第43話 秘密の女子会と四つのハプニング。赤裸々な愛の報告と、期待に胸膨らむ二学期の幕開け
四日間にわたる、過酷にして至福の連続個別デート。
そのすべての日程を消化した翌日の朝、僕は自室のベッドの上で完全に灰のように燃え尽きていた。
肉体的な疲労もさることながら、四人の絶世の美少女たちから日替わりで仕掛けられた、命懸けの誘惑とご奉仕(未遂)。
それに耐え抜き、理性のストッパーを総動員し続けた結果、僕の精神力と魔力は完全にすっからかんになっていたのだ。
「もう……何も考えられない……」
僕が干からびたスライムのようになって天井を見上げている頃。
王都にあるヴァンルージュ公爵邸の一室では、僕の理性を削り取った張本人たちによる、極秘の『パジャマパーティ』が開かれていた。
「それでね、私、アレンを草むらに押し倒して、そのまま全部捧げようとしたの!」
ベッドの上で抱き枕をギュッと抱きしめながら、リズが真っ赤な顔で前傾姿勢になった。
「ええっ!?リズさん、そこまで大胆なことを!?」
シャルロットが驚いて目を丸くする。
「うん……だって、前世からの念願だったから。アレンの熱に触れようとして、あと数センチってところまでいったんだけど……」
リズがそこで言葉を濁し、悔しそうに唇を尖らせた。
「急に茂みから星屑ウサギが飛び出してきて、アレンの顔を蹴っ飛ばしていったのよ!信じられる!?」
「う、うさぎ……ですか?」
ベアトリスが呆れたようにため息をつく。
「そうなの!せっかくのムードが台無しになっちゃって。でもね、アレンが私を抱きしめて『結婚式の日まで取っておこう』って言ってくれたの!」
リズの顔が、今度は幸せそうに蕩け、えへへとだらしない笑みを浮かべた。
その惚気を聞いたシャルロットが、負けじと身を乗り出してきた。
「ふふっ、私だって負けておりませんわよ。私はアレン様と、あの古い塔で密会いたしましたの」
「塔で?シャルロット殿、まさかあんな薄暗い場所で……」
サクラがゴクリと喉を鳴らす。
「ええ。私はアレン様の前に跪き、自らドレスを脱いで、私のすべてを捧げてご奉仕しようといたしましたわ。アレン様も、私を受け入れてくださる直前でしたのよ」
シャルロットが誇らしげに胸を張るが、彼女もまた、急に肩を落とした。
「ですが、窓ガラスを突き破って巨大なフクロウが乱入してきまして……中断されてしまいましたの」
「シャルロットのところには、フクロウが出たの!?」
リズが驚いて聞き返す。
「ええ……本当に、あと少しでしたのに。でも、アレン様は『君は僕に傅く奴隷じゃない、対等な未来の妻だ』と仰って、私を優しく抱き起こしてくださいましたのよ」
シャルロットもまた、両手で頬を包み込み、幸せの絶頂にいる乙女の顔になった。
すると、静かに紅茶を飲んでいたベアトリスが、コトリとカップを置いて口を開いた。
「動物の乱入など、まだ可愛いものですわ。私は公爵家の別邸にアレン様をお招きし、完全な密室を作りましたの」
「み、密室!まさか、ベアトリスが一番進んだの!?」
リズが身構える。
「ええ、もちろん。私は一糸まとわぬ全裸になり、アレン様の衣服もすべて脱がせましたわ。お互いの素肌を重ね合い、ソファの上で私がアレン様を組み敷いて、それはもう濃厚に愛し合おうと……」
ベアトリスの過激な暴露に、三人の顔がボンッと林檎のように赤く染まった。
「ぜ、ぜぜ、全裸でご奉仕!?ベアトリス殿、破廉恥な!!」
サクラがパタパタと顔を扇ぎ、鼻血が出そうな顔をしている。
「ええ。ですが……私の口がアレン様の熱を捉える寸前で、アレン様の腕の魔道具から、私の商会の番頭の緊急通信が爆音で鳴り響きましたの。しかも、全裸の私たちを見られてしまいましたわ」
ベアトリスが頭を抱え、深いため息をついた。
「……それは、さすがに同情するよ」
リズが引き攣った笑顔で慰める。
「ですが、アレン様は私を責めることなく、『焦らなくても僕の全部は君のものだ』と仰ってくださいましたの。あの優しさ……私、アレン様なしではもう生きていけませんわ」
