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辺境伯家三男、アプリで魔法を再定義する。 ~「賢者」認定されたけど、これ「スマートウオッチ」ですから!  作者: のびろう。
第四章 王都学園(二年生編)、あるいは未知の転生者と波乱の武闘会
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第18話 理不尽なるステータスバグと呪いの盾。敗北した乙女たちの涙と、賢者の冷徹な怒り

王都選抜武闘会の本戦が、熱狂の渦に包まれた巨大な闘技場で幕を開けた。


各学年の精鋭たちが己の魔法と剣技をぶつけ合う中、Sクラスの代表であるシャルロットとベアトリスは、タッグマッチ形式の準々決勝に臨んでいた。


対戦相手は、黒髪の転生者ジンと、その取り巻きである大柄な男子生徒だった。

観客席から見守る僕の左腕では、【天界の端末】が警告の赤い光を絶え間なく点滅させている。


「いきますわよ、ベアトリス!」


「ええ、シャルロット様!アレン様の教え、ここで証明してみせますわ!」


試合開始の合図と共に、二人の令嬢は完璧な連携を見せた。

シャルロットが杖を掲げ、極限まで圧縮された白炎の球体を生み出す。


同時にベアトリスが絶対零度の氷壁を展開し、炎を包み込むようにして闘技場の気圧を急激に操作した。

僕が迷宮実習で教えた熱力学の応用、相反する二つの魔法を融合させた『極大熱嵐サーマルストーム』である。


並の学生はおろか、王宮魔導師であっても防ぐことは不可能な必殺の一撃だった。

轟音と共に、猛烈な破壊の渦がジンたちを飲み込もうとした、その瞬間。


「チッ、面倒くせえエフェクトだな。おい、盾を出せ」


ジンが気怠げにポケットに手を入れたまま、隣の取り巻きに命じた。


「は、はいっ!ジン様!」


取り巻きの男子生徒が、懐から禍々しいオーラを放つ真っ黒な手鏡のようなアーティファクトを取り出した。

直後、彼らの眼前にドス黒い魔力の防壁が展開された。

王都の裏社会で売買されていたという、使用者の生命力を吸い取って魔法を完全に無効化する『呪いの魔盾』だ。


バキィィィッ!!


熱嵐の直撃を受けた黒い防壁が、悲鳴のような音を立てて砕け散った。


「なっ……!あのような呪具を学生の試合で使うなど、反則ですわ!」


ベアトリスが驚愕の声を上げる。

呪いの魔盾は破壊されたが、その代償としてシャルロットたちの最大魔法も完全に相殺されてしまっていた。


取り巻きの男子生徒は生命力を吸い取られ、白目を剥いてその場に倒れ伏している。

しかし、立ち込める黒煙の中から、ジンだけが全くの無傷で歩み出てきた。


「魔法の威力だけならカンスト級か。さすがはSSRのヒロインってとこだけどよ、詠唱の硬直時間が長すぎなんだよ」


ジンが首をポキポキと鳴らしながら、薄気味悪い笑みを浮かべた。

次の瞬間、彼の姿が闘技場から『掻き消えた』。


「え……?」


シャルロットが瞬きをした、その刹那。

ジンの姿は、すでに二十メートル以上離れていたはずのシャルロットとベアトリスの背後に立っていた。


魔法による空間転移ではない。

純粋な物理的な移動速度が、人間の動体視力の限界を完全に凌駕していたのだ。


僕の【天界の端末】に、ジンのステータス異常を示すエラーコードが滝のように流れ込む。

魔力を一切使わず、ただ肉体のパラメータ(敏捷性と筋力)だけをシステムの限界値バグレベルまで引き上げている、異次元の身体能力だった。


「当たり判定、デカすぎだろ。ヌルゲーにも程があるぜ」


ジンが吐き捨てるように言い、無造作に手刀を振り下ろした。


「キャアアアアアッ!?」


「くっ……!」


シャルロットの展開していた防御結界と、ベアトリスの氷の盾が、まるで薄いガラスのように粉砕される。

魔力による強化すら施されていない、ただの物理的な一撃。


それが、王国の至宝たる二人の天才を、闘技場の壁際までゴミ芥のように吹き飛ばしたのだ。

ドンッ!!という鈍い音と共に、二人の体が壁に激突し、崩れ落ちた。


「勝者、ジン!」


審判の震える声が響き渡る。

闘技場は、あまりの出来事に水を打ったように静まり返っていた。


僕が教えた完璧な魔法の連携と、彼女たちの血の滲むような努力が、呪いのアイテムと理不尽なステータスバグという『盤外戦術』によって、いとも容易く蹂躙されてしまったのだ。


