第59話 限界突破の混浴露天風呂。四人の花嫁が仕掛ける、湯けむり越しの密着マウント合戦
ログレー辺境伯領の屋敷の裏手には、深い森に囲まれた大自然の恩恵である天然の秘湯が存在する。
魔族との死闘、そして荒野を農地へと変える大規模な農業チートによる泥まみれの作業を終えた僕は、父上の粋な(そして少し厄介な)計らいにより、その絶景の露天風呂へとやってきていた。
「ふぅ……最高だ……」
肩までたっぷりと湯に浸かり、僕は思わず極楽の溜息を漏らした。
湯船の周囲には岩が組まれ、その向こうには満天の星空と、夜風に揺れる木々のざわめきだけが広がっている。
お湯には微かな魔力成分が含まれており、酷使した筋肉の疲労や魔力回路の負荷が、じんわりと溶け出していくのが分かった。
「このまま朝まで浸かっていたい気分だな」
僕が目を閉じ、待ち望んでいた平穏なスローライフのひとときに身を委ねようとした、まさにその時だった。
ガラッ。
脱衣所と露天風呂を繋ぐ引き戸が、遠慮がちに、しかし確かな意思を持って開かれた。
「……アレン、お邪魔するね」
湯けむりの向こうから現れたのは、真っ白なバスタオルを胸の谷間でキュッと結んだだけという、あまりにも無防備な姿のリズだった。
「えっ!?リズ!?ちょ、ここは男湯というか、僕が先に入ってるって父上が……!」
僕が慌ててお湯の中に肩まで沈み込むと、リズの後ろからさらに三人の人影が姿を現した。
「お義父様とお義母様からは、すでに『アレンの背中を流してあげなさい』と正式な許可を頂いておりますわ」
バスタオル越しでも隠しきれない豊満なプロポーションを誇るシャルロットが、妖艶な笑みを浮かべて歩み寄ってくる。
「実家への挨拶を済ませたのです。私たちの関係において、もはや混浴などという些末な壁は存在しませんわ」
ベアトリスが眼鏡を湯気で曇らせながらも、知的な色気を漂わせて続く。
「う、うむ!農作業の泥を落とすには、互いに背中を流し合うのがヤマトの習わしであるからな!」
サクラが顔を真っ赤にして恥じらいながらも、しっかりとバスタオルを握りしめて僕を見据えていた。
四人の絶世の美少女たちが、白い肌を上気させながら露天風呂の縁に並ぶ。
これは夢か幻か。いや、限界突破のサバイバルラブコメディの開幕だった。
(……今日こそ、絶対に私からいくんだから!)
リズは胸の内で強く決意していた。
幼馴染として一番長くアレンの隣にいた。前世からの絆もある。けれど、だからこそ「家族」のような安心感に甘えてしまっていた部分があった。
泥だらけになって一緒に笑い合った今日。アレンの隣に立つ資格を、言葉ではなく肌で伝えたい。
「アレン、背中流すね」
リズは桶にお湯を汲むと、アレンの背後にぴたりと座り込んだ。
彼女の柔らかな胸の感触が、バスタオル越しにアレンの背中へとダイレクトに押し当てられる。
「ひゃっ!?リ、リズ、近い!当たりすぎてる!」
「ふふっ、幼馴染の特権だよ。それに、今日はいっぱい頑張ったでしょ?私が隅々まで癒やしてあげるから」
リズはアレンの広い背中を石鹸で泡立てながら、その引き締まった筋肉に指先を這わせた。
熱いお湯と、リズの肌の温もり。アレンの背中がビクッと跳ねるのを感じ、リズは優越感と甘い疼きに包まれた。
(王族としての矜持など、この熱いお湯の中に溶かしてしまえばいいのですわ)
シャルロットは、リズに密着されているアレンを見て、対抗心を燃え上がらせた。
大魔王を倒し、魔族を消し去る彼の大いなる力。そんな無敵の英雄が、自分の前では戸惑い、頬を赤く染める。そのギャップがたまらなく愛おしかった。
「リズさんばかりずるいですわ。アレン様の右腕の疲れは、私が取って差し上げます」
シャルロットは湯船に入ると、アレンの右側にぴったりと寄り添った。
お湯の中で、彼女の滑らかな太ももがアレンの足に絡みつく。
