第48話 野蛮の嘲笑と大和撫子の神打。完全優勝を掴む最強の乙女たちと、賢者が約束する極上のご褒美
リズ、シャルロット、ベアトリス。
三人の最強の乙女たちが見せた圧倒的かつ無慈悲なざまぁ無双によって、他国の代表選手たちは完全に意気消沈し、闘技場は王国代表の応援一色に染まっていた。
そして、いよいよ大陸魔法交流戦の最終試合が幕を開けようとしていた。
「最終試合!我が王国への留学生にしてヤマト国の誇り高き剣士、サクラ選手の入場です!」
実況の声と共に、サクラが闘技場の中央へと真っ直ぐな足取りで進み出た。
彼女は動きやすい袴姿に、腰には愛刀を差し、その凛とした佇まいはまさに一輪の美しい桜のようだった。
対するゲートから地響きを立てて現れたのは、武力至上主義を掲げる帝国の代表選手だった。
しかし、本人は自らの足で歩いていなかった。
全高四メートルを超える、鋼鉄と魔石で構成された巨大な『重装甲ゴーレムアーマー』に搭乗し、その分厚い装甲の内側から見下ろすようにサクラを睨みつけていたのだ。
「がはははっ!ついに俺の出番か!」
ゴーレムアーマーの外部スピーカーから、帝国代表の傲慢な笑い声が響き渡る。
「ヤマト国とかいう、魔法もまともに使えぬ野蛮な島国の猿が、よくもまあここまで残ったものだ!だが、お前の運もここまでだぞ!」
帝国代表が操縦桿を握り込むと、巨大なゴーレムアーマーが威嚇するように鋼鉄の拳を打ち合わせた。
ガキィィィンッ!!という重低音が闘技場を揺るがす。
「俺の乗るこの『帝式・重魔導装甲』は、帝国の最新技術の結晶だ!いかなる魔法も弾き返す対魔コーティングと、竜の牙すら通さない超硬度の物理装甲!小娘の細腕で振るうナマクラ刀など、傷一つつけられんわ!」
観客席からは、あまりにも巨大で暴力的な兵器の登場に、どよめきと悲鳴が上がった。
魔法交流戦において魔道具の使用は認められているが、あれはもはや個人兵装の枠を完全に逸脱した「兵器」そのものだ。
しかし、サクラは巨大な鉄の塊を見上げても、その黒曜石の瞳に一切の恐怖を浮かべていなかった。
「……ヤマトを、野蛮な猿の国と呼んだな」
サクラが静かに腰の刀に手をかける。
「そして何より、我が主君を雑用係と侮辱した罪。この刀で、その分厚い鉄屑ごと両断してくれよう」
「ほざけ、猿がァ!その生意気な口ごと、ペチャンコにすり潰してやるゥゥッ!」
◇
試合開始の銅鑼が鳴り響いた瞬間。
巨大なゴーレムアーマーが、その巨体に似合わぬ猛スピードでサクラへと突進してきた。
「死ねェェェッ!」
鋼鉄の巨大な拳が、サクラの頭上から容赦なく振り下ろされる。
ズドォォォォォンッ!!
