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第31話 サカエの湊と魔族足軽。和食の国を脅かす反乱軍への、容赦なき重力制圧と初陣の狼煙

王国の巨大な魔導船が、荒れ狂う外海を越え、はるか東方の島国『ヤマト国』の近海へと到達していた。


甲板の上に立ち、潮風に漆黒のポニーテールを揺らすサクラの横顔には、祖国への帰還という安堵よりも、これから待ち受ける戦乱への深い憂いが刻まれていた。


「サクラ、もうすぐヤマト国の陸地が見えるはずだよね」


僕が声をかけると、サクラは静かに頷き、腰の刀の柄に手を添えた。


「うむ。予定通りであれば、ヤマト国最大の貿易拠点である『サカエの湊』へ入港する手はずとなっている。我がトクガ将軍家の直轄地であり、本来ならば活気に満ちた美しい港町なのだが……」


サクラの言葉が、途中で重く濁った。


「何か心配事でもありますの?」


シャルロットが心配そうにサクラの顔を覗き込む。


「ヤマト国は今、オワリヤ領を治める『オダト家』をはじめとする複数の大名たちが、魔族の黒い靄に取り憑かれて反旗を翻している。サツマヤ領のシマズン家や、カイノ国のタケト家といった有力な武将たちも、次々と狂気に飲まれて戦を仕掛けてきているのだ」


