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辺境伯家三男、アプリで魔法を再定義する。 ~「賢者」認定されたけど、これ「スマートウオッチ」ですから!  作者: のびろう。
第十一章 運命の強制力と消失の乙女たち。世界を敵に回したただ一人の反逆者
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第69話 運命の執行者との死闘。前世から続く愛と、光に消えた最後の幼馴染

世界がアレンをいじめるなら、私が世界をぶっ飛ばす。

リズの力強い宣言が教室に響き渡った直後、僕たちの周囲の空間がガラスのようにひび割れた。


パリンッという無機質な音と共に、現実の景色が剥がれ落ちる。

そこから姿を現したのは、魔族でも魔物でもない、青白い光のラインで構成された幾何学的な人型の物体だった。


『対象個体、及びイレギュラーな管理者の存在を確認。』

『運命の執行者システムエンフォーサーを実体化。これより強制パッチを適用し、バグを物理的に削除します。』


マザーの冷酷な音声と共に、光の人型はぬらりと腕を伸ばし、その先端を鋭利な刃へと変異させた。

一切の感情も生命の息吹も感じられない、世界を修復するためだけに生み出された殺戮の概念。

それが音もなく床を蹴り、僕の首を跳ね飛ばそうと迫り来る。


「させないって言ったでしょ!」


リズが黄金の闘気を纏った長剣を振るい、執行者の刃を正面から弾き飛ばした。


ガギィィィィンッ!


激しい火花が散り、教室の机や椅子が衝撃波で吹き飛ぶ。


「アレンは私が守る。絶対に、指一本触れさせないから!」


リズは僕を背中で庇うように立ち、剣の切っ先を執行者へと向けた。

その頼もしい背中を見つめながら、僕はギリッと奥歯を噛み締めた。

彼女一人に戦わせておくわけにはいかない。


「僕も戦う。この理不尽なシステムに、僕たちの未来を奪われてたまるか!」


僕は左腕の天界の端末をオーバークロックさせ、限界を超えた速度でコードを打ち込み始めた。

相手が物理法則を無視したシステム上の概念であるなら、僕の現代科学チートによるハッキングでその概念の装甲を剥がせばいい。


「【構造解析アプリ】フル稼働!執行者のプログラムの隙間を見つける!」


僕の瞳に展開されたホログラム画面に、無数の文字列が滝のように流れていく。

執行者が再びリズへと襲いかかり、目にも留まらぬ高速の斬撃が繰り出される。


「くっ……速い!」


リズが剣で防ぐものの、その重い一撃に顔をしかめる。


「リズ、右下から来る!三連撃だ!」


僕は解析した敵の攻撃パターンを、瞬時にリズへと伝達した。


「わかった!」


リズは僕の言葉を完全に信じ、見も見ずに右下への防御を固め、見事に三連撃を弾き返した。

前世の地球からずっと一緒にいて、この異世界でも数え切れないほどの死線を共に潜り抜けてきた僕たちだ。

背中合わせの共闘において、僕とリズの呼吸はこれ以上ないほど完璧にシンクロしていた。


「そこだ!右腕の関節部分、フレームの記述が甘い!全力で斬り込め!」


僕の叫びと同時に、リズが床を蹴って跳躍した。


「剣聖技・黄金閃破!」


リズの放った眩いばかりの黄金の剣閃が、執行者の右腕を根元から完全に切断した。


『エラー。機体の一部に致命的な欠損を確認。』


マザーの無機質な声が響き、執行者のバランスが大きく崩れる。


「いける!このまま押し切るよ、アレン!」


リズが着地と同時に再び踏み込み、執行者の胴体へと深い斬撃を刻み込んだ。

光の粒子が飛び散り、高次元の存在であるはずの執行者が、確実に崩壊へと向かっている。


いける。

勝てるかもしれない。


僕のハッキングによる弱点付与と、リズの剣聖としての圧倒的な火力の融合。

シャルロットやベアトリス、サクラの消失という絶望の底で、僕たちの連携はシステムの強制力すらも凌駕しようとしていた。


「これで、とどめだぁぁっ!」


リズが全身の闘気を剣に集束させ、執行者の胸の中心、コアと思われる光の球体へと渾身の一撃を突き立てた。


ピシッ……パリンッ!


コアが砕け散り、執行者の体が激しくノイズを放ちながら崩れ落ちる。


「やった……!」


僕は歓喜の声を上げそうになり、リズも安堵の笑みを浮かべて僕の方へと振り返った。

希望の光が見えた、その瞬間だった。


『警告。』

『執行者の破壊を確認。ローカルのバグが想定閾値を突破しました。』

『これより、最上位の管理者削除プロトコルへ強制移行します。』


崩れ落ちた執行者の残骸から、突如として漆黒の光線が放たれた。

それはリズを狙ったものではなかった。


世界のルールを乱す最大の原因であり、厄介な端末を持つ僕自身を、世界から直接デリートするための絶対的な消去光線だった。


「しまっ……!」


僕は端末で防壁を展開しようとしたが、間に合わない。

光速で迫る死の概念に対し、僕の体は一歩も動くことができなかった。


視界が真っ黒に染まり、すべてが終わる。

そう覚悟した時だった。


ドンッ!


