、二日前に出会ったばかりの人を信頼できるようになるのだろうか。

 

「あらら? どうしましたの?」


「……あ、ごめん。ちょっと考え事してて。えーっと、そうだ、明日の脱出ゲーム、参加する?」


「ふふふ。私、参加したいですわ!」


「わかった」


 目を輝かせる少女の在り方を見て、少年は考えるのをやめた。


 楽しい、幸せな時間はあっという間に過ぎていく。

 夕方。少年は、少女と別れ、割り当てられた部屋へ向かう。道中に、昼に会った優しそうな子の姿があった。


「あ、こんばんは、えーと」


「あ~、奇遇だね~。部屋の方向が一緒なのかな?」


 優しそうな子は濁った目を細め、首を傾けた。


「そ、そうなのかな?」


「あ、そうだ。そういえば、明日の脱出ゲーム、どうする~?」


「えーと、参加することにしたよ」


 目を見開く優しそうな子。安心できる、濁った目。

 

「よかった~、あの子も?」


「あの子?」


「そうそう~、君といつも一緒にいる女の子~」


「うん、来るって」


「やった~」


 小躍りし、手をたたく優しそうな子。不思議に思った少年は、顎に手を当てる。


「す、すごっく喜ぶね」


「そりゃそうでしょ~、だって、あの子めっちゃ可愛いじゃん?」



「そうなの?」


 時間が止まった。空気に耐えきれず、少年が口を開くまで、果たしてどれだけの時間がたったのだろうか。


「……えっと、そうなんだ……」


「そう~、お近づきになれたらいいな~って」


「……ふーん。じゃ、じゃあ、明日、よろしくね」


 少年は逃げるように、そそくさと離れていく。背中に突き刺さる冷たい視線を感じながら。


 確かに、あの子、整った外見をしているのかもしれないな。そう考えながら、少年は眠りについた。


 


 読んでいただき、ありがとうございます。


 引き続き、お付き合いいただけると嬉しいです。

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