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辺境伯家三男、アプリで魔法を再定義する。 ~「賢者」認定されたけど、これ「スマートウオッチ」ですから!  作者: のびろう。
第四章 王都学園(二年生編)、あるいは未知の転生者と波乱の武闘会
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第17話 新学期と王都選抜武闘会。天界の端末が検知した、理外の『異物』と不穏な影

春の風が王都を吹き抜け、僕たちは王立魔法学園の二年次へと進級した。


辺境伯領での甘く過酷な温泉合宿から戻った僕は、今年もSクラスの教室で、いつもの指定席に座らされていた。

右にリズ、左にシャルロット、後ろにベアトリスという、完全に包囲された鉄壁の陣形である。


「アレン様、今年度もよろしくお願いいたしますわ」


シャルロットが、春の日差しのように眩しい笑顔を向けてくる。


「ええ。私たちのビジネスも、この学園での生活も、さらに飛躍の年にいたしましょう」


ベアトリスが知的な笑みを浮かべ、僕の背中越しに囁いた。


「アレン、今年はもっとたくさんお出かけしようね!」


リズが僕の右腕に抱きつき、相変わらずの距離感で無邪気に笑う。


平和だ。

僕の望む究極のスローライフとは少し違う気もするが、王国の危機を救い、莫大な資金も得て、このまま無難に学園生活を終えられると思っていた。


しかし、担任教師が教壇に立ち、ある重大な発表をした瞬間に、その淡い期待は脆くも崩れ去ることになる。


「来月、我が学園最大の武力行事である『王都選抜武闘会』が開催される」


教師の厳格な声が教室に響いた。


「これは全学年の選抜生徒が実戦形式で戦い、王国の未来を担う最強の原石を決める大会だ」


「当然、Sクラスの生徒は全員強制参加となる。準備を怠らないように」


武闘会。


それはファンタジー世界における絶対的なお約束イベントであり、同時に最も面倒くさいトラブルの引き金だ。

周囲の貴族生徒たちが己の力を誇示する絶好の機会だと色めき立つ中、僕は深くため息をついた。


「武闘会か。目立ちたくないんだけどな」


僕がぼやくと、三人のヒロインたちは不満そうに口を尖らせた。


「何を仰いますの、アレン様!アレン様が本気を出せば、他学年の先輩など指先一つで吹き飛ばせますわ!」


「ええ。ですが、アレン様に手を煩わせるまでもありませんわ。私とシャルロット様、そしてリズさんの三人で、決勝の舞台を独占してみせます」


「そうそう!私たち、春休みの間もアレンの作ってくれた魔力トレーニング機でずっと特訓してたんだから!」


彼女たちの言う通り、三人の実力はすでに学生の枠を遥かに超えている。

特にリズの剣技は、僕の現代科学のアドバイスを取り入れたことで、もはや不可視の領域に達していた。


僕が表に出ずとも、彼女たちが無双して終わる大会になるだろう。

そう高を括っていた僕は、手渡された大会の参加者名簿のプリントを、何気なく左腕の【天界の端末】でスキャンした。


その瞬間だった。


【警告:対象データ群の中に、未定義の暗号化プロトコルを検知】

【個体名:ジン(Bクラス所属・特待生)】

【エラー:魔力波長の解析に失敗。当システムとは異なる干渉法則が用いられています】


「……なんだ、これ?」


僕は思わず声を漏らした。

スマートウォッチのホログラム画面に、真っ赤な警告文が点滅している。


魔将を相手にした時でさえ、僕の【解析アプリ】は相手の魔力を数値化し、弱点を割り出すことができた。

しかし、この『ジン』という生徒のデータは、完全にブラックボックス化されている。


まるで、この世界の物理法則とは全く別のシステムで動いているかのような、絶対的な異物感。


「アレン、どうしたの?顔色が悪いよ?」


リズが心配そうに僕の顔を覗き込んできた。


「いや……名簿の中に、少し気になる名前があってね」


僕は端末の画面を消し、誤魔化すように笑った。

しかし、胸の奥で警鐘が鳴り止まない。


放課後。

僕とリズは、学園の長い廊下を歩いていた。


シャルロットとベアトリスは武闘会に向けた魔法の調整があると言って、修練場へ向かった。


「ねえアレン。武闘会、私もすごく楽しみなんだ。最近、剣を振るのがすごく自然になってきて、風と一体になる感覚があるの」


リズが嬉しそうに語る。


「君の剣聖の才能が完全に開花してきた証拠だね。でも、油断は禁物だよ。世の中には、僕たちの常識が通じない相手がいるかもしれない」


