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辺境伯家三男、アプリで魔法を再定義する。 ~「賢者」認定されたけど、これ「スマートウオッチ」ですから!  作者: のびろう。
第九章 春休み・実家帰省編。辺境の魔族騒動と、米作りに懸けるスローライフの夢
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第57話 迫り来る絶望と賢者の神撃。愛する者たちを束ねた一矢が、上級魔族の理を撃ち抜く

焼け焦げ、あるいは凍りついた魔物たちの死骸が散乱する平原の奥。

黒い靄が渦を巻き、その中から一つの影がゆっくりと、だが確かな足取りでこちらへと向かってきた。


距離が縮まるにつれ、その姿が明らかになる。


人間の青年に似た姿をしていたが、肌は透けるように青白く、額からは山羊のような漆黒の角が二本伸びている。

そして何より、その全身から放たれる魔力の波長が、先ほどの数万のスタンピードとは比較にならないほどに重く、禍々しかった。


「……素晴らしい。実に素晴らしいショーだったよ」


男が足を止め、薄い唇を三日月のように歪めて笑った。

その声は大きく張り上げているわけでもないのに、砦の城壁の上にいる僕たちの耳に直接響き渡った。


「君たちが、ヤマトの島国で『あの大魔王』を屠ったというイレギュラーたちか。なるほど、あれだけの捨て駒を一瞬で片付けるとは、噂通りの火力のようだ」


「貴様、何者だ!このスタンピードを仕組んだのは貴様だな!」


守備隊長の老騎士が声を荒げ、剣を構えた。


「自己紹介が遅れたね。私は魔神将が一人、ザガン。王都の学園でぬるま湯に浸かっているイレギュラーの力を、直々に測りに来てあげたのさ」


ザガンと名乗った上級魔族は、優雅にお辞儀をした。


「学園の三年生に進級する前に、君たちの絶望する顔を見ておきたくてね。さあ、余興は終わりだ。死の時間だよ」


ザガンが軽く指を鳴らした瞬間だった。


ドゴォォォォォォンッ!!


僕たちのいる城壁に、目に見えない巨大な質量の塊が激突したかのような衝撃が走った。


「ぐわぁぁぁっ!?」


「な、なんだこの異常な魔力圧は……!」


周囲にいた辺境の騎士団たちが、ザガンが放った魔力のプレッシャーだけで次々と泡を吹いて気絶し、その場に倒れ伏してしまった。


「父上の騎士たちに何をする!」


リズが激昂し、黄金の闘気を爆発させて跳躍した。


「サクラ、合わせて!」


「承知!」


サクラも同時に地を蹴り、左右からザガンを挟み込むようにして神速の斬撃を放つ。


リズの音速を超える剣聖技と、サクラの必殺のヤマト抜刀術。先ほど巨大なゴーレムアーマーすら真っ二つにした二人の同時攻撃が、ザガンの首と胴体を正確に捉えた。


しかし。


ガギィィィィィィンッ!!!


「なっ!?」


「馬鹿な……!」


二人の最強の剣撃は、ザガンの肌に触れる数センチ手前で、見えない壁に弾かれるようにピタリと止まっていた。


「遅いし、軽いね。物理的な斬撃など、私の『空間歪曲』の前には止まっているのと同じだよ」


ザガンが嘲笑うと共に、二人の周囲の空間がぐにゃりと歪んだ。


「しまっ……!」


ドゴォォォォッ!!


