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辺境伯家三男、アプリで魔法を再定義する。 ~「賢者」認定されたけど、これ「スマートウオッチ」ですから!  作者: のびろう。
第四章 王都学園(二年生編)、あるいは未知の転生者と波乱の武闘会
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第20話 理不尽を穿つ賢者の想い。死闘の果ての優勝と、歓喜の抱擁の裏で蠢く魔族の影

王都選抜武闘会、決勝戦。


闘技場の熱気は最高潮に達し、観客席からは割れんばかりの歓声が降り注いでいた。

しかし、闘技場の中央で向かい合う僕とジンの間には、凍りつくような冷たい殺気が満ちていた。


「お前もあの女たちみたいに、一瞬で終わらせてやるよ」


ジンが気怠げにポケットから手を抜き、首をポキポキと鳴らした。


「やってみろ。お前のその薄っぺらいチートごと、僕が全部叩き潰してやる」


僕は左腕の【天界の端末】を起動し、全身の魔力を限界まで練り上げた。

試合開始を告げる銅鑼の音が、重く響き渡る。


ドンッ!!


直後、ジンの姿が再び闘技場から掻き消えた。

システム限界を突破した異常な敏捷性による、不可視の突進。


「まずは挨拶代わりだ!」


僕の背後に回り込んだジンが、必殺の手刀を振り下ろす。

しかし、僕は振り返ることなく、左手のひらを背後へ向けた。


ガギィィィンッ!!


