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辺境伯家三男、アプリで魔法を再定義する。 ~「賢者」認定されたけど、これ「スマートウオッチ」ですから!  作者: のびろう。
第十三章 王都帰還と波乱の新学期。システムAIの学習と五人目の同居人
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第79話 乙女たちの絶対防衛戦と奇跡の同調。マシロの初めての笑顔

巨大な漆黒のバグが、地下水路の空間を歪めながら無数の触手を振り下ろしてくる。

その禍々しい姿は、この世界の歴史から切り捨てられた怨念やエラーの集合体のようにも見えた。


「対象の攻撃軌道を予測完了しました」


マシロの青い瞳が、システムと同期して鋭い光を放つ。


「右斜め前方、三十二度。触手の関節部分に装甲の脆弱性を確認」

「任せて!」


リズが黄金の闘気を爆発させ、マシロが指定した座標へと一直線に踏み込んだ。


「剣聖技・黄金閃破!」


眩い光を纏った長剣が、バグの強靭な触手をバターのように易々と切断する。


「ギャァァァァッ!」


バグが耳障りな悲鳴を上げ、切断された断面から赤いノイズを撒き散らした。


「追撃の座標を転送します。ベアトリスお姉様、対象の左側面に冷却魔法を」

「了解いたしましたわ。一ミリの誤差も生じさせませんのよ」


ベアトリスが扇子を開き、絶対零度の吹雪を放つ。

蒼い氷の防壁がバグの動きを封じ込め、その巨体を地下水路の石壁に縫い付けた。


「今ですわ。シャルロットお姉様、サクラお姉様」

「ええ、極大の炎で焼き尽くして差し上げますわ!」


シャルロットが炎の杖を掲げ、地下水路の水分を一瞬で蒸発させるほどの灼熱の炎を発生させる。


「ヤマトの刃、とくと味わうが良い!」


サクラが炎を纏うように跳躍し、神速の抜刀術で氷漬けになったバグの巨体を次々と斬り刻んでいく。

四人の完璧な連携と、マシロの正確無比な演算サポート。

それが組み合わさった時、先ほどまで圧倒的な脅威に思えた巨大なバグの本体ですら、完全に防戦一方へと追い込まれていた。


「よし、僕の方もハッキングの切り離しに成功したぞ!」


僕は天界の端末を操作し、マシロのシステムに侵入していた悪意あるプログラムを完全にロックした。

僕の現代科学チートによる演算能力が、バグの不正アクセスを遮断する強固なファイアウォールを構築し終えたのだ。


「マシロ、もうシステムを乗っ取られる心配はない。みんなで一気に決めるぞ」

「はい、アレン様」


マシロの表情は無機質なままだったが、その声には確かな信頼と熱が宿っていた。


「ですが、対象はコアの修復を高速で始めています。物理攻撃だけでは、完全に消去しきれない確率が七十パーセントを超えています」

「なら、僕たちの力を全部合わせよう」


僕は端末のインターフェースを空中に展開し、新たなプログラムを猛烈な速度で構築し始めた。


「マシロの演算システムを核にして、みんなの魔力を一つに束ねるんだ。僕が魔力のパスを繋ぐから、マシロはそれを巨大な浄化プログラムに変換して撃ち出してくれ」

「私のシステムに、お姉様方の莫大な魔力を直接流し込むということですか」


マシロが驚いたように青い瞳を瞬かせる。


「未検証のプロセスです。莫大な魔力負荷により、私のこの仮のボディが崩壊する危険性が……」

「大丈夫だよ、マシロちゃん」


バグの攻撃を危なげなく弾き返しながら、リズが笑顔で振り返った。


「私たち家族の力が、マシロちゃんを壊すわけないでしょ」

「信じなさい、私たちの可愛い妹」


シャルロットが炎を操りながら、優しく微笑みかける。


「計算にない奇跡を起こすのが、私たちの得意技ですのよ」


ベアトリスが知的な瞳を輝かせる。


「うむ!某たちの愛の力を、その身で受け止めるが良い!」


サクラが刀を構え直し、力強く頷く。

四人の温かい言葉に、マシロは小さく息を呑んだ。


「みな、さん……」


マシロは小さく呟き、そして静かに目を閉じた。


「……了解しました。皆さんの魔力、謹んでお受けいたします」

「よし、いくぞ!【魔力同調プロトコル】全開!」


