表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境伯家三男、アプリで魔法を再定義する。 ~「賢者」認定されたけど、これ「スマートウオッチ」ですから!  作者: のびろう。
第十章 卒業と決断の三年生編。最後の一年と、未来へ続くスローライフ防衛戦
62/72

第61話 進級早々の進路相談。四人の花嫁が繰り広げる、仁義なき定住先プレゼン合戦

王立魔法学園の敷地内に植えられた魔力桜が満開に咲き誇る、うららかな春の日のことである。


辺境領での激動の春休みを終えた僕たちは、無事に進級を果たし、ついに最高学年である三年生としての新しい生活をスタートさせていた。


「はい、席につけ。今日からお前たちも学園の最上級生だ。気を引き締めていくように」


真新しい三年生の教室で、担任の教師が教壇に立ち、束になったプリントをポンポンと揃えた。


「まずはこの用紙を後ろへ回せ。提出期限は今週末までだ。よく考えて記入するように」


前から順番に回ってきたプリントを受け取り、僕はそこに書かれた太字のタイトルを見て深い溜息を吐いた。


『卒業後の進路希望調査票』と、そこには書かれていた。


「進路、か」


僕がぽつりと呟くと、隣の席のリズが身を乗り出してプリントを覗き込んできた。


「アレンはもう、卒業後の進路は決めてるの?」


「決まってるよ。辺境のログレー領に帰って、のんびりとした農業スローライフを送る。これ一択だね」


僕が迷いなく答えると、周囲の空気がピリッと張り詰めたような気がした。


春休みに僕の実家で、母上と何やら恐ろしい密約を交わしていた四人の乙女たちが、一斉に僕の机の周りへと集結してきたのだ。


「アレン様。農業スローライフも魅力的ですが、王都の生活も捨てがたいとは思いませんか?」


シャルロットが優雅な笑みを浮かべながら、どこから取り出したのか、一枚の豪華な羊皮紙を僕の机の上に広げた。


「これは……建物の図面?」


「ええ。お義母様からの助言もありまして、王都の一等地に私たちの新居となる『ログレー家・王都別邸』を建設中ですわ。広大な庭園に、最新の魔導設備を完備した最高級の愛の巣ですのよ」


シャルロットが頬を染めながら、とんでもないスケールの計画を嬉しそうに語る。


「ちょっとお待ちになって、シャルロット殿下。王都も悪くありませんが、物流と経済の中心地を選ぶのが今後の生活基盤として最適ですわ」


ベアトリスが扇子でシャルロットの図面をツンと押し退け、別の青写真を取り出した。


「ヴァンルージュ商会の本拠地がある商業都市の中心に、アレン様のための超高層ペントハウスを用意いたしましたわ。夜景を一望できる最上階で、毎晩私と知的な愛の語らいを楽しみましょう」


ベアトリスの眼鏡の奥が、ビジネスと情熱の入り混じった危険な光を放っている。


「二人とも、スケールが小さすぎるぞ!ヤマト国では、すでに母上の命により、アレン殿をお迎えするための『ログレー御殿』の建立が始まっておる!」


サクラがドンッと机を叩き、ヤマト国の伝統的な建築様式で描かれた巨大な城のような図面を提示してきた。


「温泉付きの広大な離れも完備しておるぞ!春休みの実家での混浴の続き、ヤマトでもたっぷりと堪能してくれ!」


サクラの爆弾発言に、教室中の男子生徒たちから怨嗟の呻き声が漏れ聞こえた。


「ちょっとみんな!勝手にアレンの定住先を決めないでよ!」


リズが三人の前に立ち塞がり、両手を広げて僕を庇うような姿勢をとった。


「アレンはさっき、ログレー領に帰るって言ったでしょ!お義母さんだって、本宅は辺境に構えるのが一番いいって言ってたんだから!」


リズの言葉に、僕はうんうんと深く頷いた。


「リズの言う通りだよ。王都の別邸も、ペントハウスも、ヤマトの御殿も、僕には立派すぎる。僕はただ、春休みにみんなで植えたあのお米の成長を見守りながら、秋には最高の卵かけご飯を食べたいだけなんだ」


