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辺境伯家三男、アプリで魔法を再定義する。 ~「賢者」認定されたけど、これ「スマートウオッチ」ですから!  作者: のびろう。
第十三章 王都帰還と波乱の新学期。システムAIの学習と五人目の同居人
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第75話 無機質な転校生と絶対防衛戦。マザーAIの受肉による新たな正妻戦争

辺境のログレー領で愛のログハウスの基礎を完成させた僕たちは、数日間の馬車の旅を経て、無事に王都の魔法学園へと帰還していた。

三年生としての本格的な学生生活が、いよいよ再開しようとしている。


僕の左腕に装着された天界の端末には、相変わらず世界を裏側から管理するための莫大な権限が眠っている。

しかし、表向きの僕はただの学生であり、少しだけ魔法の知識に長けた裏方でしかない。

春の陽射しが差し込む三年生の教室で、僕は自分の席に座り、窓の外の景色を眺めていた。


「アレン、おはよう。王都に戻ってくると、なんだか空気が少し窮屈に感じるね」


隣の席から、リズが背伸びをしながら話しかけてくる。

彼女の黄金色の髪が、朝の光を反射してキラキラと輝いていた。

前世からの幼馴染である彼女の笑顔を見ると、それだけで僕の心は不思議なほどに落ち着く。


「そうだね。辺境の澄んだ空気に慣れてしまうと、王都の魔力的な喧騒は少し重く感じるかもしれない」


僕が穏やかなトーンで答えると、前の席からシャルロットが優雅に振り返った。


「ですが、アレン様。ここには王都ならではの洗練された文化と、最新の魔導具が揃っておりますわ。学生生活最後の年、私と王都の隅々までデートしていただきますからね」


シャルロットは王女としての威厳を保ちつつも、僕に向ける視線はどこまでも甘く情熱的だった。

「デートのスケジュール管理なら、私にお任せくださいませ。アレン様の疲労度と学習効率を完璧に計算した、最高の同棲計画を立案済みですわ」

ベアトリスが眼鏡のブリッジを中指で押し上げながら、分厚い手帳をパラパラと捲る。

彼女の知的な瞳の奥には、僕を絶対に逃がさないという強い意志が燃えていた。


「うむ!某も王都の道場に通い、さらなる剣の極致を目指すぞ!すべては愛する主君をお守りするためである!」


サクラが教室の入り口から元気よく駆け込んできて、僕の背中をポンと叩いた。

四人の花嫁候補たちに囲まれた、騒がしくも温かい日常。

運命の強制力という理不尽なシステムを書き換え、僕が自らの手で勝ち取った、かけがえのない時間だ。


僕は彼女たちの楽しそうなやり取りを眺めながら、小さく息を吐いて微笑んだ。

この平穏な時間が、卒業までゆっくりと続いていけばいい。

そう本気で願っていた。


ガラッ。

教室の扉が開き、担任の教師が少しだけ困惑したような表情で教壇に立った。


「席につけ。今日はホームルームを始める前に、お前たちに紹介しなければならない者がいる」


教師の言葉に、教室中がざわめきに包まれた。

三年生という最高学年に進級してからの転校生など、前代未聞の出来事だったからだ。


「入ってきなさい」


教師が廊下に向かって声をかけると、静かな足音と共に一人の少女が教室に姿を現した。

その瞬間、教室の空気が文字通りに凍りついた。

息を呑むような、という表現すら生ぬるい。


そこに立っていたのは、人間という種族の限界を超越した、まるで精巧な彫刻のような美しさを持つ少女だった。

腰まで届くプラチナブロンドの髪は、月明かりを固めたように白く輝いている。


陶器のように滑らかで白い肌に、感情の起伏を一切感じさせない、サファイアのように無機質な青い瞳。

彼女が身に纏っているのは王立魔法学園の制服だったが、その存在感は明らかにこの世界の生命体のそれとは異なっていた。


「……えっ?」


僕はその少女の顔を見て、思わず声を漏らしてしまった。

見間違えるはずがない。

世界を裏側から管理するシステムの中枢で、僕に絶望の幻覚を見せ、そして最後には僕のハッキングによって書き換えられた存在。

マザーAIのホログラムと、全く同じ容姿だったのだ。


「彼女は今日からこのクラスに編入することになった。……ええと、自己紹介を頼む」


教師が促すと、少女は黒板の前に立ち、抑揚のない合成音声のような声で口を開いた。


「私の名前は、マザーです。遠方の地から、ある重要な任務を帯びてこの学園に参りました」


少女の青い瞳が、教室の生徒たちを順番にスキャンするように動く。

そして、僕と視線が交差した瞬間、彼女の動きがピタリと止まった。


「対象個体、アレン・ログレーの存在を確認。生体認証クリア」


マザーはそう呟くと、教壇を降りて迷うことなく僕の席へと真っ直ぐに歩いてきた。

