第40話 鳥籠の記憶と月夜の古い塔。王女が捧げる情熱の口づけと、少しだけの甘い奉仕
王都の賑やかな下町の通りを、僕とシャルロットは肩を並べて歩いていた。
「アレン様、あちらの屋台からすごく良い匂いがしますわ!」
シャルロットが僕の腕を引いて、串焼きの屋台へと小走りで向かっていく。
今日の彼女は、煌びやかな王女のドレスではなく、僕の【物質合成アプリ】で仕立てた質素だが可愛らしい町娘の服を着ていた。
さらに【認識阻害アプリ】を薄く展開し、王女シャルロットであることを周囲に気付かれないよう、完璧なお忍び仕様にしている。
「はい、焼きたての串焼きだよ。熱いから気をつけてね」
僕が屋台のおじさんから受け取った串焼きを渡すと、シャルロットは花が咲いたような笑顔でそれを受け取った。
「ありがとうございます、アレン様!」
彼女は行儀よく、しかしとても美味しそうに串焼きを頬張る。
王宮の豪華なフルコースしか食べたことのなかった彼女にとって、下町のジャンクな味と活気ある空気は、すべてが新鮮で輝いて見えているようだった。
「美味しいですわ!私、こんな風に自由に街を歩きながらお肉を食べるなんて、初めての経験です」
シャルロットの瞳がキラキラと輝いている。
彼女の無邪気な笑顔を見ていると、僕の胸の奥が温かくなるのを感じた。
僕たちはその後も、ガラス細工の店を覗いたり、大道芸人の手品を見て笑い合ったりと、普通の恋人同士のような平和な時間を満喫した。
王族という重い鎖から解放された彼女は、十七歳の等身大の女の子として、心からこのデートを楽しんでくれていた。
やがて、空が深い群青色に染まり、王都にガス灯の明かりが灯り始めた頃。
「アレン様。今日は本当に、夢のように楽しい一日でしたわ」
シャルロットが僕の腕にそっと身を寄せ、幸せそうに微笑んだ。
「喜んでもらえてよかったよ。それで、これからどこに行こうか?ディナーの予約もしてあるけど」
僕が尋ねると、シャルロットは少しだけ表情を引き締め、僕の目を真っ直ぐに見つめ返した。
「アレン様。私、どうしてもあなたと一緒に行きたい場所があるのです」
彼女の強い決意を秘めた瞳に、僕は無言で頷いた。
僕たちが向かったのは、華やかな王都のメインストリートから遠く離れた、王城の最奥部だった。
警備の騎士たちの目を【光学迷彩アプリ】でやり過ごし、シャルロットに手を引かれて辿り着いたのは、長く使われていない石造りの古い塔だった。
「ここは……?」
僕が周囲を見渡すと、シャルロットは塔の最上階へと続く螺旋階段を上りながら、静かに語り始めた。
「ここは、見捨てられた古い塔ですわ。私がまだ幼く、そして王女という立場に絶望していた頃、一人で隠れて泣いていた場所なのです」
塔の最上階は、ドーム状の小さな空間になっており、鉄格子の嵌まった窓から月明かりが冷たく差し込んでいた。
「私はこの国のために、顔も知らない、愛してもいない相手との政略結婚を受け入れなければならないと、ずっと自分に言い聞かせてきました。この冷たい塔は、私にとって逃げ場のない『鳥籠』そのものだったのです」
シャルロットが窓辺に立ち、月明かりを浴びながら寂しそうに微笑んだ。
彼女の背負っていた王族としての呪縛の重さが、痛いほどに伝わってくる。
「でも、アレン様が私を救い出してくれました。圧倒的な魔法と知略で、私を苦しめていた運命をすべて打ち砕き、私を一番近くに置いてくださった」
シャルロットが僕の正面に歩み寄り、両手で僕の右手を優しく包み込んだ。
「アレン様は、私の絶対の英雄ですわ。だから私、この一番辛かった絶望の場所を、アレン様との一番幸せな思い出で上書きしたいのです」
彼女の金色の瞳が、熱を帯びて潤んでいた。
「シャルロット……」
「アレン様。私、あなたを愛しております。私の心も、命も、すべてはあなたのために」
シャルロットが背伸びをして、僕の首に両腕を回してきた。
僕も彼女の細い腰を抱き寄せ、その熱情に応えるように顔を近づける。