リズとサクラの体が、目に見えない巨大なハンマーで殴られたかのように弾き飛ばされた。


「きゃあっ!」


「ぐぅっ……!」


二人は平原の地面を何度もバウンドして転がり、激しく咳き込んで血を吐いた。


「リズ!サクラ!」


僕が悲鳴を上げる。


「アレン様、ここは私たちにお任せを!」


城壁の上から、シャルロットとベアトリスが同時に極大魔法の詠唱を完了させていた。


「焼き尽くしなさい!極大紅蓮業火クリムゾン・インフェルノ!!」


「凍てつけ!絶対零度・氷結陣コキュートス・フィールド!!」


先ほど数万の魔物を一瞬で塵にした、炎と氷の合体魔法。それが真っ直ぐにザガンへと降り注ぐ。

しかし、ザガンは避ける素振りすら見せず、両手を広げた。


「無駄だよ。そんな大味な魔法、ただの餌にすぎない」


ザガンの両手からブラックホールのような漆黒の渦が出現し、シャルロットの炎とベアトリスの冷気を、まるで掃除機のようにすべて吸い込んでしまったのだ。


「そ、そんな……!私たちの最大魔法が、完全に吸収されましたわ!?」


シャルロットが驚愕に目を見開く。


「『魔力捕食』……!相手の魔力を喰らい、自らの力に変換する能力ですわ!」


ベアトリスが顔面を蒼白にさせた。


「ご名答。そして、いただいた魔力は倍にしてお返ししよう」


ザガンが両手を前に突き出すと、先ほど吸収された炎と氷が、禍々しい黒色の濁流となってシャルロットとベアトリスへと逆流してきた。


「しまっ……防壁展開!」


二人は慌てて魔法障壁を張るが、倍加された威力の前に障壁はガラスのように砕け散った。


「きゃあああああっ!!」


「ああっ!!」


凄まじい爆発が起こり、シャルロットとベアトリスの体が城壁の上から平原へと吹き飛ばされてしまった。


「シャルロット!ベアトリス!」


僕は【重力操作】を限界まで使って、落下していく二人の体をなんとか空中で受け止め、平原の地面へと静かに降ろした。

急いで駆け寄ると、すでに吹き飛ばされていたリズとサクラも、痛む体を引きずって集まってきていた。


「アレン……ごめん……あいつ、強すぎる……」


リズが口元から血を流し、悔しそうに顔を歪める。


「私たちの最大魔法も通じないなんて……絶望的な力量差ですわ……」


ベアトリスも膝をつき、荒い息を吐いている。

物理攻撃は空間を歪められて通じず、魔法攻撃は吸収され倍返しにされる。

こちらの手札は完全に封じられ、ヒロイン四人は魔力と体力を激しく消耗し、立ち上がるのがやっとの状態だった。


絶体絶命のピンチ。


「さて、イレギュラーの力などこんなものか。大魔王も地に落ちたものだ。さあ、全員まとめて塵にしてあげよう」


ザガンの頭上に、これまでの攻撃とは比較にならない、空間そのものを消滅させるような漆黒の魔力球が生成され始めた。


あれが放たれれば、僕たちはおろか、背後にある防衛砦ごと消滅してしまうだろう。

ヒロインたちの顔に、明確な死の恐怖と絶望が浮かぶ。


しかし。


「……ふざけるな」


僕は倒れ伏す四人の乙女たちの前に進み出て、ザガンを真っ直ぐに睨みつけた。


「お前なんかに……僕の故郷を、そして僕の愛する人たちを、指一本触れさせてたまるか!!」


僕は左腕の【天界の端末】のセーフティを全解除し、メインシステムを最大出力で起動した。


「アレン!ダメだ、一人じゃ……!」


リズが叫ぶが、僕は振り返らずに四人に念話を飛ばした。


『みんな、残っている魔力と闘気を、すべて僕に預けてくれ!』


「アレン様……!?」


『四人の全く異なるエネルギーを、僕のチートで一つのことわりに書き換える!』


僕の言葉に、四人の乙女たちは顔を見合わせ、そして強く頷いた。


「わかった!私の全部、アレンに預ける!」


「私の愛の炎、すべてお使いくださいませ!」


「私の氷も、アレン様のもの!」


「某の剣気も、すべて主君に捧げるぞ!」


四人の体から、最後の力を振り絞った黄金、真紅、氷青、そして薄紅色の光が立ち昇り、僕の左腕の端末へと流れ込んできた。


「【物理法則改変アプリ】、起動。吸収された四つのエネルギーのベクトルを収束。魔力捕食の概念を『無効』化し、空間歪曲の法則を『貫通』へと書き換えろ!」


ミシミシと僕の魔力回路が悲鳴を上げ、端末から凄まじい熱が発せられる。


「なんだ……?その光は……!」


ザガンが生成していた漆黒の魔力球の動きが止まる。


僕の左腕に集束した四つの光は、やがて一本の眩いほどに輝く『光の矢』へと形を変えた。

リズの剣の鋭さ、サクラの神速、シャルロットの火力、ベアトリスの冷徹な論理。

四人の愛する乙女たちの想いと、僕の現代科学チートが完全に融合した、究極のバフ合体魔法。


「これで終わりだ!『賢者の神撃オメガ・ストライク』!!」


僕が左腕を突き出した瞬間、光の矢が音も無く平原を駆け抜けた。


「馬鹿なッ!私の空間歪曲が……破られ……!」


ザガンが慌てて空間の壁を展開し、魔力捕食の渦を生み出そうとするが、物理法則そのものを書き換えられた光の矢の前には、何の意味も持たなかった。


光の矢は、ザガンのあらゆる防御概念をすり抜け、その心臓を正確に貫いた。


ドズゥゥゥゥンッ!!!


「ガァァァァァァァァッ!!??」


ザガンの断末魔の絶叫が轟き、その体が内側から強烈な光に包まれて膨張していく。

そして、大爆発と共に、上級魔族の体は細胞の一つ一つに至るまで完全に塵と化し、平原の彼方へと消し飛んでいった。


圧倒的で理不尽な絶望は、僕たちの力を一つに束ねた一撃によって、鮮やかに、そして爽快に打ち砕かれたのである。


「はぁ……はぁ……」


僕は限界を超えた魔力行使により、その場にガクリと膝をついた。


「アレン!」


「アレン様!」


四人の乙女たちが、ボロボロの体を引きずりながら僕の元へと駆け寄り、僕を抱き起してくれた。


「やったな、アレン……!私たち、勝ったんだね!」


リズが涙で顔をくしゃくしゃにしながら、僕の胸に顔を埋めてくる。


「ええ。アレン様の奇跡の力が、またしても私たちを、そして故郷を救ってくれましたわ!」


シャルロットも僕の腕にすがりついて泣き笑いの表情を浮かべている。

ベアトリスとサクラも、安堵の涙を流しながら僕の肩に顔を寄せた。


「みんなの力があったからだよ。みんなが僕を信じて、力を預けてくれたから勝てたんだ」


僕は四人の背中を優しく撫で、疲れ切った体に染み渡るような温もりを感じていた。


上級魔族が消滅したことで、魔の森から感じていた不気味な気配も完全に霧散し、辺境領の空に再び穏やかな太陽の光が差し込み始めた。


城壁の上から、息を吹き返した騎士団たちの大歓声が聞こえてくる。

巨大な魔族の影を退け、僕たちは故郷に平和を取り戻したのだ。


「さあ、おうちに帰ろう。父上や母上が心配してるからね」


僕が立ち上がると、四人の乙女たちは最高の笑顔で頷き、僕を囲むようにして歩き出した。

絶体絶命のピンチを乗り越えたことで、彼女たちの僕に対する重すぎる愛情と絆は、さらに深く、強固なものへと進化してしまったようである。


平穏なスローライフへの道のりは遠いが、この愛おしい仲間たちがいる限り、どんな困難も乗り越えていけると、僕は青空を見上げながら静かに確信していた。

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