第39話 星降る丘と前世の忘れ物。幼馴染の切実な熱情と、星屑ウサギが遮る初めての奉仕
王都に到着した翌日の朝。
賑やかな喧騒に包まれる王都のメインストリートを、僕とリズは二人きりで歩いていた。
「アレン、見て見て!あそこのクレープ屋さん、王都で今一番人気なんだって!」
リズが僕の右腕をギュッと抱きしめたまま、はしゃいだ声を上げる。
今日の彼女は、動きやすい騎士の訓練着ではなく、淡い水色の可憐なワンピースに身を包んでいた。
綺麗にとかされた黄金色の髪からふわりと甘い香りが漂い、すれ違う王都の男性たちが次々と彼女に見惚れて振り返っていく。
「そんなに引っ張らなくても逃げないよ。今日は一日、リズだけのものだからね」
僕が苦笑いしながら答えると、リズはえへへと嬉しそうに笑って、さらに腕の力を強めた。
僕たちの『順番制・四日連続個別デート』の第一回戦。
前日の夜のくじ引きの結果、見事に一番手を引き当てたのは、幼馴染であり前世からの想い人であるリズだった。
僕たちは流行りのクレープ屋で甘いお菓子を頬張り、王都の美しい景色を楽しみながら、十七歳の等身大のデートを満喫した。
午後には、王都の貴族たちが通う高級なアクセサリーショップへと足を踏み入れた。
「わぁ……綺麗な宝石がいっぱい」
ショーケースに並ぶ煌びやかな装飾品を見て、リズが目を輝かせる。
剣ばかり振るってきた彼女だが、中身は普通の女の子だ。
「リズ、何か欲しいものはある?」
僕が尋ねると、リズは少しだけ遠慮がちに、一つの銀のペンダントを指差した。
それは、小さな星の形をした青い魔石があしらわれた、シンプルで美しいペンダントだった。
「これ、すごく可愛いなと思って」
「よく似合うと思うよ」
僕は迷わず店主に代金を支払い、そのペンダントをリズの細い首にかけてあげた。
「ありがとう、アレン。一生大切にするね」
リズがペンダントの星を両手で包み込み、満面の笑みを浮かべる。
彼女の無邪気な笑顔を見ているだけで、大魔王との激闘の疲れも、この先のデートのプレッシャーも、すべて吹き飛んでいくような気がした。
楽しい街歩きの時間はあっという間に過ぎ去り、空が茜色から深い群青色へと染まり始めた頃。
「ねえ、アレン。最後に私、どうしても一緒に行きたい場所があるの」
リズが僕の手を引き、王都の郊外へと向かう緩やかな坂道を登り始めた。
街の明かりが少しずつ遠ざかり、周囲の空気がひんやりとした静寂に包まれていく。
坂を登り切った先には、視界が開けた見晴らしの良い場所があった。
『星降る丘』と呼ばれる、王都の住人たちに親しまれている小さな公園だ。
そこには木製の古いベンチが一つだけ置かれており、眼下には王都の夜景が、頭上には手が届きそうなほど満天の星空が広がっていた。
「ここ……」
僕が思わず息を呑むと、リズはベンチの背もたれに手を触れながら、愛おしそうに微笑んだ。
「覚えてる?前世の日本で、私たちが最後に一緒にいた公園」
リズの言葉に、僕の脳裏に鮮明な記憶がフラッシュバックした。
リョウとサキだったあの夜。
高校生の僕たちは、地元の小さな公園のベンチで、お互いの気持ちを確かめ合おうとしていた。
顔が近づき、唇が触れるか触れないかというその瞬間。
運命の残酷な悪戯(事故)によって、僕たちの時間は永遠に引き裂かれてしまったのだ。
「あの公園に、すごく景色が似てるなって、ずっと前から思ってたの。だから、アレンと二人きりで、どうしてもここに来たかった」
リズが僕の正面に立ち、両手で僕の右手をギュッと握りしめた。
彼女の碧眼が、星空の光を反射して潤んでいる。
「前世からずっと、この時を待ってた。私たち、あの日からずっと、忘れ物をしたままだったから」
「リズ……」
「アレン。私、アレンのことが好き。前世でも、今世でも、ずっとアレンだけを愛してる」
リズの真っ直ぐな告白が、静かな夜の丘に溶け込んでいく。