闘技場の石畳が粉々に砕け散り、凄まじい土煙が巻き上がった。
「サクラさん!」
「サクラ!」
控室に戻ってきていたリズたちが、観戦モニターの前で悲鳴を上げる。
だが、僕の目の前にある端末の生体レーダーは、サクラが無傷であることをはっきりと示していた。
土煙が晴れると、そこには振り下ろされた巨大な拳を、抜刀した刀の『峰』で受け止めているサクラの姿があった。
「なっ……!?俺のゴーレムのフルパワーの鉄拳を、刀一本で受け止めただとォ!?」
帝国代表が驚愕の声を上げる。
サクラは柳のようにしなやかな体捌きで衝撃を逃がし、そのままゴーレムの腕を駆け上がろうとする。
だが、帝国代表もすぐに反応し、もう片方の腕でサクラを薙ぎ払おうとした。
サクラは空中で身を翻し、再び石畳の上へと着地する。
「チッ、すばしっこい猿め!だが、俺の装甲には傷一つつけられまい!」
ゴーレムアーマーが全身の魔力スラスターを吹かし、再びサクラへと襲いかかる。
サクラは俊敏な動きで巨大な拳や蹴りを躱し続けるが、確かに相手の言う通り、あの超硬度の装甲を普通の刀で斬り裂くのは至難の業だった。
『アレン殿。奴の装甲、やはりただの鉄ではない。魔力で分子の結合を強化しているようだ』
戦闘の最中でありながら、サクラの念話は驚くほど冷静だった。
「ああ、見えているよ。でも、どんなに強固な装甲でも、人間が作った機械である以上、必ず『継ぎ目』と『弱点』が存在する」
僕は控室の端末から【構造力学スキャナー】を起動し、闘技場で暴れ回るゴーレムアーマーの全身を透過スキャンした。
ホログラム画面に、アーマーの内部骨格と装甲の接合部、そして可動による応力集中のポイントが、赤いマーカーで次々と浮かび上がる。
「見つけた。胸部装甲の中心からわずかに左下、第一装甲板と第二装甲板の接合部に、コンマ数ミリの魔力伝導の隙間がある」
僕はその弱点の座標データを、念話を通じてサクラの視覚野へと直接リンクさせた。
サクラの瞳に、ゴーレムアーマーの致命的な弱点が光の点として映し出される。
『うむ、はっきりと見えるぞ!』
「サクラ、君の刀に【分子結合断裂バフ】をエンチャントする。あの光の点に向かって、君の最強の抜刀術を叩き込め」
僕が端末を操作し、サクラの刀へと目に見えない科学魔法のエネルギーを転送する。
『承知した!アレン殿の力、存分に使わせてもらう!』
サクラが大きく息を吸い込み、刀を鞘に収めて低く身を沈めた。
「逃げ回ってばかりか!もう終わりにしてやる!俺のゴーレムの最大出力、メガトン・クラッシュを喰らえェェッ!!」
帝国代表が操縦桿を押し込み、ゴーレムアーマーの背部スラスターが火柱を上げる。
全高四メートルの巨大な鉄の塊が、必殺の威力を秘めてサクラへと突貫してきた。
サクラは目を閉じ、呼吸を整え、僕の指示した弱点一点のみに全神経を集中させる。
彼女の全身から、これまでとは比較にならないほどの澄み切った剣気と、僕のエンチャントによる青白い光が立ち昇った。
巨大な鋼鉄の拳がサクラに迫る、まさにその刹那。
「ヤマトの誇り、そして我が主君アレン殿の力を思い知れ!」
サクラの黒曜石の瞳が見開かれ、彼女の体がブレた。
「ヤマト国抜刀術・神打……『桜花閃・絶』!!」
神速を遥かに超えた、音すらも置き去りにする完璧な一閃。
サクラの抜いた刀が、青白い光の軌跡を描きながら、ゴーレムアーマーの弱点へと正確無比に吸い込まれた。
そして、そのままの勢いで、巨大な鉄の塊の胴体を真っ向から駆け抜けた。
ズバァァァァァァァァァァンッ!!!
