第23話 マナ脈の強制切断と三位一体の究極魔法。王都の地下で散る魔族の野望と、最強パーティの帰還
王都の地下深く、巨大な貯水湖を内包する空間は、今や世界の終わりを予感させるような絶望的な重圧に支配されていた。
『我ガ魔力ト同化セヨ、王都ノ塵共メ!』
マナ脈と完全に同化した巨大な魔族が、空間そのものを歪める大魔法の詠唱を開始する。
ゴゴゴゴォォォォンッ!!
鼓膜を破るような轟音と共に、僕たちの周囲の空間が球状に圧縮され始めた。
「いかん、このままでは押し潰されるぞ!」
バルト隊長が血を吐くような声で叫んだ。
「総員、防御結界を最大展開!アレン殿たちを死守するのだ!」
王属騎士団の精鋭たちが、死の恐怖に耐えながら円陣を組み、持てるすべての魔力を注ぎ込んで巨大な光の盾を構築した。
ミシミシと、空間の歪みが騎士団の盾を削り取っていく。
「隊長、長くは持ちません!」
「耐えろ!我らは王国の盾、ここで崩れれば王都が滅びるぞ!」
騎士たちの決死の防御。
その雄姿を背に受けながら、僕は左腕の【天界の端末】のホログラム画面を信じられない速度で叩き続けていた。
「アレン様、私たちも魔法で迎撃しますわ!」
「ダメだ、シャルロット!今のあいつは王都の地下マナ脈そのものだ!」
僕は焦るヒロインたちを制止し、冷や汗を流しながらホログラムの数式を睨みつけた。
「マナ脈の無限の魔力を動力源にしている以上、いくら君たちの魔法で削っても一瞬で再生されてしまう!」
「では、どうすれば……!」
ベアトリスが絶望的な声を上げる。
「簡単なことだよ。あいつとマナ脈の『接続』を、物理的かつ論理的に強制切断させればいい」
僕は【ネットワーク切断アプリ】を起動し、魔族のコアと地下マナ脈を繋ぐ不可視の魔力供給線を視覚化した。
画面上に、無数の赤いケーブルのようなラインが浮かび上がる。
「バルト隊長!あと十秒だけ持ち堪えてください!」
「承知した!我らの命、貴殿に預ける!」
騎士たちの盾が限界を迎え、ひび割れ始めたその瞬間。
「ここだ!」
僕は空間の座標軸を完全にロックオンし、【空間切断魔法】の応用である『概念切断』を実行した。
僕の指先から放たれた目に見えない情報切断の刃が、魔族とマナ脈を繋ぐ太い赤いケーブルを、寸分の狂いもなく一刀両断する。
『ガ、アァァァッ!?ナ、ナゼダ!マナ脈トノ接続ガ……切レタダト!?』
無限の魔力供給を絶たれた魔族の巨体が、激しいノイズを起こしたようにブレて、急速に縮み始めた。
空間を圧縮していた重力場も、嘘のように霧散していく。
「よし、ファイアウォール突破!奴の管理者権限を剥奪したぞ!」
僕は歓喜の声を上げ、そのまま端末の【全ステータス強化アプリ】を起動した。
「シャルロット、ベアトリス、リズ!今だ、ありったけの力で奴を消去しろ!」
僕の端末から放たれた極彩色の光が、三人の乙女たちを包み込む。
「はいっ!行きますわよ、ベアトリス!」
「ええ!アレン様のくださったこの力、存分にお見せいたしますわ!」
シャルロットとベアトリスが前に躍り出た。
二人が纏う僕特製のドレスアーマーが、限界突破の魔力ブーストを受けて眩く発光する。
「熱力学の極致、受けてみなさい!極大熱嵐・オーバーロード!」
シャルロットの白炎と、ベアトリスの絶対零度の氷結が、僕のバフによって過去最大規模の融合魔法へと進化する。