泥だらけになって笑い合った、あの平和な春休みの光景。


あれこそが僕の求めていたスローライフの完成形なのだ。


僕の切実な訴えを聞いて、四人の乙女たちは顔を見合わせ、やがて同時にふふっと微笑んだ。


「なるほど。アレン様がどうしても辺境の領地を本宅にしたいと仰るのなら、仕方がありませんわね」


シャルロットが図面をパタンと閉じる。


「ええ。定住先が辺境になるというのなら、計画を少し変更するだけのことですわ」


ベアトリスも扇子を口元に当てて頷く。


「うむ!主君の意志こそが絶対であるからな!」


サクラも納得したように腕を組んだ。


「ほらね!やっぱりアレンは、私と一緒に実家で暮らすのが一番なんだよ!」


リズが勝利を確信したように僕の首に抱きついてくる。


一件落着。


僕の平穏なスローライフ防衛戦は、あっさりと勝利に終わったかに見えた。


「では、王都に建設予定だった別邸は、そのままログレー領の隣の敷地に丸ごと移築することにいたしますわ!」


シャルロットが高らかに宣言した。


「なっ……!?」


「私の商会の支部も、辺境領に巨大な流通拠点を新設して、そこをペントハウスにしますわ。アレン様のお宅からは徒歩一分ですのよ」


ベアトリスが涼しい顔で追撃をかける。


「ヤマトの御殿も、辺境の森を少し切り拓いて建築すれば問題ないな!いつでも歩いて通えるぞ!」


サクラがポンと手を叩いて名案だと言わんばかりの笑顔を見せた。


「え、ちょっと待って!それじゃあログレー領が建物の大渋滞になっちゃうじゃない!」


リズが慌てて抗議するが、三人の勢いは止まらない。


「問題ありませんわ。アレン様のご実家を中心にして、周囲を私たちの別邸で囲んでしまえば、アレン様はどこへも逃げられませんものね」


「防衛拠点としても完璧な布陣ですわ。これで新婚生活の警備も万全です」


「毎晩、どこの家で寝るか、アレン殿の奪い合いだな!望むところだ!」


教室の中で繰り広げられる、四人の花嫁候補たちによる仁義なき定住先プレゼン合戦。


僕の実家の周囲を、王族の別邸と公爵家の巨大ビルとヤマトの城で包囲するという、あまりにもはた迷惑で狂気じみた都市開発計画が、僕の目の前で着々と進行し始めていた。


「あの……みんな。僕の静かな農業スローライフはどこへ……」


僕の弱々しいツッコミは、四人の熱狂的な未来予想図の語り合いにかき消されてしまった。


母上が春休みに彼女たちに吹き込んだ「既成事実」と「囲い込み」の計画は、僕の想像を遥かに超えるスケールで実行に移されようとしているらしい。


僕が胃の辺りを押さえながら、真っ白な進路希望調査票を見つめていた、その時だった。


「アレン・ログレー。それに、リズ、シャルロット、ベアトリス、サクラ。至急、学園長室まで来るように」


教室の入り口に、険しい表情を浮かべた教師が姿を現し、僕たち五人の名前を呼んだ。


「学園長室に?僕たちがですか?」


僕が尋ねると、教師は重々しく頷いた。


「ああ。学園長が、お前たちに直接伝えなければならない重大な任務があるそうだ。遊び半分で済む話ではないぞ」


その言葉に、教室の空気が一瞬にして冷たく張り詰めた。


四人の乙女たちも、先ほどまでの浮かれた表情を一変させ、即座に歴戦の戦士としての鋭い眼差しを取り戻す。


春休みに辺境で退けた、上級魔族ザガンの不気味な最期の言葉が、僕の脳裏に蘇ってきた。


『学園の三年生に進級する前に、君たちの絶望する顔を見ておきたくてね』


奴は明らかに、三年生になった僕たちを待ち受ける『さらなる絶望』の存在を匂わせていた。


「行きましょう、アレン様。私たちの平穏な未来を脅かす火種があるのなら、卒業までにすべて消し去ってしまえばいいのですわ」


シャルロットが毅然とした態度で僕に手を差し伸べる。


「ええ。アレン様との完璧なスローライフを実現するためにも、世界を平和にするというタスクをさっさと消化してしまいましょう」


ベアトリスが扇子を閉じ、決意に満ちた瞳で僕を見つめる。


「僕たちの進路は、まだ白紙みたいだね」


僕は進路希望調査票を机の中にしまい込み、四人の頼もしい背中を追って教室を後にした。


最高学年としての生活が始まって早々、僕たちを待ち受けているであろう新たな試練。


卒業と決断の三年生編は、静寂を切り裂くような学園長からの呼び出しと共に、波乱の幕開けを告げたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