「シャ、シャルロット!?お湯の中だと色々と……!」
「アレン様ったら。私のすべてを受け入れてくださると、お義父様たちの前で誓ってくださったではありませんか。もっと、私を感じてくださいませ」
シャルロットはアレンの右腕を自分の胸元へと引き寄せ、熱っぽい吐息を耳元に吹きかけた。
(理詰めの計算など、ここでは無意味。必要なのは、本能に訴えかけるスキンシップですわ)
ベアトリスは、冷静な頭脳で状況を分析しつつも、自らの内側から湧き上がる熱情を隠すことをやめた。
「左腕は私が担当いたしますわ。アレン様のチートを引き出す大切な腕、念入りにマッサージしなければなりませんものね」
ベアトリスはアレンの左側に回り込み、お湯の中で彼の左腕を両手で包み込んだ。
そして、彼女の形の良い胸の谷間へと、アレンの腕を意図的に滑り込ませたのだ。
「わっ!?ベアトリス、それはいくらなんでも計算が過ぎるというか……!」
「ふふっ、私の計算に狂いはありませんわ。アレン様の心拍数が、今、急激に上昇しているのが分かりますもの」
ベアトリスは眼鏡を外し、普段の知的な姿からは想像もつかないほどに甘く、とろけるような視線をアレンへと向けた。
(ヤマトの女として、恥じらいは捨てるべき時!主君のすべてを、某が包み込むのだ!)
サクラは、三人に出遅れた焦りを感じながらも、覚悟を決めて湯船に浸かった。
「ア、アレン殿!某は、正面から貴殿の胸を流させてもらうぞ!」
サクラは顔から火が出るほど赤面しながら、アレンの真正面へと陣取った。
お湯の屈折で、彼女の健康的な肌とバスタオルの際どいラインがチラチラと見え隠れする。
「サ、サクラまで!正面は一番やり場に困るんだけど!」
「遠慮は無用だ!今日、あの恐ろしい魔族を打ち倒せたのはアレン殿のおかげ。某のこの身を以て、最大限の感謝を伝えるのだ!」
サクラはアレンの胸板に両手を添え、優しく、しかし確かな熱を込めて撫で上げた。
「ちょっとサクラ、正面は私が先に行くつもりだったのに!」
「抜け駆けは許しませんわよ!アレン様、私の胸の鼓動、もっと近くで聞いてください!」
「お二人とも騒がしいですわ。アレン様は私のマッサージで完全にリラックスされておりますのに」
「某の誠意が一番伝わっているはずだぞ!」
四人の美少女たちが、狭い露天風呂の中でアレンの体を巡って激しいマウント合戦を繰り広げる。
右からシャルロットの情熱的な密着、左からベアトリスの計算された色仕掛け。
背中にはリズの柔らかな感触が押し当てられ、正面ではサクラが恥じらいながらも懸命にスキンシップを図ってくる。
「あ、ああ……っ、みんな、ストップ!お湯が、お湯が熱すぎる!」
アレンは四方向からの完璧な包囲網と、限界突破のラッキースケベな状況に、ついに理性のダムが決壊寸前まで追い込まれていた。
大自然の秘湯という非日常の空間と、両親公認という逃げ場のない事実。
彼女たちの想いと熱気が、露天風呂のお湯の温度を物理的に急上昇させているかのようだった。
「アレン様、顔が真っ赤ですわよ?のぼせてしまったのですか?」
「だ、大丈夫だから!少しだけ、少しだけ離れて!」
「ダメだよ。今日は絶対に、アレンの全部を洗ってあげるって決めたんだから」
四人は一切引く様子を見せず、むしろさらに距離を詰めてアレンの体に密着してくる。
「……もう、どうにでもなれ」
アレンは抵抗を諦め、夜空を見上げて深い、そして最高に幸せなため息を漏らした。
星屑が瞬く辺境の空の下。
激闘と農作業の疲れを癒やすはずの露天風呂は、四人の花嫁候補たちによる、限界ギリギリの甘く艶やかなスキンシップの戦場と化していた。
平穏なスローライフは相変わらず遠い未来の話だが、この温かく騒がしい時間が、アレンにとって何よりも愛おしい宝物であることは間違いなかった。




