第55話 帰郷の大パレードと四人の花嫁。男のケジメと、辺境伯の顔に落ちる忍び寄る影
王都から大型の魔導馬車に揺られること数日。
僕たちはついに、故郷であるログレー辺境伯領へと足を踏み入れた。
「うわぁ……すごい人だよ、アレン!」
窓の外を見たリズが、驚きの声を上げる。
普段はのどかで落ち着いている辺境の街が、今日ばかりは信じられないほどのお祭り騒ぎになっていた。
大通りには無数の領民たちが詰めかけ、僕たちの乗る馬車に向かって色とりどりの紙吹雪を降らせている。
無理もないことだった。
ヤマト国で大魔王を討伐し、大陸魔法交流戦で圧倒的な完全優勝を飾った僕たちは、今や王都だけでなく王国中で『世界を救った英雄』として名を轟かせていたからだ。
しかも、辺境伯家の三男坊である僕が、王国の姫君、公爵令嬢、ヤマト国の姫君、そして地元出身の剣聖という四人の絶世の美少女を連れて帰ってきたのだから、領民たちのテンションは完全に限界を突破していた。
「アレン坊ちゃま、万歳!」
「リズちゃんも立派になって!」
「王女殿下までいらっしゃるぞ!」
熱狂的な大歓声とパレードのような歓迎を受けながら、僕たちはまず、大通り沿いにあるリズの実家へと馬車を寄せた。
リズの実家は、代々ログレー辺境伯家に仕える優秀な騎士の家系である。
「お父さん、お母さん、ただいま!」
馬車を飛び降りたリズが、出迎えてくれた両親と幼い弟妹たちに向かって駆け寄る。
「おお、リズ!本当によく無事で帰ってきてくれたな!」
「すっかり綺麗になって……自慢の娘だよ」
リズの両親が涙ぐみながら彼女を強く抱きしめ、弟や妹たちも嬉しそうに飛びついている。
「お久しぶりです。リズにはいつも助けられています」
僕が頭を下げて挨拶をすると、リズの父親は恐縮したように何度も首を横に振った。
「とんでもない!アレン様こそ、国を救う英雄になられたというのに我が娘を変わらず大切にしてくださり、本当にありがとうございます」
リズの家族との温かく賑やかな再会を終え、僕たちは領地の中心にそびえ立つ辺境伯の屋敷へと向かった。
◇
屋敷の広大な玄関前では、僕の両親と二人の優秀な兄たちが、どこか緊張した面持ちで待ち構えていた。
「ただいま帰りました、父上、母上。兄上たちもお久しぶりです」
僕が家族に向けて深く一礼をすると、辺境伯である父がゴクリと喉を鳴らした。
「お、おお……よく帰ってきたな、アレン。だが、その後ろにいらっしゃる高貴な方々は……」
「初めまして。アレン様の婚約者、シャルロットですわ」
「同じく婚約者の、ベアトリス・ヴァンルージュと申します」
「ヤマト国から参りました、サクラと申す!某もアレン殿の妻となる者だ!」
「私もアレンのお嫁さんになるからね!」
四人のヒロインたちが、一斉に僕の横に並んで優雅に、そして力強く挨拶をした。
「こ、婚約者……しかも四人だと!?」
父が驚愕に目を見開き、母はあまりの事態にフラフラと眩暈を起こして長男に支えられていた。
「アレン、お前……王女殿下や公爵令嬢まで連れ帰ってくるとは、一体どういうことだ?」
次男の兄が、呆れたような、畏れ多いような声で尋ねてくる。
無理もない反応だった。
僕は一呼吸置き、両親と兄たち、そしてヒロインたちに向き直って真剣な表情を作った。
「色々な事件に巻き込まれて、いつの間にか、こうなっちゃったんだ。でも、僕は彼女たちの想いに、自分のすべてを懸けて責任を取るよ」
僕の真っ直ぐな言葉に、四人の乙女たちが息を呑む。
「僕は辺境伯家の三男だから、領地を継ぐ立場じゃない。だからこそ、自由な立場で彼女たち全員を守り抜くことができる」
僕は四人の顔を順番に見渡し、一番長く共に過ごしてきた幼馴染の小さな手をそっと握った。
「前世からの約束もある。僕の『正妻』は、リズだ。これだけは誰にも譲れない」
「アレン……っ!」
リズの碧眼から、嬉し涙が大粒の宝石のようにポロポロとこぼれ落ちる。
「ですが、シャルロットも、ベアトリスも、サクラも、僕にとっては命に代えても守りたい大切な人たちです。順列はついてしまうかもしれないけれど、僕は絶対に、全員まとめて幸せにすると誓います」
僕が両親の前で力強く宣言すると、シャルロットたちは顔を赤く染めながら、目に涙を浮かべて優しく微笑んだ。
「もちろんですわ。私、アレン様のそばにいられるなら、どのような立場でも構いませんのよ」
「ええ。アレン様のその誠実さこそが、私たちが愛した理由なのですから」
「うむ!ヤマトの誇りにかけて、某も生涯貴殿にお仕えするぞ!」
四人の絶世の美少女たちと僕の間に流れる、揺るぎない絆と重すぎる愛情。
それを見せつけられた両親と兄たちは、深い溜息を吐いた後、やれやれと笑い合った。
「まったく……領地を継がない三男坊が、我が家で一番の大物になったようだな」
父が豪快に笑い、母も「可愛い娘が四人も増えるなんて嬉しいわ」と目尻の涙を拭っている。
◇
無事に家族への怒涛の挨拶を終え、僕たちは屋敷の広間で領地の特産品を使った盛大な歓迎の宴を楽しんだ。
しかし、宴もたけなわとなった頃。
僕はふと、父や屋敷を警護する騎士たちの顔に、隠しきれない深い疲労の色が色濃く滲んでいることに気がついた。
「父上。なんだか、騎士団の皆さんも随分と疲弊しているようですが、何かあったのですか?」
僕が静かに尋ねると、父は持っていたワイングラスをテーブルに置き、表情を険しくした。
「……気づいたか、アレン。実は最近、国境付近での魔物の動きが異常なほど活発化しているのだ」
辺境伯領の最大の役割は、隣接する魔の森や国境から押し寄せる魔物から、王国を防衛することにある。
「普段の討伐の数倍もの魔物が、連日のように押し寄せてきている。騎士団も総出で対処しているが、皆休む暇もなく、疲労が限界に近づいているのだ」
父の重苦しい言葉に、宴の空気が一気に引き締まった。
「ただの繁殖期や季節の変わり目ではない、と?」
ベアトリスが鋭い眼差しで問いかける。
「ああ。まるで、何者かが意図的に魔物を操り、この領地を狙い撃ちしているかのような、そんな不気味な統率力を感じるのだ」
父の言葉に、僕は左腕の端末を無意識に撫でた。
大魔王を討伐し、平穏なスローライフを送るための春休み。
しかし、僕の故郷に忍び寄る不穏な影は、その平穏を許してはくれないようだった。
「父上。明日から、僕たちも防衛任務に加わります。故郷のピンチを見過ごすわけにはいきませんからね」
僕の提案に、ヒロイン四人も当然のように力強く頷く。
「アレン様の故郷は、私たちの故郷も同然ですわ!どのような敵であろうと、私たちが灰燼に帰して差し上げます!」
シャルロットが炎の杖を握りしめ、頼もしく宣言した。
英雄の帰郷と、誠実な愛の宣言。
温かな家族の絆を確かめ合った僕たちは、故郷を脅かす未知の脅威へと立ち向かうため、新たな決意を胸に辺境の夜を迎えたのだった。