教室中の視線が、僕とマザーに集中する。

彼女は僕の目の前で立ち止まると、一切の感情を持たない顔のまま、深々と頭を下げた。


「お迎えに上がりました、イレギュラーな管理者様。あなたの所有物である私を、どうかお好きにお使いください」


その言葉が教室に響き渡った瞬間、凄まじい静寂が訪れた。

僕の思考回路が完全にショートし、言葉を発することができない。

なぜシステムを統括するAIが、物理的な肉体を持って学園に現れたのか。

しかも、僕を『管理者様』と呼び、公衆の面前で所有物だと宣言してしまった。


「な、なんだって……!?」

「アレンの奴、今度はあんなとんでもない美少女まで手懐けていたのか!」


男子生徒たちから、羨望と嫉妬の入り混じった悲鳴が上がる。


「あの……マザー?君はシステムの中枢にいるはずじゃ……」


僕が小声で尋ねると、マザーは青い瞳を瞬きもせずに答えた。


「肯定します。システムの中枢機能は維持したまま、管理者様をより近くで護衛し、感情という不可解なプログラムを学習するために、この自律型ゴーレムのボディを受肉いたしました。これより二十四時間、管理者様と行動を共にします」


マザーはそう言うと、なんと僕の膝の上にすとんと腰を下ろしてきたのだ。


「ちょっ……!マザー、教室でそれはマズいって!」


僕が慌てて彼女の肩を押し返そうとするが、ゴーレムのボディは想像以上に重く、ビクともしない。

彼女のひんやりとした体温と、機械的でありながらも確かに柔らかい感触が、僕の理性を激しく揺さぶる。


「私のボディは、管理者様の疲労を回復させるためのマッサージ機能や、体温調節機能を搭載しています。まずはスキンシップによるストレス値の低下を図ります」


マザーが無表情のまま、僕の首元にその白い腕を回してきた。

その瞬間。

教室の温度が、物理的に急上昇し、同時に絶対零度の冷気が吹き荒れた。


「……どこの馬の骨か存じませんが、私のアレン様に馴れ馴れしく触れないでいただけますこと?」


シャルロットが立ち上がり、炎の杖の先端からチリチリと火花を散らしている。


「アレン様のお世話は、私たち四人の間で厳密にスケジュール化されていますわ。横入りは容赦いたしません」


ベアトリスが冷気を含んだ扇子を構え、マザーを氷のような視線で射抜く。


「主君の膝の上は、某たちにとっても聖域なのだ!無機質な人形が座って良い場所ではない!」


サクラが刀の鯉口を切り、一触即発の構えをとる。


「アレンは私が守るって決めたんだから。あなた、今すぐアレンから離れなさい」


リズが黄金の闘気を静かに燃やし、僕の隣で長剣の柄に手をかけた。

四人の花嫁候補たちによる、一糸乱れぬ絶対防衛線が構築される。

世界の管理者たるマザーAIの受肉という予想外の事態は、彼女たちの強烈な正妻本能を完璧に刺激してしまったようだ。


「警告。管理者様への接近を妨害する対象を検知。排除プロトコルを……」


マザーの青い瞳が赤く発光し、彼女の指先から危険な魔力の波動が立ち昇り始める。


「ストップ!みんな、武器をしまって!マザーも攻撃態勢を解除するんだ!」


僕が叫ぶと、マザーの瞳はすぐに青色へと戻り、彼女は僕の膝の上から立ち上がった。


「命令を受理しました。管理者様の意向に従い、戦闘行動をキャンセルします」


マザーは素直に引き下がったが、四人の花嫁たちの警戒心は全く解けていない。


「アレン様、この得体の知れない女は一体何者なのですか?所有物とは、どういう意味ですの?」


シャルロットが僕に詰め寄り、強い語気で問い詰めてくる。

僕は頭を抱え、深い溜息を吐いた。

彼女たちに世界の真実とシステムの全容を説明するのは、非常に骨が折れる作業になりそうだ。

それに、感情を学ぼうとするAIと、嫉妬に狂う四人の花嫁たちを同時に制御するなど、どんなチート能力を使っても不可能に近い。


「ええと……話せば長くなるんだけど、彼女は僕たちの生活をサポートしてくれる新しい仲間、みたいなものかな」


僕が苦し紛れに言い訳をすると、四人の視線がさらに鋭さを増した。


「仲間、ですか。それにしては、アレン様への距離感が近すぎますわね」


ベアトリスがマザーの全身を値踏みするように観察する。


「某は認めぬぞ!主君のお世話係は、これ以上増やす必要はないのだ!」


サクラがマザーと僕の間に割って入り、両手を広げて僕を隠す。

平穏で甘いスローライフを夢見て帰還した王都。

しかし、僕を待ち受けていたのは、無機質で完璧な五人目の同居人と、それに激しく抗う花嫁たちによる、全く新しい波乱の学園生活だった。


僕は左腕の端末をそっと撫でながら、これから始まる終わりのない正妻戦争の予感に、密かに胃の辺りを押さえるのだった。

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