数秒の静寂の後。
「なっ……!?」
絶対の自信を持っていた最強装甲のゴーレムアーマーが、胸部の中心から綺麗に上下真っ二つにズレていき、轟音と共に闘技場の地面へと崩れ落ちたのだ。
分厚い装甲も、対魔コーティングも、サクラの剣技と僕の科学チートの前では、まるで柔らかい豆腐のように切り裂かれてしまったのである。
「あ、あわわわ……っ!!」
真っ二つになった操縦席の中から、帝国代表の男が情けなく転げ落ちてきた。
彼は自分の乗っていた最強の兵器が、たった一振りの刀で両断されたという事実が信じられず、尻餅をついたままガタガタと震えている。
サクラはゆっくりと血振るいを行い、カチンと小気味良い音を立てて刀を鞘に収めた。
そして、腰を抜かしている帝国代表を見下ろし、凛とした声で一喝した。
「ヤマト国の剣と、我が主君の知略の前に、貴様の鉄屑など無意味だ。二度と野蛮などと口にするな」
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃッ!こ、降参だァァァッ!」
帝国代表が涙と鼻水を流しながら、地面に頭を擦りつけて悲鳴を上げた。
「勝者、王国代表、サクラ選手ゥゥゥッ!!そして、この瞬間!今大会における我が王国代表の、圧倒的なる『完全優勝』が決定いたしましたァァァッ!!」
実況の絶叫と共に、闘技場は今日一番の、地鳴りのような大歓声と拍手に包み込まれた。
リズの剣聖無双、シャルロットの極大火力、ベアトリスの完全論破、そしてサクラの一刀両断。
四人の乙女たちは、各国の傲慢なエリートたちを完膚なきまでに叩き潰し、王国の威信と彼女たち自身の絶対的な強さを、大陸中に知らしめたのである。
試合後。
興奮冷めやらぬ闘技場を後にし、ヒロイン四人が僕の待つ控室へと勢いよく飛び込んできた。
「アレン!やったよ!私たち、全員勝ったよ!」
リズが真っ先に僕の首に飛びつき、ギュッと抱きしめてくる。
「ええ!アレン様の完璧なサポートのおかげで、あの無礼者たちに最高の罰を与えられましたわ!」
シャルロットも僕の右腕に抱きつき、嬉しそうに頬擦りをしてくる。
「アレン様のお力がなければ、あれほど鮮やかな勝利は得られませんでしたわ。本当に、素晴らしい知略でした」
ベアトリスが僕の左腕に腕を絡ませ、艶やかに微笑む。
「アレン殿!某の剣、しっかりと見ていてくれたか!貴殿のエンチャント、最高に扱いやすかったぞ!」
サクラも満面の笑みで、僕の背中に回り込んで抱きついてきた。
四人の美少女たちに全方向から抱きつかれ、僕の体は嬉しい悲鳴(と物理的な圧迫感)を上げていた。
「みんな、本当によくやってくれた。最高の戦いだったよ」
僕が四人の頭を順番に撫でると、彼女たちは花が咲いたような笑顔を見せた。
「でも、アレン。私たちがあんまりにも圧倒的に勝ちすぎたせいで、他の国の王様たちが『あのアレンとかいうサポート役の男を、なんとしてでも我が国に引き抜け!』って騒ぎ始めてたよ?」
リズが少しだけ不安そうに報告してくる。
「ええ。各国の姫君たちも、アレン様のお姿を探して血眼になっておりましたわ。当然、私たちが全力で追い返しましたけれど」
シャルロットがふふっと笑いながらも、その目には「誰にも渡さない」という強い光が宿っていた。
「裏方に徹したつもりだったんだけど……結局、一番目立っちゃったみたいだね」
僕は苦笑いしながら、左腕の端末を軽く叩いた。
まあ、愛する彼女たちを守るためだ。多少のトラブルは、僕の現代科学チートでどうにでもなるだろう。
「とにかく、君たち四人は本当に頑張ってくれた。王国の名誉も、そして僕の平穏も守ってくれたんだからね」
僕は四人の顔をゆっくりと見渡し、とびきりの笑顔で提案した。
「この激戦の疲れを癒やすために、次は僕から、君たち全員にとびっきりの『ご褒美』を用意しているんだ」
「「「「ご褒美!?」」」」
四人の乙女たちの瞳が、歓喜と期待で一気にキラキラと輝き始めた。
「どんなご褒美ですの!?またアレン様の手料理が食べられますの!?」
「まさか、アレンからデートのお誘い!?それとも、ついに……!」
「アレン様のお考えになるご褒美……私、胸が高鳴って破裂しそうですわ」
「某もだ!早く、早くそのご褒美の内容を教えてくれ!」
興奮して詰め寄ってくる四人をなだめながら、僕は秘密めいた笑みを浮かべた。
「場所はまだ内緒だけど、絶対に君たち全員が満足する、極上のバカンスになることだけは約束するよ。だから、楽しみにしてて」
最強の乙女たちの華麗なる無双劇で幕を閉じた、大陸魔法交流戦。
その激闘の果てに待つ、僕が提案する極上の「ご褒美回」に向けて、僕たちの騒がしくも愛おしい日々は、さらなる甘い予感と共に続いていくのだった。