ジンは倒れた二人を一瞥することもなく、退屈そうにあくびをして控室へと消えていった。

試合直後の医務室。

白いシーツのベッドの上で、シャルロットとベアトリスが目を覚ました。


「ここは……」


「医務室だよ。怪我の治療は終わってる」


僕がベッドの傍らの椅子から立ち上がり、二人に声をかけた。

僕の【細胞活性化アプリ】による治療のおかげで、二人の体に傷は一つも残っていない。

しかし、彼女たちの心に負った傷は、あまりにも深かった。


「アレン様……っ!」


シャルロットが弾かれたように体を起こし、僕の胸にすがりついてきた。


「ごめんなさい、ごめんなさい……!あんなに、あんなにアレン様に教えていただいたのに……!私、何もできずに……!」


大粒の涙が、彼女の美しい瞳からポロポロと零れ落ち、僕の制服の胸元を濡らしていく。

ベアトリスもまた、シーツを強く握りしめ、悔しさに唇を噛み切らんばかりに震えていた。


「私の知略も、魔法も、あの男の前では児戯に等しいものでした……。アレン様の顔に泥を塗ってしまったこと、公爵令嬢として、そしてアレン様のパートナーとして、死んでお詫びを……」



「馬鹿なことを言うな!」

僕はベアトリスの言葉を強い口調で遮り、ベッドに座る二人を両腕で同時に抱きしめた。


「あっ……」


「アレン、様……」


僕の腕の中で、二人の令嬢がビクッと体を震わせる。


「謝るのは僕の方だ。君たちの魔法は、間違いなく完璧だった。熱力学の理論も、魔力のコントロールも、これ以上ない最高の芸術だったんだ」


僕は二人の頭を優しく撫でながら、静かに、けれど確かな怒りを込めて言葉を紡いだ。


「負けたのは君たちじゃない。相手が、この世界のルールを無視した不正なシステム(バグ)を使っていただけだ。その異変に気づいていたのに、対策コードを用意できなかった僕の責任だ」


僕の胸に顔を埋めたまま、シャルロットとベアトリスが声を上げて泣きじゃくった。

圧倒的な敗北の恐怖と屈辱が、僕の体温によって少しずつ溶かされていく。


「アレン様……私、悔しいですわ……!」


「ええ……私たち、もっと強くなりたい……。アレン様のお隣に立つにふさわしい、強い女に……」


泣き濡れた顔で僕を見上げる二人の瞳には、敗北の絶望ではなく、僕への限界を突破した愛情と、次なる成長への決意が宿っていた。

僕は二人の涙を指先で拭い、優しく微笑みかけた。


「君たちはもう十分に強い。あとは僕に任せておけ。あのふざけたプロトコルは、僕が必ず破壊する」


二人が落ち着いて眠りについたのを見届けた後、僕は静かに医務室の扉を閉めた。

廊下に出ると、そこには愛用の長剣を抱き抱えるようにして壁に寄りかかる、リズの姿があった。


「……アレン。二人とも、大丈夫?」


「ああ。体は問題ない。心の方も、僕がしっかりケアしておいた」


リズがホッと息を吐き、そして、ギリッと剣の柄を握りしめた。


「次はいよいよ、私の準決勝だね」


彼女の碧眼に、剣聖としての凄まじい闘気が渦巻いているのが分かる。


「リズ。相手のステータスは異常だ。防御も回避も考えなくていい。君の直感だけを信じて、最初から全力で斬りに行け」


「わかってる。あの気持ち悪い男、絶対に私がぶっ飛ばして、決勝戦はアレンとやるんだから」


リズが僕に向かって拳を突き出し、僕も無言でその拳に自分の拳を合わせた。


僕の左腕の【天界の端末】は、ジンの不可視のプロトコルを解析するために限界の演算を続けている。

僕の平穏なスローライフを邪魔し、僕の愛する乙女たちを泣かせた罪は重い。


未知の転生者ジン。

その理不尽なステータスバグのすべてを丸裸にし、システムの底から消去デリートするための冷徹な怒りが、僕の中で静かに、そして確実に沸点へと達しようとしていた。

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