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辺境伯家三男、アプリで魔法を再定義する。 ~「賢者」認定されたけど、これ「スマートウオッチ」ですから!  作者: のびろう。
幕間 辺境領地の温泉合宿。最強のヒロインたちと、湯煙に隠された三人三様の混浴ラブコメ
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第16話 スローライフの副産物。ヒロイン協定が一時崩壊し、順番に温泉で背中を流し合う異常事態について

波乱に満ちた王立魔法学園の第一学年が終わり、待望の長期休暇に入った。


僕とリズは、久しぶりに故郷である辺境伯領へと帰省することになった。

しかし、当然のようにシャルロットとベアトリスも同行している。


「次期夫の領地視察ですわ!」


「公爵家のビジネスパートナーとしての視察ですわよ」


とかなんとか言って、王家の豪華な馬車で押し掛けてきたのだ。


領地に着いて驚いたのは、僕が開発した美容品や盤上遊戯のおかげで、寂れていた辺境の街が王都のミニチュア版のように豊かに発展していたことだ。


実家の屋敷も増築され、僕の専用の離れまで用意されていた。


そして、その離れの裏手には、僕が休暇中の究極のスローライフを満喫するために【地質探査アプリ】で掘り当て、密かに造らせていた「露天風呂(温泉)」が完成していた。


「素晴らしいですわ!この温かいお湯の泉、まさに地上の楽園です!」


シャルロットが目を輝かせる。


「ええ。美容にも良さそうですし、長旅の疲れが吹き飛びますわね」


ベアトリスも興味津々だ。


「よーし、アレン!一緒に入ろう!」


リズが一番乗りで服を脱ごうとするのを、二人が慌てて止めた。


「ちょ、ちょっとリズさん!いくら幼馴染でも、抜け駆けは許しませんわ!」


「そうですわ!混浴など、私共も一緒でなければ不公平です!」


「えー、だってアレンの背中を流すのは私の役目だもん」


三人の間で、かつて結ばれたはずの強固なヒロイン協定が、温泉の権利を巡って一時的に崩壊した。


激しい口論の末、彼女たちが導き出した結論は「一人ずつ順番に、アレンと二人きりで入浴する」という、僕にとって致死量のラブコメ展開を強制するものだった。


「いや、僕一人でゆっくり入りたいんだけど……」という僕の意見は、見事に黙殺された。



最初の順番を勝ち取ったのは、やはり正妻の座を認められているリズだった。


湯煙が立ち込める岩風呂に僕が肩まで浸かっていると、湯浴み着を纏ったリズが少し恥ずかしそうに入ってきた。


「……お邪魔します」


普段の快活な彼女らしからぬ、しおらしい声だ。

お湯を含んで肌に張り付いた薄い布越しに、日々の鍛錬で引き締まりつつも、女性らしい柔らかな曲線がくっきりと浮かび上がっている。


目のやり場に困っている僕をよそに、リズは僕の背後に回ってちょこんと座り込んだ。


「アレン、背中、流してあげる」


リズの手が、僕の背中に触れる。


剣を握って少し硬くなった手のひらが、それでもひどく優しく僕の肌を擦っていく。


「ありがとう。なんだか、前世の修学旅行を思い出すな」


僕が呟くと、背中の手がピタリと止まった。


「うん。あの時は別々のお風呂だったし、こんな風に二人きりで温泉に入るなんて、絶対に無理だったよね」


お湯の流れる音だけが響く中、リズの腕が僕の背中から前へと回り込み、ギュッと抱きついてきた。

背中に当たる柔らかい感触と、リズの少し早い鼓動が伝わってくる。


「ねえ、リョウくん」


彼女が不意に、前世の名前で僕の耳元に囁いた。


「あの事故の時、トラックにぶつかって……もう二度とリョウくんに触れられないって思って、すごく怖かったの。でも、今はこうして同じお湯に入って、アレンの温かい体温をちゃんと感じられる。……私、今すごく幸せだよ」