僕がエンターキーを模したホログラムを叩き込んだ瞬間、四人の花嫁たちの体から凄まじい魔力の奔流が立ち昇った。

黄金の闘気が暗闇を切り裂き、深紅の炎が周囲の空気を激しく震わせる。

蒼氷の冷気が熱を奪い、桜色の剣気が鋭く空間を研ぎ澄ましていく。


四色の光が地下水路で複雑に絡み合い、中央に立つマシロの小さな体へと一気に流れ込んでいく。


「魔力充填率、百二十パーセント……二百パーセント……三百パーセント……限界値を突破しました」


マシロのプラチナブロンドの髪が、光を帯びて神々しく天に向かって舞い上がる。

彼女の人工的な回路が悲鳴を上げるかと危惧したが、彼女の体が崩壊することはなかった。


四人の優しく力強い魔力は、まるで妹を庇護するゆりかごのように、マシロの演算システムと完全に調和していたからだ。

それは、血の繋がりや種族の壁を超えた、魂のレベルでのリンクだった。


「超極大浄化プログラム、展開します」


マシロが両手を前に突き出すと、魔法陣と電子回路が融合したような巨大な光の陣が空中に現れた。


「これで、終わりだぁぁっ!」


僕の叫びと共に、五人の心が完全に一つになった。

マシロの掌から、純白の極太のレーザーが地下水路を貫くように発射された。


「ギィィィィィィィィッ!」


バグの本体が浄化の光に飲み込まれ、世界を呪うような断末魔の叫びを上げる。

光はバグの構成データを分子レベルで分解し、暗く冷たかった地下水路を眩い真昼のように照らし出した。

轟音と共に、巨大な漆黒のノイズは塵一つ残さず完全に消滅したのだった。


「やった……!」


僕は大きく息を吐き出し、天界の端末のモニターを確認する。

空間の歪みは正常化され、王都の地下に巣食っていた未登録のエラー反応は完全にゼロになっていた。

僕たちの完全勝利だ。


「皆さん、対象の完全消去を確認しました。被害状況は……」


マシロが振り向いて報告しようとした瞬間、彼女の体はふらりと傾いた。

限界を超える魔力をその身で制御した反動だろう。


「マシロ!」


僕が駆け寄るよりも早く、一番近くにいたリズがマシロの体をしっかりと抱きとめた。


「よく頑張ったね、マシロちゃん」


リズが愛おしそうにマシロの頭を撫でる。


「ええ、本当に立派でしたわよ。私たちの自慢の妹ですわ」


シャルロットが近づき、マシロの白い頬をそっと撫でる。


「これでマシロも、立派な戦士の仲間入りだな!」


サクラが嬉しそうにマシロの手を握る。


「帰ったら、お姉様たちがしっかりとボディのメンテナンスをして差し上げますからね」


ベアトリスがハンカチを取り出し、マシロの額に浮かんだ汗を優しく拭う。

四人の温かい愛情に包まれ、マシロは不思議そうに目をパチパチと瞬かせた。


「理解不能です。私のシステムは激しい疲労で機能を低下させているはずなのに、胸の奥がじんわりと温かくて、とても満たされています」


マシロは自分の胸に手を当て、僕の方を見つめた。


「アレン様。この感情は、システムのエラーではないのですね」

「ああ。それは嬉しいとか、幸せっていう、本物の感情だよ」


僕が優しく微笑みかけると、マシロの青い瞳からポロリと一粒の涙がこぼれ落ちた。

そして、彼女はこれまで見せたことのない、花が綻ぶような極上の笑顔を浮かべたのだ。


「はい……。私、今、とても嬉しいです」


それはシステムが作り出したシミュレーションの計算結果ではない。

一人の少女の心に生まれた、正真正銘の初めての笑顔だった。

僕たちは顔を見合わせ、誰からともなく温かい笑い声を上げた。

世界を裏側から管理する無機質なAIは、この瞬間、僕たちの本当の家族になったのだ。

僕たちはマシロを囲むようにして、その場にへたり込みながらも安堵の息を吐き出した。


「さあ、おうちに帰ろう。明日はまた、学園の授業があるからね」


僕が手を差し出すと、マシロはその白い手をしっかりと握り返してきた。

その手はもう冷たい機械の温度ではなく、確かな命の温もりを宿しているように感じられた。


深夜の王都を揺るがす怪異は去り、五人目の同居人を迎えた僕たちの絆は、さらに強く深いものへと進化を遂げたのだった。


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