第29話 常夏ビーチと現代水着の錬成。四人の乙女が魅せる極上のバカンスと、水平線の彼方から迫るヤマトの船影
過酷な期末魔法テストを無事に乗り越え、王立魔法学園は待ちに待った長期の夏休みへと突入した。
連日の猛暑が王都を焼き焦がす中、ヴァンルージュ公爵令嬢であるベアトリスから、この上なく魅力的な提案がもたらされた。
「皆様、期末テストのお疲れ様会を兼ねて、我が公爵家が所有する南の領地へバカンスに行きませんこと?」
南の領地。
それはつまり、照りつける太陽と、どこまでも青く透き通るプライベートビーチを意味していた。
僕たち五人は公爵家の豪華な馬車に揺られ、王都から数日かけて南の海へとやってきた。
目の前に広がるのは、白い砂浜とエメラルドグリーンの海という、絵に描いたような常夏の楽園である。
「うわぁっ!海だ!すごく綺麗!」
リズが馬車から飛び出し、波打ち際に向かって駆け出していく。
「本当に美しい景色ですわ。王宮の窮屈な生活を忘れさせてくれますのね」
シャルロットも潮風に金色の髪をなびかせ、目を細めて微笑んだ。
「ええ。ここは我が公爵家しか立ち入ることのできない、完全なプライベート空間ですわ。誰の目を気にすることもなく、存分に羽を伸ばせますわよ」
ベアトリスが誇らしげに胸を張り、僕に艶っぽい視線を向けてくる。
「海……某の故郷であるヤマト国も四方を海に囲まれておるが、これほど暖かく穏やかな海は初めてだ」
サクラも珍しく刀を置き、寄せては返す波に興味津々の様子だった。
しかし、この異世界において「海で遊ぶ」という文化は、致命的な問題を抱えていた。
水浴び用の衣服という概念が乏しく、厚手で重い麻布の服を着たまま海に入るか、あるいは下着同然の格好になるかの二択しか存在しないのだ。
「いくら貸切とはいえ、濡れて透けるような布切れでアレン様の前に出るのは恥ずかしいですわ……」
「そうですわね。重いドレスで海に入るわけにもいきませんし、どうしたものでしょうか」
シャルロットとベアトリスが困ったように顔を見合わせている。
そこでついに、僕の現代科学とチート能力が火を吹く時が来た。
「心配いらないよ。僕がみんなのために、海で泳ぐための専用の服……『水着』を作ってあげるから」
僕は左腕の【天界の端末】を操作し、【物質合成アプリ】を起動した。
前世の記憶から、伸縮性と耐水性に優れたポリウレタン繊維やナイロン素材の構造を完璧に呼び起こす。
そして、事前に採取しておいた四人の詳細なスリーサイズ(あの過酷な採寸フィッティングのデータだ)を基に、それぞれの体型と性格に最も似合う水着のデザインをホログラム上で設計していく。
「さあ、完成だ。更衣室のコテージに置いてあるから、着替えておいで」
僕が空間魔法で錬成した水着を転送すると、四人は期待と恥じらいの入り混じった顔でコテージへと向かっていった。
数十分後。
コテージの扉が開き、着替えを終えた四人の乙女たちが、眩しい太陽の下に姿を現した。
「ア、アレン……どうかな?少し布の面積が少なくて、スースーするんだけど……」
先頭を切って出てきたリズは、鮮やかなパステルイエローのビキニ姿だった。
スポーティなデザインが、剣の鍛錬で引き締まった彼女の腹筋と、健康的に日焼けした手足の美しさを極限まで引き立てている。
活発な幼馴染の、隠しきれない女性としての豊かな曲線美に、僕は思わず息を呑んだ。
「すごく似合ってるよ、リズ。海にぴったりの元気な色だ」
僕が素直に褒めると、リズの顔がボンッと赤く染まり、嬉しそうに照れ笑いを浮かべた。
「アレン様、私はいかがでしょうか……?お腹が見えてしまって、はしたなくありませんか?」
続いて現れたシャルロットは、清楚な白を基調とし、フリルがたっぷりとあしらわれたセパレートタイプの水着だった。
王女としての気品を残しつつも、純白のフリルから覗く透き通るような白い肌と、可愛らしいおへそが強烈な破壊力を生み出している。
「はしたないなんてことないよ。シャルロットの可憐さが何倍にも際立って、やっぱりお姫様だね」
「うふふっ♡、……アレン様ったら!」
シャルロットが頬を染めて両手で顔を覆い、身悶えしている。
「お待たせいたしましたわ、アレン様。私の水着は、随分と大胆なデザインにしてくださいましたのね」
三番目に現れたベアトリスは、シックな黒のビキニに、薄手のパレオを腰に巻いた大人っぽいスタイルだった。
胸元はクロス状の紐で谷間が強調されており、パレオのスリットからは色白で長い足が惜しげもなく披露されている。
