第49話 内緒のロイヤル・スパと国王の助言。蕩ける乙女たちへのゴッドハンド・マッサージ
大陸魔法交流戦という、国家の威信を懸けた巨大なイベントが、王国代表……いや、僕の婚約者たちの圧倒的な完全優勝という形で幕を閉じた。
王都は祭りの後のような心地よい興奮に包まれているが、当事者である四人の乙女たちは、連日の激闘と神経を削る魔法行使によって、その美しい顔に隠しきれない疲労を滲ませていた。
「みんな、本当にお疲れ様。今日は僕からとっておきのご褒美を用意したんだ。今から馬車で移動するから、準備をしてくれるかな?」
僕がそう告げると、リズたちは不思議そうな顔をしながらも、僕への絶対的な信頼から素直に用意を整えてくれた。
今回の「ご褒美」の場所は、シャルロットにも内緒で手配したものだ。
数日前、僕は王城の奥深くで、義父となる国王陛下と密会していた。
「……というわけで陛下、彼女たちのこれまでの功績を労うために、最高の休息の場を用意したいのです」
僕の相談に、国王は豪快に笑いながら、僕の肩をガシガシと叩いた。
「わっはっは!よいぞよいぞ、アレン殿!娘たちがあそこまで華々しく他国を圧倒してくれたのだ。王族として、これ以上ない鼻高々というものよ!」
国王はそう言って、懐から一本の黄金の鍵を取り出した。
「これは王家が極秘に所有する、山間の隠れ里にある『ロイヤル・クリスタル・スパ』の鍵じゃ。代々の王族しか立ち入ることを許されぬ、至高の療養地よ。そこを貸し切りにしてやるがよい」
「ありがとうございます。彼女たちも喜ぶと思います」
僕が鍵を受け取ろうとすると、国王はふと真面目な顔になり、僕の耳元でニヤリと笑いながら囁いた。
「ところでアレン殿……お主、あの子たちと婚約して随分経つが、そろそろ『手』を出してもいいんじゃよ?いや、むしろ父親としては早く孫の顔が見たいくらいでな」
「へっ!?そ、それはまだ時期尚早というか……」
「がはは、照れるな!お主ほどの英雄なら、誰も文句は言わん。……あ、一つだけ忠告じゃ。その場合は、シャルロットだけでなく他の娘たちも平等にするのが円満の秘訣じゃぞ?女の嫉妬は、大魔王よりも恐ろしいからのう……」
国王からの、あまりにも生々しくも親身なアドバイスに、僕は引き攣った笑顔を浮かべることしかできなかった。
そして現在。
僕たちが乗った特製の馬車は、王都の喧騒を離れ、魔法の結界に守られた霧深い渓谷へと入っていった。
「アレン様、ここは……?こんな場所に王家の結界が張られているなんて、私、知りませんでしたわ」
シャルロットが窓の外を見つめ、驚きの声を上げる。
「陛下に特別に許可を頂いたんだ。王族専用の秘湯、ロイヤル・クリスタル・スパ。今日から三日間、ここを僕たちの貸切にしてもらったよ」
「王族専用のスパ!?そんな凄いところ、私みたいな平民が入ってもいいの?」
リズが目を丸くして身を乗り出す。
「アレン様のご配慮、痛み入りますわ。交流戦の疲れが、この空気だけで少し癒やされるようです」
ベアトリスが優雅に扇子を揺らす。
「うむ。温泉か!ヤマト国のそれとはまた違う趣がありそうだな。楽しみだぞ、アレン殿!」
サクラも期待に胸を膨らませていた。
馬車が到着した先にあったのは、白亜の石材とクリスタルで装飾された、宮殿のような巨大なスパ施設だった。
周囲には色とりどりの魔法植物が咲き乱れ、空気中には高濃度の魔力粒子が漂っている。
僕たちはまず、施設内にある最高級のスイートルームへ荷物を置くと、アレン特製の「水着」に着替えて、広大な温水プールへと向かった。
「わぁぁ……!お水がキラキラしてる!」
リズが一番に飛び込み、青い水面に白い飛沫を上げる。
「温度も完璧ですわ。まるで温かい絹に包まれているようです」
シャルロットもゆっくりと水に浸かり、心地よさそうに目を細める。
僕はプールのサイドにあるバーカウンターで、ヤマト国の果実と王国の魔法薬草をブレンドした、特製の「魔力回復フルーツパンチ」を作り、四人に振る舞った。
「美味しい……!疲れがスゥッと抜けていくみたい」
「アレン様の作るものは、いつも驚きに満ちていますわね」
最高級のスパと、僕のチート料理。
乙女たちの表情からは、次第に戦いの険しさが消え、十七歳の少女らしい柔らかな笑顔が戻ってきた。
しかし、今回のご褒美の本番はここからだ。
夕食後。部屋のテラスに設置された、プライベートなマッサージルーム。
そこには、アレンが【物質合成アプリ】で精製した、最高級の美容魔法オイルが並べられていた。
「さて……。陛下から『平等に』と言われたしね。みんな、今日は僕が直接、君たちの体をケアしてあげるよ」
僕がそう宣言すると、四人の動きがピタリと止まった。
「えっ……アレンが、直接……?」
リズが顔を真っ赤にして、バスタオルをギュッと抱きしめる。
「アレン様、それは……つまり、マッサージを、してくださるということですの?」
シャルロットが期待と恥じらいの入り混じった瞳で僕を見つめる。