戦国時代さながらの群雄割拠。

それに魔族の力が加わっているとなれば、将軍家であるトクガ家だけでは到底抑えきれない事態になっていることは想像に難くない。


「大丈夫だよ、サクラ。どんな化け物が相手でも、アレンと私たちが全部ぶっ飛ばしてあげるから!」


リズがポンとサクラの肩を叩き、自信満々に笑いかけた。


「ええ。私たちのチート装備とアレン様の頭脳があれば、大名の軍勢など恐るるに足りませんわ」


ベアトリスも優雅に扇子を広げ、余裕の笑みを浮かべている。

頼もしいヒロインたちの言葉に、サクラも少しだけ表情を和らげた。


「お主ら……かたじけない。某もトクガの姫として、必ずやこの国に平穏を取り戻してみせる」


その時だった。

見張りの騎士が、マストの上から切羽詰まった声を上げた。


「前方、サカエの湊に黒煙を確認!町が燃えています!」

「なんだと!?」


僕たちが急いで船首へ向かうと、水平線の彼方に見え始めた陸地から、幾筋ものドス黒い煙が立ち昇っているのが確認できた。


「そんな……サカエの湊はトクガ家の直轄地だぞ!すでに反乱軍の手に落ちたというのか!」


サクラが血相を変え、船の欄干から身を乗り出した。

僕の左腕の【天界の端末】も、港町の方角から凄まじい数の『魔族コード』と生体反応の乱れを検知し、赤い警告光を点滅させている。


「アレン殿!船の速度を上げてくれ!一刻も早く上陸せねば、民が殺されてしまう!」

「分かった。しっかり掴まっててくれ」


僕は端末の【出力リミッター解除】を実行し、魔導船の動力炉に直接僕の魔力を叩き込んだ。

巨大な船体が、まるで水上を飛ぶように信じられない速度で加速し、燃え盛るサカエの湊へと一直線に突っ込んでいく。


港に船が接岸するよりも早く、僕たちは甲板から直接、火の手に包まれた町の中へと跳躍した。


「ヒャッハー!トクガの領地を根絶やしにしろォ!」

「女と食糧をオダト様へ献上するのだ!逆らう者は斬り捨てよ!」


町の中は、まさに地獄絵図だった。

異形の甲冑を身に纏い、全身からあの『黒い靄』を立ち昇らせた足軽たちが、逃げ惑う町民たちに刃を向けて略奪の限りを尽くしていた。


魔族の力によって自我を歪められ、ただの殺戮兵器と化した『魔族足軽』の大群だ。


「貴様らァァァッ!!トクガの民に何たる狼藉か!」


サクラが激昂の叫びを上げ、愛刀を抜き放って敵陣のど真ん中へと躍り出た。


「あん?なんだこの小娘……って、トクガ家の家紋!?こいつ、将軍家の姫だぞ!」

「オダト様への最高の手土産だ!生け捕りにしろォ!」


数百人の魔族足軽たちが、一斉にサクラへと群がっていく。


「サクラを一人で戦わせるわけにはいかないね。リズ、援護を頼む」

「任せて!私の剣も、準備万端だよ!」


リズが僕の開発した『高周波振動ブレード』を構え、サクラの後を追って風のように駆け出した。


「まずは、敵の機動力を完全に削ぐ。僕の和食ライフを脅かす害虫共に、自由な行動は許さない」


僕は冷徹に宣言し、左腕のホログラム画面で【重力操作アプリ】を起動した。

ターゲットを、サカエの湊に展開している反乱軍の兵士のみに限定し、空間の座標軸をロックオンする。



「叩き潰れろ」

僕が指先を振り下ろした瞬間。

ズンッ!!という重低音と共に、町全体を覆うような不可視の重力場が展開された。


「な、なんだァ!?」

「か、体が……鉛のように重い……ッ!」


サクラに群がろうとしていた数百の魔族足軽たちが、一斉に地面に這いつくばり、ピクリとも動けなくなったのだ。

通常の十倍以上の重力結界。

魔族の力で強化された足軽であっても、この絶対的な物理法則の書き換えに逆らうことなど不可能である。


「アレンの重力魔法ね!これならやりたい放題だよ!」


リズが歓喜の声を上げ、動けなくなった足軽たちの間を縫うように駆け抜ける。

高周波振動ブレードの刃が煌めくたびに、魔族足軽たちの強固な甲冑が、まるで豆腐のように抵抗なく切断されていく。


「見事だ、リズ殿!某も遅れはとらぬ!ヤマト国抜刀術、桜花乱れ咲き!」


サクラもまた、圧倒的な重力の中で自由を奪われた敵に対し、容赦のない神速の連続斬撃を叩き込んでいく。

彼女の剣閃が空気を切り裂き、足軽たちに憑依していた黒い靄が次々と悲鳴を上げて四散していった。


「アレン様、私たちは火災の鎮火と町の修復に回りますわ!」

「ええ。これ以上の被害は出させません!」


背後では、シャルロットとベアトリスが特製のドレスアーマーを輝かせながら、息の合った連携魔法を展開していた。

ベアトリスの絶対零度の氷結魔法が、町を包む業火を一瞬にして凍てつかせ、完全に鎮火させる。


そして、シャルロットが僕の教えた【物質修復アプリ】の術式を魔法で再現し、破壊された家屋の木材や石畳を次々と元の形へと組み直していく。

戦闘と復興が、たった四人の少女たちと僕のチート能力によって、同時進行で完璧に行われていくのだ。


「ば、化け物だ……!こいつら、一体何者なんだ……!」


重力に押し潰されながら、反乱軍の足軽たちが恐怖に顔を引き攣らせて絶望の声を漏らす。

たった数分。

それだけで、サカエの湊を蹂躙していたオダト家の反乱軍は、完全に無力化され、町には静寂が戻っていた。


「た、助かった……」


「将軍家の姫様が、天の御使い様たちを連れてきてくださったぞ!」


隠れていた町民たちが恐る恐る顔を出し、僕たちに向かって涙ながらに平伏し始めた。


「皆の者、面を上げよ!トクガの姫、サクラが戻ったからには、もう安心だ!」


サクラが刀を鞘に収め、凛とした声で町民たちを労う。

僕も重力結界を解除し、ホッと息をついた。


「これなら、和食の食材も無事に確保できそうだね」


僕が呑気なことを言っていると、端末のレーダーが突然、これまでとは比較にならないほど巨大で禍々しい魔力反応を捉えた。


ドォォォォンッ!!


町の奥にあった巨大な櫓が内側から吹き飛び、瓦礫の山の中から一人の巨漢が姿を現した。


「チィッ……たかが足軽共とはいえ、我がオダト家の軍勢をここまで容易く壊滅させるとはな」


現れた男は、全身を漆黒の呪いの甲冑で包み、その手には身の丈ほどもある巨大な野太刀を握っていた。

兜の奥から覗く双眸は、完全に魔族のそれに染まり切っている。


「あれは……オダト家の重臣、魔装の侍大将か!」


サクラが顔を険しくし、再び刀を抜く。


「貴様らが、トクガの姫と異国からの助っ人か。俺の部下どもを随分と派手に散らしてくれたな」


侍大将が野太刀を肩に担ぎ、地響きを立てながら僕たちへと歩み寄ってきた。

その体から溢れ出す瘴気は、王都の地下水路で戦ったあの魔族のコアと同等か、それ以上の濃度を持っている。

ただの人間が魔族の力を取り込んだだけの足軽とは違う、完全に魔族と融合した上位の個体だ。


「下級のモブ兵士の次は、中ボスのお出ましってわけか」


僕が一歩前に出ると、シャルロットたちもすぐに僕の背後に陣形を組んだ。


「君がこのサカエの湊を襲った反乱軍のボスだね。悪いけど、僕の究極の和食ライフを邪魔する奴には、容赦はしないよ」


僕が左腕の端末を操作し、戦闘用のホログラム画面を空中に展開する。


「ほざけ、異国の小童が!我がオダト家の覇道、ここにおいて貴様らを微塵に砕いてくれるわァ!」


侍大将が咆哮を上げ、野太刀を高く振りかぶった。

その刀身から、空間を歪めるほどの黒い斬撃波が放たれようとしている。


ヤマト国の動乱の地で、僕の現代科学と魔装の侍大将による、本格的な死闘の幕が今、切って落とされようとしていた。

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