ベアトリスもまた、知的な仮面を完全に溶かし、うっとりとした表情を見せた。
最後に視線を集められたサクラは、正座の姿勢を正し、コホンと一つ咳払いをした。
「そ、某は……母上の教え通り、宿の和室で自ら帯を解き、アレン殿の御刀を清めようとしたのだ!」
「御刀……あぁ、なるほど」
シャルロットが苦笑いしながら頷く。
「某も、あと数センチで既成事実を作れるところであった!しかし、押し入れから宿の猫が飛び出してきて、未遂に終わってしまったのだ……」
サクラが悔しそうに畳(の代わりの絨毯)を叩く。
「ですが、アレン殿は『続きはヤマト国での祝言の夜に』と約束してくださったのだ!某、必ずや立派な妻になってみせるぞ!」
四人の乙女たちは、それぞれの報告を終え、顔を見合わせた。
「星屑ウサギに、フクロウに、通信アラートに、猫……」
リズが指折り数える。
「私たち全員、あと数センチのところで、見事なまでにハプニングに邪魔されてしまいましたのね……」
シャルロットが呆れたように笑う。
「でも、これだけは確かなことですわ」
ベアトリスが、真剣な眼差しで三人を見回した。
「アレン様は、ご自分の欲望よりも、私たちの心と体を何よりも大切に想ってくださっている。だからこそ、理性の限界の中で、ギリギリまで私たちに付き合ってくださったのです」
「……うむ。アレン殿は、真の紳士であり、最高の主君だ」
サクラが深く頷く。
「本当に、アレンってば格好良すぎるんだから。もう、絶対に他の子には渡さないよ!」
リズが力強く宣言すると、三人も「当然ですわ!」「誰にも譲りません!」と即座に同調した。
激しいマウントを取り合いながらも、彼女たちの間には「アレンを愛する者同士」という、奇妙で、そして強固な正妻協定の絆が確実に結ばれていた。
◇
秘密の女子会が、朝の光に包まれてお開きとなった頃。
「ふぁぁ……おはよう、みんな」
僕はなんとかベッドから這い出し、学園の制服に着替えて公爵邸のエントランスへと降りていった。
「あ、アレン!おはよう!」
「おはようございます、アレン様!」
エントランスには、すでに制服を完璧に着こなした四人のヒロインたちが、眩しいほどの笑顔で僕を待っていた。
昨夜までの色気や情念はすっかり鳴りを潜め、そこには十七歳の清々しい女子生徒たちの姿があった。
「アレン殿!今日からまた、共に学園で学べること、嬉しく思うぞ!」
サクラも、特注で作らせた留学生用の制服に身を包み、凛とした敬礼を見せてくれた。
「うん。また今日から、忙しい日々が始まるね。でも、この五人ならどんなことでも乗り越えられる気がするよ」
僕が微笑みかけると、四人は顔を見合わせ、楽しそうにクスクスと笑い声を上げた。
「さあ、行きましょうアレン様!私たちの二学期が始まりますわ!」
シャルロットが僕の右腕を取り、リズが左腕を取る。
ベアトリスとサクラがその背中を押し、僕たちは賑やかな足音を立てて、公爵邸の大きな扉を開け放った。
夏の終わりの爽やかな風が、僕たちの頬を撫でていく。
過酷な魔法のテストから始まり、波乱の武闘会、そしてヤマト国での大魔王との死闘。
さらには四日連続の甘く危険なデートという、僕の理性を焼き尽くす限界突破のイベントまで。
本当に、これ以上ないほどに濃密で、激動の十七歳の夏休みだった。
王立魔法学園の巨大な校門をくぐりながら、僕はこれからの日々に思いを馳せた。
ヤマト国の食材ルートも確保し、ヒロインたちとの絆も(外堀の埋まり具合も含めて)完璧なものとなった。
今度こそ、僕の理想とする平穏で完璧なスローライフが始まるはずだ。
……いや、無理かもしれない。
僕の左腕で静かに鼓動する【天界の端末】と、隣で楽しそうに笑う最強で最高に可愛い四人の妻(予定)たちを見ていると、僕の学園生活がそう簡単に平穏なものになるとは到底思えなかった。
期待と、そして次なる波乱の予感に満ちた二学期が、今、賑やかな笑い声と共に高らかに幕を開けたのである。