重なり合った唇は、甘く、そして王女らしからぬ激しさで僕を求めてきた。
「んっ……ぁ、アレン様……」
月明かりの下、僕たちは何度も角度を変え、深く、互いの熱を溶かし合うように口づけを交わした。
息が苦しくなるほどに唇を重ねた後、シャルロットは荒い息を吐きながら僕から少しだけ顔を離した。
「私を救ってくれた英雄様に、私のすべてを捧げます」
シャルロットが熱っぽい瞳で僕を見上げながら、自らの町娘の服の肩紐に手をかけ、それをゆっくりと肩から滑り落とした。
白い肌が月明かりに照らされ、彼女の豊かな胸元の谷間があらわになる。
そして彼女は、僕の前にゆっくりと膝をついたのだ。
「シャルロット……!?」
僕が驚いて声を上げるよりも早く、彼女の柔らかい両手が僕の腰に添えられた。
彼女の熱い吐息が、僕の下腹部のあたりにかかり、僕の体はビクッと硬直した。
「私のアレン様。どうか、私に愛を証明させてくださいませ」
シャルロットの顔が、僕の中心へと吸い寄せられるように沈み込んでいく。
僕もまた、彼女の深い愛情と献身に抗うことができず、彼女の金色の髪にそっと手を添え、その行為を受け入れようとしていた。
薄い布地越しに、彼女の熱い息と、柔らかい唇の感触が伝わってくる。
「んっ……」
シャルロットの唇が、ゆっくりと、愛おしむように布の上から僕の熱をなぞり始めた。
僕の口から、快感と背徳感に満ちた熱い息が漏れる。
王女である彼女が、薄暗い塔の中で僕の足元に跪き、すべてを捧げるように奉仕をしてくれている。
その圧倒的な優越感と、互いが狂おしいほどに求め合う熱量に、僕の理性は完全に焼き切れそうになっていた。
もう少し、あと少しだけ。
彼女の顔がさらに近づき、僕たちが完全に引き返せない領域へと踏み込もうとした、まさにその絶頂の瞬間だった。
バキィィィィンッ!!
僕たちのすぐ横にあった古い塔の窓ガラスが、突如としてけたたましい音を立てて砕け散ったのだ。
「きゃあっ!?」
「うおっ!?」
驚いたシャルロットが弾かれたように飛び退き、僕も慌てて彼女を庇うように抱きしめた。
割れた窓から飛び込んできたのは、一羽の巨大な夜行性のフクロウだった。
フクロウはバサバサと大きな羽音を立てて塔の中を一周すると、ホーホーと間の抜けた鳴き声を上げて、再び夜空へと飛び去っていった。
「……フクロウか」
僕が呆然と呟くと、シャルロットも真っ赤な顔をして、自分の肩紐を慌てて直していた。
「び、びっくりしましたわ……。心臓が止まるかと思いました」
シャルロットが涙目になって僕の胸にすがりついてくる。
完全にいいムードだったのに、またしても野生動物のハプニングによる強制終了である。
僕の荒ぶっていた熱も、フクロウの乱入によってすっかり急速冷却されてしまった。
僕は苦笑いしながら、胸の中で震える彼女の頭を優しく撫でた。
「シャルロット。君の気持ちは、本当に嬉しかった。でも、やっぱりここで最後までっていうのは、ロマンチックじゃないよ」
僕は彼女の両肩を掴み、少しだけ体を引き離して、彼女の瞳を真っ直ぐに見つめた。
「それに、君は僕に傅く奴隷じゃないんだ。僕の隣を歩く、対等な未来の妻なんだから。あんな風に跪かせたりしない」
僕の言葉に、シャルロットの瞳から大粒の涙が溢れ出した。
「アレン様……っ」
「続きは、僕たちが正式に結婚して、二人だけの安全な寝室でゆっくりしよう」
僕が彼女の涙を指ですくい取ると、シャルロットは幸せそうに満面の笑みを浮かべ、僕の首に力強く抱きついてきた。
「はいっ!私、その日が来るのを、ずっとずっと心待ちにしておりますわ!」
月夜の古い塔。
かつて彼女が絶望の涙を流したその場所は、僕との甘いハプニングと、未来の妻としての永遠の誓いによって、最も幸せな記憶へと完璧に上書きされた。
シャルロットとの情熱的で甘いデートは、お互いの絆をさらに深く結びつけ、王都の夜空に優しく溶けていったのだった。