湯越しに伝わる彼女の震えに、僕はそっと自分の手を重ねた。


「僕もだよ、サキ。君の手を握り返せなくて死んでいくのが、何よりも心残りだった。こうして君と一緒にいられること以上に、大事なものなんてない」


僕が振り返り、濡れた彼女の黄金色の髪を撫でる。

僕が作ったシャンプーの香りと、温泉の硫黄の匂いが混ざり合い、ひどく胸を締め付けた。


「アレン……ずるいよ。そんな風に見つめられたら、私……」


リズの碧眼が潤み、顔が真っ赤に染まっていく。

剣聖としての圧倒的な強さの裏にある、前世から続くただの恋する女の子としての脆さと愛情。


二人きりの温泉は、僕たちが確かに同じ時間を生き直しているという、絶対的な安心感と愛おしさを互いに刻み込む、甘くかけがえのない時間となった。



リズと入れ替わりで、次に岩風呂へ入ってきたのは第三王女のシャルロットだった。


「し、失礼いたしますわ、アレン様……」


彼女の顔は、お湯に入る前からすでに茹でダコのように真っ赤になっていた。


王族として大切に育てられた彼女にとって、男性と二人きりで混浴をするなど、本来なら絶対にあり得ない異常事態である。

それでも彼女がこの場に来たのは、僕への真っ直ぐな愛情と、リズに対する正妻への対抗心からに他ならなかった。


「シャルロット、無理しなくてもいいんだよ」


「む、無理などしておりません!私はアレン様の未来の妻になる女ですもの、これくらい当然の務めですわ!」


シャルロットは強がって僕の隣に腰を下ろしたが、その肩はガタガタと震えている。

透き通るような白い肌が、お湯の熱気と恥じらいで桜色に染まっていく様は、破壊的なまでの美しさだった。


「あの、アレン様。私にも、背中を流させてくださいませ。お母様から、妻たる者、夫の疲れを癒やすのが務めだと教わっておりますの」


彼女が震える手で布を手に取り、僕の背中に触れる。

しかし、慣れないお湯の熱さと、極度の緊張からか、彼女の息遣いが次第に荒くなっていった。


「アレン様……その、私、なんだか頭がクラクラしてまいりましたわ……」


「シャルロット!?のぼせたのか!」


僕が慌てて振り返ると、シャルロットの体がふらりと傾き、そのまま僕の胸の中に倒れ込んできた。


「あっ……」


僕の腕の中に、小柄で柔らかい王女の体がすっぽりと収まる。


「ご、ごめんなさい、アレン様……。でも、アレン様の胸の中、すごく安心しますわ……」


シャルロットが上目遣いで僕を見つめてくる。

その瞳には、もはや恥じらいよりも、熱を帯びた純粋な恋心が溢れ出していた。


「私、王宮で決められた婚約者ではなく、私の英雄であるアレン様と結ばれることが、何よりも嬉しいのです。これからも、ずっと私を特別扱いしてくださいね……?」


甘えるように頬を擦り寄せてくる彼女の行動は、計算などではなく、抑えきれない本能からのものだった。

高貴な王女が僕にだけ見せる、無防備で熱烈なアプローチ。


僕は彼女がのぼせて倒れないようにしっかりと抱きしめながら、その重すぎる愛情の矢を全身で受け止めるしかなかった。

最後に姿を現したのは、銀髪をアップにまとめた公爵令嬢のベアトリスだった。


「お待たせいたしましたわ、アレン様」


彼女は前の二人とは違い、表面上は極めて冷静な様子で僕の対面に座った。

しかし、視線が泳ぎ、しきりに手ぬぐいで口元を隠しているあたり、その余裕が完璧な演技であることは一目瞭然だった。



「素晴らしい温泉ですわね。アレン様の魔法の応用力には、毎度驚かされますわ。これを王都の貴族向けにリゾート開発すれば、莫大な利益が……」


「ベアトリス。せっかくの温泉なんだから、ビジネスの話は抜きにしよう」


僕が苦笑いしながら口を挟むと、ベアトリスは図星を突かれたように言葉を詰まらせた。


「そ、そうですわね。私としたことが、二人きりだというのに野暮なことを言ってしまいましたわ」


ベアトリスがお湯の中でジリジリと距離を詰め、僕のすぐ隣まで移動してくる。


知的な彼女の瞳が、湯煙に潤んでひどく艶めかしく見えた。


「アレン様。ビジネスの話はいたしませんが、パートナーとしての『スキンシップ』は必要不可欠だと存じますわ」

「スキンシップって……」

「ええ。ですから、その……私の髪を、洗っていただけませんこと?アレン様が開発したあのシャンプーの香りを、アレン様自身の手で私につけていただきたいのです」


理屈をこねているが、要するに甘えたいのだ。

僕は呆れながらも、彼女の背後に回って銀色の髪を優しく洗い始めた。


「あっ……アレン様の指、すごく気持ちいいですわ……」


僕の手が頭皮に触れるたび、ベアトリスの口から甘い吐息が漏れる。

普段は誰よりも計算高く、隙を見せない公爵令嬢が、完全に警戒を解いて僕に身を委ねている。


「アレン様は、ずるいお方ですわね。私の頭脳も、公爵家の誇りも、あなたのお湯の前にすべて溶かされてしまいます……」


洗い終えた後、ベアトリスが振り返り、僕の首に腕を回してきた。


「私の知略はすべて、あなたを私のものにするために使いますわ。覚悟しておいてくださいませ、アレン様」


濡れた銀髪から滴る雫と、至近距離で見つめられる魅惑的な瞳。

知略の令嬢が仕掛けてくる理詰めの色仕掛けに、僕の思考は完全にショート寸前まで追い込まれていた。


三者三様の強烈なラブコメディを連続で浴びた結果、僕はお湯でのぼせたのか、彼女たちの破壊力でのぼせたのか分からない状態になっていた。


「アレン、大丈夫?顔が真っ赤だよ?」


「お可哀想に、少し長風呂をしすぎましたわね」


「私が介抱して差し上げますわ、さあ私の胸に……!」


湯上がりの休憩所で、浴衣姿の三人にうちわで扇がれ、冷たい水を飲ませてもらいながら、僕は天井を見上げた。


辺境の領地でのんびり羽を伸ばすはずだった長期休暇は、結局のところ、最強のヒロインたちとの絆を深めるための、過酷で甘すぎるハーレム合宿へと姿を変えていたのである。


この調子で二年次が始まれば、僕のスローライフは一体どうなってしまうのだろうか。

一抹の不安と、それ以上の愛おしさを抱えながら、僕の王都学園での一年目は幕を下ろしたのだった。

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