僕の胸を強い力で突き飛ばし、一つの小さな体が僕の前へと割り込んできた。


「リズ……!?」


僕が床に倒れ込みながら目を見開くと、僕の身代わりに漆黒の光線を真っ向から受けたリズの姿があった。

彼女を包んでいた黄金の闘気が、ガラスが砕けるような音を立てて粉々に散っていく。


「あ……ぐっ……」


リズの手から剣が滑り落ち、彼女はその場に崩れ落ちそうになった。


「リズ!リズゥゥッ!!」


僕は弾かれたように起き上がり、倒れる彼女の体を必死に抱きとめた。


「アレン……よかった、間に合って」


僕の腕の中で、リズは苦しそうに、けれど心の底から安心したような笑みを浮かべた。

しかし、僕の視界に映る現実は、あまりにも残酷だった。


リズの足元から、あの忌まわしいノイズが猛烈な勢いで這い上がり、彼女の体を光の粒子へと変え始めていたのだ。

それはサクラたちが消滅した時よりも、遥かに速く、暴力的な消失の波だった。


「嘘だろ……嫌だ、リズ!どうして僕を庇ったんだ!」


僕は震える手で彼女の頬を包み込み、端末で必死にキャンセルのコマンドを打ち込もうとした。


「アレン……もう、いいよ」


リズが僕の手をそっと握り、首を横に振った。


「ダメだ!お前までいなくなったら、僕はどうすればいいんだ!前世からずっと一緒にいて、これからもずっと……!」


涙が溢れて止まらない。

シャルロットの気高さも、ベアトリスの知性も、サクラの忠誠も失った。

それでも僕が戦えたのは、前世からずっと僕を支え続けてくれた、たった一人の幼馴染が隣にいてくれたからだ。


「泣かないで、アレン。あなたの泣き顔、前世の時からずっと苦手なんだから」


リズの体が、すでに胸のあたりまで透けて見えなくなっていた。

それでも彼女の瞳は、これまでのどんな時よりも優しく、僕への深い愛情に満ちていた。


「私ね、アレンとこの世界に来られて、本当に幸せだったよ」


リズの透けゆく手が、僕の頬をそっと撫でた。


「ずっと裏方で頑張ってきたアレンが、みんなから英雄って呼ばれて、すごく誇らしかった。たくさんの女の子に好かれて、ちょっと妬いちゃったけど……でも、アレンの特別は私だって、ずっと信じてた」


彼女の言葉一つ一つが、僕の胸を鋭く、そして温かく締め付ける。


「アレン。私、あなたのことが大好き。前世の時から、ずっとずっと、愛してたよ」


リズは最後の力を振り絞り、僕の顔を引き寄せて、その額に優しく自分の額をすり合わせた。

彼女の心のすべてが、温かい光となって僕の中に流れ込んでくるような気がした。


「僕もだ……僕も、お前を愛してる!だから、行かないでくれ!」


僕の悲痛な叫びも虚しく、リズの体は眩い光の粒子へと完全に変わっていった。


「ありがとう、私のアレン……。どうか、生きて……」


春の風が教室を吹き抜け、黄金の光の粒子は空高く舞い上がり、跡形もなく消え去った。

僕の腕の中には、もはや彼女の温もりも、重さも、何も残っていなかった。


「あ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


僕は誰もいない教室で、天を仰いで獣のような慟哭を上げた。

声が枯れ、血の涙が流れるほどに叫び続けた。


僕のすべてだった四人の乙女たちは、世界という巨大な運命の力によって、完全に消去されてしまったのだ。

静まり返った教室の中、僕は一人、冷たい床に突っ伏していた。


どれほどの時間が経ったのだろうか。

絶望のどん底で、僕の心の中から悲しみが枯れ果て、代わりに冷たく、どこまでもどす黒い『怒り』が込み上げてくるのを感じた。


僕からすべてを奪った、この理不尽なシステム。

正しい歴史だのエラーだのとほざく、狂った世界。


そんなものが運命だというのなら、僕がその運命ごと、この世界をぶっ壊してやる。

僕はゆっくりと立ち上がり、左腕の天界の端末を睨みつけた。


「マザー……いや、クソッタレな神様。覚悟しろ」


僕は自身の命と魔力回路のすべてを代償にする禁忌のコマンドを展開し、システムの最深部へ直接ダイブするための準備を始めた。


もはや守るべき日常も、平穏なスローライフもない。

あるのは、愛する彼女たちを取り戻すための、僕の命を懸けた絶対的な反逆だけだ。


僕は一人、世界を敵に回した孤独な戦いへと足を踏み出していった。

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