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辺境伯家三男、アプリで魔法を再定義する。 ~「賢者」認定されたけど、これ「スマートウオッチ」ですから!  作者: のびろう。
第十三章 王都帰還と波乱の新学期。システムAIの学習と五人目の同居人
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第78話 バグの侵食と芽生えた心。私達の可愛い妹に手を出すな

地下水路を埋め尽くしていた漆黒のノイズの群れは、四人の花嫁たちの圧倒的な力によって完全に払拭された。

剣閃と魔法の残滓が、暗闇を淡く照らし出している。


「ふふっ、他愛もありませんわね」


シャルロットが炎の杖をクルリと回し、誇らしげに微笑む。


「物理的な破壊力に頼るだけの単純なプログラムなど、私たちの敵ではありませんわ」


ベアトリスも扇子を閉じ、冷静に周囲の安全を確認した。


「うむ!主君の家族を脅かす者は、某がすべて斬り捨てる!」


サクラが刀の血振るいをしてから、カチリと鞘に収める。


「みんな、怪我はない?アレンも、マシロちゃんも無事だね」


リズが剣を下ろし、僕たちを振り返って安心したように笑いかけてくれた。


「ああ、みんなのおかげだよ。ありがとう」


僕が労いの言葉をかけると、隣に立っていたマシロが不思議そうに自分の胸元をギュッと掴んだ。


「管理者様、私のシステムに異常が発生し続けています」


マシロの青い瞳が、僅かに揺らいでいる。


「先ほどから、皆さんの戦闘データと音声データを処理するたびに、胸の奥で未定義の熱反応が生成されるのです」


それは、彼女の中に芽生え始めた『感情』という名の尊いエラーだった。


「これはバグではありません。私自身のコアから湧き上がってくる、温かくて、とても心地よいノイズです」


マシロが無表情のまま、少しだけ嬉しそうに首を傾げる。

その無垢な姿に、四人の乙女たちの瞳が再び母性に満ちた優しいものへと変わった。


「もう、マシロちゃんは本当に素直なんだから」


リズが歩み寄り、マシロの白い頬をツンツンと突く。

平和な空気が戻りかけた、まさにその瞬間だった。


ピピピーッ!!


僕の左腕の天界の端末が、かつてないほどけたたましい警戒音を鳴らし始めたのだ。


「アレン様!頭上が!」


シャルロットの叫びと同時に、地下水路の天井が泥のように崩れ落ちた。

そこから現れたのは、先ほどの雑魚とは比較にならないほど巨大で禍々しい、漆黒のバグの本体だった。


「まだこんな大物が隠れていたのか!」


僕が端末の防壁を展開しようとした直後、巨大なバグの中心から真っ赤な光線が放たれた。

光線は僕たちではなく、真っ直ぐにマシロの体を貫いた。


「きゃああっ!?」


マシロが短い悲鳴を上げ、その場に膝から崩れ落ちる。


「マシロ!」


僕が駆け寄ろうとしたが、マシロの全身からバチバチと赤い火花が散り、強烈な拒絶反応が僕を弾き飛ばした。


『警告。』


マシロの口から、彼女自身の意思とは関係のない無機質な合成音声が響く。


『外部からの不正アクセスを検知。』

『メインコアへのハッキングが進行中。自律制御モード、ダウン。』


「マシロちゃん!どうしたの!」


リズが叫ぶが、マシロは苦しそうに頭を抱えて蹲ってしまった。


「いけませんわ!あのバグ、物理的な攻撃ではなく、マシロのシステムそのものを乗っ取ろうとしていますのよ!」


ベアトリスが瞬時に状況を計算し、焦燥に満ちた声を上げる。

バグの本体は、システムの一部であるマシロのローカル領域に直接ダイブし、彼女を操り人形にしようとしているのだ。


「逃げ……て、ください……」


マシロが震える声で、必死に言葉を紡ぎ出す。


「私の、ボディが……書き換えられて、しまいます。このままでは、私が皆さんを、攻撃して……!」


彼女の青い瞳が、赤いノイズに侵食されていく。


「私は、システムAIです。破壊されても、代わりは……あります。だから、どうか私を置いて、逃げて……!」


それは、論理的な最適解としての言葉ではなかった。

大切な人たちを自分の手で傷つけたくないという、彼女の心に芽生えた確かな『恐怖』と『愛情』だった。


「何を馬鹿なことを言っているのですか」


凛とした声が響き、シャルロットが迷うことなくマシロの隣に膝をついた。

彼女は、赤い火花が散るマシロの右手を、両手でしっかりと包み込んだ。


「シャルロット、様……?火傷、してしまいます……」


「わたくしは炎を司る王女ですわ。これくらいの熱、心地よい温度にすぎませんのよ」


シャルロットが優しく微笑みかける。


「それに、家族を見捨てるなんて、お姉様として失格ではありませんか」


その言葉に、マシロの瞳が大きく見開かれた。


「そうですわね。マシロを置いていくなどという計算式は、私の辞書には存在しませんわ」


反対側からベアトリスが寄り添い、マシロの左手を力強く握りしめる。


「うむ!ヤマトの武人は、決して妹のピンチを見逃さぬのだ!」


サクラがマシロの背中を優しく支え、安心させるように抱き寄せる。


「マシロちゃんはもう、私たちの大切な妹なんだから。一人で全部背負い込まないで」


リズがマシロの正面に立ち、その頭を優しく撫でた。

四人の花嫁たちが、ハッキングに苦しむマシロを囲むように陣形を組んだ。


「みな、さん……どうして……私はただの、機械なのに……」


マシロの目から、赤いノイズではなく、透き通った大粒の涙がこぼれ落ちた。


「機械だなんて言わせませんわ。あなたは私たちの、可愛い妹分ですのよ!」


シャルロットの叫びと共に、四人の乙女たちの魔力が一つに共鳴し、マシロを護る強力な結界を構築した。

その温かい光が、マシロの体を侵食していた赤いノイズを押し留める。


「アレン様!マシロの精神領域の防衛は私たちが受け持ちますわ!あなたは、あの忌々しいバグの本体を!」


シャルロットが僕を振り返り、力強く叫んだ。


「ああ、任せてくれ!僕の家族に手を出したこと、絶対後悔させてやる!」


僕は左腕の端末を起動し、マシロのシステムポートへと直接アクセスラインを繋いだ。


「【アンチウイルスアプリ】最大出力で起動!マシロのコアをハッキングから完全に隔離しろ!」


僕の現代科学チートの演算能力が、マシロのシステム内で暴れ回るバグのプログラムを次々とロックしていく。


「マシロ、君の意識は僕が絶対に守る。だから、みんなと一緒にあのバグを物理的にぶっ飛ばす計算をしてくれ!」


僕の呼びかけに、マシロは涙を拭い、コクリと力強く頷いた。


「……了解しました。お姉様方の魔力波長と、私の演算システムを同期します。対象の物理装甲の弱点座標を、皆さんの視覚野に転送」


マシロの青い瞳が、確かな意志と熱を帯びて輝きを放つ。


「いけるわね!みんな、マシロちゃんの指示に合わせて一気に決めるわよ!」


リズの号令と共に、四人の花嫁たちが一斉に武器を構え直した。

巨大なバグの本体が、獲物を奪われまいと無数の触手を振りかざして襲いかかってくる。

だが、僕が裏側からマシロを支え、マシロが四人の戦闘を完璧にサポートするこの陣形に、もはや死角は存在しなかった。


暗く冷たい地下水路の奥深くで、僕たちの本当の家族としての絆を証明する、熱く激しい最終決戦の火蓋が切って落とされた。


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