僕が釘を刺した、その時だった。

廊下の曲がり角から、一人の男子生徒が歩いてきた。


黒い髪に、どこか気怠げな三白眼。

学園の制服を着崩し、ポケットに両手を突っ込んで歩くその姿は、およそ貴族が通うこの学園には似つかわしくない。


すれ違いざま、僕は彼の口から信じられない言葉を聞いた。


「あーあ。このクソゲー、早くイベント進まねえかな。モブのレベリングも飽きたぜ。おっ、あそこにいる金髪の女……確かSSRのレアキャラだったな。後で回収しておくか」


僕の足が、床に縫い付けられたようにピタリと止まった。

間違いない。

あれは、前世の日本で使われていたネットスラングであり、完全にこの世界をゲームとして見下している者の発言だ。


僕は反射的に左腕の【天界の端末】を起動し、背後から彼のデータを強引に読み取ろうとした。


【解析開始……エラー!対象のファイアウォールに弾かれました】

【逆探知の危険性があります。通信を強制切断します】


僕のスマートウォッチが、熱を持って警告音を発した。

現代科学の粋を集めた僕のチート能力が、物理的な接触すらなく完全に防がれたのだ。

僕がハッとして振り返ると、すでに黒髪の少年の姿は廊下の奥へと消えかけていた。


「アレン……」


隣に立つリズが、震える声で僕の袖を強く掴んだ。


「どうした、リズ?」


「あの人……歩く時に、一切の足音を立ててなかった」


リズの碧眼が、極度の緊張で針のように細くなっている。


「騎士団の歩き方じゃない。殺気を隠しているわけでもない。ただ、自然に歩くという動作そのものが、息の根を止めるためだけに最適化されているみたいだった」


剣聖である彼女の直感が、あの少年を未知の怪物として捉えていた。


「それに……剣を握る右手。あんな異様なタコの出来方、人間の剣士じゃ絶対にあり得ない」


リズの言葉に、僕の背筋に冷たい汗が流れた。


【天界の端末】が検知した、解析不能の暗号化プロトコル。

そして、前世の言葉を口にする異常なステータスの持ち主。

点と点が線で繋がっていく。


もし彼が、この世界をただのゲームとして認識し、自分の快楽や目的のためだけに他者を蹂躙するタイプの転生者だとしたら。

彼にとって、僕や、この世界の住人はただのモブや経験値でしかない。


「……リズ。今回の武闘会、僕たちが思っている以上に、厄介なことになりそうだ」


「うん。私、絶対に負けないよ。アレンと、みんなを守るから」


リズが力強く頷くが、僕の脳裏には最悪のシミュレーションが次々と浮かび上がっていた。

さらにその夜、シャルロットとベアトリスから深刻な報告を受けた。


「アレン様。最近、王都の裏社会で、強力な魔力を持つ古代のアーティファクトが次々と何者かに買い占められているようですわ」


ベアトリスが公爵家の情報網で得た事実を語る。


「ええ。それも、普通の人間では扱いきれない、生命力を代償にして絶対的な貫通力を得る呪いの魔剣や、魔法反射の盾など、武闘会で使うにはあまりにも危険な武具ばかりだと聞いておりますの」


シャルロットも不安そうに言葉を継いだ。


「それに……それらの武具を買い集めている組織の資金源が、どうやら王都の闇ギルドだけでなく、別の国から流れている形跡があるのです」


ベアトリスの言葉に、僕は昼間すれ違った黒髪の少年の気怠げな目を思い出した。

謎の転生者ジン。


裏社会で蠢く呪われたアーティファクトの収集。

そして、未知のシステムによる防御壁。


これらが無関係であるはずがない。

彼はきっと、自分のステータスを底上げするため、あるいはイベントを有利に進めるための装備を集めているのだ。

僕の【天界の端末】は、かつてないレベルの警告を出し続けている。


僕たちが一年間で築き上げてきた平穏な日々は、武闘会という表舞台の影で、全く異質の悪意によって静かに侵食されようとしていた。

シャルロットの絶大な炎魔法も、ベアトリスの完璧な氷結魔法も、あの得体の知れないファイアウォールと呪いの武具の前では、無力化される可能性が高い。


最強の剣聖であるリズでさえ、相手の底知れないステータスバグの前では、一瞬の隙が命取りになるかもしれない。

これまでのような、僕が裏から少しサポートすれば勝てるような、生易しい戦いにはならない。


二年次の幕開けは、僕がこの異世界で初めて経験する、敗北の予感と、全力で立ち向かわなければすべてを奪われるという絶望的な戦いの始まりだった。

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