地下貯水湖の水を一瞬で蒸発させるほどの超高温と、空間そのものを凍らせる超低温が混ざり合い、凄まじい破壊の竜巻となって魔族を飲み込んだ。
『ギギャアアアアアアッ!?コ、コンナ……人間ゴトキノ魔法ニィィッ!』
「人間を舐めないでよね」
魔族の悲鳴を切り裂くように、黄金の閃光が竜巻の中を駆け抜けた。
リズだ。
僕の開発した『高周波振動ブレード』を構えた彼女は、剣聖の圧倒的な身体能力で、荒れ狂う熱嵐の気流を完全に読み切り、その中心へと突き進んでいた。
「アレンが作ってくれたこの剣と、私の剣技……!」
リズの碧眼が、獲物を捉えた鷹のように鋭く細められる。
「全部まとめて、消し飛びなさい!」
毎秒数万回の超振動を起こすミスリルカーボンの刃が、魔族の急所である黒いコアに深々と突き刺さった。
直後、剣から放たれた振動波と、極大熱嵐のエネルギーがコアの内部で連鎖爆発を起こす。
『オノレェェェェェッ!!』
断末魔の叫びと共に、王都を沈めようとした巨大な魔族は、文字通り塵一つ残さず完全に消滅した。
後には、静けさを取り戻した地下空間と、青白く光る清浄なマナ脈だけが残されていた。
「……終わった」
僕が安堵の息を吐きながら端末をスタンバイモードに戻すと、闘いを終えた三人の乙女たちが、満面の笑みで僕の元へ駆け寄ってきた。
「アレン様!やりましたわ、私たち!」
シャルロットが涙ぐみながら僕の胸に飛び込んでくる。
「ええ、アレン様の完璧な指揮と装備のおかげですわ。私共の完全勝利です」
ベアトリスも優雅に微笑みながら、僕の背中にそっと身を預けてきた。
「へへっ、どう?私の剣、すごくカッコよかったでしょ?」
リズが誇らしげに胸を張りながら、僕の右腕にギュッと抱きつく。
三人の汗ばんだ甘い香りと、戦闘の熱を帯びた柔らかな感触に包まれ、僕はまたしても顔を真っ赤にするしかなかった。
「ああ、三人とも、最高にかっこよかったし、可愛かったよ」
僕が正直に褒めると、三人の顔がさらに赤く染まり、嬉しそうに僕にすり寄ってくる。
その光景を見ていたバルト隊長と騎士たちが、静かに歩み寄ってきた。
「アレン殿……いや、アレン様。そして令嬢の方々」
屈強な騎士たちが、一斉にその場に片膝をつき、深々と頭を下げた。
「我々精鋭部隊が手も足も出なかった絶望を、貴方たちは見事に打ち払ってくれた。王国の危機を救っていただいたこと、騎士団を代表して心より感謝申し上げる!」
バルト隊長の最敬礼に、騎士団全員が続く。
王国の誇りである彼らからの、最大級の賛辞と敬意だった。
「顔を上げてください、バルト隊長。僕たちは、自分たちの平穏な日常を守りたかっただけです」
僕が苦笑いしながら答えると、バルト隊長もまた、兜の下でホッと安堵の笑みを浮かべた。
◇
こうして。
武闘会から始まった魔族の暗躍と王都地下の危機は、僕の現代科学チートと、最強のヒロインたちの圧倒的な力によって、誰にも知られることなく秘密裏に解決されたのである。
「さあ、帰ろう。明日からもまた、学園の授業があるからね」
僕が前を向いて歩き出すと、三人の乙女たちが「はいっ!」と元気よく返事をして僕の後に続いた。
見上げれば、地下の暗闇の先には、僕たちの帰りを待つ地上の光が差し込んでいる。
僕の平穏なスローライフの実現にはまだまだ遠いようだが、この騒がしくも愛おしい日常が続くのなら、それも悪くないかもしれない。
王都の地下水路に、僕たちの明るい笑い声がいつまでも響き渡っていた。