「ふふっ、公爵令嬢として、アレン様の『ゴッドハンド』を拒む理由はありませんわ。むしろ、望むところです」
ベアトリスが挑戦的な笑みを浮かべる。
「主君自ら某の体を……。うむ、武人の嗜みとして、しっかりと受けさせていただこう!」
サクラも赤面しながら正座をした。
僕はまず、一番手のサクラをマッサージ台へと促した。
「サクラ、力を抜いて。君の筋肉は、交流戦の抜刀術でかなり酷使されているからね」
「う、む……頼む……」
うつ伏せになったサクラの、しなやかで引き締まった背中に、僕は温めたオイルを垂らした。
【医療ナノマシンアプリ】を微弱に起動し、僕の手のひらに治癒の魔力を纏わせる。
「……あっ」
僕の手が彼女の肩甲骨に触れた瞬間、サクラの口から小さく色っぽい声が漏れた。
「っ……!アレン殿、その手、なんだかすごく熱いのだ……。某の体の芯まで、熱が染み込んでくる……」
「ナノマシンが筋肉の微細な損傷を修復しているんだ。少し痛むかもしれないけど、すぐに楽になるよ」
僕は彼女の背中から腰にかけて、ゆっくりと体重を乗せながら揉みほぐしていく。
ナノマシンによる細胞レベルの修復と、僕の魔法的なアプローチ。
サクラの体はみるみるうちに弛緩し、彼女の頬はトロンとした熱に染まっていった。
「はぅ……アレン殿……。もう、剣など振るえぬほどに、骨抜きにされてしまいそうだ……」
武人としての凛々しさはどこへやら、サクラは完全に僕の手のひらの上で蕩けてしまっていた。
続いて、リズ。
「リズ、次は君だよ。足の筋肉がかなり張ってるね」
「うぅ……恥ずかしいけど、お願い……」
リズの健康的な太ももに触れる。
彼女は僕の指先が触れるたびに、ビクッと体を震わせ、碧眼を潤ませて僕を見上げてきた。
「アレンの手……前世の時よりも、ずっと大きくて、優しくて……。私、なんだか変になりそうだよ……」
「リズ、深く呼吸して。魔力の循環を整えるから」
僕は彼女のふくらはぎから足首にかけて、丹念にマッサージを施した。
「あ、んっ……アレン……好き、大好きだよ……」
リズは僕の腕を掴み、そのまま僕を自分の方へと引き寄せようとする。
その熱烈な誘惑をなんとか抑えつつ、僕は彼女の疲労を完璧に除去した。
そして、シャルロットとベアトリス。
シャルロットには、彼女の魔力枯渇を補うための、背中への魔力還元マッサージ。
「アレン様……。あなたの手の熱が、私の心臓まで届いているようですわ……」
シャルロットは、僕の胸に頭を預けるようにして、幸せそうな溜息を漏らす。
彼女の柔らかな肌の感触と、耳元で奏でられる甘い吐息。
僕は国王陛下の「平等に」という言葉を思い出し、彼女のうなじから肩にかけて、丁寧に、慈しむように触れ続けた。
最後はベアトリス。
彼女は自分から僕の膝の上に乗り、僕の首に腕を絡めてきた。
「アレン様。知的なケアも必要ですが、今は……この猛った情念を静めていただきたいのですわ」
ベアトリスの挑発的な視線に、僕はたじたじになりながらも、彼女の側頭部から首筋にかけて、精神安定のバフを込めた指圧を行った。
「ん……。やはり、あなたの手は魔法ですわね。私の理性が、すべて溶けて消えてしまいそうです……」
四人全員のマッサージを終えた頃、部屋の中は、オイルの芳醇な香りと、乙女たちの甘く蕩けた溜息で満たされていた。
リズも、シャルロットも、ベアトリスも、サクラも。
全員が、まるで魔法にかかったかのように、潤んだ瞳で僕を見つめている。
「みんな、疲れは取れたかな?」
僕が尋ねると、四人は言葉にならない甘い吐息を漏らし、吸い寄せられるように僕へと寄り添ってきた。
「アレン様……」
「アレン……」
「アレン殿……」
「アレン様……」
四つの異なる、しかし同じ熱量を秘めた呼び声。
彼女たちの顔が、僕の顔へと同時に近づいてくる。
僕は、国王陛下の「平等に」という言葉が、実はとんでもない難易度のミッションであったことを今更ながらに痛感した。
リズの唇が僕の頬をかすめ、シャルロットの柔らかな唇が僕の顎に触れる。
ベアトリスは僕の首筋に顔を埋め、サクラは僕の手を力強く、しかし愛おしそうに握りしめた。
「……今日は、これくらいにしておこうか。続きは……また明日の夜にね」
僕は爆発寸前の理性をなんとか繋ぎ止め、彼女たちの額に、一人ずつ優しく愛を込めた接吻を交わした。
儀式めいたものではなく、ただ、彼女たちの頑張りを讃え、愛しさを伝えるための、温かな触れ合い。
四人の乙女たちは、僕の優しい拒絶(お預け)に、名残惜しそうにしながらも、至福の充足感を浮かべて眠りについた。
国王陛下。
あなたの助言のおかげで、彼女たちは最高に癒やされたようですが、僕の理性はすでに限界の向こう側です。
窓の外には、ヤマト国とはまた違う、王国の美しい星空が広がっていた。
激闘を乗り越え、最強の乙女たちと過ごす、最高に贅沢で甘いバカンス。
僕たちの二学期は、まだ始まったばかりだ。