知的な公爵令嬢が醸し出す、計算し尽くされた極上の色気に、僕の心拍数は一気に跳ね上がった。
「ベアトリスは大人っぽいから、こういうデザインが似合うと思って……すごく綺麗だよ」
「ふふっ、嬉しいですわ。アレン様のご期待に応えられるよう、今日は存分に魅了して差し上げますわよ」
ベアトリスがウインクをして、胸元を寄せるような仕草を見せる。
「あ、あの……アレン殿。某の服は、なんだか腹に布が巻き付いておるのだが……」
最後に恐る恐る出てきたサクラは、ヤマト国の『晒し』をモチーフにした、和風テイストのビキニを着ていた。
黒と赤を基調とした水着は、彼女の凛とした黒髪と見事にマッチしている。
しかし、激しい剣術の修行で鍛えられたしなやかな肢体と、普段は着物で隠されている豊かな胸元が剥き出しになっており、本人は恥ずかしさのあまり両腕で必死に体を隠そうとしていた。
「サクラもすごく似合ってる。剣士の君が一番動きやすいように、機能性を重視したデザインなんだ」
「そ、そうなのか!主君が某のためにそこまで考えて作ってくださったのであれば、この恥じらいも捨てねばなるまい!」
サクラが気合を入れて腕を下ろすと、その見事なプロポーションが太陽の下に完全公開され、僕は思わず視線を泳がせることになった。
四人揃った最強のヒロインたちの水着姿。
それはまさに、この世のすべての絶景を集めたかのような、圧倒的な眼福の光景だった。
「さあ、遊ぼう!アレン、海に競争だよ!」
リズの掛け声と共に、僕たちはエメラルドグリーンの海へと飛び込んだ。
僕が魔法で作り出した浮き輪やビーチボールを使い、水掛け合いやバレーボールをして存分に夏を満喫する。
シャルロットが浮き輪にしがみついてプカプカと浮いている姿や、サクラが真剣な顔で波を斬ろうとしている姿に、心からの癒やしを感じていた。
「アレン様、少し砂浜で休憩いたしませんこと?」
遊び疲れてビーチパラソルの下に戻ると、ベアトリスが僕の隣に座り、小さな小瓶を取り出した。
「紫外線から肌を守るための、魔法のオイルだそうですわ。背中は自分では手が届きませんので、アレン様に塗っていただきたいのですけれど」
ベアトリスが背中の紐を少しだけ緩め、無防備な背中を僕に向けてくる。
「え、えっと……僕が塗るの?」
「当然ですわ。私の婚約者なのですから。さあ、遠慮なさらずに」
僕が震える手でオイルを取り、彼女の滑らかな背中に触れた瞬間。
「ちょっとベアトリス!抜け駆けはずるいですわ!私もアレン様に塗っていただきます!」
「私だって!アレン、私の背中もお願い!」
「主君よ、某も背中がヒリヒリして痛いのだ!どうか頼む!」
シャルロット、リズ、そしてサクラまでが僕の前に背中を向けて一列に並んでしまった。
結局、僕は四人の極上の素肌に直接触れながらオイルを塗り込むという、天国と地獄が入り混じったような過酷なイベントを強制されることになったのである。
手から伝わる四人四様の柔らかな感触と、甘い吐息、そして時折漏れる艶っぽい声に、僕の理性は完全に粉々になりかけていた。
◇
太陽が傾き、海が黄金色に染まり始めた夕暮れ時。
僕たちは砂浜に座り、穏やかな波の音を聞きながら、楽しかった一日の余韻に浸っていた。
「最高のバカンスだったね、アレン」
リズが僕の肩に頭を乗せ、幸せそうに呟く。
「ああ。また来年も、みんなで一緒に来よう」
僕が答えると、三人も「ええ!」「当然ですわ!」と笑顔で頷いた。
しかし、その平和な空気は、不意に立ち上がったサクラの言葉によって破られた。
「……アレン殿。あれを」
サクラが真剣な眼差しで、水平線の彼方を指差す。
僕たちがその方向へ視線を向けると、夕陽を背にして、一隻の巨大な木造船がこちらへ向かって進んでくるのが見えた。
この国の帆船とは全く違う、特徴的な構造と帆の形。
「あれは……ヤマト国の船?」
僕が呟くと、サクラがコクリと頷き、腰の刀の柄を無意識に強く握りしめた。
「間違いない。我が祖国、ヤマトからの使節団の船だ。だが、なぜこのような辺境の海に……」
サクラの顔に、いつものポンコツ具合は微塵もなく、ただ冷たい緊張感が張り詰めていた。
僕の左腕の【天界の端末】も、船から発せられる『未知の強大な魔力波長』を複数検知し、静かな警告音を鳴らし始めている。
楽しかった常夏バカンスの終わりに、水平線の彼方から突如として現れた祖国からの訪問者。
それが僕たちの平穏な学園生活に、ヤマト国という新たな舞台の扉をこじ開ける、巨大な波乱の幕開けとなることを、僕たちはまだ知る由もなかったのである。




