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第34話 将軍代行の魂の演説と四方の絶対防衛線。最強の乙女たちが魅せる無双劇と、賢者の医療ハッキング

朝靄が立ち込めるトクガ城の周囲は、すでに異様な殺気とドス黒い瘴気に完全に包囲されていた。



ブォォォォォォッ!!

地響きのように重く低い法螺貝の音が、反乱軍の総攻撃の合図としてヤマト国の空に鳴り響く。

城壁の上から眼下を見下ろすトクガ軍の兵士たちの顔には、色濃い絶望が張り付いていた。


「なんという数だ……見渡す限り、オダト軍の魔族足軽ではないか!」

「将軍様が倒れられた今、我らだけでこの大軍を防ぎ切れるはずがない……!」


兵士たちが握る槍の柄はガタガタと震え、士気はすでに崩壊寸前であった。

彼らを指揮すべき重臣たちでさえ、圧倒的な兵力差と呪いの恐怖を前に、どうすることもできずに立ち尽くしている。


その時だった。

城の中心にある本丸の最も高いバルコニーに、朝日を背に受けた一人の小柄な影が立った。


「トクガの誇り高き武士たちよ!皆の者、よく聞け!」


凛とした、しかし城全体を揺るがすほどの力強い声が響き渡った。

兵士たちが一斉に顔を上げると、そこには将軍家のみが身につけることを許された豪奢な大鎧を纏い、愛刀を腰に差したサクラの姿があった。


僕の左腕の【天界の端末】から放たれた【音響拡張アプリ】と、彼女の存在感を極限まで際立たせる【カリスマバフ】の光の粒子が、サクラの全身を神々しく包み込んでいる。

昨夜、僕の胸の中で流した涙と弱音は、もう微塵も残っていなかった。


そこにあるのは、迷いを完全に断ち切り、祖国と民を背負う覚悟を決めた次期将軍としての気高い姿だけだった。


「父上は今、魔の呪いに苦しんでおられる!だが、将軍家の灯火は決して消えてはおらぬ!」


サクラが欄干から身を乗り出し、数万の敵軍と自軍の兵士たちを真っ直ぐに見据えた。


「某はトクガの姫、サクラ!これより将軍代行として、全軍の指揮を執る!我が後ろには、異国より駆けつけてくれた最強の勇者たちがついている!」


サクラが僕たち四人が控える方向を指差すと、兵士たちの視線が一斉に僕たちに向けられた。

サカエの湊を救った異国の天の御使いの噂は、すでに城内の兵士たちの耳にも届いていた。


「オダト家の反乱軍は、魔の力に魂を売った外道に過ぎぬ!ヤマト国の真の武士の魂が、あのような紛い物に負けるはずがなかろう!」


サクラが腰の刀を抜き放ち、朝日に向かって高々と掲げた。


「某は一歩も引かぬ!この命ある限り、トクガ城は絶対に抜かせはせぬ!皆の者、某に命を預けよ!そして共に、このヤマト国に平穏を取り戻すのだ!」


サクラの魂からの叫びが、兵士たちの心に燻っていた恐怖を完全に吹き飛ばした。


「おおおおおおっ!!サクラ姫様に続けェェェッ!」

「我らが将軍代行をお守りしろ!一歩も引くではないぞ!」


絶望に沈んでいたトクガ軍の士気が、爆発的な歓声と共に最高潮へと跳ね上がった。

サクラのカリスマ演説は見事に成功し、城の防衛戦を戦い抜くための強固な意志が軍全体に共有されたのである。


「完璧な演説だったね、サクラ将軍代行」


僕が本丸のバルコニーに近づき微笑むと、サクラは刀を鞘に収めて少しだけ照れくさそうに笑った。


「すべてはアレン殿のバフと、昨夜の……あの温かい励ましのおかげだ」

「さて、兵士たちの士気は上がったけど、戦力差が覆ったわけじゃない。ここからが僕たち最強パーティの出番だ」


僕は【広域マッピングアプリ】を空間に展開し、城の四方の門に押し寄せる敵軍の配置をリアルタイムで表示させた。


「僕がこの本丸から【念話通信アプリ】で全体指揮と後方支援を行う。東門はリズ、西門はシャルロット、南門はベアトリス。そして最も敵の層が厚い北門の正門は、サクラに任せる」