金属が激突するような甲高い音が響き、ジンの手刀が空中でピタリと止められた。

僕が【重力操作アプリ】で構築した、不可視の重力防壁だ。


「チッ、面倒な防御魔法だな!だが、これならどうだ!」


ジンは舌打ちをすると、即座に懐のアーティファクトを砕いた。

リズを敗北に追いやった、あの忌まわしい『時間遅延ラグスイッチ』だ。

世界がコンマ五秒遅れ、僕の視界がノイズのようにブレる。


「死ね、裏ボス!」


ラグを利用して完全に僕の死角である頭上へと跳躍したジンが、全体重と異常な筋力を乗せた踵落としを放つ。


「甘いよ」


僕は【未来予測アプリ】による演算結果を信じ、ラグが発生するコンマ一秒前に、すでに自分の頭上の空間を【空間切断魔法】で切り裂いていた。


「なっ!?」


ジンが空中で体勢を崩し、間一髪で空間の断層を避けて着地する。


「てめえ……!なんで俺のラグの動きが読める!」


「お前が頼っているのは、ただのパケットロスの悪用に過ぎない。僕の端末の演算速度なら、お前がどこへ『飛ぶ』かなど簡単に計算できる」


僕は冷徹に言い放ち、右手に極限まで圧縮した純白のプラズマ球を生み出した。


「ふざけんなァッ!俺は主人公なんだよ!」


激昂したジンが、あの『呪いの魔盾』を展開しながら、獣のような雄叫びを上げて突っ込んでくる。

ここから先は、泥臭い死闘の連続だった。


僕の放つプラズマの閃光と重力波を、ジンは呪いの盾と異常なステータスで強引に突破してくる。

ジンの放つ一撃は、掠っただけでも僕の魔力障壁を削り取り、内臓を揺らすほどの破壊力を持っていた。


「ハァッ……!ハァッ……!」


互いに息を乱し、制服はボロボロに引き裂かれ、闘技場の石畳は粉々に砕け散っている。

僕が今まで経験したことのない、本当の意味での『死闘』だった。


僕の魔法は現代科学の理論に裏打ちされた最強のものだが、相手の力は完全にこの世界の理から外れた『バグ』だ。

論理と非論理の衝突は、互いの魂を削り合う消耗戦へと発展していた。


「なんで……なんでこんなゲームのモブのために、そこまでマジになれるんだよ!」


ジンが血を吐きながら、理解不能だというように叫んだ。


「お前らNPCは、俺を楽しませるための経験値だろうが!俺のステータスが、こんな裏ボスごときに負けるはずがねえ!」


「ゲームじゃない……!」


僕は痛む右腕を抑えながら、ジンを強く睨みつけた。


「ここは、お前の遊び場じゃない!シャルロットも、ベアトリスも、リズも……僕の大切な人たちは、ここで泣いて、笑って、一生懸命に生きているんだ!」


僕の脳裏に、リズの涙が浮かぶ。


シャルロットの献身的な笑顔が、ベアトリスの知的な瞳が浮かぶ。


彼女たちの努力を、想いを、ただのゲームの数値として踏みにじったこの男を、僕は絶対に許さない。


「僕の想いは、お前の薄っぺらいチートなんかに絶対に負けない!」


僕は左腕の【天界の端末】に、安全装置リミッターの完全解除を要求した。


【警告:術者の魔力回路が焼切れる危険性があります】


「構わない!全部出せ!」


僕の咆哮と共に、天界の端末が限界を超えた青白い光を放った。

僕は右手に、シャルロットの炎の赤、ベアトリスの氷の青、そしてリズの剣閃の黄金色を混ぜ合わせたような、極彩色の魔法剣を具現化した。


熱力学、重力、そして空間断裂のすべてを一つに束ねた、僕のありったけの想いの結晶だ。


「舐めるなァァァッ!俺のチートが最強なんだよォォォ!」


ジンもまた、残された全生命力と魔力を『呪いの魔盾』に注ぎ込み、ドス黒い闇の奔流となって僕に向かって突撃してきた。

闘技場の中央で、極彩色の魔法剣と、絶対の防御を誇る闇の盾が激突する。


ギィィィィィンッッッ!!


世界が白く染まり、音が消え去ったかのような錯覚に陥る。


「砕けろォォォォォッ!!」


僕が魂の底から叫び、魔法剣にさらなる力を込めた。


ピキッ……!


決して壊れないはずのジンの『呪いの魔盾』に、亀裂が走った。


「ば、馬鹿な……!俺のステータスが、チートアイテムが、押し負けるだと……!?」


ジンの顔が驚愕と絶望に染まる。


「これが、この世界を生きる僕たちの力だ!」


パァァァンッ!!


呪いの盾が粉々に砕け散り、僕の放った極彩色の光の奔流が、ジンの体を真正面から飲み込んだ。


「ぎゃあああああああああっ!!」


ジンの絶叫が轟き、彼の体は闘技場の壁を突き破って遥か後方へと吹き飛ばされていった。

土煙が晴れた後には、全身を黒焦げにして完全に気を失っているジンの姿があった。


「しょ、勝者!アレン・ログレー!」


審判の震える声が響き渡り、次いで、闘技場を揺るがすほどの地鳴りのような大歓声が爆発した。

終わった。

僕は荒い息を吐きながら、その場に膝をついた。


しかし、僕の視線は倒れたジンから離れなかった。

気を失ったジンの背中から、突如として禍々しい『黒い靄』が抜け出したのだ。


「あれは……魔族!」


黒い靄は人間の形をとることなく、僕を嘲笑うかのように一瞬だけ渦を巻き、そのまま虚空へと溶けるように消え去った。

僕の【天界の端末】に、『魔族コードの離脱』と『対象ジンのステータス初期化』というメッセージが表示される。


ジンは転生者としてのチート能力の大部分を、あの魔族との契約によって得ていたのだ。

そして魔族は、敗北したジンを見限り、次なる宿主を求めて逃亡した。


(まだ、終わっていない。あの魔の影が蠢く限り、本当の平穏は訪れない)


僕が不穏な予感に唇を噛み締めた、その時だった。


「アレンっ!!」


背後から、聞き慣れた愛おしい声が響いた。

振り返る間もなく、僕の背中に柔らかい体が勢いよく飛びついてきた。


「リズ!怪我はもういいのか!?」


「アレンが治してくれたから、もう平気だよ!アレン、かっこよかった……!本当に、本当にかっこよかったよ!」


リズが僕の首に腕を回し、涙と笑顔でぐしゃぐしゃになった顔を押し付けてくる。


「アレン様!」


「アレン様、お怪我はありませんか!」


さらに、観客席から飛び降りてきたシャルロットとベアトリスが、僕の左右から勢いよく抱きついてきた。


「二人とも、無事でよかった」


僕が優しく微笑むと、二人は堪えきれずに大粒の涙をこぼした。


「私たちのために、あんなに傷だらけになって……!アレン様は、やはり私の最高の英雄ですわ!」


「ええ……アレン様の戦うお姿、このベアトリスの脳裏に永遠に刻み込みましたわ。愛しております、アレン様!」


右からリズ、左からシャルロット、正面からベアトリス。

三人の愛するヒロインたちに力いっぱい抱きしめられ、僕の顔は瞬く間に真っ赤に染まった。


「おい見ろよ、優勝した途端にあのハーレムだぞ!」


「チクショウ、アレン様なら許す!アレン様バンザイ!」


観客席からは、もはや嫉妬を超えた称賛と祝福の嵐が巻き起こっていた。

僕は三人の温もりと甘い香りの中で、激闘の疲労が嘘のように溶けていくのを感じていた。

魔族の影という不穏な火種は残されたままだ。


けれど、この最強で最高の乙女たちが隣にいてくれる限り、僕はどんな理不尽な運命にも打ち勝てる。

王都選抜武闘会は、僕たち四人の絆を永遠のものとして証明し、盛大な歓喜とハッピーエンドの空気の中で幕を下ろしたのである。

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