僕の胸の奥で、何かが熱く弾けた。
僕もまた、前世からずっと、彼女のことだけを想い続けてきたのだ。
「僕もだよ、サキ。いや、リズ。君の全部が、狂おしいほどに愛おしい」
僕は彼女の細い腰に腕を回し、その柔らかな体を引き寄せた。
リズがそっと目を閉じ、少しだけ背伸びをする。
僕も目を閉じ、彼女の温かい吐息を感じながら、ゆっくりと顔を近づけた。
そして、二つの人生を跨いだ長い長い時間の果てに、僕たちの唇はついに重なり合った。
柔らかく、甘く、そして魂が震えるような、初めての口づけ。
僕たちは互いの熱を確かめ合うように、何度も、何度も角度を変えて深く唇を交わした。
「んっ……ぁ、アレン……」
息継ぎのために唇を離すと、リズの顔は極限まで赤く染まり、その瞳には隠しきれない情熱の炎が揺らめいていた。
「アレン……心だけじゃ、もう足りない。私、自分の全部をアレンに捧げたい」
リズの甘い吐息が僕の首筋にかかり、彼女の手が僕の胸板を強く押し込んだ。
「わっ……」
僕は抵抗することもできず、丘の柔らかい草むらの上へと押し倒されてしまった。
僕の上に馬乗りになったリズが、ワンピースの胸元を大きく乱しながら、熱に浮かされたような瞳で僕を見下ろしている。
「私だけを見て。成長した私の熱を、全部知って……」
リズが僕の衣服のベルトに手をかけ、震える指先でそれを解き始めた。
「リズ、ここで……?」
「誰も来ないよ。それに、私……もう我慢できない」
彼女の情熱に当てられ、僕の理性もすでに崩壊寸前だった。
お互いが狂おしいほどに求め合い、磁石のように吸い寄せられていく。
リズの顔が、ゆっくりと僕の下腹部へと沈み込んでいく。
薄い布地越しに、彼女の熱い吐息がかかり、僕の体がビクッと跳ねた。
「アレンのここ……すごく、熱い……」
リズの柔らかい唇が、布越しに僕の熱に触れ、少しだけ、本当に少しだけ、愛おしむように奉仕を始めた。
僕の口から、快感と背徳感の入り交じった声が漏れそうになる。
彼女の舌先の感覚が伝わり、僕たちは完全に一線を越えようとしていた。
その、まさに絶頂へと向かう刹那だった。
ガサガサガサッ!!
すぐ隣の茂みが激しく揺れ、そこから白い毛玉のような何かが猛烈な勢いで飛び出してきたのだ。
「みゅきゅっ!!」
「うわあっ!?」
「きゃあっ!?」
飛び出してきたのは、王都の郊外に生息する無害な小動物『星屑ウサギ』だった。
ウサギはパニックになったように僕とリズの間を駆け抜け、僕の顔面を思い切り蹴り飛ばして、反対側の茂みへと消えていった。
「痛っ……!」
「ア、アレン!大丈夫!?」
突然のハプニングに、リズが弾かれたように僕の上から飛び退いた。
僕たちは乱れた衣服を慌てて直し、赤面したまま顔を見合わせた。
「ご、ごめん……顔、蹴られちゃったね」
「いや、僕こそごめん。変な声出そうになった」
二人して草むらの上でモジモジとしていると、なんだか今の状況がおかしくなってきて、僕たちは同時に吹き出してしまった。
「あははっ!せっかくのいいムードだったのに、ウサギに邪魔されちゃったね」
リズが涙目になりながら笑う。
僕も笑いながら起き上がり、彼女の隣に座って肩を抱き寄せた。
「前世からの忘れ物は、最高の形で見つかったよ。でも、あの続きは……」
僕はリズの耳元に唇を寄せ、わざと焦らすように囁いた。
「僕たちが正式に夫婦になって、結婚式を挙げる夜まで取っておこう」
僕の言葉に、リズの顔が再びボンッと赤く爆発した。
「う、うん……!私、その日が来るまで、もっともっと魅力的な女になっておくからね!」
リズが僕の胸に顔を埋め、ギュッと抱きついてくる。
星空の下の丘で、前世から引き継いだ僕たちの恋は、ついに完全な愛へと昇華した。
艶やかなハプニングを挟みつつ、リズとの甘く切ないデートは、幸せな鼓動と共に夜の闇へと溶けていったのだった。