「分かったよ!東門の敵は、一人残らず私が斬り捨てる!」


「西門は私の炎で灰燼に帰して差し上げますわ!」


「南門は絶対零度の氷壁で、蟻一匹通しはしませんのよ」


三人のヒロインたちが、僕の作った最強のチート装備を煌めかせながら力強く頷く。


「某も、トクガの将として正門を死守してみせる!いざ、参る!」


サクラの号令と共に、四人の乙女たちがそれぞれの防衛拠点へと神速で散っていった。



数分後、反乱軍の総攻撃が東西南北の四方向から同時に開始された。

しかし、彼らが直面したのは、トクガ軍の必死の抵抗ではなく、異世界からやってきた理不尽なまでのチート無双劇だった。

東門では、押し寄せる魔族足軽の大群の只中に、黄金の閃光が乱れ飛んでいた。


「シッ!ハァッ!」


リズの振るう『高周波振動ブレード』が、敵の呪甲冑を紙切れのように両断していく。

剣聖の動体視力と超反応の前に、魔族の足軽たちはリズに触れることすらできず、まるでシュレッダーにかけられたように次々と細切れになって空を舞った。


西門では、灼熱の地獄が展開されていた。


「極大熱嵐!すべて燃え尽きなさい!」


シャルロットがドレスアーマーの無尽蔵の魔力供給を受け、固定砲台となって巨大な炎の渦を放ち続けている。

敵兵が城壁に取り付く前に、その肉体も瘴気もすべてが超高温によって蒸発し、西門の周囲は一瞬にして何もない焼け野原と化していた。


南門では、ベアトリスが冷酷な知将としての能力を遺憾なく発揮していた。


「絶対零度の氷槍雨アイス・ジャベリン!」


彼女が扇子を振るうたびに、空から無数の氷の槍が降り注ぎ、敵兵を地面ごと縫い付けていく。

運良く氷の雨を抜けて魔法攻撃を仕掛けてくる敵の魔導兵がいても、彼女のドレスの『空間反射コード』がすべてを倍返しにして自滅させていた。


そして、最も激戦区である北の正門。


「ヤマト国抜刀術!桜花閃!」


サクラが将軍の甲冑を鳴らしながら、自軍の先頭に立って見事な剣技を披露していた。

彼女の気迫に当てられたトクガ軍の武士たちも、鬼神の如き奮迅の働きを見せている。


「サクラ、右翼の敵陣が厚い!【重力操作】で動きを止めるから一網打尽にしろ!」


僕は本丸のホログラム画面を操作し、サクラの死角を突こうとした敵兵数百人の頭上に局地的な重力場を叩きつけた。


ズンッ!!という音と共に、敵兵が地面に這いつくばる。


「かたじけない、アレン殿!一気に押し潰すぞ!」


サクラとトクガ軍が、重力で動けなくなった敵陣を容易く蹂躙していく。

僕の【広域マッピング】による的確な指示と、【魔力回復バフ】の遠隔照射によって、四人のヒロインたちは一切の疲労を感じることなく、圧倒的な戦果を挙げ続けていた。


数万の反乱軍は、城壁に傷一つ一つつけることすらできず、ただ無為に兵力を削り取られていくだけだった。


「……よし、四方の防衛線は完全に安定した。これなら、彼女たちとトクガ軍だけで十分に持ち堪えられる」


僕はホログラム画面の敵軍の減少ペースを確認し、深く息を吐いた。

表の戦争は、僕の最強の妻(予定)たちに任せておけば何の問題もない。


ならば、僕がやるべきことは、このトクガ城の最深部でヤマト国の命運を握っている、真のボスキャラの救済だ。


「みんな、表はそのまま頼む。僕は裏のバグ(将軍の呪い)をデバッグしてくる」


僕は【念話通信アプリ】で四人に通信を送り、本丸の奥、将軍が眠る厳重な寝所へと急ぎ足で向かった。

寝所の前に控えていた家臣たちは、僕の顔を見ると道を開けた。


襖を開けると、そこには昨夜と変わらず、どす黒い瘴気に全身を侵され、苦しげな呼吸を続けるサクラの父親の姿があった。


「さて、魔法で解けない呪いなら、現代の医療科学で物理的に除去するまでだ」


僕は将軍の枕元に膝をつき、左腕の【天界の端末】を彼の胸元にかざした。


「【生体スキャンアプリ】起動。対象の細胞レベルでの異常を検知」


ホログラム画面に、将軍の血管や神経の精密な立体図が浮かび上がる。

呪いの正体は、微小な魔力ウイルスの集合体が細胞を破壊し、生命力を魔族の瘴気へと変換している悪質なプログラムのようなものだった。


「なら、特効薬アンチウイルスを直接叩き込む」


僕は端末の最終セーフティを一部解除し、僕の持つ最強の回復・修復機能の一つを選択した。


「【医療ナノマシンアプリ】、フル稼働。呪いの魔力ウイルスを完全に駆逐しろ」


僕の手のひらから放たれた目に見えない無数の光の粒子ナノマシンが、将軍の体内へと浸透していく。

城の外で乙女たちの華やかな無双劇が繰り広げられる中、僕は薄暗い寝所で、ヤマト国の未来を繋ぐための緻密で過酷な医療ハッキングへと全神経を集中させるのだった。

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